BCP(事業継続計画)で、災害や緊急事態を耐える企業になる 作り方・運用方法の基礎を解説
BCPづくりの基本を解説します
(2020/07/30更新)
新型コロナウイルス感染症や、豪雨災害など、予期せぬ緊急事態が起きると、企業は大きな損害を受けます。緊急事態はいつ降り掛かってくるかわかりません。経営者は、現状問題なく事業を継続できていたとしても、日頃から不測の事態が起きた時の対応を考えておく必要があります。
緊急事態が発生した時に役立つのが「事業継続計画(BCP)」です。自然災害や感染症の流行、テロ行為など、不測の出来事が起きた時に、事業への損害を最小限に留め、事業の継続や早期復旧をできるよう立てる計画のことです。この記事では、BCPを作成するポイントを解説します。
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この記事の目次
BCPの柱となる考え方
BCPを作る上で抑えておきたい柱は5つあります。
- 緊急時に優先して継続・復旧すべき中核事業を決める
- 緊急時の中核事業の目標復旧時間を定める
- 緊急時に提供できるサービスのレベルについて、あらかじめ協議する
- 事業の拠点、生産設備、仕入れ品の調達などについて、代替策を用意する
- 緊急時の事業継続について、従業員や関係者に周知する
この柱を念頭に、細かな内容を解説します。
チェックリストで災害対策の現状を把握する
緊急事態発生時の対応は、大きく分けて「人的資源」「資金」「物的資源」「情報」「体制」の領域について考える必要があります。現状で、どの程の備えができているかどうかを把握するためのチェックリストを用意しました。
リストを元に、緊急時の具体的な対応イメージを固めていきましょう。
実施したいこと | 項目 | はい✓ | いいえ✓ |
---|---|---|---|
人的資源の確保 | 緊急時に、支援が到着するまで従業員の安全・健康を確保できる災害対応計画を立てている | ||
勤務時間中・勤務時間外に災害などが起きた時、従業員と連絡を取り合えるようになっている | |||
必要な従業員が出社できない場合に、代行できる従業員を育成・確保している | |||
避難訓練や初期救急、心肺蘇生法の訓練を定期的に行っている | |||
資金の備え | 1週間、1ヵ月など、一定期間事業を中断した際の損失を把握できている | ||
1ヵ月分程度の事業運転資金に相当するキャッシュフローを確保している | |||
現在加入している保険の損害補償範囲が、災害が起きた時に活用できるかどうか、保険の専門家と相談している | |||
災害対策、被災時復旧に活用できる融資制度を把握している | |||
物的資源 | 会社のビルや工場など建物自体、ビル内や工場内の設備について、地震や風水害が起きた時の耐久度を把握している | ||
会社周辺の地震や風水害の被害に関する危険性を把握している | |||
日頃から会社設備を管理し、目録を更新している | |||
自社の工場が操業できなくなる、仕入先からの原材料の納品がストップなどの場合に備え、代替で生産・調達する手段を準備している | |||
情報の保護 | 会社で扱う情報のコピー・バックアップを取っている | ||
オフィス以外の場所に情報のコピーまたはバックアップを保管している | |||
緊急時に情報を発信・収集する手段を準備している(主要顧客や公共機関の連絡先リストを作成するなど) | |||
事業に不可欠なIT機器システムが、故障などで使用できない場合の代替方法がある | |||
体制の備え | 自然災害や人的災害に遭遇した場合、会社の事業活動にどんな変化が起きるか、シミュレーションしたことがある | ||
緊急事態が発生した場合、優先的に継続・復旧すべき事業を把握し、そのための対策を打ってある | |||
経営者が遠方にいたり、負傷したりした場合に代わりの者が指揮を取れる体制が整っている | |||
取引先および同業者等と災害発生時の相互支援について取り決めがある |
BCPの作成から運用までのステップ
BCPを実際に作成し、運用するまでの大まかな流れを解説します。
1、基本方針を確認する
最初に、BCPを作成するための基本となる「緊急事態時に何を守らなければならないのか」を考えましょう。
- 従業員の安全
- 経営の維持
- 雇用
- 顧客からの信用
など、多くの経営者が事業の中で日頃から意識しているポイントの延長で考えると整理しやすくなります。
2、特に重要なサービス・商品・事業を確認する
基本方針の確認が終わったら、続いて、緊急事態が発生した時に優先して守るべきサービス・商品・事業などを明確にします。
緊急事態が起きた時、多くの場合は通常通りに事業を進めることが難しくなります。必要に応じて、現在展開している事業内容について、優先度をつけて取捨選択する必要も出てくるでしょう。「この領域を守れば、企業が存続できるライン」をあらかじめ把握していれば、緊急時にスムーズな判断をしやすくなります。
3、被害状況をシミュレーションする
企業が直面しうる災害は、地震などの自然災害や、新型コロナなどの感染症、テロなど人的な要因で発生するものなど、さまざまな種類が考えられます。
例えば地震で事業所や工場が被害を受けたり、感染症の流行で多くの従業員が稼働できなくなったりした場合など、災害の種類ごとに、発生時に予想される損害の規模や、事業全体への影響などをシミュレーションしておくことが必要です。
シミュレーションをする時は、インフラなど社会全体に及ぶ影響と、従業員や社内の設備など、自社内で起きる影響とに分け、それぞれについて「ヒト・モノ・カネ」といった形で領域に分けて考えると具体的に整理しやすくなります。
4、実際に事前の対策を実施する
災害時に想定される事業への影響を明らかにしたら、実際に事前の対策を行います。事前対策も、シミュレーションの時と同様に、「ヒト・モノ・カネ・情報」といった形で分けて行います。
まずは「業務が属人化しないように複数の従業員間で情報を共有する」「災害時の避難ガイドラインを作成する」といった資金を必要としない対策から少しずつ取り組んでいくのがおすすめです。
自社だけでなく平常時取引している仕入先など、社外の要素も考えなければならない事業(製造業や、卸業など)は、提携先や調達先が機能しなくなった時の代替案を考える必要があります。
- いざという時に頼れるように、金融関係と有効な関係を築けているか
- 有事のときも提携先と助け合えるよう普段からコミュニケーションを取れているか
など、有事でなくとも事業に関わる可能性があるポイントが抜け落ちていた場合は、これを期に対策・改善を行うと良いでしょう。
5、BCPの共有・確認・整理を定期的に行う
もちろん、BCPを完成させることが最終目的ではありません。BCPを作っても、従業員間での共有ができていなかったり、作ったあとに事業の状況が変わったためいざという時に機能しなかった、といった結果になるのは本末転倒です。
社内教育を実施して、従業員間でのBCPの定着をはかったり、1年に1回経営陣でBCPの内容を確認・更新したりするなど、BCPをいつでも実践できるよう工夫しましょう。
まとめ
BCPについての基礎的な情報をまとめて解説しました。BCPは、自社の事業に応じて適宜カスタマイズしながら運用することになります。作成にあたり、不安な点、疑問点などが出てきたら、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、弁護士、会計士、税理士、金融機関などに相談してみるのも良いでしょう。
また、中小企業庁が公開している「中小企業BCP運用査定方針」などを参考にするものおすすめです。
BCPの整備は、緊急事態時に事業を守る生命線となります。余裕がある内に作成し、困難に備えましょう。
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(編集:創業手帳編集部)