中小企業経営強化税制とは?企業・個人事業主が受けられる優遇制度について解説
中小企業経営強化税制は中小企業・個人事業主の成長を後押しする
国は中小企業の経営力強化を図るために、様々な制度を整備しています。その中でも設備を取得する際に活用できるのが、「中小企業経営強化税制」という優遇制度です。
中小企業経営強化税制は中小企業だけでなく個人事業主も対象となる優遇制度で、設備投資による生産性向上や収益力強化を後押しします。
適用期限は令和6年度末(令和7年3月31日)までとなっていますが、令和7年度の税制改正大綱への要望として、経済産業省が拡充および延長を求めているのです。
そこで今回は、中小企業経営強化税制について改めてどのような制度かを確認するために、制度の内容や対象者・対象設備、活用するためのポイントを解説します。
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この記事の目次
中小企業経営強化税制とは?
中小企業経営強化税制とは、中小企業の生産性向上や経営力強化を目的に設備投資を行う場合、設備を取得した価格の最大10%が税額控除、または即時償却が可能になる優遇制度です。
この税制を利用するには、経営力向上計画の認定を受けなくてはなりません。
しかし、経営力向上計画の認定を受ければ、中小企業経営強化税制だけでなく金融支援や法的支援が受けられます。
対象者や対象設備については下記で詳しく紹介しますが、製造工程など事業に直接かかわる設備以外に、働き方改革の推進に貢献する減価償却資産も一定の条件をクリアすれば制度を活用することが可能です。
中小企業経営強化税制によって受けられる優遇
中小企業経営強化税制による優遇措置は、税額控除と即時償却のいずれかを選べます。
税額控除
税額控除は、設備を取得する際にかかった費用の10%を税額の対象から控除できます。
ただし、10%の税額控除は、資本金3,000万円以下の法人または個人事業者に限られるものです。
資本金3,000万円以上で1億円以下の法人に関しては、7%の税額控除となるので注意してください。
なお、税額控除が可能な金額は、1年間の法人税(個人事業主の場合は所得税額)の20%までと決まっています。
即時償却
即時償却では、条件に当てはまる設備費用を、その年の経費に全額まとめて計上可能です。
基本的に設備投資にかかった費用は減価償却によって計上していきますが、即時償却ならまとめて計上できるため、1年間で大きな節税効果をもたらしてくれます。
具体的な価格でいえば、取得した価格が10万円以上30万円未満の設備を購入して業務に使用した場合は全額経費として計上することが可能です。
ただし、即時償却は合計額300万円までが上限となっています。
経済産業省は拡充および延長の要望を出している
中小企業や個人事業主にとっては嬉しい優遇税制ですが、適用期限は令和6年度末(令和7年3月31日)までです。
もともとは平成29年4月1日~令和3年3月31日まででしたが、円安や資源高などの影響によるコストアップやDX推進の高まりから2度の延長が行われ、令和6年度末までとなりました。
しかし、令和7年度税制改正に関する要望の中で、経済産業省が中小企業経営強化税制の拡充と延長の要望を出しています。
もしこの要望が通れば再度2年間の延長が行われ、さらなる上乗せ措置が創設される可能性があります。
上乗せ措置に関しては、売上高100億円を超える中小企業(100億企業)を増やすために、100億企業を目指す中小企業が対象となる予定です。
中小企業経営強化税制の対象者・対象設備
中小企業経営強化税制はすべての企業に適用される制度ではありません。ここでは、中小企業経営強化税制の対象者や対象設備、指定事業について解説します。
対象者
中小企業経営強化税制を受けられる対象者は、主に青色申告書を提出した中小企業者等になります。中小企業者等とは、以下のいずれかに該当する法人・個人です。
-
- 資本金または出資金が1億円以下の法人
- 資本金または出資金がない法人で、常時使用する従業員数が1,000人以下
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
- 協同組合等
また、中小企業経営強化税制を申請するには、経営力向上計画の認定を受けなければなりません。
なお、以下に該当する法人は適用されないので注意してください。
-
- 資本金1億円を超える大規模法人の子会社
- 複数の大規模法人が発行済み株式の3分の2以上を取得している法人
- 前3事業年度の平均所得額は15億円を超えている法人
対象設備
税額控除か即時償却を受けられる対象の設備は4つの類型によって違いますが、共通の条件があります。
-
- 機械装置:160万円以上
- 工具:30万円以上
- 器具備品:30万円以上
- 建物付属設備:60万円以上
- ソフトウェア:70万円以上
共通の条件に加えて、さらに以下の要件も満たしている必要があります。
-
- 生産等設備を構成している
