ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?企業が取り組むべき理由と実践法

創業手帳

Z世代の採用にも効果的!ファイナンシャル・ウェルビーイングを企業文化に取り入れる方法

FWB
「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、経済的(ファイナンシャル)な幸福(ウェルビーイング)を実現することです。お金に関する価値観は個人差があるため、基本的にファイナンシャル・ウェルビーイングは個人が目指すべきものとされています。

しかし、働いて給与や報酬を得ている以上、働き方もファイナンシャル・ウェルビーイングに密接しています。従業員の幸福度を高めて、やりがいをもって仕事に従事してもらうためにも、事業主が取り組むべき課題は少なくありません。

今回は、ファイナンシャル・ウェルビーイングの定義や事業主に求められることを解説します。従業員の幸福度を高めることで事業主にもメリットがもたらされるため、ぜひ参考にしてみてください。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは

笑顔の家族
ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、ウェルビーイング(幸福や豊かさ)を経済的な側面からとらえたものです。

なお、「ファイナンシャル」以外の要素として「ソーシャル(社会性・人間関係)」「フィジカル(健康状態)」「コミュニティ(地域とのかかわり)」「キャリア(働き方や普段の生活)」があります。

まずは、ファイナンシャル・ウェルビーイングの定義や、意識する重要性について見ていきましょう。

ファイナンシャル・ウェルビーイングの定義

WHO(世界保健機関)によると、ウェルビーイングとは「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にあること」を指します。

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、幸福について経済的な面から捉えたものです。アメリカの消費者金融保護局は、ファイナンシャル・ウェルビーイングを「現在および継続的に経済的義務を果たすことができ、経済的安心を将来に感じることができ、人生を楽しむための選択ができる状態である」と定義しています。

ファイナンシャル・ウェルビーイングを意識する重要性

自分にとって理想のライフプランを考えるためには、経済的な裏付けが必要となります。「どのような仕事をしてお金を稼ぐのか」「稼いだお金をどのように使うのか」「自分にとって幸福度の高いお金の使い方は何か」など、お金との向き合い方や管理・運用の仕方を考え、お金にまつわる正しい知識を習得することは欠かせません。

ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現できず、経済的な不安があると、将来へのストレスから生活の満足度が下がってしまいます。例えば、その日暮らしの家計運営をしていたり多重債務に陥っていたりしている状態は、幸福とは程遠いでしょう。

収入や資産状況にストレスがなく、人生を楽しむためにお金の面でさまざまな選択ができる状態は、幸福度が高いといえます。自分らしく有意義な人生を送るためにも、ファイナンシャル・ウェルビーイングは大切な考え方といえるでしょう。

ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための具体例

笑顔の女性
経済的な不安を軽減し、自分の好きなように人生を歩むためには、基本的な金融知識が欠かせません。具体的には、以下のような状況はファイナンシャル・ウェルビーイングを実現できているといえるでしょう。

  • ビジネスパーソンとしてのスキルを養い、能力や生み出した価値に応じた報酬を得られる仕事に就いている
  • 家計をコントロールして借金に頼らず、計画的に貯蓄や投資できている
  • 中長期的な資金計画を立て、必要なお金を計画的に準備して未来の経済的不安を軽減できている
  • 安全資産とリスク資産の違いを理解し、預貯金だけでなく投資の重要性を理解できている
  • NISAやiDeCoなどの仕組みを理解し、適正なリスクを取りつつ効率よく資産を増やせている
  • 社会保障制度の基礎を理解し、そのうえで必要な保険に適切に加入してリスクに備えられている
  • 詐欺から資産を守れている

つまり、ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現には家計管理・税制・社会保険・資産運用など、さまざまな面での知識が求められます。

「収入が多ければ多いほどよい」という単純な話ではなく、「稼ぐ」「増やす」「守る」ための知識を習得することが大切です。

企業に求められるウェルビーイング経営とは

ウェルビーイング経営
昨今は、「ウェルビーイング経営」を意識する企業が増えています。ウェルビーイング経営とは、従業員の幸福や健康、成長を重視しながら企業価値の向上を目指す経営アプローチです。

具体的なウェルビーイング経営のアプローチ方法は、以下のとおりです。

  • 福利厚生の充実
  • 心身の健康増進
  • 働きがいの創出
  • 組織文化の醸成

経済的な面だけでなく、従業員の健康維持や働きがいを意識することで、エンゲージメントの向上につながります。その結果、生産性の向上や離職率の低下にもつながり、労使の双方にメリットをもたらしてくれるでしょう。

事業主に求められるファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための方法

ウェルビーイング
従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングをサポートする方法はさまざまです。自社の状況や従業員のニーズに合わせて、どの方法が効果的か考えてみてください。

