デジタルツインとは?メリットや活用事例、メタバースとの違いを解説
デジタルツインを実現するためのIT技術も解説
デジタルツインという言葉を耳にするようになりました。
デジタルツインの市場規模は、グローバルインフォメーションの調査によると、2027年には635億米ドルに達すると予想されています。
しかし、
- そもそもデジタルツインって何?
- デジタルツインのメリットは?
- メタバースと何が違うの?
そんな疑問を抱えている方も多いです。
そこで今回は、デジタルツインをわかりやすく解説します。デジタルツインは私たちの身近な生活や仕事に大きな影響を与える革新的な技術です。
この記事を読めば、デジタルツインの全体像を理解できます。
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この記事の目次
デジタルツインとは?
デジタルツインは、リアル空間から収集したデータを活用して、仮想空間にリアルと同じ空間を作ることを言います。
リアル空間と双子のような関係性の空間をデジタル上に再現することから、デジタルツインと言われています。
シミュレーションとの違い
シミュレーションは、ある一定の条件を人間が設定し、その条件の中で実証実験をすることです。条件の設定次第で、実際には起きえない結論が出てしまったり、リアルな世界では通用しない数値が出されたりする場合があります。
例えば、建物の耐久シミュレーションでは、実際の立地条件によって風雨による建物への影響や経年劣化の状況は異なります。
街ごとデジタルツインで再現すれば、実際の立地条件と同じ環境での検証が可能になります。より安全で無駄のない建築物を作ることができます。
3Dとの違い
3Dは街や建物、製品を立体的にデジタル的に表現したものです。見た目や構造をわかりやすく映像などで表現できます。実物はもちろん、作成前の建築物や製品、現存しないものや架空のものまで、3Dで再現できます。
例えば、すでに絶滅した恐竜や宇宙空間に浮かぶ巨大な宇宙ステーションをデジタルで表現することもできます。
一方、デジタルツインは実際にある建物や製品、地形などをデジタル上に再現します。例えば、工場の建物や工場内のライン、設備や人員などを実際のデータに基づいて作成します。
従来の3Dは想像で作られたものも多いですが、デジタルツインは実際にあるものをデジタル上に再現したものです。
メタバースとの違い
メタバースはコンピューター上に作られた仮想空間です。デジタル上に作られた仮想の世界で、人やモノが現実世界のように展開されます。
メタバースの世界は仮想の空間であり、実際には存在しない空間を構築したもの。メタバース上に作られた会議室で世界中の人が集まってミーティングをしたり、メタバース上に作られたショッピングモールで買い物を楽しんだりします。
一方、デジタルツインは現実世界を再現したもの。デジタルツインの渋谷の街は実際の渋谷の街のデータから作成します。そのため、世界中のどこにいても本当に渋谷の街を歩いているかのような体験ができます。
デジタルツインのメリット
デジタルツインの主なメリットは以下の3つです。
- リアルタイムのデータ活用で現状把握や未来予測ができる
- 仮説検証の時間短縮・シミュレーションが容易に
- 製造や管理、メンテナンスのコストを削減できる
それぞれを解説します。
リアルタイムのデータ活用で現状把握や未来予測ができる
デジタルツインは、現実空間をそこで変化していくデータごとデジタル上に再現したものです。そのため、現実世界の状態が常にデジタルツインにも反映されます。
例えば、遠方にある工場を製造ラインごとデジタルツインに再現します。
これにより、工場内のどこの製造ラインで故障やトラブルが起こっているのかを把握したり、アイドルタイムや待ち時間の発生がわかります。
デジタルツインによって瞬時に現状把握ができることにより、リアルタイムで問題を解決できるようになります。
また、工場内の機械の劣化状況を予測して、機械が故障する前にメンテナンスを行ったり交換することで、無駄な時間やコストを削減できるようになります。
仮説検証の時間短縮・シミュレーションが容易に
デジタルツインを使えば、仮説検証の時間を短縮したり、シミュレーションが容易になったります。
例えば、工場の製造ラインを新しい製品用に組み替える場合、デジタルツインがあれば何度でもデジタルツイン上でシミュレーションができます。
新しいAという製造ラインとBという製造ラインを仮想空間に再現して、より高い生産性を実現できたパターンを実際に採用するということもできるようになります。
リアル空間で何度も製造ラインを組み換えることはできませんし、単なる3D図面上で製造ラインを動かすことはできません。
しかし、デジタルツインであれば、短時間で仮説検証することが可能。
無駄なく効率的に最適なコストパフォーマンスをデジタル上で算出し、リアル空間に再現することができます。
製造や管理、メンテナンスのコストを削減できる
デジタルツインがあれば、製造や管理、メンテナンスのコストを削減できます。
例えば、遠方にある工場であっても、デジタルツインがあれば遠隔で監視ができます。