- 国内の事業用として活用される
- 中古資産や貸付資産ではない
生産等設備を構成している必要があるため、例えば事務用器具備品や本店・寄宿舎などに係る建物付属設備、福利厚生設備などは原則該当しません。
ただし、働き方改革に資する減価償却資産であり、生産等設備を構成する場合は中小企業経営強化税制の対象となり得ます。
指定事業
中小企業経営強化税制はどの事業でも活用できるものではなく、指定されています。
製造業 | 建設業 | 農業 | 林業 | 漁業 | 水産養殖業 | 鉱業 | 採石業 |
砂利採取業 | 卸売業 | 道路貨物運送業 | 倉庫業 | 港湾運送業 | ガス業 | 小売業 | 料理店業その他飲食店業 |
一般旅客自動車運送業 | 海洋運輸業および沿海運輸業 | 内航船舶貸渡業 | 旅行業 | 梱包業 | 郵便業 | 損害保険代理業 | 不動産業 |
情報通信業 | 駐車場業 | 物品賃貸業 | 学術研究 | 専門・技術サービス業 | 宿泊業 | 洗濯・理容・美容・浴場業 | その他生活関連サービス業 |
教育 | 学習支援業 | 医療 | 福祉業 | 協同組合 |
電気業や水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業は除く)に関しては対象に含まれません。
また、飲食店業は指定事業に含まれているものの、料亭やバー、キャバレー、ナイトクラブなどは原則対象外です。
【種類別】中小企業経営強化税制を適用するための手続き
中小企業経営強化税制を適用するためには手続きが必要となりますが、各類型によって要件や確認者などが異なります。
類型 | 要件 | 確認者 |
A類型 | 一定期間内に販売されたモデル 経営力向上に資するものの指標が、旧モデルと比べて年平均1%以上向上している |
工業会など |
B類型 | 年平均投資利益率5%以上が見込まれている | 経済産業局 |
C類型 | 事業プロセスの遠隔操作・可視化・自動制御化のいずれかを可能にする設備 | |
D類型 | 有形固定資産回転率または修正ROAが一定割合以上の投資計画にかかる設備 |
A類型(生産性向上設備)
A類型は、生産性向上を目的とする設備を対象とした類型になります。対象設備の種類と用途、具体的な最低価額や販売開始時期は以下のとおりです。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 | 販売開始時期 |
---|---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 | 10年以内 |
工具 | 測定工具・検査工具 | 30万円以上 | 5年以内 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 | 6年以内 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 | 14年以内 |
ソフトウェア | 情報収集機能や分析・指示機能を有している | 70万円以上 | 5年以内 |
A類型の適用手続きを受けるためには、工業会などから証明書を発行してもらう必要があります。
証明書の取得に関しては設備メーカーを通して行い、証明書を取得できたら担当省庁の主務大臣に対して経営力向上計画の申請を出します。
認定を受けたら設備を取得し、事業に使用してください。税務申告時に工業会証明書と計画申請書・計画認定書の写しを添付して、所轄の税務署へ提出します。
B類型(収益力強化設備)
B類型は、年平均の投資利益率が5%以上になることが見込まれる設備を対象とする類型です。
設備の対象範囲が広く、A類型では対象外となってしまった設備も対象の範囲内に含まれる可能性があります。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 |
---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 |
工具 | すべて | 30万円以上 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 |
ソフトウェア | すべて | 70万円以上 |
B類型の適用手続きは、まず公認会計士または税理士に投資計画案の確認依頼を行い、事前確認書を発行してもらいます。
次に、所轄の経済産業局に投資計画と事前確認書を添付して確認書発行申請を行い、発行されたら担当省庁の主務大臣へ経営力向上計画の申請を行います。
計画が認定されたら設備を取得し、事業に活用してください。税務申告を行う際には、計画申請書と認定書の写しを忘れずに添付します。
C類型(デジタル化設備)
C類型は、テレワークなど非対面・非接触ビジネスを推進するための設備を対象とする類型です。
要件として、遠隔操作・可視化・自動制御化のいずれかが可能になる設備を導入する必要があります。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 |
