ブラジルベンチャーキャピタル 中山 充|人口2億人のブラジルで起業しスタートアップを投資で支える
ブラジルのスタートアップ情勢やビジネスにおける日本との違いを聞きました
(2020/03/23更新)
日本のほぼ正反対に位置する国といえばどこでしょうか?それは、南米大国のブラジルです。ブラジルといえば世界最大の熱帯林アマゾンやコーヒー、サッカー、サンバなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
現在、ブラジルは人口が激増中の「巨大市場になることが約束された国」といわれています。すでに人口は2億人に達しており、人口減少が問題となっている日本とは対象的な国といえます。しかし、日本に比べるとまだまだ未整備なところも多く、治安や政治などの情勢が思わしくないという一面も持ち合わせている国なのです。
そんな荒削りな魅力を持ったブラジルで投資活動をしている日本人がいます。「ブラジルベンチャーキャピタル」の創業者である、中山充さんです。今回は中山氏に、ブラジルのスタートアップ事情やブラジルの秘める可能性、ブラジルから見た日本のスタートアップ情勢について聞きました。
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ブラジルベンチャーキャピタル 代表取締役
ブラジル・ベンチャー・キャピタル代表。ブラジルを中心にラテンアメリカのシードステージのスタートアップへの投資育成、日本のスタートアップ企業のラテンアメリカ進出サポートを行う。「ブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラム」、「ブラジル・アグリビジネス・フォーラム」の主催など、日本とブラジルのスタートアップを繋ぐ活動多数。日本での起業経験、ベイン&カンパニー東京支社・サンパウロ支社勤務を含む10年以上の戦略コンサルティング経験を有する。早稲田大学卒業、スペインIEビジネススクール MBA。著書「中小企業経営者が海外進出を考え始めた時に読む本」「未来をつくる起業家 ブラジル編」「Empreendedor-Criadores do Futuro」。ブラジル サンパウロ市在住
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この記事の目次
ビジネスにおいて大きな可能性を秘めるブラジル
中山:日本よりも経済の伸びしろがあり、かつ日本人の少ないところの方がユニークな存在になりやすいと考え、ラテンアメリカを選びました。ただ、危険なイメージはありましたし、本当にビジネスができるのかわからなかったのでラテンアメリカを13か国ほど旅してまわっていました。
その中で、ブラジルのBain&Companyのサンパウロ支社に内定を貰い、当時は2011年でブラジルワールドカップやリオオリンピックの前だったこともあり「今行くならブラジルだ」と思ったことからブラジルに決めました。その後、2年半Bain&Companyでコンサルタントとして働いたのちに起業しました。
中山:起業する前の2年半は、とにかく言葉の問題が大変でした。毎週2回家庭教師をつけて、日中も仕事でほとんどポルトガル語。グーグル翻訳がないような時代だったら何も仕事ができなかったと思います。
良い意味で驚いたことといえば、ブラジルの人々は日本人などの外国人に対するリスペクトが大きいことです。外国人としてこんなにも暮らしやすい国はなかなか無いと思います。その後ベンチャーキャピタルを立ち上げたのですが、まだブラジルでは新しい業界ですし、何より優秀な若い起業家の人たちと一緒に仕事ができていることが楽しいです。毎日学ぶことばかりです。
中山:ブラジルは人口が世界5位ですし、国土も大きく、石油・鉄鉱石・食糧といった第一次資源の多くの品目で世界トップレベルの生産量を誇る国です。ただ、消費者目線でみるといわゆる先進国と比べてまだまだ伸びる余地があり、成長の過程で新しい技術やサービスをどんどん取り入れています。
現在、Tech業界において中国はすでに日本を抜いており、インドもそのうち日本を抜くといわれていますが、20年などの長期でみるとブラジルも経済規模で日本を抜く可能性があるといわれています。
ブラジルにおけるスタートアップ情勢とビジネス環境
中山:ここ2年くらいで10億ドルを超える企業価値になるブラジルのスタートアップが14社ほど出てきています。これらのスタートアップのキーワードは、「FinTech」と「シェアリング・エコノミー」といったところです。
決済・オンライン投資・国際決済・ライドシェア・デリバリーなどのスタートアップが名を連ねています。実用性の高いサービスが出てくると、あっという間に広く普及する傾向があります。
中山:ARPACという農薬散布等を行うドローンの会社は、投資先の中でも日本と連携ができそうなスタートアップです。ドローンを飛ばすこと自体はもはやコモディティ化しており、その分野ではDJIなどの中国企業が強いのですが、農薬散布となると農薬の粘度や散布量をドローンが飛ぶスピードに合わせ、スプレイヤーの部分を最適化して調整する必要が出てくるなど複雑さが増します。
ARPACは、この分野ではブラジルをリードするスタートアップになりつつあり、日本のドローン専門のベンチャーキャピタルであるDrone Fundからも出資を受けています。機械ものが関わる分野なので、モノづくりに強みがある日本企業とのコラボなども協議しているところです。
