キャリア・マム 堤香苗|主婦会員は全国10万人!女性の声を活かしたマーケティングや主婦の再就職支援で社会課題を解決

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2022年07月に行われた取材時点のものです。

女性のキャリアと社会をつないで多様な働き方を創りながら、新規事業を切り拓く


全国約10万人の主婦会員を有し、マーケティングやリサーチ、アウトソーシング、コワーキング施設の運営など、多岐に渡る事業を展開する「キャリア・マム」。

始まりは育児サークル、子どもを抱えて働きづらい環境にあった母親たちをネットワーク化し、テレワークを活用した多様な働き方の導入でさまざまな課題を解決してきました。

起業の経緯からビジネスモデルのあり方、男女の違い、事業の課題などについて、創業手帳代表の大久保がキャリア・マム代表の堤氏に聞きました。

堤香苗(つつみ かなえ)
株式会社キャリア・マム 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。結婚や出産に関わらず、仕事と家庭のどちらも大切に自分らしく働きたい女性たちの活躍の場を提供することを志し、株式会社キャリア・マムを設立。「女性のキャリアと社会をつなぐ」を経営理念とし、ライフイベントを機に離職した女性たちの再就業や起業といった新しい働き方を推進しています。
日本テレワーク協会理事、一般社団法人日本リモートワーク就労環境創造支援機構会長ほか役職多数。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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多摩ニュータウンで子連れのお母さんたちとの出会い

大久保:キャリア・マムを起業された経緯について教えてください。

:神戸出身ですが、吉永小百合さんみたいな女優になりたくて、早稲田大学に入学しました。1980年代初めのことです。大学公認のアナウンス研究会に所属、在学中から活動していました。
私の仕事にお客様が納得してお金をいただければ、社員証も雇用保険もなくていいと考えて、ずっとフリーでやってきました。

アナウンサー生活10年目の頃、子どもができました。住んでいた多摩ニュータウンで、子連れのお母さんたちと知り合いましたが、どうもイケていないんです。都心に通勤するのが難しい環境で、まだ「3歳児神話」が生きていた時代。保育園に子どもを預けて働く選択肢は考えられませんでした。

お母さんたちが経済活動をするには、自宅で誰もがいつでも、自分の得意なことを好きな量だけできるようになればいい、チームを組めば可能かもと考えたのが、キャリア・マムのスタートです。いきなり会社をつくると怪しいので、最初は育児サークルでした。
多摩地区にはパソコン関連企業が多く、パソコン黎明期にもかかわらず、サークル参加者の2割ほどの家庭にパソコンがありました。それまで連絡はファクスでのやり取りでしたが、メーリングリストに登録すれば、一気に皆で情報の共有ができます。
パソコンを使えば、多摩ニュータウンにいても六本木ヒルズにいても、同じ仕事ができることに気づきました。こうして約1000人のお母さんネットワークができました。

できないことを言い訳にしない

大久保:会社設立はそのあとですか?

:マーケティングという言葉さえ知らなかった私ですが、いろいろなところから知恵をいただいて動き出しました。テレビ番組でも取り上げられ、大きな反響がありました。

会社にしたのは、2000年。社長になりたい、組織を大きくしたいという思いからではありません。
とにかく、あきらめている人たちが子どもを育てるのが嫌でした。できないことを言い訳にせず、できるようにするにはどうすればいいかを考えて工夫する人に、次の世代を育ててほしかったのです。

では、会社の運転資金はどうするかということになり、会費制を提案したら総スカンでした。
それで、「お母さんたちをつなぎます」と提案して、企業に支援をお願いしました。
ただ企業とのマッチングをするだけならば、クラウドソーシングと同じです。キャリア・マムでは、私たちが営業と交通整理をしつつ、個々人の望む形にアレンジしてつないでいくのが特徴です。

私たちがやっていることは社会起業家?


大久保:マッチングの仕組みを整えて、どんな風に広がったのですか?

