資本制ローンってなに?出資や融資との違いとは
資本制ローンのメリットと、使用する上での注意点を解説します
(2020/01/22更新)
資金調達の方法はいろいろありますが、「融資」による調達資金はあくまでも借入金であり、まだ経営が安定していない事業にとってはその返済が何らかの負担になります。また、「出資」という形で資金調達する場合も、資金の受け取りと引き換えに株式を譲渡するのが一般的なので、経営者の持ち株率が下がることで経営が不安定になる可能性がゼロではありません。
では、こうしたリスクを最小限にして資金調達するにはどうしたよいのでしょうか。そんな時におすすめなのが「資本制ローン」です。
「融資」と「出資」のいいとこ取りの制度とも言える「資本制ローン」。ただし、使い方には注意点もあります。今回はその資本制ローンについて、詳しく解説していきましょう。
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この記事の目次
自己資本と他人資本(融資)の違い
資本というのは会計上、会社が事業に必要な資金の調達源泉をいいます。つまり、その資金をどこから調達してきたのかという「お金の出どころ」のことです。その資本には、大きくわけて「自己資本」と「他人資本」とがあります。
自己資本
自己資本とは、貸借対照表上、資本の部に計上される「資本金」、「繰越利益剰余金」などをいいます。
資本金は株主からの払い込みにより調達した資金です。返済の義務はありませんが、利益に応じて配当金を払う必要は生じます。
繰越利益剰余金は、これまでに会社が稼ぎだした利益が蓄積されたものです。こちらも、もちろん返済義務はありません。
他人資本
他人資本は返済の義務があるもので、、貸借対照表の負債の部に計上されます。具体的には、金融機関からの融資である「借入金」、会社が証券会社を通じて債権を発行し、広く一般から資金を調達する「社債」、仕入れ先への掛けである「買掛金」などです。
自己資本と他人資本による資金調達
増資を検討するタイミングでは株式を発行して自己資本を増やすか、他人資本による調達を考えることになります。
企業にとっては、自己資本比率(総資本に対する自己資本の比率)が会社の経営状態を判断するための一定の指標となることからもわかるように、外部への返済義務を負う他人資本よりも、自己資本が多いほうが経営上は安定性が保たれます。その観点からいくと、新たに資金調達する上では、株式を発行して自己資本の調達を行うほうがよいように思われますが、株式を発行するとその分株主が増えることになり、経営者の持ち株率が必然的に下がります。
たとえば、ベンチャーキャピタルなどが出資して株主となった場合には、企業の運営にも少なからず携わるケースもあり、結果として経営者は100%思った通りの経営ができなくなってしまう可能性も。株式を発行する場合は、株主比率の変化に注意する必要が出てくるのです。
とはいえ、融資などの借入金による資金調達では(スタートアップの企業で、軌道に乗るまでに時間を要する場合などは特に)、月々の返済が負担になります。資金繰りに奔走し事業が停滞してしまっては本末転倒です。
これらのデメリットを軽減し、株主比率を変えることなく、自己資本を増強する手法として注目されるのが、資本制ローンです。
資本制ローンの仕組み
資本制ローンとは、ベンチャー企業・スタートアップ企業や新事業展開・海外展開・事業再生等に取り組む企業の財務体質改善やベンチャーキャピタルの資金調達力強化を趣旨として、日本政策金融公庫が創設した制度です。
ベンチャー企業やスタートアップ企業は、事業に将来性があっても、軌道にのるまでは安定して資金を確保できないことが多々あります。資本制ローンは、借入期間中は利息のみの支払い、元本は借入期間最終回に一括で支払えばよく、金利は業績に応じて設定される仕組が取られているため、キャッシュフローも改善しやすい資金調達の手段です。
さらに、資本制ローンは、金融機関が融資を行う際の金融審査において一定額が借入金ではなく自己資本とみなされます。金融審査の審査基準のひとつに「自己資本比率」という指標がありますが、資本性ローンを活用することで自己資本比率が上がり、結果として「経営が安定している」と判断され、融資も受けやすくなります。
このように、資本制ローンは調達した資金が自己資本でありながら株式ではないため、株式比率はそのままにキャッシュフローを改善できるのです。これが資本制ローンの最大のメリットと言えるでしょう(※ただし、あくまでも金融機関が自己資本と捉えるだけで、会計上は通常の借入と同じく負債に計上されますので、ご注意ください)。
資本制ローンの内容
資本制ローンには、「国民生活事業」(ベンチャー企業やスタートアップ企業向け)と「中小企業事業」(新規事業や企業再建などに取り組む中小企業)の2種類あります。
事業特性や用途によって利用する制度が変わりますが、主に、創業の準備段階で利用する制度は「国民生活事業」、創業直後や、事業が軌道に乗り始めて以降のフェーズでは「中小企業事業」が対象になると考えるとよいでしょう。