---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 |
工具 | すべて | 30万円以上 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 |
ソフトウェア | すべて | 70万円以上 |
最初に認定経営革新等支援機関へ投資計画案の確認を依頼し、事前確認書を発行してもらいます。
事前確認書が発行できたら、所轄の経済産業局で確認書の発行申請を行ってください。確認書が発行できたら、担当省庁の主務大臣に経営力向上計画を申請します。
計画が認定となったら設備を取得して事業に活用してください。後は所轄の税務署で税務申告を行えば、優遇措置が適用されます。
D類型(経営資源集約化設備)
D類型は、2021年の税制改正で新設された類型です。主にM&A(経営資源集約化)による生産性の向上を目的として、設備を導入した際に適用されます。
設備の種類 | 用途または細目 | 最低価額 |
---|---|---|
機械装置 | すべて | 160万円以上 |
工具 | すべて | 30万円以上 |
器具備品 | すべて | 30万円以上 |
建物附属設備 | すべて | 60万円以上 |
ソフトウェア | すべて | 70万円以上 |
上記の設備条件に加えて、修正ROA(総資産利益率)・有形固定資産回転率を一定以上上昇させることも必要です。
計画期間 | 有形固定資産回転率 | 修正ROA |
---|---|---|
3年 | +2% | +0.3% |
4年 | +2.5% | +0.4% |
5年 | +3% | +0.5% |
D類型の申請はB類型と同様に、まずは公認会計士や税理士に投資計画案を確認してもらい、事前確認書を発行してもらう必要があります。
その後、確認書の発行申請や経営力向上計画の提出を経て、すべて認定されれば設備の取得が可能です。設備を事業に使用し、税務申告を行えば優遇措置を受けられます。
中小企業経営強化税制を活用するためのポイント
中小企業経営強化税制を活用する際には、以下のポイントも押さえておくことが大切です。ここでは、活用するためのポイントを紹介します。
設備を取得した時期と事業で実際に使用した時期は異なる
中小企業経営強化税制では、原則として経営力向上計画を認定した後に設備を取得し、その設備を事業に使用することになります。
ここで注意すべきなのは、設備を取得した時期と事業で実際に使用した時期は異なるという点です。
取得は単に設備の所有権を得たことを意味しており、事業で実際に使用していない場合は「事業の用に供している」とはいえません。
税制措置が適用されるのは、設備を事業のように供した日に属する事業年度となるため、年度末付近で設備を取得する際には早めに事業用として使えるよう、準備を進めておくことが大切です。
設備取得後に申請する場合、60日以内に申請が受理される必要がある
原則経営力向上計画の申請を提出するのは、設備の取得前になりますが、例外として設備を取得した後でも申請することは可能です。
ただし、設備取得後に申請する場合は、取得日から60日以内に申請が受理されていなければなりません。
60日以内に申請が受理されなかった場合は、その年度の中小企業経営強化税制が適用されなくなってしまうので注意が必要です。
リース取引きも対象になるが条件がある
設備を購入ではなくリース取引きで取得した場合も、中小企業経営強化税制の優遇措置を受けられます。
税務上のリース取引きではリース資産は売買によって賃借人が取得したものと扱われることから、リース取引きであっても中小企業経営強化税制の優遇措置が受けられるのです。
ただし、所有権移転外リース取引きに関しては、通常の資産売買とは異なり同様の取引きになるとは認められていません。
そのため、即時償却は行えず税額控除のみ適用されることを念頭に入れておいてください。
計画が認定されてから設備を追加したい場合は再認定が必要
計画の認定後に設備を追加したい場合、変更申請の手続きを行い再度主務大臣から認定を受けなくてはなりません。
変更申請に関しても新規で申請した時と同じく、標準処理期間として最低でも30日間はかかることになります。
そのため、設備を取得する予定日が決まっている場合は逆算して、余裕を持って申請できるようにしてください。
まとめ・令和7年度税制改正で延期される可能性も!活用できるように準備をしておこう
今回は、中小企業経営強化税制について紹介しました。令和6年度末で終了となってしまいますが、令和7年度の税制改正に関して拡充と延長の要望が提出されています。
税制改正によって延期される可能性もあるため、中小企業経営強化税制を活用したい人は今のうちから準備を進めておくと良いです。
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(編集:創業手帳編集部)