シェルパ・アンド・カンパニー 杉本淳|ESG・非財務情報の収集・開示プロセスを効率化!「SmartESG」が実現する日本企業の課題解決

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年05月に行われた取材時点のものです。

ESG経営推進の先駆者が目指す、テクノロジーによる企業のサステナビリティ・ESG経営のベストプラクティスの確立


近年、企業が長期的な成長を目指すうえで注目を集めているのがESG経営です。

ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとった言葉で、この3要素を重視した経営が「ESG経営」として提唱されています。企業の長期的発展に重要な要素として、2006年に責任投資原則(PRI)にて定義されました。

環境問題・社会問題への取り組みやガバナンス強化は、長く安定した企業の成長に影響することから日本でも急速に取り入れられていますが、このサステナビリティ・ESG経営を推進するためのビジネスで脚光を浴びているのがシェルパ・アンド・カンパニーです。

同社は「サステナビリティとテクノロジーをすべての経済活動の”あたりまえ”に。」をパーパスに掲げ、テクノロジーによる企業のサステナビリティ・ESG経営のベストプラクティスの確立を目指し、ESG・非財務情報の収集・開示プロセスを効率化・可視化するプラットフォーム「SmartESG(スマートイーエスジー)」を提供しています。

今回は代表取締役CEOを務める杉本さんの起業までの経緯や、事業を成功させた重要なプロセスと、サステナビリティ・ESG経営の必然性について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

杉本 淳(すぎもと じゅん)
シェルパ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO
慶応義塾大学卒業後、証券会社の投資銀行部門で国内外の大型M&A・資金調達案件や、IR・コーポレートガバナンス周りでのアドバイザリー業務に従事。2019年9月にシェルパ・アンド・カンパニーを創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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自分で生きる力をつける。プロフェッショナルファームでのキャリアを経て起業

大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。

杉本:慶応義塾大学を卒業後、新卒でSMBC日興証券に入社し、投資銀行部門でM&A案件担当としてキャリアをスタートさせました。

約2年半ほど経験を積んだところで「M&Aだけでなく資金調達にも携わりたい。なおかつグローバルなファームで挑戦してみたい」と考え、JPモルガン証券に転職。国内外の大型M&A・資金調達案件や、IR・コーポレートガバナンス周りでのアドバイザリー業務に従事しました。

大久保:非常にお忙しい毎日だったそうですね。ファーストキャリアに投資銀行部門を選んだ理由についてお教えください。

杉本:20代のうちに多種多彩な案件や業務に関われるプロフェッショナルファームを経験することで、確かなスキルを身につけて1人でも食べていける人間になりたいと考えたからです。

大学生の頃から漠然とですが、ゆくゆくは起業、あるいは異なるファームに移りながらステップアップしていくというキャリアを描いていました。同じ会社でずっと働くというより、自分だけで生きていける力をつけたかったんです。

大久保:学生時代からご自身の未来像を描かれていたんですね。その後、起業されたのでしょうか?

杉本:はい、2019年9月にシェルパ・アンド・カンパニーを設立しました。

挑戦を経て現在に至る。2回のピボットでたどり着いた事業運営の極意とは

大久保:起業されてから現在に至るまでの間に、2回のピボットを行っていると伺っています。詳しくお聞かせください。

杉本:弊社が事業を開始したのは2020年1月なのですが、当初はISA(Income Share Agreement)というアメリカ発の所得分配契約ビジネスでスタートしました。

「教育機関が学費を免除する代わりに、学生が就職後に一定以上の収入となった際に、所定の割合を教育機関に支払う契約」というビジネスモデルで、「出世払い型の報酬モデル」とも呼ばれています。

このビジネスを応用して日本でも展開できないだろうか?と考えたんです。教室のような施設を借りて、オフラインで教育プログラムを提供するというサービス内容まで作り上げました。

ところが事業開始直後にコロナ禍に突入してしまい、オフラインビジネス自体が難しい状況に陥ってしまったんですね。

大久保:そこでスパッと事業転換をご決断されたんですね。

杉本:それに加えて、ビジネスモデル自体が日本ではかなり難しいということもわかりましたので、約半年間挑戦してからピボットしました。

大久保:成功された方の「最初はうまくいかなかったが、軌道修正を行って成功した」というお話は、多くの起業家にとって非常に参考になります。その当時に得た教訓についてもお聞かせいただけますか。