工場の動きは常にデジタルツインに反映されるので、何か問題や改善すべき点があっても、わざわざ技術者が遠方にある工場に出向くことなく状況が把握できます。
短時間で最適な改善策が打ち出せれば、次の一手に活かすことができます。
仮に現地に出向く必要があっても、デジタルツイン上で修復が必要な個所と修復に必要な部品が把握できれば、復旧スピードも格段に向上できます。
これまでは、とりあえず現地に行き現状を把握、調査やデータ収集をして対策を検討、再び現地に行き修復作業という行程だったのが、デジタルツイン上で現状把握と対策ができ、圧倒的なスピードで修復できます。
こうしたメンテナンスに関わる時間が短縮できれば、それにまつわる人件費や交通費なども削減できます。
より生産性の高い仕事にリソースを振り向けることができ、世界との激しい競争にも打ち勝てるようにもなるでしょう。
デジタルツインを実現するための技術
デジタルツインが実現できるようになったのには、ITの著しい発達が背景にあります。デジタルツインを実現するための主な技術は以下の4つです。
- IOT
- AI
- AR・VR
- 5G
それぞれを解説しておきます。
IOT
IOTは、『インターネット・オブ・シング(Internet of Things)』の略で、建物や機械、家電などがインターネットに接続され、データ通信ができる状態になることです。
例えば、家の玄関がIOT化されると、スマートフォンで鍵を閉めたり、留守中でもインターフォンで応対することができます。
車がIOT化されれば、安全に関わるデータがメーカーにリアルタイムで送信され、より良い車づくりに活用されたり、故障前にメンテナンスができるようになってトラブルに巻き込まれる可能性が低くなったりします。
IOTによりデジタルツインを再現するためのデータを収集できたり、メンテナンスをリモートで行ったりすることが可能になります。
AI
AIは『artificial intelligence』の略で人工知能と訳されます。AIは膨大なデータを高速で処理したり、複雑な条件から適切なデータを発見したりすることが得意です。
デジタルツインでビルを再現し、火災が起きた場合に中にいる人がどのような避難経路をたどるのかをAIでシミュレーションします。
AIを使うことによって、複雑でリアルなシミュレーションが可能になります。
AR・VR
ARは、「Augmented Reality」の略で、日本語では「拡張現実」といいます。ARを使えば、デジタルツインで作られた街や建物の中を現実世界のように見ることができます。
VRは、「Virtual Reality」の略で、「人工現実感」や「仮想現実」と訳されます。メタバースのような仮想空間をVRゴーグルを使って体感することができます。
5G
5Gは「5th Generation」の略で、次世代の高速通信規格です。遅延することなく大容量のデータ通信が可能になりますので、IOTや自動運転などが実現しやすくなります。
デジタルツインでも街や建物、製品からの膨大なデータがリアルタイムでやりとりできるようになります。デジタルツイン上で再現されるデータの精度が高まり、人やモノのシミュレーションがしやすくなります。
デジタルツインの活用事例
日本におけるデジタルツインの活用事例をご紹介します。デジタルツインの事例は海外にも多くぞんざいしますが、本記事ではできるだけ身近にイメージしていただくために国内事例をご紹介していきます。
- 活用事例1:バーチャル都市空間における「まちあるき・購買体験」
- 活用事例2:ダイキンが工場の「デジタルツイン」
- 活用事例3:災害現場での2次災害の防止
それぞれを解説します。
活用事例1:バーチャル都市空間における「まちあるき・購買体験」
国土交通省では、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクトを推進しています。そのプロジェクトが「PLATEAU」。
PLATEAUでは、誰でも自由にデジタルツインの都市データを活用できるようになっています。
このPLATEAUの都市データを活用して、バーチャル空間でイベントへの参加や買い物をできるようにした取り組みが、三越伊勢丹ホールディングスの「まちあるき・購買体験」です。
新宿の街並みをバーチャル空間上に再現。そして、利用者はアバターを用いて「まちあるき」や「購買体験」ができるように実証実験を行いました。。
実証実験では「バーチャル伊勢丹」で買い物を楽しむことができ、バーチャル空間上には本物の広告も掲出され、リアルな雰囲気が味わえました。
PLATEAUでは、将来的には、教育・行政サービスまでを網羅し、エリア居住者の生活行動に密着したサービスを提供したりする仮想世界の構築を目指しています。
活用事例2:ダイキンが工場の「デジタルツイン」、製造ラインの停滞予測しロス3割強減へ
空調製品を生産するダイキン工業では、大阪府にある堺製作所 臨海工場に、デジタルツインの機能を備えた新生産管理システムを開発。
工場内の製造設備などにセンサーやカメラを取り付け、それらから取得したデータを基に部品の流れや組み立て、塗装、プレスといった工程の状況をデジタルツインで再現しています。
