バイオフィリア 岩橋洸太|動物の幸せをペットフード事業で追求する
国産手作りドッグフードのサブスク事業が愛犬家から好評
証券会社出身の岩橋さんは、ペットの殺処分をなんとかしたいという問題意識からペット業界で起業。最初は事業がうまくいかず苦労したといいますが、何度かピボットして立ち上げた国産原料にこだわった手作りドッグフードの定期購入サービスが好評で、会員数は5万人に達し、累計5.6億円の資金調達も完了。
今回の記事では、サービスの内容や起業の経緯、ペット市場などについて創業手帳代表の大久保がうかがいました。
株式会社バイオフィリア 代表取締役
1989年生まれ。幼少の頃から犬を飼っていた経験を通して、不幸な動物に対する問題意識を持つようになる。2012年慶應義塾大学経済学部卒業。同年SMBC日興証券株式会社入社、公開引受部に配属。4年半に渡って未上場企業の上場準備支援業務(公開引受業務)に従事。メイン担当者としてIPO3件、市場変更1件の実績。2017年8月に株式会社バイオフィリアを設立し、代表取締役に就任。ペット業界にて複数のサービスを立ち上げる。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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証券会社からペット業界へ
大久保:事業内容を教えていただけますか。
岩橋:獣医師監修の国産手作りドッグフード「CoCo Gourmet(ココグルメ)」と、ペット写真共有サービス「ぺっとる」を手がけています。
一般的にドッグフードというと、思い浮かぶのはドライフードだと思うんですが、ココグルメは魚や、鶏、豚の胸肉やレバーなど、新鮮な肉や野菜を、栄養や香りを損なわないよう低温調理し犬に最適なサイズにカットした、「えさ」というよりも「ごはん」と呼びたいものになっています。また獣医師など3人の監修者がつき、犬に最適な栄養素が入っていることも特徴です。
大久保:犬がご飯を食べて喜んでいるかどうかって、わかるものなんですか?
岩橋:いろいろと愛用者の方から話は聞いているんですが、食べる前にぴょんぴょんはねて喜ぶようになったという話や、食べ終わってからお皿をずっとなめているという話はよく聞きますね。
飼い主の方からは、毛艶がよくなった、老犬で元気がなくなっていたけど元気に歩き回るようになったというような声をいただいています。
大久保:実家で犬を飼っていたんですが、昔はねこまんまとかあげていたような気がします。もうそういう時代じゃないということですよね。お味噌汁の塩分は高いからあまり動物にはよくなさそうですし。
岩橋:そうですね、残念ながらねこまんまの塩分は犬の基準を考えると高すぎるでしょう。また、犬は肉食に近いので、白米が多いというのもあまり適切ではないです。ココグルメは、一般的なドライフードと比べると10倍の水分を含んでいます。ドライフードを食べている犬に比べて、手作りのごはんを食べる犬は平均3年ほど長生きするというデータもあるんですよ。
大久保:犬の生涯で3年は大きな違いですね。岩橋さんは証券会社ご出身ですが、どうしてペットフード事業を手がけようと思われたのでしょうか。
岩橋:確かに、証券会社出身というとびっくりされることも多いです。子どもの頃から動物と過ごしてきた中で、中学時代に、2ちゃんねるで猫を虐殺するという事件が起こったり、保健所で犬がガス殺処分されているということを知ったりと、ショッキングなニュースを目にしてこれはなんとか変えたいと思ったのがきっかけです。
ただ学生時代は何もできなかったので、会社に入り実力と知識をつけてからチャレンジしようと思っていました。実は起業時は少し違う事業内容でスタートしたのですが、なかなか思うように利益が出ず、ピボットして今に至ります。
大久保:金融業界の視点から見て、ペット業界はいかがですか。
岩橋:やはり全く違いますね。ただ、ペット業界ではいかにコストをかけずにプロダクトを作るかというところで競争している中で、ゼロベースでいいものを地道に作ろうという発想で取り組めたのは、業界人ではなかったからかもしれません。
また、事業を大きくしていく上では細かい分析が必要になってくるので、そのあたりは金融業界での経験が生きていると言えるのではないかと思います。
またIPOの目覚めのところを見ていたので、スケールするメリットなども実感として知っていますし、最初からスケールさせよう、グローバルに展開しようと目標を高く維持できたところもあると思います。
ペットフードという市場
大久保:ペットフードという市場は伸びているのですか。