セミナーによる金融リテラシーの向上支援

2024年にNISA制度が拡充され、非課税で投資できる枠が拡大されました。政府としても国民の資産形成を後押ししようとしていますが、そもそも投資に関する経験や正しい知識がなく、「投資をしようとしても、なかなか始められない」というケースが考えられます。

そこで、事業主が金融リテラシーを向上させるための研修やセミナーを開催する方法が考えられます。内部講師や外部講師にレクチャーを依頼し、金融リテラシーを向上させるための支援を行うのは効果的です。

NISAにまつわる投資の話だけでなく、家計管理・ローン・社会保険制度・税制などの基本知識を学べれば、総合的に金融リテラシーを高められます。従業員が健全な家計を運営し、自分にとって最適な投資行動を取れるようになれば、ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現に近付くでしょう。

なお、金融経済教育推進機構(J-FLEC)では、認定アドバイザーを無料で派遣する事業を行っています。外部講師の活用を検討している場合は、金融経済教育推進機構のサービスを調べてみるとよいでしょう。

ライフプラン・ファイナンシャルプランニングの支援

外部の専門家(ファイナンシャルプランナーやJ-FLEC認定アドバイザー)を活用して、希望する従業員に対して、ライフプランやファイナンシャルプランニングの相談機会を用意する方法があります。

特に、若い従業員は金融リテラシーが不十分で、自分でライフプランを考えられないことがあり得ます。そこで、専門家を招いて将来設計を経済的な面からアドバイスすれば、正しいお金の知識を習得できるでしょう。

また、お金の価値観や生活感は個人によって差がある以上、一般的な内容のセミナーでは不十分となる可能性があります。専門家と相談し、パーソナルなアドバイスを受けて自分の生活に落とし込めば、金融リテラシーの向上につながるでしょう。

従業員が自分自身で考えて、将来の収支や貯蓄計画を自らシミュレーションできるようになれば、ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現に近付きます。

財産形成を支援する福利厚生制度の整備

給与や賞与のベースアップだけでなく、財産形成をサポートするための制度を導入することも効果的です。具体的に考えられる福利厚生制度は、以下のとおりです。

  • 財形貯蓄制度
  • 従業員持株会
  • ストックオプション制度
  • 住宅取得支援
  • 企業年金制度

財産形成を支援するための福利厚生制度を整備し、従業員が実際に有効活用すれば、資産形成につながります。特に、住宅取得資金や老後資金は多くの人が悩む問題である以上、事業主がサポートするのは有意義です。

老後資産に関する不安を軽減するうえで有効なのは、企業年金制度です。退職一時金の導入が難しくても、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金で福利厚生を充実化させることができるため、導入を検討するとよいでしょう。

関連記事
選択制企業型確定拠出年金とは?事業主のメリット・デメリットをわかりやすく解説

働きやすい環境の整備

経済的な面でのサポートだけでなく、働きやすい環境を作り、従業員のエンゲージメントを高めることも大切です。例えば、テレワークの導入・フレックスタイム制の導入・社内コミュニケーションの活発化などが考えられるでしょう。

各従業員がパフォーマンスを発揮できれば、生産性の向上につながります。生産性の向上が企業収益の向上につながれば、最終的に給与や賞与として従業員に還元できるため、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現できるでしょう。

リスキリングや能力開発の支援

従業員のリスキリングや能力開発を支援し、知識・スキル・能力の向上を図ることも効果的です。また、能力にふさわしい業務を依頼すれば、やりがいを感じてもらえるでしょう。

具体的には、教育訓練制度の活用を奨励したり能力開発に関する休暇制度を導入したりして、従業員がリスキリングに集中できる環境を作る方法が挙げられます。従業員としても、「自分のできることが増える」「専門性が磨かれる」ことは嬉しいはずです。

「自分のやりたい仕事」「自分の強みや得意を活かせる仕事」であれば、モチベーションが向上します。より大きな付加価値を生んで貢献できるようになれば、事業主としては従業員に対して報酬で報いることができます。

「自分の知識やスキルが上昇する→自分の人材価値が高まる→経済的なリターンを受け取れる」という好循環を生み出せれば、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現できるでしょう。

企業のリスキリング支援については以下もご参考ください
教育訓練給付金制度とは?在職中にスキルアップを目指せる制度をわかりやすく解説
個人事業主・中小企業・個人で使える!リスキリング支援の補助金・助成金を徹底解説

多様な人材の採用

世の中には、障害者や高齢者、外国人など一般的に就職が難しいとされる人たちがいます。多様な人材を採用すれば、労使の双方にメリットをもたらす可能性があります。

多様な人材を採用し、さまざまな意見を聞くことで、結果として新しい価値の創出につながるためです。また、各人の強みを活かせる業務を任せることで、当該従業員は報酬を得られます。

