フジテレビ 清水 俊宏|YouTubeチャンネル「#シゴトズキ」を始め、コンテンツの力で驚きと感動を与える
情報の受け取り方が多様化した現代における「フジテレビの新たな挑戦」を牽引する
時代の流れと共に、国民の情報の受け取り方も多様化した現代。日本を代表するマスメディアのフジテレビで、様々なWebメディアでの情報発信に挑戦しているのが清水さんです。
YouTubeチャンネル「#シゴトズキ」では、色々なゲストを迎えて、成功体験や失敗談を聞き、コンテンツの力で驚きと感動を与えています。
そこで今回は、清水さんの「伝える仕事」への向き合い方や、YouTubeチャンネル「#シゴトズキ」の立ち上げ秘話を、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社フジテレビジョン ビジネスセンター事業部部長職
2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、テレビニュースのデジタル化や新規事業開発の担当に。「FNNプライムオンライン」「フジテレビュー!!」などオンラインメディアを立ち上げたほか、リアルイベント、テレビ番組との連動コンテンツなど幅広く手掛ける。2021年からは会社公認YouTuberとなり、経済番組『#シゴトズキ』で大企業幹部やスタートアップCEO、VC、タレントなど多彩なゲストから「仕事に役立つ思考法」を聞き出している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
新卒でフジテレビに入社後、政治記者を経て、デジタル領域開拓のプロジェクトリーダーへ
大久保:まず清水さんのご経歴を教えてください。
清水:私の経歴は、報道の記者がスタートとなります。
新卒入社後の2年間は報道の内勤職に配属され、事件や事故、暇ネタと言われる街のお祭りやイベントの取材をしていました。
そこで経験を積み、3年目で政治部に配属になり、政治家の方々にマイクを向けて取材していました。実はテレビで私の横顔を見ていたなんて方も多いかもしれません。
記者やディレクター、プロデューサーなどを経験した後、フジテレビがデジタルニュースの領域を開拓すると動き出した時に、プロジェクトリーダーを任されることとなりました。
大久保:テレビにもWebメディアにも、良い面と悪い面があると思いますが、どのようにお考えですか?
清水:地上波の原稿では、1秒で6文字くらいが基本です。
時には、1日、1週間取材した内容を20秒でまとめることを求められることもあります。
とはいえ、20秒分の取材しかしていない人には、それなりのことしか書けません。
大久保:凝縮されているし、幅広く展開することもできるということですね。
清水:おっしゃる通り、それが叶うのがWebメディアです。
30分インタビュー取材したものが、地上波ニュースでは30秒くらいになることもままありますが、Webメディアでは、てにをはを整えて15分程度のコンテンツとして、情報を発信できます。
テレビにはタイムリーに凝縮した内容を伝えられる良い面があるものの、タイムテーブルという時間の呪縛とテレビ受像機による空間の呪縛が付き纏ってきます。ネットになると時間も空間も超えて情報に触れられます。
大久保:地上波と違って、Webメディアは、色々な意味で挑戦できる、という面もありますよね。
清水:おっしゃる通りです。Webメディアで取り扱って、面白かったから地上波で取り上げる、といったテストケースができる利点もありますね。
無限の可能性があり、まさに面白いと思って、今Webメディアと真剣に付き合っています。
新しいことに挑戦する過程で生まれた「仕事観」
大久保:YouTubeチャンネル「#シゴトズキ」を始める前は、24時間の大変な番組を担当されていたようですね。
清水:今のAbemaさんより早く、24時間ニュースチャンネルを立ち上げようと奮闘したものになります。
地上波の選挙特番の総合演出をやっている時に、当時の局長から24時間チャンネルの話を持ちかけられ、選挙が終わって3ヶ月くらいで準備をしました。
最初の1週間はずっと自分で回さないといけなかったため、夜の2時にゲストを帰した後、4時には次のゲストが来るようなことをやっていました。
当初は、寝るか風呂に入るかを1日ずつ選ぶ生活でした。
地上波をやっている時と同じく、早く・わかりやすく・正確に、国民の生命と財産を守るため、奔走していたと自負しています。
その時は使命感に追われてやっていたため、苦痛ではなかったです。
仕事観が確立したきっかけは「東日本大震災」
大久保:国民の生命と財産まで考えている人が、本当にいるんだと驚きました。
そういった考えになったのは、何かきっかけがあるのでしょうか?
