複式簿記とは?単式簿記との違いからメリット・デメリットまで解説

創業手帳

確定申告に必要な簿記。複式簿記とはどのような簿記なのか解説します


簿記は、経済活動を行う上のお金の出入りを帳簿に記録する技術です。確定申告や財務状況など経理をしっかり把握するためにもつけておくと良いでしょう。
簿記には、複式簿記と単式簿記の2種類の記帳方法があります。
一般的に簿記というと複式簿記を指しますが、単式簿記との違いやメリットとデメリットを詳しく知らない方もいるかもしれません。

この記事では、複式簿記の基本的な知識やメリットとデメリットを解説します。

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複式簿記とは?


まず、複式簿記とはどのような簿記なのかを解説します。また、特徴や帳簿づけの目的、単式簿記との違いについても説明します。

複式簿記の特徴

複式簿記は、経済活動におけるお金の出入りを取引きと考え、すべての取引きを仕訳して記録・集計する記帳方法です。
「仕訳」とは、会計した上で取引きの原因と結果を借方(かりかた)と貸方(かしかた)に分けて記録することです。記帳する際は、借方は左側、貸方は右側に記載します。
どのような記帳方法になるのか、具体的な記帳例を下記に紹介します。

①3万円の仕入れを行い、代金を現金で支払った場合

日付 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 摘要
○月○日 仕入れ 30,000 現金 30,000

②A社に自社商品Aを10万円で売った場合

日付 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 摘要
○月○日 売掛金
取引先A
100,000 売上
商品A
100,000

このように、借方と貸方は同額を記載します。取引きの原因と結果の2つの側面からとらえることで、取引きの内容やお金の増減までを明確にすることが可能です。

複式簿記で帳簿をつける目的

複式簿記を用いると、貸借対照表と損益計算書の作成が可能になります。
貸借対照表は、勘定科目を資産・負債・純資産・利益・費用の5つに分類し、その集計結果からある時点の財務状況を示す書類です。
また、損益計算書は、ある時点の儲けを示す書類です。

2つの書類の作成を通じて、企業の経済状況や経営成績を追跡できる形で把握できるようになります。
また、多くの企業が複式簿記を使って記帳を行っています。その成果物となる貸借対照表と損益計算書から、企業同士で財政状態や経営成績を比較することも可能です。

複式簿記と単式簿記の違い

簿記には単式簿記という記帳方法もあります。複式簿記は取引きの原因と結果の二面から表すものに対して、単式簿記はお金の増減の一面で取引を示すものです。
身近なものだと、家計簿や預金通帳などが当てはまります。

収入や支出を簡素的に記入するものなので、記帳に特別な知識は必要ありません。そのため、開業したばかりの小さな企業では採用されるケースが多くあります。
単式簿記の場合、記入欄は日付・項目・詳細・入金額・支出額・残高の6つです。

複式簿記と単式簿記の違いは、実際の記帳を見比べてみるとわかります。「プリンターを10万円で購入した」というケースで、複式簿記と単式簿記の違いを紹介します。

・単式簿記

日付 項目 詳細 入金額 支出額 残高
○月○日 消耗品費 A店(プリンター) 100,000 0

・複式簿記

日付 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 摘要
○月○日 プリンター
(財産の受領)
100,000 プリンターの購入代金
(現金)
100,000

単式簿記で記帳した場合、「A店から10万円でプリンターを購入し、それによって残高がなくなった」ことがわかりました。
しかし、支払方法や得たプリンターがどうなったのかまでは把握できません。

複式簿記の場合、プリンターは財産となるため借方科目には「プリンター(財産の受領)」と記入し、借方項目では購入方法も記載します。
この記入により「現金10万円でプリンターを買い、財産を得た」ことがわかります。
複式簿記はお金の増減やその理由と原因まで記録できるので、より正確なお金の変動の把握には複式簿記が有効です。

複式簿記のメリット・デメリット


複式簿記で記帳をつけることに、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。以下に、メリットとデメリットを詳しく解説します。

