事業性評価による融資とは?“実績より将来性”金融庁が後押しする新制度

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赤字・無担保でもチャンス?評価ポイントからメリット・注意点まで、事前に知っておきたい内容を網羅


「財務内容が厳しいと融資を受けるのは難しい?」
「創業して間もないため、融資審査をしてもらえるか不安」

創業初期からスタートアップ期の経営者で資金調達を考える際、このような悩みを抱えるケースは少なくありません。先行投資が多く財務内容が厳しい状況では、融資をためらう企業も多いでしょう。

事業性評価は、金融庁が2014年に発表した金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)に基づいて推進する新しい融資評価方法です。財務内容だけでなく、事業の将来性も評価されるため、企業が融資を受けられる可能性が広がります。

本記事では、事業性評価の基本的な仕組みから具体的な評価項目、メリット・注意点まで詳しく解説していきます。融資の申し込みを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

参考:金融庁 金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)

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事業性評価とは


事業性評価とは、財務内容や担保・保証では測れない企業の事業内容や将来性を適切に評価する取り組みです。

事業性評価の定義・目的と推進される背景を詳しく見ていきます。

事業性評価の定義と目的|事業の将来性を評価

事業性評価は、財務面だけでなく事業内容や将来性をを多角的に評価する融資評価方法です。

金融機関は財務内容に加え、企業の戦略や競争力も評価します。これにより、従来では見過ごされていた優良企業への融資の機会が生まれました

また、企業との関係性を深め、成長支援のために必要な資金供給や助言が期待されています。

事業性評価を推進する背景

2014年以前の融資評価では、創業初期や先行投資が大きくなる企業にとって、将来性があっても融資が困難な環境でした。

金融庁は将来性ある企業が融資を受ける機会を増やすため、2014年から事業性評価による融資評価を推進しています。具体的な推進は以下のような流れです。

時期 内容
2014年 金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針) 発表
2024年6月 「事業性融資の推進等に関する法律」 成立
・企業価値担保権の創設
2026年以降 企業価値担保権付き融資の開始見込み

新たな担保制度の創設により、企業価値担保権付き融資が設けられます。企業の無形資産が担保として評価されるようになり、事業性評価がより一層推進されるでしょう。

参考:
・金融庁 平成26事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)
・金融庁 事業性融資の推進等に関する法律 説明資料

企業価値担保権については以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:赤字でも融資OKに? 金融庁が進める「新しい融資制度」やさしく解説

事業性評価による融資の仕組み


事業性評価によって融資評価の仕組みがどのように変化したかを解説します。従来の評価方法との違いと、新しい評価方法について詳しく見ていきましょう。

従来の評価による融資との違い

従来の評価と事業性評価には、以下のような明確な違いがあります。

評価方法 重視する要素 特徴
従来評価 ・決算書の財務データ
・担保
・連帯保証人
・現時点の財務状況を重視
・財務状況が悪いと融資困難
事業性評価 ・事業内容
・成長性
・将来性
・事業見通しを重視
・担保や保証に依存しない
・財務状況が悪くても将来性を評価した融資の可能性あり