:お金がないので広告は打てません。1万人に増えるまでは、メディアが営業してくれたと、私は思っています。

青年会議所に入っていたのですが、2000年代の初め、機関誌で、地域の課題をビジネスで解決する「コミュニティビジネス」や「ソーシャルビジネス」が新しい取り組みとして紹介されていました。記事を読めば読むほど、「これ、私たちがやっていることやん」との思いが募りました。
青年会議所の活動で、一橋大学を拠点に社会起業家についての勉強会も始まりました。そこで知り合った一橋の谷本寛治先生に、「私たちがやっていること、社会起業家っぽいんですけれど」と聞いてみたら、「ああ、知っていますよ。キャリア・マムさんは社会起業家ですよね」と言われまして。
つまり、最初からソーシャルビジネスを狙ったわけではなく、たまたまそれしかやりようがなくて続けていたら、たどり着いたんです。テレワークについても同じ流れです。

人って働くと、すごくいきいきするんですよ。アンケート集計を手伝ってくれたお母さんたちが、「最近きれいになったけれど、化粧品変えた?」とまず聞かれるそうです。
「違うよ。キャリア・マムってところに無料で登録して……」と説明すると、「えっ、何々。教えて。私もあんな風になりたい」という具合に広がっていきました。

主婦の仕事はアンペイドワーク。世の中で自分が必要とされていて、数千円であっても給料がもらえると知ることが大事なんです。
誰かの奥さんでも、Aちゃんのママでもなく、自分の名前で世の中とつながれることこそが、キャリアマムが提供してきた価値だといえます。

大久保:堤さんにとって、キャリアとはどのようなものなのでしょう?

:キャリアとは、自分が生きてきた人生そのものです。
キャリア・マムの名前からも推察できるように、お母さんたちが仕事だけでなく、ボランティアとか地域活動とか、全部含めて大切にできたらいいなとの願いを込めています。

皆が共感しやすいように翻訳する


大久保:ソーシャルビジネスで起業したい人は多いのですが、いま一つ軌道に乗っていない場合も少なくありません。女性の活躍、アウトソーシングなどの流れを見ると、ちょうどフィーリング的に合うプラットフォームがなかったのでしょうか?

:ソーシャルビジネスでうまくいかない人には、自分がやりたいことだけやる人が多いんです。
でも、仕事ってお客様のためにやることでしょう。だから、お客様がやりたいことをお客様の目線でとらえて、自分の仲間たちが理解できるように変換するトランスレーターの技術が必要だと思います。

私の武器は、まずあきらめないこと。それから、メディアで働いていたので一歩先が見えて、皆が共感しやすいようにわかりやすく翻訳するのは得意でした。

大久保:同じ日本語でも、ビジネスで使う「大手町用語」と、「お母さん用語」は違う。翻訳者がいると、うまくいくということですね。

:動いていない人は、自己否定されることにものすごく過敏です。主婦って、正直面倒くさいと思います。
でも、あえてそういう若干面倒な人たちと対峙してやっていくことで、結果的に参入障壁が上がり、キャリア・マム的な独自のビジネスがつくれたのです。

女性はほめられたい願望が強い


大久保:弊社にも主婦の方がいて、超優秀だと常々思っています。ただ、男女を比べると、女性の方が自己評価が低い傾向がありますね。だから、それをうまく引き出してあげるわけですね。

:女性には、どこかにほめられたい願望、認められたい願望があって、なにかと人と比べます。

大久保:大手企業は、基本的に体育会的な男の文化だと思います。怒られるのが当たり前のマッチョ文化と言いますか……。女性は自分からあきらめてしまうので、そこをうまく通訳してあげることが必要ですね。
:女性は、傷つきたくないし、うまくできない自分を見たくない。「私なんてダメです」と言っている人の方が、これくらいはできるはずとの思いが強く、プライドが高い。

お客様が喜んでいれば、それでいい

大久保:評価されることについてはどう思われますか?

:アナウンサーをやっていたとき、自分ではとてもいい出来だと思っていたのに、お客様から全否定されたことがありました。評価を決めるのはお金を払うお客様。要は、お客様が満足して喜んでいればいいのではないですか?

会社を運営していくうえでも、まったく同じです。自分がいくらやりたくても、皆がそう思わない時に価値観を押し付けたら、コンフリクトが起こるだけでしょう。
トップダウンでもボトムアップでもなく、皆がそれをやるのがいいねと納得するように、トップと壁打ちを続けること。
中小企業ではそれができると思います。皆がそれぞれ小さな社長のようにかかわって、梁山泊みたいな組織を維持できれば、面白いのかもしれません。

大久保:男性の場合、生きるためには本能的に狩りをします。リーダーを決めて実践するわけです。一方、女性はコミュニケーションの文化なので、フラットな関係でチームワークを保ってやっていけますよね。