製造ラインが停滞する原因として、「製造設備の異常」と「作業の遅れ」があったそうです。しかし、製造設備や組み立て作業などの状態を仮想空間に再現する、つまりデジタルツインを導入することによって、停滞を事前に予測できるようになり、これらの問題にいち早く対応することが可能になりました。
結果として、現場改善や生産技術の向上などの効果も含めて、2021年度は導入直後の2019年度と比べ3割強のロス(停滞によって生じた時間やコスト)を削減できる見込みとのことです。
巨大な生産工場における3割のロス削減は絶大な効果と言えます。デジタルツインによって、工場の生産効率を改善したり、時間やコストなどの無駄を省いたりすることができます。
活用事例3:災害現場での2次災害の防止
2021年7月3日に発生した静岡県熱海市の土砂災害では、被害状況の早期把握と2次災害の防止にデジタルツインが活用されました。
静岡県では、土地や建物などのデジタル情報を収集し、点群データという3次元情報をもった「VIRTUAL SHIZUOKA」というデジタルツインを作成していきました。
この「VIRTUAL SHIZUOKA」の情報やGoogleマップの情報、過去に撮影された航空写真などの情報と、災害で土砂崩れが発生した地点のドローンで撮影された画像を3次元データにして解析。
専門家同士が活発に情報交換を行いつつ、デジタルツインのデータを活用することで、土砂崩れの原因が、山頂付近にあった盛り土であることを早い段階で突き止めました。
被害の発生状況を早期に把握するとともに、2次災害の危険性を的確に予測することができました。
デジタルツインの将来性
デジタルツインには、まだまだ大きな可能性が秘められています。私たちの未来の生活や仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。
ここでは、下記の3つの分野におけるデジタルツインの将来性を解説します。
- 医療分野
- 自動運転
- 気候変動予測
それぞれを解説します。
医療分野
デジタルツインは、医療分野での活用も期待されています。医療分野でのデジタルツインを実現できれば、治療や予防に大いに活用できます。
医療分野でのデジタルツインにおいて、想定される主な活用シーンは以下の3つです。
- 人間のデジタルツイン
- 医療機器のデジタルツイン
- 病院のデジタルツイン
人間のデジタルツイン
人間のデジタルツインができれば、現在の状態(心拍、血圧、脈拍など)をリアルタイムに把握することができます。遺伝子データや病歴なども反映すれば、治療や投薬のシミュレーションを行ったり、回復期間や副作用リスクを予測できます。
医療機器のデジタルツイン
医療機器のデジタルツインがあれば、機器が故障する前に適切なメンテナンスや交換が可能になります。不慮の事故や急なトラブルを未然に防ぐことができます。
病院のデジタルツイン
病院のデジタルツインがあれば、より効率的な病院経営を行ったり、医療スタッフや医療機器の最適化をリアルタイムで最適化して待ち時間を減らすことができます。
人間ドックなども、混んでいる検査を後回しにして、空いている検査を先にするなどの対応が、スタッフの手を介さずに自動的にシステムがリアルタイムでご案内をすることができるようになるでしょう。
自動運転
自動運転の分野においても、デジタルツインの活用は期待されています。
自動運転を実現するためには、カメラやセンサーが活用されるのはもちろん、車自体がIOT化されていきます。
刻々と変わりゆく渋滞の情報や道路の路面状態、信号、標識、街の風景など、車から取得できる情報がリアルタイムで収集され、デジタルツインに反映されます。
こうして集められた情報が、より精度の高い自動運転にフィードバックされるだけでなく、渋滞の予測や事故の把握、危険予知などにも活用できます。
自動運転の車が走り回るほどに、車や街のリアルなデータが積み上がっていきます。このようにデジタルツインを活用すれば、交通集中や事故を避けて安全性の高い自動運転が実現できます。
気候変動予測
デジタルツインを活用すれば、地球規模の気候変動の予測もできるようになります。
地球環境を構成するさまざまなデータ(大気、地球規模の水の循環、人間活動、太陽の影響など)をリアルタイムに収集、それを地球のデジタルツインに反映すれば、数十年先の地域の異常気象を予測することも可能です。
異常気象や災害をあらかじめ予知できれば、事前にインフラを強化したり、避難を呼びかけるなどの対策が打てます。被害を最小限に食い止めたり、被災する人を減らしたりすることができます。
地球のデジタルツインがあれば、地球環境の保護をより身近に感じることができるようになるでしょう。
まとめ デジタルツインとは?
この記事では、デジタルツインについて解説しました。
デジタルツインは、現実世界の空間やモノをデジタル上に忠実に再現したものです。
デジタルの双子を作ることで、現実世界では時間やコストがかかることを、短時間で検証することができます。また、地球や街並み、工場、人体などをデジタルツイン化すれば、危険を回避したり未来を予測したりすることもできるようになります。
デジタルツインを活用するためには、最新のITトレンドをキャッチアップしつつ、私たちのビジネスを変革(DX:デジタルトランスフォーメーション)していくことが大切です。