宣伝のコツは”地域を巻き込むこと” 繁盛洋菓子店のオーナーに聞く、驚きの集客方法とは
8歳からの夢を叶え、独立へ。菓子屋カランドリエ オーナーシェフ・指田洋史氏インタビュー(後編)
(2016/11/28更新)
小学生の頃からの夢を追い、15年の修行を経て、地元でケーキ屋さんを創業した指田氏。内装業者とのトラブルなどを経て、2016年6月に開業しました。インタビュー前編では、経営修行、不動産、資金など稼業準備の具体的なエピソードについてお伺いしました。後編では、開業時の広報戦略や、ケーキ店創業ならではの注意点などをお話いただきました。
1981年生まれ。辻製菓専門カレッジを卒業後、大泉学園「ナカタヤ」「パティスリープラネッツ」、江古田の「アンデルセン」、 練馬春日町「パティスリー ラ ブティック ジョンヌ」で修業し、2016年6月、地元の上井草に「菓子屋カランドリエ」をオープン。オーナーシェフパティシエとして数々のケーキを製造している。
宣伝のコツは、地域を巻き込むこと
指田:初めからハッキリとイメージしていましたね。店内の雰囲気や色合い、客層まで事前に想像して、妻とも相談して決定しました。一番こだわったのが、子供でも男性でも年配の方でも、だれでも入りやすいお店にすることです。店名はややこしいフランス語にせずに、頭に『菓子屋』とつけ、馴染みやすいようネコのキャラクターも作りました。“カランドリエ”とは“カレンダー”という意味で、毎日食べて欲しい、お客様の記念日を集めて1つのカレンダーを作りたい、という思いをこめています。商号もネットなどで確認しましたね。自分がやりたいお菓子は洋菓子だけではないので、和菓子のアレンジやキッシュなども扱っています。
指田: オープンの宣伝は、チラシを2500枚くらい配り、新聞に折込広告を出しました。チラシの文言は、街に密着したかったということもあり、「どこのお店を出た」「○○コンクールに出た」ではなく「○○町出身」「○○中学出身」と書きました。すると、地元の大先輩の方々が来てくれて「私は○○中学の△期生だよ」と応援してくれたのです。おかげで初日は大行列で、ずっと客足が途切れませんでした。
また、オープン特典で1000円分の焼き菓子プレゼントと割引クーポンを出しました。焼き菓子を「○%OFF」とせずプレゼントにしたのは、数百円お得になるより1000円分もらった方が得した気分になるだろうと感じたことと、確実にウチの焼き菓子を食べて欲しかったからなんです。まず味を知ってもらってファンになっていただいたら、その後のお中元などにもご利用いただけるかなと考えました。
さらに、オープン日は父の日だったので、近所の花屋さんで黄色いカーネーションを1本ずつラッピングしたものを600本用意して、来てくれたお客様にプレゼントしました。単純に喜んでもらえるし、町の中をカーネーションを持って歩いていると「それ何?」と聞かれて宣伝にもなるし、そこに住むお父さんたちも嬉しいし、地元のお花屋さんとのお付き合いもできる。なにより、インパクトあって面白い。
指田: どうせやるなら地域を巻き込みたいんですよ。そうすると皆が応援してくれますし、口コミも広がる。創業がきっかけで知り合ったいろんな業者さんがケーキを買いに来て、応援してくれるようになりました。
業界内で繋がりをつくるよりも、「ケーキのことはわからないけれど一緒に街を盛り上げていこう」という人たちと町やお店の情報を発信していけたらいいなと思っています。ですから、自分の店だけじゃなくて、町の紹介をしたいですね。こちらも商売繁盛すれば、みなさんにお返しができますし、お互いが幸せになれます。
指田:ケーキ屋ならではの特徴としては、ラッピングですね。おそらく他の飲食店より包材の量がとても多いんです。しかも包材はすごくお金がかかる。オリジナル紙袋などは一度に数千数万単位で発注しなければならないので、それだけで数十万円かかります。でも、できるだけオリジナルのラッピングをした方が、ブランド力のアップにつながると思い、質のいいものをデザインして作りました。
包材に力を入れた目的は、宣伝です。ギフトを購入してくださったお客様が紙袋を持って歩くことでPRになるので、広告費だと思っています。また、ギフトは見た目が重要なので、良いラッピングだと満足度があがります。結果、オープンの時からマドレーヌが1日300個ほど売れました。あらかじめお店として売りたいものが何なのかを明確にし、それに合わせた包材を用意することでお店のアピールができます。ただし、在庫は山積みなので倉庫スペースも必要になりますね。