多様な人材の採用をご検討される方は以下もご参考ください
外国人雇用に必要な手続きや流れとは?雇用の注意点も解説
企業が障害者雇用を行う時の注意点や助成金とは?求人から雇用後までを徹底解説

事業主が従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングをサポートするメリット

笑顔の男性
従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングに取り組むことは、従業員だけでなく事業主にもメリットをもたらします。

具体的にどのようなメリットがあるのか、以下で解説します。

離職率の低下と人材定着

従業員にとって、資産形成をサポートしてくれたり、働きやすい環境作りを積極的に進めてくれたりする企業がありがたい存在です。

特に、老後生活に関する不安は多くの人が抱えています。従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングを意識することで、従業員に「自分を大切にしてくれている」と感じてもらえるでしょう。

快適に生活できる環境であれば、離職を防げます。離職率の低下につながり、また対外的な評価が高まれば人材採用の面でも有利になり、人材確保の面でメリットを感じられるでしょう。

J-FLECの資料によると、Z世代(1990年代後半〜2010年頃に生まれた世代)と呼ばれる学生が企業を選択する際には、「安定」を求める傾向にあることがわかっています。

また、「Z世代と呼ばれる学生が企業や職場を選ぶ際に用意してくれたら良いと思う研修」に関する金融庁のアンケート調査では、「資産形成・金融リテラシー研修」への関心度が高い結果となりました。実際に、お金に関する研修を積極的に導入している企業は、学生の志望度が高まることがわかりました。

つまり、若い層の採用者を増やしたいときに、事業主としてファイナンシャル・ウェルビーイングを意識することは効果的といえるでしょう。

生産性と業務効率の向上

従業員が安心して働ける環境を整備し、エンゲージメントとモチベーションが高まれば、生産性と業務効率が向上する期待が持てます。従業員の幸福度が高まることにより、能動的に業務にあたってくれるためです。

また、従業員の経済的な不安が解消・軽減されると、従業員は仕事に集中できます。その結果、柔軟な思考や発想につながり、新しい価値やアイデアを生み出してくれるでしょう。

健康維持と医療費の削減

働きやすい環境を整備すれば、ストレスを軽減でき、従業員の健康維持につながります。「働きやすさ」は従業員の生活スタイルや価値観などによって異なるため、多様な働き方を用意すれば、ストレスを軽減できるでしょう。

例えば、テレワークやサテライトオフィスを導入すれば、通勤・退勤に関する労力や時間を削減できます。自分のペースで、自分の好きな場所で働けるようになることで、従業員パフォーマンスを最大化できるでしょう。

心地よく働けない環境だと、ストレスが原因となって、優れた従業員が休職したり退職してしまったりする結果になりかねません。従業員本人だけでなく事業主にとっても損失となりますが、従業員の健康維持を意識すれば、これらの損失を防げるでしょう。

また、健康維持やストレスの軽減は、従業員個人の医療費の発生を防ぐ効果もあります。医療費を抑えられれば従業員が自由に使えるお金が増え、より幸福度が高まるでしょう。

企業価値と社会的評価の向上

従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングをサポートするメリットとして、企業価値と社会的評価の向上も見逃せません。

福利厚生の充実化・働きやすい環境作りの促進・多様な人材の採用を進めると、「新しい取り組みに積極的な企業」「すべての従業員を大切にしている企業」という印象を与えられます。

その結果、企業内外からよい評判を得られます。また、企業の社会的責任(CSR)が評価され、企業ブランドの向上につながる可能性が期待できるでしょう。

取引先や金融機関からよい印象を持ってもらえれば、新事業の展開につながったり融資を受けやすくなったり、ビジネスにおけるさまざまなメリットにもつながる可能性があります。

まとめ

従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングを意識した事業経営をすると、事業主にもさまざまなメリットがもたらされます。貴重な人材を確保しやすくなったり、企業価値と社会的評価の向上につながったりして、企業内外から信頼を得やすくなるでしょう。

具体的には、金融リテラシーの向上やライフプラン・ファイナンシャルプランニングの支援、財産形成を支援する福利厚生制度の整備などが挙げられます。あわせて、従業員が心地よく働けるルール作りも効果的です。

政府としても、国民の金融リテラシーの向上に力を入れており、今後ますます「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という言葉が浸透していくと考えられます。事業主として、従業員の幸福を支援する取り組みを行い、自社の評価を高めていきましょう。

創業手帳(冊子)では、経営の基本やノウハウ、従業員の満足度を高めるためのアイデアについて紹介しています。福利厚生の充実化を検討している事業主の方に役立つ内容となっているため、ぜひ参考にしてみてください。

関連記事
経営者こそ取り組みたい健康管理術とは?便利なサービスなども解説
週休3日制を導入するメリットは?企業がすべき対応を解説

(編集:創業手帳編集部)

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す