ベンチャー企業の新しい販路拡大の方法とは?日本ヒューレット・パッカードの『EcoSystem』活用法
『EcoSystem』実践事例!
JBアドバンスト・テクノロジー株式会社 × モビラス株式会社
(2015/09/18更新)
ベンチャー企業や中小企業は、たとえ良いアイディアがひらめいても資金不足や人材不足によってビジネス展開を断念してしまうケースがあります。そういった企業のアイディアが埋もれてしまうのがもったいないと考え、日本ヒューレット・パッカード社が始めたのが、IT企業のためのスキーム『EcoSystem』です。
「技術やアイディアを売り込みたい」「商材を増やしたい」という意気込みを持った企業が集まり、互いに助け合って新たなビジネスを展開する。その重要な活動のひとつが、全国で開催されている『IT EcoSystem Forum』です。『EcoSystem』の取り組みは、スタートアップの企業や大企業に対しどのような恩恵をもたらしているのでしょうか。
『IT EcoSystem Forum』に参加して新たなビジネスチャンスをつかんだスタートアップのモビラス株式会社 宮田明氏と、JBアドバンスト・テクノロジー株式会社の浜口昌也氏、野上亮氏に話を伺いました。
浜口 昌也(はまぐち・まさや)
1985年、日本ビジネスコンピューター(現JBCC)入社。
ハードウエア保守サポート、UNIX系アプリケーション開発、マーケティングでのLinux事業を推進。世の中に先立って仮想化を推進し、JBグループ社内ITの仮想化統合も企画・実施。2013年より先進技術研究所 所長に就任し現在に至る。
野上 亮(のがみ・りょう)
2013年 JBグル―プの会社説明で、製品を売るのではなく、お客様のお困りごとを解決するのが使命であるという言葉に感銘を受け入社。 2015年より現在の新規パートナー様営業に至る。
宮田 明(みやた・あきら)
日本DEC, 日本SGI を経て、2000年デジタルボックスを設立。2010 年にゴルフナビゲーションシステムをコアにした、AppExe 構想を元に、資本を集め、2011年にモビラスを設立。
自社の製品を広めるために『IT EcoSystem Forum』へ
モビラス:弊社は2011年に2人で設立した比較的新しい会社で、AppExe(アペックス)というスマホのアプリを簡単に作れるノンプログラミング・ツールを販売しています。
今までアプリはソフトウェアのエンジニアに頼まないと作れないものでしたが、いずれみんながコードを書かずにアプリを作れる世の中になると思っています。
将来的には、アイディアさえあれば、誰でもアプリが作れるというところまで持っていきたいです。
JBAT:我々はJBCCホールディングスの一員として事業を行っています。
もともとプリンター屋から始まり、JBCCのソフトウェア事業と合体するようになってからは、ハードウェアとソフトウェア両方のオリジナル商品を作り、JBグループ内のメーカーという立ち位置でやっています。
現在は特にソフトウェアの開発に力を入れていますね。
モビラス:私(宮田氏)の前職の関係で、日本ヒューレット・パッカードには知っている方がたくさんいたんです。そこで、「新しい会社を作ったので日本で広めるにはどうしたらいいか?」とアプローチしました。
日本ヒューレット・パッカードには「AppExeという面白いサービスを持っているんだから、サービスを知ってもらうために『IT EcoSystem Forum』で発表してみたらどうか」と言われたんです。
最初は半信半疑でしたが、出てみたら想像以上に良くて(笑)。
これだったら日本全国の『IT EcoSystem Forum』に行きたいと思い、一昨年ぐらいからお付き合いさせていただいています。
2年前、最初にお声掛けいただいた時、弊社は日本ヒューレット・パッカードのサーバーを利用していませんでした。
それでも私たちのようなスタートアップを受け入れてくださって、日本ヒューレット・パッカードはなんて懐が大きいんだと感じたのを覚えてます。
JBAT:弊社は現在、モビラスのAppExeにJBATのクラウドを連携させた、JBオリジナルの「JBcloud AppExe」を販売しています。
しかしAppExeはこれからのサービスなので、もっと製品を知ってもらいたいという思いがあったんです。
簡単にアプリの開発ができて、しかもiOSとAndroidどちらも対応可能というノンプログラミング・ツールは世の中にはありません。
でもそういったツールを求めていたり、お困りのお客様は多いので、まずはサービスを知っていただく“場”として2015年のの4月に『IT EcoSystem Forum』に参加させていただきました。
モビラス:まず私たちがひと通り『IT EcoSystem Forum』で全国を回らせてもらって、AppExeを宣伝しました。
その時点で参加者の皆様は、一度はAppExeという名前を聞いてもらっているはずなので、今度は企業として信頼度の高いJBATに「AppExeを使ってこんなことをやっている」とアプローチしてもらう。
