akippa 金谷元気|“なくてはならぬ”をつくるーー楽天、ソフトバンクも撤退した駐車場シェアリングを制す番狂わせストーリー

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年09月に行われた取材時点のものです。

世界最大のモビリティプラットフォーム構築を目指して…「番狂わせの起業法」出版記念講演より

駐車場シェアリングサービス「アキッパ」を立ち上げ、急成長させた金谷元気氏。創業から14年で累計会員数400万人、全国4万件以上の駐車場を抱えるまでに至りました。

高校卒業後、プロサッカー選手を目指した彼が起業の道を選んだ理由とは。そしてどのようにして大手企業との競争を勝ち抜き、コロナ禍を乗り越えてきたのでしょうか。

書籍「番狂わせの起業法」を出版した金谷氏が2024年8月7日、創業手帳本社で出版記念講演会を行いました。創業手帳代表の大久保とともに、起業家から経営者への進化の道のりを振り返り、これからの展望を語っていただきました。

また、創業手帳では、起業を検討・予定中の方向けに「創業カレンダー」を無料配布しています。起業を成功させるために「今何をすべきなのか」をカテゴリ別×時系列でまとめていますので、ぜひご活用ください。

金谷 元気(かなや げんき)
akippa株式会社 代表取締役社長 CEO
1984年、大阪府生まれ。高校卒業後はJリーガーをめざし関西リーグなどでプレー。引退後から2年間は上場企業で営業を経験し、2009年2月に24歳で創業。2011年、株式会社へ組織変更し代表取締役に就任。2014年に駐車場シェアリングサービス「アキッパ(akippa)」を開始。著書に『番狂わせの起業法』がある。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

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サッカーの道を断念、営業の面白さに気づき起業家に

大久保:プロサッカー選手を目指していたそうですね。起業を決意したきっかけを教えてください。

金谷:高校3年生の夏にサガン鳥栖の練習生になり、プロ契約を目指していました。しかし、結果的にプロ契約には至らず、アマチュアリーグでプレーすることになりました。その間、生計を立てるためにアルバイトをしていたのですが、なかなかうまくいかなかったんです。

ある日、彼女とデート中、雨宿りをしていました。手元に200円しかなく電車で帰れない。そこで地下にある100円ショップで100円の傘を買って地上で300円で売ることを思いつき、実際にやってみたんです。ここで「安く仕入れて高く売る」という営業の面白さに気づきました。ビジネスに興味を持ったきっかけでした。

大久保:そこから、どのようにしてアキッパというサービスを思いついたのでしょうか?

金谷:当初は携帯電話の法人向け営業代行などをしていたんです。個人事業主から合同会社を設立して従業員も20人ほどになりましたが、事業が行き詰まり資金繰りに困っていました。

そんな中、ベンチャーキャピタル(VC)から6,500万円の出資を受けることができたんです。これを機に、お金を減らさないために頑張ろうと営業代行にまた注力をしていましたが、自分達のやっていることは世の中のためになっていないと心から思い、本当に世の中のためになる事業をしたいと考えるようになりました。そこで、会社の経営理念を「”なくてはならぬ”をつくる」と定め、社員全員で「生活していて困ること」を200個挙げてみたんです。その中に「コインパーキングは現地に行ってから満車かどうかわかる」という問題がありました。

調べてみると、日本には約3,000万台分の遊休駐車場があることがわかりました。この空きスペースと、駐車場を探しているドライバーをつなげることができれば、大きな価値を生み出せる。それがアキッパの構想につながりました。

アキッパは、空きスペースを駐車場として簡単に時間貸しできるマーケットプレイスです。自宅の駐車場や使っていない場所を無料で掲載できます。ドライバーはアプリやウェブで予約・支払いをし、あとは実際に駐車するだけです。私たちはドライバーからいただいた駐車料金のうち、手数料を除いた分をオーナーに支払います。

このモデルの大きな特徴は、ドライバーにとっては事前予約ができること、通常より安く駐車できること、そして駐車場の選択肢が豊富なことです。オーナーにとっては、初期費用なしで駐車場事業を始められる点が魅力です。また、今まで駐車場がなかった場所にも新たな駐車スペースが生まれるので、地域の駐車場不足解消にも貢献しています。