ケーキ屋創業の注意点
指田:こだわりも大事ですが、あまりに凝りすぎると、経営としては良くないかなと思います。たとえば「パイ生地を自分で作らないといけない」とこだわるお店もあるのですが、まだお店の経営が安定しないうちは、販売されている既存の生地でもいいのではないでしょうか。ただ、既存の生地といってもフランスで作られていたランクの高いバターや粉を使った質のいいものもあるので、それを使えば人件費も労働時間も削減できます。自分でこだわりすぎると、従業員にもレベルの高い商品を求めて長時間労働をさせたりと、負担をかけることにもなりかねません。そうなるよりは、安定した生地を取り入れて提供する方がお客様にとっては良いのではないでしょうか。今は修行のために早朝から深夜まで訓練する時代でもないので、経営者としては、従業員が働きやすく安定した商品を提供できる環境を作ることも重要です。そしてお店が成長し、十分にスタッフが揃っていけば、手作りのものに移行していければ良いでしょう。どのタイミングで何に力を入れるのか……本当にお客様のためになるこだわりは何かということを、見極めなければいけないと思います。
指田:ブランディングがうまく行っている場合はいいのですが、趣味のように、自分の生活費くらい稼げたらいい……という規模のケーキ屋の経営が一番難しいと思います。というのも、ケーキは投資もかかるし保存もできないから、趣味の気持ちで小ぢんまり営業するのはなかなか大変です。包材を置くスペースも考えると最低20坪は必要だし、休憩スペースなどを含めると30坪はあった方がいい。カフェやレストランなら狭くてもいいのかもしれませんけれど……。
僕の場合は最初から広い物件は諦めて、いずれはお店の2階を借りられればという前提で今の不動産を契約しました。2階を借りるのであれば、敷金礼金もそれほどかかりませんから。家賃はかなりの支出ですから、最初から「自分が最終的にどれくらい売り上げたいのか、それが生産可能なのか」を明確にしてから創業に取り掛かるといいと思います。
指田:接客のアルバイトを数名雇って、製造は僕ひとりです。時々、地元ということもあり妻や母が手伝いにきてくれます。また、内装の際に、調理場からもレジが見えるように設計しているので、僕もケーキを作りながらお客様の様子を見ることができます。個人店にしては接客に力を入れている方だと思います。
小規模のケーキ屋でよくあるのは、職人が一人の場合、たくさんの商品が作れないということです。品揃えが悪いとお客様も来なくなり、売上げが落ち、お金がないから人が雇えず、販売も自分でやるとなり、より製造に時間が割けなくなる……とどんどん悪い方向へ進んでしまうんです。ですから接客スタッフの人件費にはお金をかけ、労働環境にも気を配るようにしています。
指田:まず、かける所にはしっかりとお金をかけることです。たとえば、専門家にお願いせずに自分でなんとかしようと考える方もいるかもしれませんが、下手に経費を削減しようと考えると、結果的に売り上げも下がります。店の立地や内装、専門家への依頼など、必要なところには使った方がいい。そのために、自分の力でできるものはどれで、誰かに頼むものはどれなのかを考え、どこにお金をかけるのかを判断することが必要です。
また、周辺のお店へのリサーチも重要でした。値段やメニューなど、ちゃんとその町に合った商品作りをすることで、地域に愛されるお店になります。ビジネス街なのか、住宅街なのか、どんな方が顧客になりうるのか……周囲の方に事前に聞きました。カランドリエの場合は、近辺に女性が働く会社も多かったのに男性向けのお店しかなかった。そのため、ケーキだけでなくキッシュなどを販売し、ランチとしても利用していただけるお店を目指しています。今後はアンチョビやアスパラ入りのクロワッサンやデニッシュを置いたりもしたいですね。
指田:何年か先のことになりますが、他にもいろんな店舗を展開したいですね。そしてその先60~70歳になったら、児童養護施設などで暮らす子たちに無償でケーキを食べてもらいたい。やっぱり、自分が子供の頃に感動した原点が今の夢に繋がっているので、たくさんの子供たちにケーキを味わってほしいんです。その子の中で「ケーキ屋さんになりたい」と思ってくれる子がいたら嬉しいですね。
(取材協力:菓子屋カランドリエ/指田洋史)
(編集:創業手帳編集部)