従来は融資を受けにくかった企業にも資金調達の機会が生まれました。創業期やスタートアップ期の企業にとって、事業展開しやすい環境が整いつつあります。

事業性評価の方法|定量評価と定性評価

事業性評価では、数値データの定量評価と質的な情報の定性評価の両面から企業を分析します。

定量評価

定量評価は、数値で明確に示される情報を客観的に評価する方法です。

主な評価内容には、

  • 売上高
  • 利益率
  • キャッシュフローの推移と予測
  • 将来の資金需要の発掘と具体的な提案 など

が含まれます。従来の評価方法で重視されていた評価項目です。事業性評価で軽視されているわけではなく、重要な審査判断要素になります。

定性評価

定性評価では数値で表れにくい質的な情報を評価する方法です。

主な評価内容には、

  • 経営者の人物像
  • 経営理念
  • 企業が持つ独自の強み
  • 企業の課題
  • 市場での立ち位置
  • 競合他社に対する優位性 など

が含まれます。

事業性評価によって重視されるようになった項目です。定量評価との組み合わせによって将来的な成長性を多面的に評価でき、適切な融資判断が可能になります。

事業性評価で特に見られる主な項目4つ


企業の将来性を評価するために検証される主な項目を詳しく解説します。これらの項目を理解して、融資申し込み前の準備に役立てましょう。

市場動向

市場動向の分析は、事業の将来性を見極める上で不可欠な要素です。業界の中で自社の立ち位置を明確にすると、競争の優位性や成長の可能性を適切に評価できます。

具体的には高齢化地域では介護事業のニーズが高まり、成長が期待できます。一方、市場が縮小する環境では、優れた企業でも事業継続が困難になりかねません。

金融機関は市場の成長性、競合状況、規制環境の変化を総合的に評価したうえで、中長期的な事業継続性を判断します。

商流分析(サプライチェーン分析)

商流分析は、仕入れから販売までのデータを基に、収益性や効率性を分析する評価項目です。商品の仕入れから顧客への供給までの一連の流れであるサプライチェーンの全体像を分析します。

サプライチェーンの効率性・非効率性を数値的に可視化して、企業の競争力を評価可能です。物流や製造業では、サプライチェーンの最適化が競争力に直結するため、重要視されます。

SWOT分析

SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境を整理し、事業の可能性を評価するための基本的なフレームワークです。以下の4つの要素を詳細に分析します。

項目 内容
強み (Strength) ・事業へプラスに働く内部要因
・自社の持つ長所
・顧客に選ばれる理由 など
弱み (Weakness) ・事業へマイナスに働く内部要因
・自社の持つ短所
・克服すべき課題 など
機会 (Opportunity) ・事業へプラスに働く外部要因
・市場拡大
・規制緩和 など
脅威 (Threat) ・事業へマイナスに働く外部要因
・市場縮小
・新規参入 など

金融機関が課題解決策を提案する際の基礎情報となります。競合優位性や新規参入リスクを判断する重要な材料です。

経営者の資質

経営者の資質が事業の成長につながる要素であるため、重要な評価項目になります。金融機関の検証項目は以下のとおりです。

  • 経営理念と今後のビジョン
  • 業界経験やリーダーシップ能力
  • リスク管理能力 など

経営者の資質が高いと、事業の成長・発展につながる可能性が高いと見なされ、融資判断において有利になるでしょう。

事業性評価における融資の3つのメリット


従来の融資とは異なる評価基準が取り入れられ、企業には多くのメリットがもたらされます。事業性評価融資の主な3つのメリットを詳しく見ていきましょう。

1.融資を受ける機会が増加

事業性評価により融資を受ける機会が大幅に増えました。従来は評価されにくかった技術力や独自性、競争優位性なども適切に評価対象となるためです。

具体的に恩恵を受ける主な企業は、以下のとおりです。

  • 創業間もない企業
  • 先行投資が大きくなるAI企業
  • 研究開発が多い企業
  • IT系スタートアップ企業 など

起業を考えている方や新規事業を始める方にとって融資のチャンスが大幅に広がりました。また、赤字であっても将来性が認められれば融資を受けられる可能性があります。

2.産業が活性化

多くの中小企業が開業や新規事業に取り組めるようになった結果、産業全体の活性化が期待できます。従来の評価方法では資金調達が困難だった企業も、事業性評価により融資審査に通る可能性が高まりました。

融資により事業拡大が可能となり、雇用創出や下請け会社の仕事増加といった波及効果が期待できます。地域経済においても地元企業の成長が促進されると、地域全体の活性化や競争力向上にもつながるでしょう。

3. 金融機関との関係性強化

事業性評価では、定期的な対話や事業理解が求められるため、金融機関との関係が「単なる借入先」から「成長の伴走者」へと変化します。

金融機関は企業の事業内容を深く理解することで、資金面だけでなく経営面でも的確なサポートが可能です。

  • 一時的な業績悪化時の資金繰り支援
  • 事業拡大時の追加融資
  • 新たなビジネスチャンスの紹介 など

企業に対して、上記のような踏み込んだ支援ができるでしょう。

事業性評価における融資の3つの注意点

企業の将来性に着目する新しい融資手法であり、多くのメリットがある一方で、いくつか注意すべき点も存在します。融資を申し込む前に確認しておきたい主な注意点を3つ解説します。