そうすれば、さらに納得していただけるのではないかと思ったんです。
なぜ『EcoSystem』が必要だったのか?その影響力とは
モビラス:私たちは日本ヒューレット・パッカードにも集客していただいて、これまで何度も日本ヒューレット・パッカードの本社でAppExeの体験型セミナーを開催しています。
この体験型セミナーは、日本ヒューレット・パッカードのオフィスでやるということに意味があるんです。
私たちのようなスタートアップでも、日本ヒューレット・パッカードに後ろ盾になってもらっているということが分かれば、お客様も安心してくださいますよね。
以前からお付き合いのあるお客様には「ここまで来たか」と安心してもらえるし、新しいお客様には「日本ヒューレット・パッカードと一緒にこんなことをやっているんだ」という目で見てもらえる。メリットだらけですよ。
JBAT:弊社ではセキュリティ関連の製品も扱っていますが、セキュリティと言っても世の中にはいろいろな商材があります。
ですから、弊社のリソースだけを使って世の中に広めたいと考えた時に、やはりなかなか難しいところがあるんです。
また、セキュリティ関連の製品を展開する場合、それらのデータは必然的にサーバーに保存することになります。
ですがJBATにはサーバーがありませんので、そこは日本ヒューレット・パッカードの力をお借りして協業という形でやらせていただこうと。
日本ヒューレット・パッカードのサーバーにJBATのアプリケーションを搭載し、セキュリティからデータの保存まで一緒にできるというところで共同出展させていただきました。
日本ヒューレット・パッカードのブース内での出展だったので期間中はいろいろな方に見ていただくことができ、弊社のサービスの良い紹介の場にもさせていただきました。
スピードと資金。これらをいかに補うか
モビラス:発表後に各地のパートナーと契約をして、各地でAppExeを販売してもらえるようなネットワークを構築するというのが私たちの目標ですが、その感触は得られました。
今、スタートアップには必ずと言っていいくらいシステムが必要になってきています。
低予算で使用できるAppExeはベンチャーのような若い企業にも向いていますし、大企業にも向いている。
需要は全国にあるので、『IT EcoSystem Forum』では今後も発表し続けていきたいですね。
JBAT:AppExeは言葉で説明するより画面で見ていただいた方が響く製品なので、当日は30分の持ち時間のうち資料での説明は10分で、残りはデモという形で進めさせていただきました。
そうすることによって、実際アプリを作っている人からJBcloud AppExeは非常に便利だと実感していただけたようです。
『IT EcoSystem Forum』では最後に懇親会が設けられていますが、そこでは積極的に「うちはこういうことをやっていて興味があります」という言葉をかけられましたね。
また、『IT EcoSystem Forum』から数カ月経って急にお問い合わせをいただくこともありました。
AppExeは、一度見ていただくと印象に残る製品なので、たとえ今困っていなくても、困った時に思い出してもらえるんですね。
そのため、我々が『IT EcoSystem Forum』に参加することによってAppExe自体を知っていただき、多くの人に興味を持ってもらえたという感触があります。
JBAT:考えていることがたまたまタイミング良く合って、モビラスにはそれを実現できる実力があって、我々が思っていることを少しだけ足せば形になる。そう思ったからです。
同じようなことを考える人は世の中にはたくさんいて、実は我々も5年前ぐらいから同じようなことを考えていたんですよ。
そんな時にモビラスのAppExeと出会って、我々が思っていることを実現していたんですね。
ということは、当然任せてしまった方が投資する費用も少なくて済むし、そこに注ぎ込む人材も少なくて済むじゃないですか。そうすれば我々は別のことをやれますよね。
モビラス:私たちが持っていない技術をJBATはすでにソリューションとしてお持ちだったので、そこにAppExeを持ってくることによって、JBATのソリューションをくっつけることができました。
私たちとしても、足りないところを補っていただけたということは非常に良いことだったと思っています。ですから、そういったパートナーを今後は『EcoSystem』で紹介していただきたいなと。
多分これからは自社だけで全部やるのではなく、いろいろな企業が手を組んで1つのお客さんをサポートしていくという世の中になってくると思うんです。1人では何もできないですからね。
JBAT:おっしゃる通りで、1社だけでは資金も足りないしスピードも遅くて、出来上がった時には世の中が変わってしまっていますからね。
昨日の敵も明日は味方、ぐらいに思っていないと、IT企業はダメだと思います。