メリット

複式簿記のメリットには、次の2点が挙げられます。

財務諸表を容易に作成できる

賃借対照表や損益計算書といった財務諸表は、決済時に経営成績や財務状況を把握するために用いられる資料です。
税務申告でも必要になるので、必ず作成しておきたい資料といえます。
複式簿記は、お金の増減と一緒に理由・原因も記録され、さらに勘定科目ごとに分類されています。そのため、仕訳を集計するだけで簡単に財務諸表を作成可能です。

控除を高く受けられる

確定申告の際に青色申告をすると、青色特別控除を受けることが可能です。控除額は10万円・55万円・65万円の3種類あり、満たす条件によって異なります。
10万円の控除であれば、単式簿記で十分であり、複式簿記はいりません。
しかし、青色申告で控除額を55万円(最大65万円)に引き上げるためには、複式簿記での記帳づけが必要です。
55万円の控除を受けるための条件は以下のとおりです。

  • 不動産所得、または事業所得がある
  • 上記の取引きを正規の簿記の原則(複式簿記)で記帳している
  • 上記の記帳に基づいて作成した貸借対照表・損益計算書を添付して、法定申告期限内に確定申告を行う

複式簿記は網羅性・立証性・秩序性の3つを満たしており、信頼性の高い記帳方法であるため、55万円の控除を受けるための条件になっています。
55万円の控除を受けたいのであれば、複式簿記をマスターしてしっかり帳簿づけしていく必要があります。

また、65万円の控除を受けるためには、上記の条件と併せて次のいずれかの条件を満たさなくてはなりません。

  • その年分の事業に関わる仕訳帳と総勘定元帳について電子帳簿保存を行っている
  • その年分の所得税の確定申告、賃借対照表・損益計算書などの提出を法定申告期限内に「e-Tax」(国税電子申告・納税システム)を使って行う
  • 青色申告について、詳しくはこちらの記事を>>
    知っておきたい青色申告の基礎知識とメリットデメリット

    デメリット

    複式簿記のデメリットは、単式簿記と比べて難しく、簿記の専門知識が必要なことです。個人事業主の経理であれば、最低でも日商簿記3級程度の知識が求められます。
    必須といえる簿記の知識を取得するために時間もかかるでしょう。

    また、実際に記帳する際も複数の勘定科目の設定に仕訳・転記など様々な作業が発生するので、手間と時間がかかりやすいのも複式簿記のデメリットといえます。
    少し複雑な複式簿記ですが、最近では会計ソフトを使うことで比較的簡単に記帳できるようになりました。
    画面に従って必要項目を入力するだけで自働的に仕訳されるので、高度な知識がなくても記帳は可能です。会計ソフトの登場により、複式簿記のデメリットは薄れつつあります。

    複式簿記でつける上で知っておきたい貸借対照表と勘定科目


    簿記ではいろいろな用語が登場するので、その意味を理解しておく必要があります。
    複式簿記で帳簿づけをするためにも、貸借対照表と勘定科目の2つについて理解を深めておきましょう。

    貸借対照表の意味

    賃借対照表は、左側(借方)に資産、右側(貸方)に負債と純資産を並べて企業の財政状況を示す資料です。表にすると、以下のような図になります。

    資産 負債
    流動資産
    (現金・預金・売掛金・有価証券など)
    流動負債
    (支払手形・買掛金・短期借入金)
    固定負債
    (長期借入金・社債)
    固定資産
    (土地・建物・機械など)
    純資産
    資本金・利益剰余金
    資産合計 負債・純資金合計

    右側は企業がどのような方法で資金を調達したのか、負債と純資産に分けて示します。一方、左側は調達した資金を事業でどのように活用したのかを把握することが可能です。
    現状の資産は負債と純資産の合計(資産=負債+純資産)から構成されていることを意味し、右側と左側の合計金額は必ず一致します。

    5つの勘定科目

    簿記では、取引きで増減した要素を資産・負債・純資産・収益・費用の5つのカテゴリーに分類して処理します。
    それぞれのカテゴリーの意味と主な勘定科目は、基本知識として身につけておきましょう。