清水:新入社員の頃から、事件・事故・被害者の現場に行ったり、現地の声を伝えることがいかに大事か、情報をどのように伝えるかを常々考えていました。
その中でも、一番大きかったのは東日本大震災です。
当時、私はフジテレビ本社にいましたが、3日寝ずに、5日間帰らないという生活を送る中で、放送できないような悲惨な映像も入ってくる中、これをどのように伝えるべきか、考える日々でした。
今でも定期的に東北地方に取材に行ってますが、ある日「東京ではもう放送されていないんでしょ?」と言われたことがあり、我々としてはもっとやれることがあったのでは、と考えさせられました。
我々の報道を見て、自分にやれることはないかと行動を移す人が1人でも増えるように、と使命感を持って仕事をしていました。
視聴率やPVが取れたからOKではなく、何のために仕事をしているかを常々思って仕事をしていますし、報道をメインでやっていた時の思いは、今でも変わっていません。
伝える仕事が持つ「3つのソウゾウ」とは
大久保:伝える仕事の素晴らしさは、どのようなところにありますか?
清水:テレビは「3つのソウゾウ」でできていると思っています。
1つ目は「想像」で、面白くなるかな?と考えることです。
2つ目は「創造」で、クリエイションすることです。
3つ目は「送像」で、「映像などのコンテンツを送り届ける」ということです。
企画して終わり、創って終わりではない。「送り届ける」まで考えるのがテレビの仕事です。
現代でメディアを視聴するデバイスと言えば、テレビやスマホがメインですが、この流れを理解しておけば、新しいデバイスが誕生してコンテンツを送る時も対応できますし、仮に紙面に戻ることになったとしても問題なくやれます。
元々、伝えることが好きなのですが、伝える部分を企画やクリエイションの段階で一緒に考えられると、いろんな人やアイデアとの接点が増えて、新しいものづくりに繋がります。
だからこそ、仕事って本当にありがたいなと思っています。
伝える仕事を志した「新疆ウイグル自治区での原体験」
大久保:今のような仕事への向き合い方をするようになった原体験はありますか?
清水:私が19歳の時に、ウイグル地方を旅しました。当時、同じく19歳のウイグル族の人に出会い、彼の家に泊めてもらいました。
別れる直前、砂漠の方に行くためにバイクで向かっている途中の道で石油の工場を見ました。
ここも彼らの土地で取れるものだが、1円も入ってこないと知りました。
さらに、囚人の列も見かけて、彼らは全員ウイグル族で、ウイグル族は漢族と喧嘩をするだけで、逮捕されると言っていました。彼はたまたま捕まらなかったものの、いざこざがあった時にやられたという傷を見せてくれました。
作っている綿花も自分たちに価格決定権がなく、安く買い叩かれているとも語っていました。
「僕は日本やアメリカ、北京にすら行ったことがない。ウイグルにはウルムチという都市があるけど、2回しか行ったことがない。でもこんなおかしな世界は10年経てば終わると思う。
だからこれから1日150円ずつ貯金して、10年経ったら、日本に行って君に会って、その後アメリカにいく。」と夢を話してくれました。
私はただの大学生でしたので、世の中を変える力はもちろんなく、何のために語ってくれたのかなと考えました。
それは、伝えなければ何も変わらない、ということだったんだと思います。
世の中を変えるためには、何か行動しなければいけない。その行動の一つとして、友人になった僕に話してくれたのだと思います。
フジテレビに入社した今では、色々な場面でこの話をすることがあります。
僕が話をした相手の中でウイグルに最初から大きな関心を持っていたという人はほとんどいませんが、僕の話であれば聞きたい、聞いてよかったと思ってくれる人がいる。それは潜在的に知りたいと思っていたということです。世の中には伝えたい人がいて、潜在的に知りたい人がいる。それなのに、伝える手段がないというのは、本当に不幸せなことだと思っています。
そう思った時に、私がやりたいこと、やりたい仕事は「伝えること」だと感じました。
YouTubeチャンネル「#シゴトズキ」開始のきっかけは、あるベンチャー企業との出会い
大久保:YouTubeチャンネル「#シゴトズキ」の立ち上げは、どのようなスタートだったのでしょうか?
