ChillStack 伊東道明|「AI×セキュリティ」技術を軸に、企業が安心して成長できる社会を目指す
エンジニア起業家に捧ぐ!専門分野に囚われるよりも向き合うべきこととは
AIセキュリティ領域で、独自の技術力によって注目を浴びる株式会社ChillStack。
CEOの伊東道明氏はまだ20代、しかもエンジニア出身の起業家です。エンジニア出身の伊東さんが、日本ではまだ珍しい学生起業で事業をスケールさせてきた裏側を語ります。
また、苦戦することも多い産学連携やオープンイノベーション、DXのヒントについても解説します。
株式会社ChillStack 代表取締役CEO
6年間AI×セキュリティの研究に従事し、国際学会IEEE CSPA2018にて最優秀論文賞、IPAセキュリティキャンプ・アワード2018 最優秀賞を受賞。
自身が国際セキュリティコンテストでの優勝経験をもち、IPA主催のセキュリティ・キャンプ2019 – 2024にてAIセキュリティ講義の講師を担当するなど次世代のAIセキュリティ人材の育成にも従事している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
この記事の目次
プログラミングを学び学生起業。日本という恵まれた環境も後押しに
伊東:子供の頃からテクノロジーに興味があり、中学校や高校の頃から少しずつ、プログラミングに触れていました。本格的に学び始めたのは大学生です。大学生になって、AIとセキュリティの論文を書いて表彰されたことが自信になりました。
大学等には、目立たないながらも有益な研究成果がたくさんありますが、社会で活かしきれていない状況です。アカデミックな優れた技術をもっと社会に実装できないかという思いがありました。
大学院まで進み、サイバーエージェントなどIT系の会社でインターンをしましたが、普通の就職はせずに学生起業でChillStackを立ち上げました。
普通の方に比べると起業への抵抗感は少ない方だったかもしれません。
大久保:サラリーマンが長いと看板が外れる怖さみたいなものがあるものですが、そういう恐怖感は少なかったんですね。
伊東:はい。親の仕事の関係で幼少期に北京に住んでいたことがあり、かなりワイルドな環境でした。それに比べると日本は恵まれていて、仮に失敗してもダメージは限定的で、少なくとも生きてはいけます。
つまり、日本で起業する場合、マイナスは限られるので挑戦する人には良い環境だと思います。
大久保:その言葉、起業を迷っている人に聞かせたい!
でも、学生起業で困ったことは無かったですか?
伊東:確かに、社会人の作法みたいなものや日本の会社独特の組織文化に不慣れ、という意味ではハンディがあったかもしれませんね。
今手掛けているようなBtoBのビジネスは、クライアントとなる会社の状況を適切に把握し、どういうロジックで動いているのか理解することが大事です。
そういう体感値が高いのはサラリーマンを経験されている方の強みだなと思います。
形だけではない本当の産学連携やオープンイノベーションとは?
大久保:昔、IT系の社長は営業出身の人がほとんどでした。伊東さんのようにエンジニア出身、しかも大学、大学院に行きAIの論文を執筆するなど、アカデミックなバックグラウンドを持つ人が活躍するようになってきて、素晴らしい変化だなと感じました。
アカデミックって、民間企業で利益ベースの行動原理だと考えられないような手間のかけ方をする時があって、それが凄いなと思っています。そういう力を引き出すにはどうしたらいいんでしょうね?
伊東:アカデミア出身や産官学の連携においては、専門性に囚われすぎてしまうことがよくあります。技術力が高い会社、人にありがちかもしれませんが、いくら素晴らしい技術でも、お客様に使われないと意味がありません。
専門分野だけを見るのではなくお客様の課題にきちんと向き合うことを、製品開発で大切にしています。
あと、弊社の製品開発のきっかけになったのが、大手の企業様から「不正検知できる?」とお声掛けいただいたことです。その後、コンペで提案して、高い評価を得られたことが今の経理不正検知の製品につながっています。
大久保:それって、本当の意味のオープンイノベーションじゃないですか?
伊東:確かに(笑)。
オープンイノベーションという意識はなかったですが、結果的にそうなりますね。自然な形でのオープンイノベーションなので上手くいったのかなと思います。
大久保:大企業は慣習が違うのでやりにくい面もあると思いますが、どういう点を気をつけましたか?