ビジネスにおける日本とブラジルの”違い”とは
中山:日本とブラジルとの起業環境の大きな違いは、周りに成功した起業家がどれだけいるか、成功したスタートアップで働いていた経験のある人がどれだけ起業しているか、といったところだと思います。
ブラジルのスタートアップシーンは、この2年で急速に伸びてはいますが、まだ第一波が出てきた感じで、業界の経験値としては日本の90年代末から2000年代初頭くらいの所感です。なので、起業家も投資家も思考錯誤しながら成功事例を少しずつ作っているというところだと思います。
ブラジルでビジネスをするコツは「気長に待つ」ことだと思います。スタートアップの起業家はよく働きますしスピーディーに意思決定もしますが、パブリックセクターや大企業の動きの速さ、手続きにかかる時間は日本より遅いと思います。
そこでイライラせずに、じっくり待ちながら仕事を進めることが重要になります。ある意味、ブラジルでの物事のリズムを掴むまではそのギャップにストレスを感じる日本人は多いと思います。
中山:日本社会全体としては、閉塞感がある中での指示待ち体質にある社会は今後ますます厳しくなっていくだろうと思います。これがそもそも南米に私が移り住んだ理由ですが、改めて外から見てみるとますますその傾向の強さを感じます。
日本のスタートアップを見ていて、とにかく羨ましい環境にあると感じています。周りに優秀な起業家の見本がたくさんいるし、資金調達の選択肢も額も大きい。ものすごく尖ったことを始めなくても、営業力でそれなりに大きくなっていけるところもあるし。
ただ、もっと日本の外に出た方が付加価値を提供できるようなスタートアップもたくさんあるのに、日本にいるから苦労しているように感じるところもあるので、そういったスタートアップになにか南米で手伝えることはないかと常々思っていますし、実際に南米進出を手伝っているところもあります。
ブラジルの住環境と日本人が起業をするポイント
中山:人が優しく、親しみやすいところですかね。あと自然も豊かですし、日本から来た人も食事が美味しいとおっしゃいます。大変なことがあっても、ビールでを飲みながらビーチでサンバを聞いていたらあっという間に癒されてしまいます。
中山:日本に比べると確かに治安は悪いかもしれませんが、一方で無差別テロやストーカーのような被害に遭うことは非常に少ないです。一言で言うと「対応できる範囲の治安の悪さ」だと思います。
移動はすべてUberで、夜中に出歩るかないなどの対策をしていれば問題なく住んでいられます。特にサンパウロだと美味しいラーメン屋や寿司屋、居酒屋もあり、日本食スーパーも充実しています。子供にもとても優しい国民性なので、子育ては日本よりやりやすいという方が多いようです。
中山:消費者向けのサービスはこれからますます充実していくと思います。日本でもiモードで携帯の有料サービスが普及した背景にキャリア課金があったと思います。
ブラジルではクレジットカード保有率が低く、課金に関する問題がありましたが、Uberなどの普及によってアプリ課金の習慣ができました。QRコード課金などが日本同様のキャンペーンを展開して広まりつつあります。
こうして課金のインフラが整うことにより、有料の消費者向けサービスがマネタイズしやすい環境ができ始めたタイミングで、エンタメ分野などのスタートアップが伸びてくると思います。日本はこの分野に強いと思うので、ぜひチャレンジしてみて欲しいです。
ちなみにNetflixは、ブラジルがアメリカに次いで世界2位のユーザー数となっています。
中山:日本にいた時には考えられなかった幅広い視点を得られていることだと思います。ブラジルは移民の国で、本当に1人1人が個性的です。他人と比べたり、他人と同じようにしなければいけないということもないので、本当にのびのび暮らせています。
また、日本よりは環境が整っていないこともあるので色んな意味でタフになったと思います。
中山:Whatsappがないと生活できないレベルになっています。日本のLINEのようなものですね。UberやNetflixもこちらでは日本以上に利用者が多く、生活インフラになっています。
仕事ではESPRESSOというブラジル発のアプリで、会社の経費精算が簡単・スピーディーにできるようになりました。
おすすめの本と創業手帳読者へメッセージ
中山:入山 章栄さんの「世界標準の経営理論」ですね。これを読んだ後は、多くのビジネス本が”ライトノベル”みたいに見えてきてしまいました(笑)。
この本があれば、日本の経営学部とかいらないんじゃないかと。ビジネス経験を積んだ後に読んでもいろいろ腹落ちすることがあるので定期的に読んでみたいと思いました。
中山:創業手帳や読者も含めて、日本のスタートアップ業界はすごく進んでいると思います。もちろん、アメリカなどと比べるとまだまだ伸びる余地はありますが、世界全体から見るとレベルが高いのは間違いないです。
創業手帳と一緒にブラジル、南米でスタートアップを応援していきたいです!
大久保:一緒に、応援していきましょう!ありがとうございます!
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(取材協力:
ブラジル・ベンチャー・キャピタル/中山 充 代表)
(編集: 創業手帳編集部)