清水:オンラインメディアを始めとして、様々な新規事業開発に携わっている中で、あるスタートアップ企業の方にお会いしました。
その方から「清水さんもそうだけど、仕事が好きな人は本当にキラキラしている。もっと後輩や周りの人に伝えていくべきだから、一緒にやりませんか?」と言われたことがスタートとなります。
私が様々なゲストを迎え、失敗談も含めて色々なお話を聞く中で、視聴者の方々に「自分にもできるかもしれない」「こんなすごい人も失敗するんだ」と知ってもらい、元気出してもらえるんじゃないかと思って、YouTubeチャンネルを始めようと決心しました。
会社には、動画ビジネスとは言わず、コミュニティ教育事業ですと伝えて進めていました。
とはいえ、共感してくださる方が多く、会社に報告する時にはすでにコンテンツを撮り始めていました。
大久保:フジテレビなのに、ベンチャーっぽいことをやられていますね。
大企業で新規事業を進めるコツは「自分が先頭に立ってリスクを取ること」
大久保:会社のリソースを使って、前例のない挑戦ができるのは、すごいことだと思いますが、なぜ実現できたのでしょうか?
清水:事後報告で「やってしまいました」という戦法だったからというのは一つあります。
走り出してしまえば事業の形が見えますし、スポンサーとしてついてくれる方、応援してくれる方が出てくるため、わざわざ潰す必要はないんじゃないかという話になりやすい。
「報連相」(報告・連絡・相談)という言葉がありますが、私は「相連報」の順番であるべきだと思っています。
「まずは報告」と凝り固まってしまうと、報告そのものが目的になって、どんどん仕事が増えるような事態に陥りがちです。報告を受けた上司はもっと上の上司に報告をするため部下にさらなる説明や報告を求めてしまう。報告することで自分だけでなく上司の仕事も増えてしまうんです。それに、上へ行けば行くほど熱意は伝わらなくなるため「リスクに関する検討の報告が少ない」などと取り組み自体がストップさせられてしまうことも多々あります。
もちろんコミュニケーションは大事ですが、それは報告書の作成ではない。信頼できる人に相談をして、途中経過を連絡して、そして一番最後に報告、という流れです。
大久保:新規事業立ち上げの新しい流れを作られたのですね。
清水:フジテレビは「やっちゃえ」という勢いのある人が多くてここまで大きくなったという会社の文化が元々ありますし、今連携している会社さんもそれを求めているため、自分自身が怖がらずにやる度胸と愛嬌があれば良いかなと思っています。
どの組織にも共通することですが、新しいことを始めるという話が出ると、やはりわからないことなので、リスクを負いたくないと思うものです。
そこで、自分のリスクで進められるかどうかが大きな分かれ目になります。しかし、もしサラリーマンが新規事業に失敗しても、リスクなんて普通は怒られるか呆れられるかくらいです。査定が下がるか、左遷されるくらいはあるかもしれませんが、それでもその程度だと思うので、思い切りリスクを取って動きたいと思ってやっています。
大久保:どんなに悪くてもクビになるだけですもんね。
清水:政治部の時に、小泉純一郎さんの取材をしていたとき、郵政民営化の法案を通そうとしている時でした。
小泉さんは「もし戦国時代でこれに失敗したら、間違いなく私の首は飛ぶが、今の時代だと悪くて総理大臣を下されるくらいだから、挑戦しないのは勿体無い」と言っていたことを覚えています。
同じく、フジテレビで事業がひとつ失敗したところで、会社は多分潰れません。逆に次につながるノウハウがたまったと感謝されてもおかしくありません。
大久保:同じく大企業で新規事業を立ち上げたいと思っている読者にアドバイスを送るとしたら、どのような言葉を送りますか?