何でも全部自分たちでやるのではなく、任せられるところは任せて同意できるところは同意する。
とにかくスピードを重視して早く世の中に出して広めることに注力し、いろいろな企業から技術力の高い人材を集めてプロジェクトをやるなどしないと。
それがこれからのスタイルだと思うので、そういう意味でも『EcoSystem』はとても良い仕組みなのではないかと思っています。
『EcoSystem』は専門家の意見を聞いたり何かに困った人を探す場
モビラス:『EcoSystem』には多くの専門家が集まりますから、新規の技術を開発したてのところは大企業でも中小でも、まずそこで知ってもらうという意味合いでいくと良いのではないでしょうか。
専門家の方たちの前でプレゼンをすると、厳しいことももちろん言われますし、時には励みになることもあります。反応はさまざまですから、切磋琢磨というんでしょうかね。
反応を見て、さらにそこから事業に発展していけばいいわけです。1人で広報宣伝をやっていてもなかなか世間には響きませんしね。
スタートアップという立場から言うと、もっとスタートアップの方が『IT EcoSystem Forum』に参加すると面白いことになるかなと思います。
それから、大手企業にいると会社の看板で仕事ができますよね。
ところが私たちみたいなスタートアップは、看板がないのでゼロから人脈を構築し直さなくてはいけない。
そうすると、もともと知っている方に対してももう一度名刺交換をして、自分たちのことを知ってもらう必要があります。
そのためには、地元のパートナーとどう密接に付き合っていくか、どうやってその方たちに知ってもらって販売していただくかということが重要になってきます。
その意味でも、『EcoSystem』はとても良いきっかけになるのではないでしょうか。
JBAT:『EcoSystem』は、何かに困った人を探す場でもあるのかなと思っています。
我々は長年ハードウェアとソフトウェアのパッケージを作って自分たちのグループの販売会社やパートナーさんに販売してもらっていますが、これだけ多くの種類の製品があるのに売れるのはほんの一握りなんです。
営業は売れるものしか力を入れないので、いろいろな製品を作っても世間に認知してもらえず、新しいものを作っても売れないという負のスパイラルが生まれてしまう。
特に我々が作っている商品は裏方に向けた道具のようなものが多いので、知ってもらうチャンスが少ないし、売る側がその価値を分からないことも少なくありません。
ところが『EcoSystem』では、そういった類いの商品を欲しがっている人に出会える確率が高いんです。
道具というのは興味がある人にはハマりますが、知らない人はスルーしてしまいます。
表に出るような製品に比べて見栄えもしないので、困った人にしか興味を持ってもらえない。
だから困った人が集まる『IT EcoSystem Forum』のようなところに行くと、チャンスは広がると思います。
困っている人に的確に見ていただける場というのは大事ですよ。
モビラス:全国を回ってみて分かったのが、『EcoSystem』を顧客の心理段階のパネルシステムで例えると、今は第2階層(興味)ぐらいのレイヤーにいるんですよね。
『IT EcoSystem Forum』では、パートナーにご案内させていただいて、興味を持ってもらったら次の階層に降りてきてもらう。
そして今度は「AppExeのこと詳しく聞きたい!」と言ってくれているパートナーに対してご提案して、ご納得いただければAppExeを使っていただく。
それで最後にじょうごの下から出てくるのが売上ですよね。
今後『EcoSystem』では第3階層(欲求)、第4階層(記憶)とどんどん階層の幅を広げていければと思います。
そのためにも、参加者自身がいろいろなところと手を組んで『EcoSystem』の概念を実現して、実現した暁には1つ下のレイヤーにいく。
例えばスタートアップは第2階層から入って、もっと熟した会員は第3階層、第4階層から入っていくとかね。
目的を少しずつ変えていきながら、フィルターをかませながらやっていけると面白いなと思うし、私たちもそうしたいなと思います。
JBAT:我々は、先ほども言ったように『IT EcoSystem Forum』を使って困った人を探していきたいですね。でもそれは結構難しいんです。
今考えているのが、裏方になっている製品を一度表に出して見える形にすれば、本当に困っている人たちに対して訴求できるのではないかということ。
商品を売るということは、結局どうアピールするかだと思うので。そこをうまくやって、『EcoSystem』で仲間を増やしていきたいですね。
会社の規模なんて関係なく、大企業でもスタートアップでもやりたいことが合えば一緒にやりますし、たとえ違うジャンルでも面白いと思えばお付き合いさせてもらおうと思っています。
(取材協力:JBアドバンスト・テクノロジー株式会社)
(取材協力:モビラス株式会社)
(編集:創業手帳編集部)