Essay 江連千佳│商品ではなく”思想”を届けたい。注目のフェムテック&フェムケア
信念を曲げずに、わたしらしく生きていくために
最近、話題になっている「フェムテック」「フェムケア」。女性特有の健康問題やライフスタイルの課題を解決するための商品やサービスを指します。フェムテックについては、こちらの記事「フェムテック(Femtech)とは? 関連する企業や商品を紹介」をご覧ください。
フェムケア業界で注目を集めているのが、Essay代表取締役で現役大学生の江連千佳さんです。江連さんはコロナ禍に会社を創業し、部屋着型ショーツの開発・販売をしています。
ショーツを作ったきっかけや今後の事業展開など、創業手帳株式会社創業者の大久保が聞きました。
2000年東京生まれ。女性のデリケートゾーンの悩みがタブー視されている社会構造を問題視。エンパワメント・ブランド「 I _ for ME」を立ち上げ、事業会社株式会社Essay設立。事業は、Tokyo Startup Gateway 2020でファイナリスト、APT Women 6期生、Makers University 6期生に採択。個人としてもジェンダー問題や女性のヘルスケアに関する活動を行い、TV出演や寄稿を通してZ世代のジェンダー観の発信も行なっている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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大学在学中に会社を創業
大久保:江連さんは、学生をしながら会社を創業されていますね。
江連:はい。現在も津田塾大学に在学中です。1年休学していて、4月からまた通います。2021年2月に「I_for ME」というブランドを立ち上げ、2021年5月に法人化しました。いまは、「”おかえり”ショーツ」という商品を販売しています。この商品は簡単に言うと、ノーパンでいられる部屋着型ショーツです。
大久保:なぜ、そのような部屋着を作ろうと思ったのでしょうか?
江連:女性のショーツは蒸れたり締め付け感があり、炎症を起こしてしまうことも…。多くの女性が悩んでいて、そうしたモヤモヤを解消したいと思って作りました。ただ、自分自身がショーツで困っていたわけではありません。そもそも、ショーツはどれも同じような形なので、困っていることや違和感に気づかないんですよね。それが当たり前になっていました。
大久保:当たり前になっているから、不満も生まれないわけですね。女性の声なき違和感に気づいたと。
江連:たまたま、自分の中で「ショーツが大きくなったらいいんじゃないか」という仮説が生まれました。いろいろな人に「ショーツで悩んでいることはないですか?」と聞いたら、半分くらいの方が悩んでいたんです。どうしてこの問題が世の中に出てこなかったんだろう? と感じ、プロダクト作りがはじまりました。
大久保:最近、フェムテックという言葉が話題になっています。”おかえり”ショーツは、女性の悩みを解決するフェムテックといえるのでしょうか。
江連:フェムテックというよりは、フェムケアに分類されると思っています。フェムテックはテクノロジーを活用して、女性特有の健康課題を改善することです。私がテクノロジーを活用しているかというと、ちょっと違うかなと思います。
大久保:なるほど。フェムケアですか。女性の課題を改善する点ではフェムテックもフェムケアも同じですね。
江連:女性が抱えている違和感は、言語化されていなかったり、統計が取られていないことが多いと思います。そもそも、問題であると認識されていないこともあります。生理の話題がオープンになってきたのも、つい最近です。世の中には、こうした隠れたニーズがまだあると思います。隠れたニーズを日々発見できる人でありたいです。
扱う商品が単色・フリーサイズのみの理由
大久保:今後の事業展開はどのようにお考えでしょうか?
江連:ショーツをいろいろな方に届けているうちに、障がいをお持ちの方から多くの問い合わせをいただくようになりました。車いすだと、ショーツの蒸れの課題感が強いようです。そうした方の視点も取り入れて、商品をアップデートしたいと考えています。それと、自分たちのブランドのメディアを3月に立ち上げる予定です。
大久保:商品のアップデートですか。いまは単色でフリーサイズのみですね。これには何か狙いがあるのでしょうか?
江連:私たちのショーツは、まだ改善の余地があると思っています。商品のPDCAを回すスピードが遅くなるのが嫌でした。だから、単色でフリーサイズの1パターンだけにこだわりました。ブランドイメージや、やりたいことを表現する点も徹底しています。
大久保:さまざまな色やサイズを出したくなりそうなところを、絞って出していく決断をしたのはすごいですね。
江連:たくさんのパターンを出してしまうと、お客さんからのフィードバックを反映させるのに時間がかかってしまいます。それは自分たちにとってもお客さんにとっても、長期的に考えるとマイナスです。私は、”思想”を届けたくて起業しました。プロダクトを売りたくて起業したわけではありません。
大久保:なるほど。具体的にどのような思想なのか教えてほしいです。
江連:「I_for ME」には「私は”わたし”のために生きる」というメッセージが込められています。それを体現しているのが、”おかえり”ショーツです。使用している色「トゥルーブルー」にも理由があります。トゥルーブルーは色褪せないので「信念を曲げない」といった意味があります。
サイズをフリーにしているのも、女性の体を考えているからです。特にお腹周りは、ホルモンバランスによって変わりやすいんですよ。女性の体は日々変わっていきますし、妊娠してサイズが変わると、コンプレックスを抱いてしまうケースもあります。だったら、はじめからサイズを分けないことに意味があると思いました。自分の体にとって最も良い選択を考えてみようよ、選択肢ってもっとたくさんあるんじゃない? と提案しているんです。
大久保:すべてに意味があるということですね。創業手帳も質にこだわっています。昔は創業に関する情報には、いわゆる情報商材のような怪しいものが少なからずありました。そこでしっかり取材をして、正しい情報を困っている方に届けたいと考えました。
江連:創業したときに創業手帳が家に届いて、親が喜んでいました!