杉本:私の場合は「タイムマシンモデルにとらわれすぎてしまったことが良くなかった」と痛感しました。

大久保:世界各国の今の状況と日本の過去の状況を照らし合わせることで、次に必要となる製品やソリューションを先回りして準備する戦略のことですね。

杉本:はい。確かにアメリカのシリコンバレーなどで成果をあげているビジネスモデルや考え方を国内で応用するという手法はひとつのやり方としてアリなのですが、起業した頃の私はプロダクトマーケットフィットの概念など、あらゆることを深く理解するところまで至っていなかったんですね。

そのため単純に海外で順調に事業を伸ばしているスタートアップの事例を見て、ソリューションからビジネスモデルを構想するという方法を選んでしまいました。

つまり社会課題を明確にせずに、ISAというビジネスモデルから入ってしまったんです。「こういうビジネスモデルを展開すれば日本でも成功するのではないか?」という方向性だったんですね。

決して間違いというわけではありませんが、課題意識がなければうまくいきませんし、アメリカと日本では商慣習も大きく異なります。だからなおさら「ビジネスモデルありきなのは違うな」と。

このときの経験を通して、「ソリューションから考えてプロダクトの開発などを進めていくのはやめたほうがいい」ということがよくわかりました。

課題ドリブンよりも「世の中をどうしていきたいか?」を最重視する3つの軸

大久保:当初の失敗から課題意識を大切にし、紆余曲折を経ながら現在の事業の成功へとつなげていったわけですが、どのあたりを変えたのか?について具体的にお教えください。

杉本:課題を見つけることも重要という前提で「3つの軸を重視しよう」と決めてから熟考し、サステナビリティ・ESG領域にピボットしたことで成功しました。

「3つの軸」の1つ目は「自分が心の底から本当にやりたいと思えるか?」。「なぜあなたはその事業に取り組むのか?」に対し、即答できる事業でないと継続は難しいと考えました。

2つ目は「世の中にインパクトを起こせるか?」。やはり事業を立ち上げるからには、社会的価値が高い領域で勝負したいと思ったからです。

3つ目は「マクロ的なトレンドをおさえているか?」。世の中がどう動いていくかを見通したうえで、10年後に市場が伸びていると確信できる分野を選ぶことにしました。

大久保:課題ドリブンよりも「世の中をどうしていきたいか?」を最重視されたんですね。

杉本:はい。「自分の身を投じるほど価値がある事業であるかどうか?」を見極めて、「この価値に値するものでなければやらない」と定めました。

こうした経緯を経て、サステナビリティ・ESG経営の領域を選びましたので、おかげさまで順調に事業が伸びています。

ESG・非財務情報の収集・開示プロセスを効率化・可視化するプラットフォーム「SmartESG」

大久保:御社のサービス内容についてお教えください。

杉本:弊社では「サステナビリティとテクノロジーをすべての経済活動の”あたりまえ”に。」をパーパスに掲げ、テクノロジーによる企業のサステナビリティ・ESG経営のベストプラクティスの確立を目指しています。

ビジネスモデルや戦略にサステナビリティを深く組み込むことを目的に、経済価値・社会価値の創造とサステナブルなビジネスの両立を実現可能なサービスとして提供しているのが、ESG・非財務情報の収集・開示プロセスを効率化・可視化するプラットフォーム「SmartESG(スマートイーエスジー)」です。

「SmartESG」は情報開示業務の効率化とスコアの向上により、「攻め」のESG経営を実現するというコンセプトで開発しました。

独自ESGデータベースの構築をはじめ、ESGデータ収集やワークフローの最適化、ESG評価の向上を支援するAIベンチマーク分析機能、貯めたデータを整理するESGマトリクス機能などを搭載し、スマートなESG情報開示を可能にしていることが特長です。

大久保:非常に革新的な先行優位性のあるプロダクトですね。サステナビリティ・ESG経営領域での勝負を決めたうえで、メインプロダクトにクラウドサービスを選んだ理由についてお聞かせください。