種類ごとに特長を以下の表にまとめました。
国民生活事業
対象者 | 次の1、2を充たす法人または個人事業主 | ||||
---|---|---|---|---|---|
1.適用融資制度 | 新規開業資金女性・若者/シニア起業家支援資金、 再挑戦支援資金、新事業活動促進資金、 中小企業経営力強化資金、食品貸付、一般貸付、 海外展開・事業再編資金、 業承継・集約・活性化支援資金、企業再建資金、 生活衛生新企業育成資金、生活衛生企業再建資金 |
||||
2.その他の条件 | 地域経済活性化にかかる事業で、税務申告を1期以上行なっている場合、所得税等を完納していること。 | ||||
融資限度額 | 4,000万円 | ||||
返済期間 | 5年1ヵ月以上15年以内 | ||||
返済方法 | 期限一括返済 | ||||
担保保証人 | 無担保無保証人 | ||||
利率 | 融資後1年ごと、直近決算の業績に応じ、貸付期間により3区分の利率が適用 | ||||
売上高 減価償却前 経常利益率 |
貸付期間 | ||||
5年1ヶ月 以上7年以内 |
7年超 9年以内 |
9年超 12年以内 |
12年超 15年以内 |
||
5%超 | 5.30% | 5.60% | 5.95% | 6.20% | |
0%以上5%以下 | 3.15% | 3.30% | 3.50% | 3.60% | |
0%未満 | 1.00% | 1.00% | 1.00% | 1.00% |
中小企業事業
対象者 | 新企業育成貸付、企業活力強化貸付、企業再生貸付を利用し、 地域経済活性化のために、雇用の維持創出が認められる事業、地域社会に不可欠な事業、技術力の高い事業に取り組む者 |
||||
---|---|---|---|---|---|
融資限度額 | 1社あたり3億円 (ただし、事業承継・集約・活性化支援資金(企業活力強化貸付)については、1社あたり別枠3億円) |
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返済期間 | 15年・10年・7年、5年1ヵ月 | ||||
返済方法 | 期限一括返済 | ||||
担保保証人 | 無担保無保証人 | ||||
利率 | 貸付後1年ごとに直近決算の業績に応じ、3区分の利率が適用 | ||||
貸付期間 | |||||
5年1ヶ月 | 7年 | 10年 | 15年 | ||
新企業育成貸付又は企業活力強化貸付 | 4.00% 2.70% 0.45% |
4.65% 3.15% 0.45% |
5.00% 3.40% 0.45% |
5.45% 3.75% 0.45% |
|
企業再生貸付 | 5.30% 3.15% 0.45% |
5.40% 3.25% 0.45% |
5.45% 3.30% 0.45% |
5.50% 3.35% 0.45% |
(出典:日本政策金融公庫 資本制ローン)
資本制ローンのメリット
資本制ローンのメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 無担保無保証人であること
- 元金は借入期間の最後に一括して返済なので、借入期間中のキャッシュフローがよいこと
- 金利が業績に応じて変動し、資金繰りに窮する低業績の時の金利負担が少ないこと
- ベンチャーキャピタルなどの既存株主がいる場合には、持ち株比率を変えずに資本を増強でき、他の金融機関への信用力向上が期待できること
資本制ローンのデメリット
一方、資本制ローンのデメリットとしては以下の点が挙げられます。
- 繰り上げ返済ができないこと
- 業績が好調な場合は、その金利設定が比較的高めであること
- 審査時の事業計画書の提出、四半期ごとに経営状況の定期的な報告が必要で、事務的な煩雑さを伴うこと
- 多くの場合、申し込みから融資の実行まで3~4ヶ月かかるため、近々の資金需要には対応できないこと
まとめ
通常の融資の場合、会計上、借入金の元本は経費ではないため、キャッシュアウトが生じても、課税される利益は減らず、キャッシュの裏付けのない利益をもとに税金が生じます。これにより、キャッシュはないのに税負担が生じることにつながり、多くの企業では、これが資金繰りを圧迫する要因のひとつになっています。
その点、資本制ローンは、借入期間中は利息のみの返済で、元本は借入期間終了後に一括返済すればよいため、飛躍的にキャッシュフローが改善されるという点で大きなメリットがあります。
ただし、「資本制ローン」の仕組みにより自己資本の増強は図れますが、あくまで金融審査上の自己資本であり、会計上の「資本金」が増えるわけではないので注意が必要です。
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(監修:
株式会社アントレイス・パートナーズ(青山渋谷会計事務所)/竹本 和将 公認会計士・税理士)
(編集: 創業手帳編集部)