清水:上が言うことを聞いてくれない、仲間が集まらない、資金がない、とどこも同じことを言っています。
なので、できることを一つずつ進めることを意識してください。
僕自身の採点方式があります。
①今までのやり方で成功したら「0点」
②今までとは違うやり方で失敗したら「50点」
③今までと違うやり方で成功したら「100点」
これまでのやり方で成功できることは当たり前なのです。
新しいことに踏み出すことは大変だと思いますが、失敗しても50点もらえるならそれで良いと思うようにしています。
大久保:その採点方式は素晴らしいですね。
清水:ずっと同じ場所にいると、批判ばかり目についてしまいます。
そこから離れて動き出すと、味方の存在に気づきます。ただ、もう一歩動くと、敵が増えます。
でも、さらにもう一歩進むと「あいつにやらせとけば、何か新しいことをまた始めてくれる」という認識に変わります。
どんな状況でもフジテレビは力になりますので、一緒にやっていけたらと思っています。
#シゴトズキを主軸に「みんなが笑顔で仕事ができる世界」を作る
大久保:今後の展望について教えてください。
清水:「#シゴトズキ」に関しては、コミュニティ教育事業として、いろんな新しいことに挑戦して、みんなが笑顔で仕事ができる世界を作っていけたらと思っています。
例えば、お台場に3万人集めて、#シゴトズキカンファレンスを開催して、女性や子供も集めて、いろんな議論をして、新しい事業を生み出していくようなことを実施したいです。
このようにテレビ局ってこんなことまでできるんだ、と思われるようなことをいまちょうど様々仕込んでいるので、来年取材していただくとまた面白いかも知れません。
コンテンツの力で驚きと感動を与える、ということをやり続けたいです。
新しい時代の伝え方を創ろうとする人は、周いを見回してもまだ多くないので、自分がその役割を担っていきたいと思っています。
大久保:起業家へのメッセージをお願いします。
清水:起業家の皆さんから学ぶことはたくさんあります。
起業家の中には、突破力や資金調達のことなど、1人で抱え込んで頑張っている人がたくさんいると思います。
フジテレビと聞くと、敷居を高く感じられることがあるかもしれないのですが、僕としては、いろんな方と組んで、新しいものを作っていけたらと思っていますので、ご一緒していただける方は、ぜひご連絡ください。
大久保の感想
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。
(取材協力:
株式会社フジテレビジョン ビジネスセンター事業部部長職 清水 俊宏)
(編集: 創業手帳編集部)
普段、起業家の取材がほとんどですが珍しい企業内起業家としての取材でした。
清水さんとお話して印象的だったのが
「純粋にやりたいことを追いかけている」
「発言が一貫している」
「ポジティブ」
ということでした。
1つ目の「純粋にやりたいことを追いかけている」ですが、当たり前に思えるかも知れないですが、意外に珍しい事です。
例えば、起業家であれば、一見自由に見えますが、資金繰りや組織の問題など「やりたいこと以外の課題」が現実の仕事の大半を占めます。
大企業でも、組織や人事の動向など資金繰り、つまり潰れる心配は滅多にない一方で、組織が大きいので組織全体を動かせればブランドや人員資金などを大規模にとかできる一方で、組織の複雑性に伴う大変さもあります。また圧倒的なリソースを有しているにも関わらず、新事業で不可欠な「スピード」「一点集中」が不足するケースが多いです。
そうした中で、清水さんは、大企業のバックボーンをうまく使いながらやりたいことを追いかけているという印象でした。
起業も企業内起業も手段に過ぎないと思わさせられました。
清水さんの場合、24時間放送やYoutubeは最低限の話はしつつ、やってしまって上司を説得するというスタイルです。
スモールスタートで始めるということも含めて、起業家的な動きとも言えますが、潰れるリスクの無い・最悪せいぜいクビになるだけのサラリーマンだからこそやって欲しい動き方だと思います。
新事業や起業は足りないことだらけでスタートします。
不足を挙げていくときりがないですが、清水さんの事例はやる気のある1人がいることで、最初の突破口を作ることができるという事例だと思います。
新事業で見えている絵は今の延長では見えにくいものです。
だからこそ勇気のあるリーダーが必要なわけです。
起業・大企業を問わず、一人でも動く覚悟を持ったリーダーが増えると日本も変わっていくと思います。
2つ目の「発言が一貫している」ですが、Youtubeでも「国民の生命財産を守るのがマスコミの使命」ということをはっきり言い切っていました。
表現や話は毎回違いながら、全く同じフレーズを創業手帳の取材でもされたのは内心驚きました。
マスコミでもスタートアップでも、本気でこういう言葉が会話の中でサラッと出てくる人も珍しいと思いました。
繰り返し伝えるテーマやメッセージは人の心を動かし、信頼にもつながります。自身を貫く一貫したメッセージやテーマを皆様も考えてみましょう。何より強力な武器になると思います。
3つ目のポジティブですが、サラリーマンは起業家ほどのリスクを取らないかわりに組織の力とともに制約も受け入れるという構図があり、どうしても愚痴や内部に向いた話なども多くなりがちです。
清水さんと話していて驚いたのが圧倒的なポジティブさでした。
いろいろありながらも、全て前向き。
こうした姿勢は新事業では不可欠です。
清水さんを見て「こうやればいいのか」と大企業の中で変化を起こす人、一人でもやる覚悟を持った人が増えていけば日本はまだまだ変わるのではないかと思いました。