    カテゴリー 意味 主な勘定科目
    資産 会社にとってプラスになる財産 ・現金
    ・売掛金(後で代金を受け取る権利)
    ・有価証券(株券・手形・小切手など)
    ・土地・建物・機械
    負債 会社にとってマイナスになる財産 ・買掛金(商品購入代など未払いのもの)
    ・借入金(銀行などからの借入れなど)
    純資産 資産から負債を差し引いた財産 ・資本金
    ・利益剰余金(社内に留保されるもの)
    ・資本剰余金(投資されたお金のうち資本金にされなかったお金)
    利益 利益を生み出したもとになるもの ・売上げ
    ・受取利息(預金利息や貸付金の利息収入)
    ・雑収入(本業以外での少額の利益)
    費用 収益を出すために費やした支出 ・仕入れ
    ・給料
    ・水道光熱費
    ・広告宣伝費

    複式簿記でつける帳簿の種類


    取引内容を記録する帳簿にはいろいろな種類があり、主要簿と補助簿の2つに区分されます。ここで、複式簿記でつける代表的な帳簿の種類と概要をご紹介します。

    主要簿とは

    主要簿は、金銭に移動がともなう取引きが行われた際に必ず作成する帳簿です。主要簿には、仕訳帳と総勘定元帳の2種類の帳簿が該当します。

    仕訳帳

    すべての取引を発生した日付順に記録する帳簿が仕訳帳です。仕訳帳は複式簿記により、取引きの原因と結果に分けて記帳しなければなりません。
    仕訳帳の記入項目と内容は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きした日を記入する項目
    摘要 「現金」や「売上」などの勘定科目や「A社」などメモを記入する項目
    元丁(もとちょう) 総勘定元帳に転記したページを記入する項目
    借方・貸方 借方勘定または貸方勘定の金額を記入する項目

    ひとつの取引きごとに摘要欄に区切線を引き、前後の取引きと区別をつける必要があります。また、ひとつの取引きの仕訳は、ページをまたいで記入できません。
    行が足りない場合は摘要欄に斜線を引いて、次のページから記入します。

    総勘定元帳

    仕訳帳に基づいて「売上」・「現金」・「仕入高」などの勘定科目ごとに記録する帳簿です。
    勘定科目ごとに取引きの発生年月日、相手方の勘定科目、金額を記入します。記入項目と内容は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きの年月日を記入する項目
    摘要 仕訳帳で相手勘定科目を記入する項目
    例:仕訳帳で借方「現金」、貸方「売掛金」の場合は、摘要欄は「売掛金」と記入
    相手勘定が2つ以上の時は「諸口(しょくち)」と記入
    仕丁(しちょう) 転記した仕訳帳のページ番号を記入する項目
    ※会計ソフトではない場合もある
    借方・貸方 借方・貸方のそれぞれの金額を入力する項目
    借/貸 借方残高の場合は「借」、貸方残高の場合は「貸」と記入
    ※会計ソフトではない場合もある
    残高 その行の時点の残高を計算して記入する項目

    補助簿とは

    補助簿は、主帳簿を補助するために作成される帳簿です。主要簿には記載できない取引内容を記載するもので、詳しい取引内容を確認できます。
    ある程度記載補助簿には種類があるので、代表的なものをご紹介します。

    現金出納帳

    毎日の現金の入出金を記録し、現金の残高を明らかにする帳簿です。現金で取引きが発生した日付順に記録して、残高を求めます。記帳項目は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きの月日を記入する項目
    摘要 取引きの内容を記入する項目
    例:「A社へ売り上げ」、「B社の売掛金を回収」など
    収入・支出 取引きで発生した収入、または支出の金額を記入する項目
    残高 収入と支出を差し引いた残高(手元にある現金残高)を記載する項目

    月末になったら、摘要欄に「次月繰越」と記入し、同じ行の支出に月末残高を記入します。下の行に収入と支出の合計を記入し、二重線を引いて帳簿を締め切ります。
    なお、合計の収入と支出は必ず同じ金額になるので、一致しているかどうか確認してください。
    また、月始の帳簿は摘要に「前月繰越」と記載し、収入と残高に前月残高を記入します。