大手との競争を制したスタートアップの戦略

大久保:VCからの6,500万円の資金調達はどのようにして実現したのでしょうか。

金谷:債務超過が膨らみ、銀行からも融資を断られる中、本でVCの存在を知りました。VCは現状よりも将来性を見てくれると知って、片っ端から電話をかけました。50社以上に提案して、ほとんど断られましたが、最終的に大手VCのJAFCOが「この会社はなにかやりそうだ」と6,500万円の出資を決めてくれたのです。

大久保:駐車場シェアリングに、大手企業が参入してきた時期もあったそうですね。

金谷:ソフトバンクグループやリクルート、楽天など、大手企業が次々と参入してきました。正直、最初は驚きましたが、同時にわくわくもしました。憧れの企業が自分たちの市場に参入してくるということは、市場の可能性を証明してくれたようなものだと感じたんです。

大手企業には人材、資金力、ブランド力など、様々な面で優位性がありました。そこで私たちは4つの戦略を立てました。

まず「社長より優秀な人材を採用しよう」を合言葉に採用戦略を変え、大手企業から優秀な人材を迎え入れました。

次に、広報戦略強化です。マーケティング費用が限られていたので、プレスリリースや取材対応に力を入れ、メディアへの露出を増やしました。

3つ目は営業戦略。私たちの強みである営業力を活かした代理店網を使って、泥臭くかつスピーディに全国展開していきました。

最後に、大手企業と戦うには資金力も必要なので、さらなる資金調達を行いました。

これらの戦略が功を奏し、最終的には大手企業が撤退し、私たちが市場に残ったのです。この経験こそが、著書「番狂わせの起業法」のタイトルの由来です。大手企業を制してスタートアップである我々が残ったことは、まさに番狂わせだったと言えるでしょう。

大久保:その後コロナ禍がやってきます。多くの企業が苦境に立たされましたが、akippaはどのように対応されたのでしょうか?

金谷:本当に厳しい時期でした。特にイベント関連の需要が激減し、前年同月比で売上が4割も減って、1ヶ月の赤字が数千万円に達する状況でした。

この危機を乗り越えるために、まずデータ分析に注力しました。すると、通勤需要だけが伸びていることがわかったんです。そこで、オフィス街や工場地帯の駐車場を増やすことに集中しました。同時に、コスト削減にも取り組みました。人件費以外の全ての経費を見直し、不要なものは徹底的に削減しました。

さらに、新しい需要の開拓にも力を入れました。花火大会や音楽フェスティバルなどの大型イベントに対して予約制の駐車場システムを提案し、渋滞問題の解決にも貢献しました。

例えば、長野県の諏訪湖で行われる花火大会です。以前は駐車場不足や渋滞、スタッフの負担が大きいなど多くの課題がありました。アキッパを導入して予約制にすることで混雑を軽減し、地域パートナーと協力して周辺の駐車場を2,000台分増やすこともできました。その結果、来場時間が分散され、渋滞が大幅に改善しました。

驚くべきことに、有料化したにもかかわらず、約9割の利用者が「来年もこの仕組みを利用したい」と回答してくれました。これは自治体、地域パートナー、ユーザー、現地住民など、全ての関係者にとってWin-Win-Win-Winの解決策となったのです。

このような行政との連携事例は増えており、阿波おどりの公式駐車場運営など、全国各地の大型イベントで同様の取り組みを行っています。

「社長より優秀な人材を」ーー起業家から経営者へ

大久保:御著書では、起業家から経営者へのシフトについても触れられていますね。

金谷:起業家と経営者の違いに納得するまで、かなりの時間がかかりました。私は起業家として、自分のアイデアと行動力で事業を立ち上げ、軌道に乗せることに注力していました。しかし、会社が成長するにつれて、自分一人の力だけでは限界があることに気づいたんです。

経営者の役割は、より広い視野を持ち、組織全体の方向性を決めること。ミッションやビジョンを明確にして社員全員と共有し、戦略を立て、実行する体制を整えることが重要です。

そのためには、権限委譲も大切だと気づきました。比較的最近のことです。自分でやった方が早いという思いや、他の人に任せるのが不安だという気持ちがありましたが、それでは会社の成長にリミットがあるんですね。

権限を委譲することで、自分よりも専門性の高い人材がその分野で力を発揮してくれるようになりました。会社全体のパフォーマンスが向上し、私自身もより高次の経営判断に集中できるようになりました。

大久保:成長側面における人材採用において「社長より優秀な人材を」を合言葉にされたそうですが、組織づくりで困ることはありませんでしたか?