大久保:ありがとうございます。それはすごくうれしいですね。
大学卒業後の進路
大久保:事業展開についてお聞きしましたが、大学を卒業したら、会社経営に注力するのでしょうか?
江連:大学院に進学したいと考えています。大学でデータサイエンスを専攻しているので、大学院でもソーシャルデータサイエンスを勉強したいです。
大久保:それは、なぜでしょうか?
江連:先ほど、女性の課題は言語化されていないことが多いとお話ししました。ただ、最近は少しずつ言語化されていると思うんです。でも、まだ感覚値で語られることのほうが多いなと思っていて、それをしっかりと数値化したいです。そうすれば、自分がいなくなった後にもデータとして残せるじゃないですか。
大久保:すでに、自分がいなくなった後の世界についても考えているんですね。データといえば、日本で会社を創業する人は40代の男性が一番多いというデータがあります。女性でさらに学生のうちに会社を創業する方は、非常に少ないのが現実です。江連さんは年齢や性別で注目されてしまうこともあると思いますが、嫌ではないですか?
江連:私自身、女子大生起業家と呼ばれることは多いです。イベントなどで、女性起業家がいないという理由で、私が呼ばれることもあります。でも、それって多様性を意識しているからだと思うので、できる限り協力しています。自分の生まれ持った性別を生かして、何かを成し遂げる。それによって後の世代の子たちが楽になったり、選択肢が増えるのなら、その役割を担いたいなと思いますね。
大久保:多様性は大事ですね。創業手帳も肩書や売上面で成功している人だけを取材してしまうと、どうしても60歳を過ぎた男性が中心になってしまいます。長年経営しているほうが、蓄積があって有利ですから。ポテンシャルや資質も考えて取材先を選ぶようにしています。
事業をはじめて大変だったこと
大久保:事業をはじめて、大変だったことは何でしょうか?
江連:ショーツを作ってくれる工場を見つけるのが、一番大変でした。お願いしに行っても「ふざけてるのか」と言われましたね。
大久保:確かに、いきなり学生がやってきて「作ってくれ」と言われても、実績がないのでなかなか取り合ってもらえなさそうですね。どうやって信頼関係を構築したのでしょうか?
江連:自分で型を作って、自分で縫ったものを持っていき「これを作ってほしいんです! クラウドファンディングを絶対成功させるので」とお願いしました。やりたい気持ちを伝えようとしましたね。
大久保:熱意を伝えたわけですね。
江連:タイミングもよかったと思います。受けてくれた工場の方は、コロナの影響もあり、大量生産・大量消費でいいのか、と疑問を持っていたようです。社会のために役立つ服作りをしたいな、と考えていたタイミングでした。その方には、ゼロから縫製業界のことについて教えてもらっています。私にとっての師匠みたいな存在です。
大久保:タイミングは大事ですよね。別の業界でも、5年早かったら成功しなかっただろうなというケースはよくあります。いまの時代は、たくさんのツールがあるので会社を創業しやすいタイミングですよね。昔は、ECサイトを自分たちで構築しなくてはいけない恐ろしい時代でした。
江連:そうですね。私のECサイトは、Shopifyで作っているんです。配送の自動化も可能ですし、TikTokと連携できるので、販売チャネルも増えます。会計はfreeeを使えば簡単ですから、創業しやすい環境だと思います。ツールを勉強する起業家の集まりもあるので、助かっています。
事業をはじめたタイミングもよかったです。「フェムテック」の波が来ていたタイミングでした。イベントもたくさんありましたし、大手企業からの関心も多かったです。
資金調達について
大久保:会社を創業するにあたって、出資を受けたり、金融機関から借入はされているのでしょうか?
江連:していないです。お年玉で会社を作りました(笑)。あとは、東京都からの助成金とクラウドファンディングを活用しました。出資すると言ってくれる方もいますが、いまのタイミングではないな、と思ってお断りしています。
大久保:いい判断だと思います。
江連:いまって、資金調達至上主義のような感じがありませんか? 「いくら資金調達しました」というプレスリリースが流行っていますが、不思議に思っています。そのプレスリリースを出すことで、お客さんに何のメリットがあるのかな? って。私は、お客さんからの売上が一番うれしいです。
大久保:その視点は大事ですね。
江連:資金調達については、スケールしたいと思ったときに考えたいと思います。
(取材協力:
株式会社Essay 代表取締役 江連 千佳)
(編集: 創業手帳編集部)