    現金出納帳について、詳しくはこちらの記事を>>
    現金出納帳とは?作成する意味や役割、正しい作り方と記帳方法を解説

    預金出納帳

    事業用口座の入出金を記録するための帳簿が、預金出納帳です。
    通帳の印字だけでは、何の取引きかまで把握できないことがありますが、預金出納帳をつけることで明確になります。記帳項目は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きの月日を記入する項目
    勘定科目 入出金の分類を記入する項目
    例:「現金」・「売掛金」・「借入金」など
    摘要 入金・支払いの相手と取引内容を記入する項目
    預金金額・引出金額 いくら預け入れたか、またはいくら引き出されたのか金額を記載する項目
    残高 取引きを行った結果、いくら残高が残ったのか記載する項目

    クレジットカード払いや取引先から総合振込みされた時など、複数の入出金がまとめられている場合は1行で取引内容をまとめます。
    この場合、取引きの内容を証明できるように、補助資料として明細を別途で用意する必要がある点に注意してください。

    売掛帳

    売上げに関する取引きを発生した日付順に記録する簿記です。売掛金とは、売上げは出ているものの、取引先から代金を回収できていない金額を指します。
    売掛帳に取引内容をまとめることで、まだ売上金が未回収の案件が一目でわかるようになります。取引状況や資金繰りを把握するためにもつけておきたい帳簿です。
    記帳項目は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きの月日を記入する項目
    摘要 売上げ・回収の相手と取引内容を記入する項目
    例:「売上 A商品」、「預金振込」など
    売上金額・回収(受入)金額 いくら売上げがあるのか、またはいくら回収したのか金額を記載する項目
    残高 取引きを行った結果、売掛金の残高がいくらになったのか金額を記載する項目

    買掛帳

    仕入れに関する取引きを発生した日付順に記録する帳簿です。買掛金は、自社で商品やサービスを購入・仕入れしたものの、取引先に支払っていない代金を指します。
    売掛金同様に取引きの状況や資金繰りの把握に役立ちます。記帳内容は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きの月日を記入する項目
    摘要 仕入れの相手と取引内容を記入する項目
    例:「A店 掛け(現金)A商品 300個 @100円」、「B店 掛け返金」など
    仕入金額・支払金額 いくらで購入したか、またはいくら支払ったのか金額を記載する項目
    残高 取引きを行った結果、買掛金の残高がいくらになったのか金額を記載する項目

    固定資産台帳

    車・パソコン・建物・備品などの減価償却資産を管理するための簿記です。
    減価償却資産を、いつ購入し、現在いくら償却し、どのくらい残っているのかを明らかにできます。記入する主な項目は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    資産名 ノートパソコンや車名などわかりやすく資産名を記入する項目
    区分 国税庁が定める耐用年数表の区分名を記入する項目
    取得年月日 資産を取得した年月日を記載する項目
    耐用年数 国税庁が定める耐用年数表の年数を記入する項目
    償却方法 定率法や定額法などの償却方法を記入する項目
    償却率 その年に償却する割合を記入する項目
    摘要 資産の内容を記入する項目
    例:「(商品名)購入(1台)」、「減価償却費」
    取得価額 資産の購入金額を記入する項目
    減価償却額 その年に減価償却する金額を記入する項目
    帳簿価額 未償却の残高金額を記入する項目

    経費帳

    仕入れ以外に必要となる経費を記録する帳簿です。交通費・コピー用紙・文房具などの消耗品といった経費に関する取引きをまとめます。記入内容は以下のとおりです。

    記入項目 記入内容
    日付 取引きの年月日を記入する項目
    摘要 どこで何を購入したのか内容を記入する項目
    例:A店 文房具を現金で購入など
    購入金額 購入金額を記入する項目
    合計 取引きを行った結果の合計金額

    まとめ

    簿記は事業で発生した取引きや資産、負債、お金の流れなどがまとめられた台帳で、日々の取引きから会社の財政状況・経営状況を把握するために欠かせないものです。

    一般的に簿記で用いられる複式簿記は専門知識が必要で、青色申告で55万円または65万円の控除を受けるために必須のスキルといえます。
    複雑な帳簿付けも、会計ソフトがあれば比較的簡単に仕訳や記録、集計ができるため、導入を検討してみてください。

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    (編集:創業手帳編集部)

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