金谷:大手企業から優秀な人材を採用し始めた時期は、既存の社員との融合が課題になると思いました。しかし、もともと私は「会社が成長すると自分よりできる人が入ってくる。尊敬をもって受け入れたり、負けないように成長したりすることが大切」と社内で話していました。

それもあって「相互尊敬」の文化はスムーズに醸成できたと思います。新しく入った人材には、既存の社員のこれまでの貢献を尊重してもらい、既存の社員には新しい人材のスキルや経験を尊重してもらうよう促しました。

移動インフラを最終構想に、会いたい人に会える手助けをし続ける

大久保:アキッパの国内外での事業拡大について、どのようなビジョンをお持ちですか?

金谷:まず国内については、2026年までに駐車場拠点数を世界No.1にすることを目指しています。現在、全国で常時4万件以上の駐車場を提供していますが、まだまだ成長の余地があると考えています。特に、大型イベントでの駐車場問題解決や、都市部での慢性的な駐車場不足の解消など、社会課題の解決にも貢献していきたいと思っています。

海外展開については、アジア市場に大きな可能性を感じています。経済成長に伴い車を持つ人が増えている一方で、駐車場インフラの整備が追いついていない国々があります。

そういった地域で、スマートフォンを使った簡単な駐車場予約システムを提供することで、大きな価値を生み出せるでしょう。数年以内に海外でのパイロットテストを開始する予定です。日本発の革新的なサービスとして、グローバル市場でも存在感を示していきたいと考えています。

大久保:EVや自動運転技術との連携についてもプランがあるのですね。

金谷:EVと自動運転技術は、私たちの事業の未来を大きく変える可能性を秘めています。現在、我々は「駐車場」という場所を提供するビジネスですが、将来的には「移動」そのものを提供する事業へと進化させていきたいんです。

そのために、まずは個人宅の駐車場をシェアする現在のモデルの拡大が必須です。次に、駐車場にEV充電器を設置し、充電スポットとしても機能させます。実際に、EV充電シェアの実証実験はすでに始めています。最終的には、これらの場所にEVの自動運転車を配置し、シェアリングサービスとして提供することを目指しています。

つまり「場所」から「充電」、そして「移動」へと、提供する価値を段階的に拡大していく構想です。これにより、2040年までに世界最大のモビリティプラットフォームを構築することを目標としています。段階的に事業を発展させ、最終的には「移動のインフラ」を提供する企業へと進化していきたいと考えています。

大久保:高齢化社会における移動の選択肢が広がりますね。

金谷:私たちは単に駐車場を提供しているのではなく、「会いたい人に会える手助け」をしているのだと気づいたエピソードを紹介させてください。

「アキッパのおかげで、初めて孫の運動会に行くことができた」というお声をいただきました。その方は足が不自由で学校まで歩くのが難しく、一度もお孫さんの運動会を見に行けなかった。でも6年生の最後の運動会のとき、学校のすぐ前にアキッパの駐車場を見つけて、車で行くことができたんです。

お孫さんは最上級生として、立派に応援団長の役割を果たしていたとか。この話を聞いて、私たちのサービスが単なる予約できる駐車場以上の価値を持っていることに気づきました。

akippaは、人と人をつなぐ架け橋なんです。家族の大切な思い出づくりのお手伝いをしたり、友人との再会を可能にしたり、ビジネスパーソンの大切な商談の機会を作ったり。私たちは「駐車場」という形を通じて、人々の大切な瞬間を支える存在でありたいと考えています。

大久保:今後の展望をお聞かせください。

金谷:我々の目標は、社会に真に必要とされる“なくてはならぬ”サービスを提供し続けることです。今は駐車場という形で人々の移動を支援し、さらには渋滞や環境問題といった社会課題の解決にも貢献していると自負しています。

これからも私たちは、時代とともに変化する「困りごと」に着目し、技術やアイデアを駆使してそれを解決していく企業であり続けたいと考えています。個人の駐車場から始まり、EVの充電、そして自動運転車のシェアリングへとサービスは進化していきますが、根底にある「困りごとを解決する」という姿勢は変わりません。

akippaは、これからも“なくてはならぬ”存在として、社会に貢献し続けていきます。そして、この姿勢こそが、私たちがこれからも番狂わせを起こし続けられる原動力になると信じています。

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(取材協力: akippa株式会社 代表取締役社長 CEO 金谷元気
(編集: 創業手帳編集部)



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