杉本:まず最初に領域を定めたあとに3つのアプローチを行いました。

1つ目は、サステナビリティ・ESGに特化したニュースメディア「ESG Journal Japan」を立ち上げたことです。

「ESG Journal Japan」の運営開始後、短期間のうちにサステナビリティ・ESGに興味がある企業や金融機関、コンサルティングファームのユーザーが増え、こうした企業との接点を作ることに成功しました。ターゲットユーザーが抱える問題についてヒアリングする機会をいただけるようになったんです。

大久保:顧客の課題や悩みなどを細かく把握できるようになったんですね。続いて2つ目以降もお願いします。

杉本:2つ目は、サステナビリティ・ESG関連のコミュニティに参加させていただいたことです。

このコミュニティのおかげで、各企業のサステナビリティ担当者の方々とコミュニケーションがとれるようになりました。「企業がサステナビリティやESGを推進するにあたって、どんなことを課題として捉えているのか?」など、より詳しく深堀りしながらお話を聞くことができたんです。その結果、さらに明確な課題や悩みが見えてきました。

3つ目は、欧州のEuropean Federation of Financial Analysts Societies(EFFAS)のCertified ESG Analystの資格を取得したことです。

ヨーロッパはESGの最前線ですので、そこでなにが起きているのか?を具体的に知りたかったんですね。日本企業が抱える課題を明確化すると同時に、グローバルな視点で問題を見据えていきました。

大久保:地道かつ着実なプロセスを経て、サービス構想に至ったわけですね。

杉本:はい。「ESG・非財務情報を収集・開示するプロセスを効率化する必要がある」と認識し、その目的を実現するためには「クラウドサービスが最適解である」という結論を導き出しました。

現代の企業がESG経営に取り組むメリットと、ESG経営を意識すべき必然性

大久保:企業がESG経営に取り組むメリットについてお教えください。

杉本:中長期的な観点で見たときに「ESGを推進していない企業より、推進している企業のほうが企業価値を向上させている」という点に着目していただきたいです。

少しずつ実証結果が出てきているのですが、「社会にプラスになることを率先して行っている企業は、より大きな利益を上げている」という世界が現実のものになろうとしています。

サステナビリティやESGを推進することで、自社の利益につながると同時に、世の中に対しても良いインパクトを生み出すことができるんです。

弊社ではこうした企業側のメリットを考えても、ESG推進の意義があると考えています。

大久保:企業の存続や成長のためにも、時代の大きな変化に合わせて対応しなければならないんですね。

杉本:おっしゃる通りです。「現代の企業はESG経営を意識しなければならない」という時代に突入しています。

2023年4月より有価証券報告書にてサステナビリティ情報の開示が義務化されました。

基本的に上場企業は非財務情報を開示する必要がありますので、法律的な観点からも「ESG経営は避けて通ることができなくなる」と言っても過言ではありません。

事業を成功させるために最も大切にしたいのは「思い込みすぎないこと」

大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。

杉本:事業を成功させるためには「思い込みすぎないことが大切」ということをお伝えしたいです。

サイバーエージェントの藤田さんらが「自分のタイミングで勝負しない」と提言されていらっしゃいますが、この概念がポイントだと思うんです。

まず事業の成功は偶然によるところが大きいという側面がありますので、流れを読んだり、具体的な未来を描くことが重要ではないかなと。

今、世の中でこんなことが起きていて、10年後にはこうなっている。それらを見越したうえで、社会が抱える課題に対してプロダクトを作っていく。そしてそのプロダクトが、10年後も変わらずスケールしている。

こんなふうに、先々を見据えながら事業を構築していく力が必要とされます。

そのときに「自分はこういうサービスが作りたい!」というこだわりが強すぎてしまうと、大きな流れが見えなくなってしまうんですね。

私はうまくいかなかったときこそスパッと切り替え、方向転換する能力が欠かせないと実感しています。それが「自分のタイミングで勝負しない」、言い方を変えると「うまく流されることも必要」という発想ではないでしょうか。

何度チャレンジしても構わないと思うんです。やり続けた先に大きな成功や未来が見えると信じて、私も同じ起業家として皆さんと共にこれからもがんばっていきたいです。

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(取材協力: シェルパ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO 杉本 淳
(編集: 創業手帳編集部)



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