:とにかく自分の話を聞いてほしいんですね。女性の場合、小さいことでも毎日気付いてあげないとモチベーションが上がりません。
ただし、25年も会社をやっていると、私の場合、狩りで獲物を捕る方がモチベーションが上がりますけれどね。

大久保:男社会とのつなぎを上手にやっているというわけですね。

:狩りはすごく楽しいじゃないですか。獲物を捕った後のことは皆に任せます。そして、どんな風に誰を活用していくかがひとつのポイントになります。

ベンチャーは決断と切り替えが重要


大久保:先ほどのお話で会費制がうまくいかなかったとおっしゃいましたが、次の手を考えるなど、ベンチャーは決断と切り替えが重要ですね。

:私は自分がすごく優れているとは思っていないので、皆の意見をよく聞くようにしています。決定は私の責任なので、誰でも安心して意見を出すことができます。
その代わり朝令暮改で、どんどん変えて改善していきます。ゴールが何かを忘れなければ、まったく問題はないと思います。

大久保:何か問題があった場合、男性の方がやり直すことに慣れています。女性は協調性を重んじて、今やっていることを優先しようとします。方向転換は苦手かもしれません。

:女性はどちらかといえば、「採取する」より「育てる」方が得意な気がします。
それから、私もそうですけれど、モノや仕組みなどより、ヒトが好きな人が多い。モノならば必要なくなったらすぐに捨てられるけれど、ヒトはそうはいきません。

男性はビジネスモデルが好き

大久保:確かに、男性は仕組みが好きです。

:そうですよね。
ビジネスモデルを語るんだけれど、そこに人が介在していないので、いざとなると、やる人がいない。女性は逆に、やりたい人もお客様も見えているのに、継続するための仕組みづくりに弱いです。

大久保:ソーシャルビジネスをやりたい人や女性起業家に向けて、ここに気を付けたらいいということはありますか?

:一般社団法人ソーシャルビジネスネットワークの理事を、昨年から引き受けています。これからは、ビジネスの倫理観が益々大事になると考えます。
平たい言葉で言うと、自分だけが儲かるのではなく、皆も利益を得てハッピーな関係であることです。

ソーシャルビジネスは、ものすごく熱意があるひとりのアイデアマンがやることが多いけれども、誰がやっても同じようにできることが重要。それには、まず教育ですね。
どんな強みのある人をどう活かすべきかがわかってくれば、これまで活用できていなかった人材が輝き始めると思います。
多分それぞれの特性に合わせて、ジグソーパズルみたいにピースを埋めて一つの絵を完成することになるのでしょう。
仕事を行動の連続としてとらえて、一つひとつ分解し、「あなたの担当はこのパーツ」と言う具合に見せれば、誰もが安心して動けますよね。

「一億総創業」でチャンスをつかめ!

大久保:そういうジョブ型雇用は、日本では根付きにくいとの見方がありましたが、その流れはあるのですね。

:ジョブ型になったから、副業でも稼げるようになったのではないでしょうか。
 
キャリア・マムでは現在、2割ほどが官公庁の事業で、創業支援や再就職支援です。時間ができたらとか、自分のステージが整ったらとか構えずに、「一億総創業」ととらえてチャレンジするのがいいですよ。
全員創業して、95%が失敗してもいいと思います。一度創業で失敗した人は、セミナーに参加しても吸収力が違います。
「そう、そこが大事なんだよね」と、実感をもって理解しています。そうすると、本当に自分のやりたいことが明確になってくるはずです。

私自身、事業がこけて3000万円を超える赤字を出したことがありました。無報酬にしても税金はついてくる。絶対黒字にしなければ最後だと追い詰められました。
1回やると、なかなか同じことを繰り返さなくなります
失敗を味わったうえで、それでもビジネスを続けるのは、それだけビジネスが魅力的だからです。100万回生まれ変わっても、私は会社をつくって社長になると思います。

大久保:それでは最後に、最近の取り組みを教えてください。

:東京都と一緒に保育室を併設したコワーキングの「CoCoプレイス」を多摩センターに開設しています。フランチャイズ展開する計画がありますが、苦戦しています。
自宅近くにそういう場所を設ける事業を、一緒にやってくれるフリーランスの人材がいたら歓迎します。

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(取材協力: 株式会社キャリア・マム 代表取締役  堤 香苗
(編集: 創業手帳編集部)



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