岩橋:はい。一般社団法人ペットフード協会が昨年12月に発表した2020年の全国犬猫飼育実態調査によると、犬と猫の飼育総数は合計約1800万頭、15才未満の子どもの人数は1493万人で、ペットのほうが上回っているんです。
子どもを持たない人が飼うケースもありますし、お子さんが中学生で自立するようになり、ペットを飼い始める方もいるそうです。子育てが終わった方が飼うケースも多いですね。
また、人口減少に伴ってペットの数としては少しずつ減っているのですが、一頭あたりにかける金額は上がっていて、市場全体でいうと伸びています。
大久保:大手との差別化はどのようにされていますか。
岩橋:大手だと製造のみの機能で販売は小売店舗に任せているところを、我々は犬の健康や満足を第一に考えて、製造、販売からお客様サポートまで一気通関でやっているので、小ロットで作って少しずつ改善していくことが可能です。人間と同じ食べ物を、粒感をもう少し小さくしているだけなので、味付けは薄いですが人間も問題なく食べることができます。工場も給食などを作っている食品工場で作っていますので。
大久保:工場については、自社工場と委託工場どちらがいいのでしょうか。
岩橋:最初はミニマムで初めて、ゆくゆくは自社工場での製造も並行して取り組んでいくというふうに考えてやってきました。ずっと委託工場で、いわゆるファブレス(fabless/工場がない)で事業をする方もいると思いますし、それもひとつの手だと思います。
ただ、自社工場というのは商品力の要になると思っています。委託ですと、改善点を伝えたときに、難しいという反応が返ってくることもあります。ただペットフードのナンバーワンブランドを目指しているからこそ、ステップバイステップで拡大していくべく、ペットフードの手作りというところが本当に世間のニーズに合うかどうかを確かめるためにも、最初は委託で始めました。手応えをもとに、資金調達していったという経緯があります。
大久保:国産の原料にこだわっていらっしゃるとのことですが、国内だと何がいいのでしょうか。
岩橋:トレーサビリティが優れているので、監視はしやすいですよね。ただ質に関しては、外国産もよくなっているので実際そこまで変わらないだろうという声も最近は聞きます。ですが、お客様に安心して購入していただくために、やはり国産の原料というところは強いキーワードだと思います。
千葉県の農協さんと話していたところ、農家の方からするとペットフードに使用するというと耳慣れないけれども、サブスクがメインモデルなので発注量も安定していますし、安心して出荷してもらえる新しい領域なのかなと感じました。
大久保:販路はどうされているのですか?
岩橋:自社サイトから購入していただいているお客様が大半です。アマゾンでも購入することができます。
冷凍で提供していますので、1年間の保存がききますし、3種類のパターンという比較的少ないモデルでやっていますので在庫管理はそこまで大変ではないのですが、今後はキャットフードの展開も考えていますので、そうすると在庫管理などもより仕組みを考えていかないとと思っています。
最初はつまづくが、必ず自分の経験が生きてくる
大久保:大企業から起業すると、会社の看板をおろしてゼロから始めるということで、苦労されたこともあったのではないでしょうか。
岩橋:そうですね。やはり事業の立ち上げには苦労しました。証券会社時代は、成長できた企業の完成形を見ていたのでそこから学びを得ていました。
ただ、事業作りの要諦はもっと前のタイミングで発生しており、私が見てきた会社は既にそのふるいにかけられた後の会社で、その点は学びが足りなかったということを実感しました。
ココグルメの立ち上げで食品工場を回ったときも、理屈は通っていても「で、あなたは誰?」という反応ばかりでしたね。看板がなくて苦労というのは起業家なら誰でも経験すると思います。
ただ、学生起業とは違って、どうやったらビジネスで人が動くかということや、大手企業の決裁の進め方などを見ているので、最初は苦労するかもしれませんが、軌道に乗ってきてからは経験が生きていると感じることも多いです。
大久保:今後の展開は。
岩橋:食品はジャパンブランドが強いですし、人間に関しては食文化の相違を考えなければいけないところを、ペットに関してはあまり考えなくてもいいので、数年以内に東南アジアなど、グローバル展開を考えたいですね。
大久保:最後に、読者に対してメッセージをお願いします。
岩橋:最初のころ苦労があっても、あきらめずに学びとして蓄積して、粘り強く長期でやっていけば必ず道は開けます。失敗をおそれず、ぜひご自分のやりたいことに挑戦してほしいですね。