伊東:まずその大手の企業様とお仕事をさせていただきましたが、資本提携は行いませんでした。もし資本を入れるのであれば特定の業界だけでなく、全方向からと思っていたためです。
結果として、製品開発にご満足いただき、資本の独立性も保たれたことは、その後の事業展開上大きなポイントだったと思います。
現在、私たちはパートナーセールスを営業の主軸としています。特定の企業色が付かなかったことが、より多くのパートナー様と連携するうえで良い結果をもたらしたと感じています。パートナー様に販売を担っていただくことで、私たちは製品開発に集中することができています。
あと、ご指摘のように技術系出身の起業家は少ないと感じます。
技術系は自分でプロダクトを作れるという強みがありますが、資金調達など、ビジネス系やコンサル出身の人が強い領域には私も苦戦しました。難しい技術の説明をしても理解されにくい場面は多々あります。技術系の起業家は、ユーザーサイドやビジネス面の説明により向き合うのが重要かなと思いました。
データ×AIから見えてくる意外なもの
大久保:伊東さんが起業されてから、コロナなどで社会が激しく変動しました。影響はありましたか?
伊東:コロナの影響もありましたが、法改正による影響が大きかったです。デジタル庁の設立や政府のデジタル化推進のほか、国のサイバーセキュリティに対する予算増加もあり、セキュリティへの関心が高まったことが追い風になりました。
今後は、企業のリスク管理をより効率化・高度化させていきたいですね。
また、データを可視化することで、より大きな可能性が見えてきます。不正検知は異常、特異点を調べることなのですが、ひとつ例をお話しします。
ある人が飲食交際費を毎日使い、しかも特定個人の組み合わせで毎日会っている、となるとちょっと怪しいですよね。
例えばルールベースでそういったものを検知しようとして「交際費は○○円まで」とだけルールを決めても見逃してしまいます。ですが、データとAIを使うと、こうしたルールに当てはまらない異常値も検知できるようになります。
異常値を分析することで、コンプライアンスやコスト面でのディフェンスにもなりますし、今後は無駄や改善点の発見というプラスの使い方もできるといいなと考えています。
DXには順序があった!確実にデジタル化を進めるための3ステップ
大久保:DXって掛け声だけでは進まなかったりしますよね。企業に対してDXのアドバイスをするなら、まずどのようなことから始めるべきですか?
伊東:経済産業省が発表している「DXレポート2 中間取りまとめ(概要)」では、DXには3つのステップが定義されています。
まず最初のステップとして、「デジタイゼーション」があります。こちらは、アナログ・物理データをデジタルデータにしていくことです。
言葉が似ていますが次の「デジタライゼーション」では、個別の業務プロセスごとデジタル化します。
そして最後のステップとして、組織全体のデジタル化やデータの利活用を通じた価値創造を目指す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」があります。
いきなり「デジタルトランスフォーメーション」を目指すのは難易度が高いため、まずは自社の状況を整理した上で、次のステップを目指すことから始めましょう。
大久保:なるほど、DXができないとよく言われますが、3つ段階があるのに一気にしようとしているからできないというケースもありそうですね。まずはデジタイゼーションしようと。
伊東:デジタル化するために業務フローを整理しているうちに、「なぜこの作業をしているのか?」といった疑問が浮かび、その結果として業務の合理化が進むこともあります。まずは「デジタイゼーション」で第一歩を踏み出すことですね。
セキュリティ業界の面白さは俯瞰力
大久保:セキュリティ業界は他の人から分かりにくくとっつきにくい印象がありますが、どういう面白さがありますか?
伊東:私たちが提供しているようなサービスでは、セキュリティだけでなく会社全体を見渡すことで、その会社に一段高く貢献し、より面白く仕事ができると考えています。
自分の専門技術だけに閉じこもりがちですが、AIやセキュリティは、その会社がやりたいことやあるべき姿を実現する道具なわけです。
エンジニアリングに専念しても仕事はできますが、技術だけではなくビジネス全体を見渡しながら、新しい価値をどう作るかが醍醐味だと感じています。
専門分野だけでなく、視点を高く持ち、展望を広げることが重要で、その過程でさまざまな新しい知見を得ることができます。それが楽しく、 結果として自分の成長にもつながっています。
起業にチャレンジされる方は大変なことも多いと思いますが、自分なりの仕事の面白さや、ユーザーに貢献できる楽しさを感じていただけたらと思います。
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(取材協力:
株式会社ChillStack 代表取締役CEO 伊東 道明 )
(編集: 創業手帳編集部)