事業性評価のみで融資の可否は決定しない

事業性評価はあくまで通常の審査に加えて実施されるものであり、事業性評価の結果のみで融資の可否が判断されるわけではありません。従来と同様に業績や担保などの数字も審査の対象となります。

事業性評価により融資審査が通過する可能性は高まりますが、以下のように融資が困難なケースもあります。

  • 基本的な財務状況があまりにも悪い場合
  • 返済能力に大きな懸念がある場合

事業性評価は融資判断の重要な要素の一つですが、万能ではないと理解しておきましょう。

金融機関によって取り組み度合いが異なる

金融庁は「金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」の中で事業性評価の指針を示しましたが、評価方法にルールはありません。

そのため、事業性評価の具体的な方法や基準は、各金融機関によって異なります。貸出判断力を高める必要がありますが、取り組み内容に差が出ているのが現状です。

政府系金融機関の商工中金は率先して取り組んでおり、創業2期目のJ-Startup企業ピクシーダストテクノロジーズ株式会社へ総額10億円で融資契約を締結したニュースは大きな話題を呼びました。

申し込み前に、各金融機関の事業性評価への取り組み状況を確認しましょう。

商工中金|サポート事例「創業2期目、東京都のJ-startup企業に対し、総額10億円の融資契約を締結!」

実行後のモニタリングに備える

事業性評価は、融資を受けるための審査だけにとどまらず、金融機関との関係性においても重要な意味を持ちます。融資後も、金融機関は事業性評価で得られた情報を活用し、本業支援や課題解決策の提案を行います。

一方で、企業は継続的な実績管理と融資後の成長分析を行って、定期的な面談で状況を共有できるよう準備が必要です。

金融機関との継続的な対話を通じて、より良い関係性を築くことで、将来的な追加融資や経営支援が期待できます。

よくある質問(Q&A)


事業性評価に関してよくある質問をまとめました。融資を検討する際の参考にしてみてください。

銀行における事業性評価とは?

従来の財務内容や担保・保証に依存しすぎず、企業の事業内容や事業の成長性といった将来性を適切に評価する融資の評価方法です。

従来の定量評価だけでは見えなかった定性評価を含め、真の企業価値を評価します。

事業性評価で融資の機会が増える理由は?

従来の財務審査だけでは、将来性があっても融資を受けにくい企業が存在していました。事業性評価により事業内容や成長性、技術力などが評価対象に加わるため、融資が受けやすくなる可能性があります。

財務内容が厳しくなりやすい創業期からスタートアップ期の企業にとっては、これまでより融資に申し込みやすい環境です。

担保や保証人は必要?

担保や保証人が完全に不要になるわけではありません。ただし、従来と比べて重要性は低下し、企業の事業内容や成長性が重視されています。

事業性評価により将来性が高く評価された場合、無担保・無保証での融資を受けられる可能性も高まります。各金融機関の方針や企業ごとに対応が異なるため、具体的な条件については面談時に直接相談しましょう。

まとめ:事業の将来性を伝える準備をして融資を申し込もう


事業性評価は、企業の将来性や成長性などの定性評価を重視する新しい融資評価の方法です。事業性評価で主に検証される項目は以下のとおりです。

  • 市場動向
  • 商流分析
  • SWOT分析
  • 経営者の資質

多角的な視点から評価されるため、財務状況が厳しくても、事業の独自性や将来性が認められれば融資を受けられる可能性が高まります。

ただし、事業性評価は万能ではなく、基本的な財務審査も並行して行われる点を理解しておきましょう。また金融機関によって取り組み度合いが異なるため、申し込み前に事業性評価への姿勢を調べておくことも重要です。

融資を検討している企業は、自社の事業に対して多角的に考えて総合的にアピールできる事業計画を提示する準備が重要です。金融機関に対して説得力のある説明ができれば事業性評価による評価を高められ、資金調達の可能性が大きく広がるでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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