日本政策金融公庫 井上 考二|開業費用の平均はいくら?起業の平均年齢は?創業融資先を分析した公庫総研担当者に取材!
担当者が考える今回の注目ポイント
起業家の平均年齢や男女比、黒字の割合などは、起業家や起業を目指す方であれば気になるところだと思います。日本政策金融公庫の研究機関である、日本政策金融公庫総合研究所では、新規開業企業の属性や動向を分析して、毎年レポートしています。今回は、「2017年度新規開業実態調査」のレポートの担当者である井上 考二氏に、調査結果と担当者から見た注目ポイントについて、お話を伺いました。
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起業の主要な担い手は30代・40代
井上:日本政策金融公庫総合研究所では、新規開業企業の実態を把握するために、1991年度から毎年「新規開業実態調査」を実施しています。開業者の属性や開業費用など時系列で比較可能なデータを中心に蓄積することで、新規開業企業の実態がどのように変化してきたのかが明らかになります。
一般に新規開業企業のデータを集めるのは難しく、まとまった数のアンケートはなかなかできないのですが、日本政策金融公庫では、新規開業する多数の企業様に融資を行っております。その方達にアンケートをお願いすることによって、十分な件数で分析することができています。
井上:そうですね。開業したばかりの小規模な事業者をカバーしているのが、本調査の特徴と言えますね。
井上:2017年度の結果では、「30歳代」が全体の34.2%を占めていて最も多いです。その次が34.1%を占めている「40歳代」です。
日々働いて培ってきた経験と人脈が、起業するうえで重要な要素の一つですが、30歳代、40歳代はそれらを得ることができたと実感できる年齢だと思います。
井上:そうですね。一般的に起業を考える年齢とも言えると思います。
ただ、それ以外の年齢層の方達の起業も大きな意義があると思います。
年配の方が定年後に起業するようなケースでは、今まで仕事などの都合でできなかったことに挑戦できます。
働き方についても、勤務していたときは家族や会社のために働いていたのが、自分のため・世の中のために働くということができるようになるので、新たな生きがいになるのではないでしょうか。
若い方に関しては、起業すると経営者としての経験を長く積むことができます。何十年も経営に携わることによって、後進を引っ張ってくれる経営者になる可能性があります。また、若い経営者は柔軟な発想力や大胆な行動力をもち、周りの方にインパクトを与え、奮い立たせる存在になるのではないでしょうか。
井上:年齢よりも、どれだけ準備できているか、どれだけ熱意があるかが重要ですね。つい最近起業することを考えた方と、起業を前提にキャリアを積んできた方では、準備期間の濃さが違うと思います。もちろん、前者を否定しているわけではありませんが、どちらの起業が成功しそうかを考えると、後者の方が評価されやすいでしょう。
女性の割合が過去最高
井上:そうですね。2017年度では18.4%という数値でした。近年、女性の割合は増加傾向にあり、今回は調査開始以来、最も高い割合になっています。
井上:あくまで仮説ですが、理由の一つに男女雇用機会均等法が施行された1986年以降、キャリアを積む女性が増えてきたことがあげられます。
就職してキャリアを積んできた女性が自身の経験・人脈を生かして独立する、あるいは、残念ながら結婚や育児でキャリアが中断してしまった女性が起業によって新たなキャリアを築こうとする、といったケースが増えてきているのではないでしょうか。
また、男性が中心となって新商品、新サービスを考えている状況では、女性が求める商品、サービスはなかなか生まれません。世の中にないから、起業して自ら欲しい商品やサービスを作り出すという女性もいらっしゃいます。
政府も女性の起業を増やしていく取り組みを行っていますので、そういったところも割合が増えている要因かもしれませんね。
井上:大学・大学院卒の割合が一番大きいですが、専修・各種学校も一定の割合を占めています。
理容業や美容業で起業する方は専門学校を卒業した方が多いでしょう。どのような業種で起業するかで最終学歴も違ってくると思います。
井上:そうですね。管理職で得たスキルは起業してから生かされる場面が多いと思います。
また、現在の事業に関連する仕事をした経験がある割合が84.8%なのも注目です。まったく未経験のビジネスではなく、やはり経験を積んだビジネスで起業する方が大半ですね。
結婚や育児でキャリアが中断してしまった女性が起業を考える際に重視する点は、やはり働く環境でしょう。女性起業家のための創業手帳の別冊版、創業手帳woman(無料)では、働く環境を整備する際に活用できる助成金について詳しく解説しています。(創業手帳編集部)
開業費用500万円未満が増加
※1
開業費用:開業にかかったお金のこと。工場・店舗・事務所などの内外装工事費、機械設備・車両・備品などの購入費用、起業後に必要となる運転資金など。
井上:そうですね。調査を開始した1991年と比べると、開業費用500万円未満の割合が10ポイント以上伸びています。また、開業費用の平均値は1,143万円、中央値(※2)は639万円でした。開業費用の平均値は2016年度に比べて80万円減少しており、調査開始以来最も少ない数値となっています。
開業費用は「少ないからダメ」というわけではありません。始めようとする事業に適正な資金を不足なく調達することが重要です。500万円未満の割合が増えているのは、インターネットでの販売やシェアオフィスの利用など、少ない資金で始められる手段が増えてきた、と見ることができると思います。
起業することに対してのハードルが少し下がったとも言えそうです。
※2
中央値:データを大きさの順に並べたとき、全体の中央に位置する値のこと
井上:両方とも、起業した時に悩むことが多いことだと思います。この2つは現在苦労していることの割合も高いですね。
井上:図2で触れましたが、開業者に占める女性の割合が調査開始以来最も高い数値になりました。また、図4の「開業直前の職業」を見ていただくと、非正社員の割合が以前と比べて伸びてきています。起業する方を増やすには、起業の中心的な担い手になっていない女性や非正社員に起業を考えてもらうことが重要だと思いますから、今後この2つの割合がどうなるかに注目しています。
井上:起業した方は、周りの方に「自分も起業したい」と思ってもらえるような存在になってほしいですね。先ほども申しましたが、起業する方を増やすには、起業を考えていない方に起業を選択肢に入れてもらうことが重要です。起業したら苦労することも多いとは思いますが、生き生きと仕事をすることで周囲の方のロールモデルとなり、後に続く起業家を生み出してもらいたいです。
冊子版の創業手帳では、生き生きと仕事をしている起業家のインタビュー記事を掲載しています。これから起業を考えている方は、先人の考えや、取組みを知ることで、自身がやろうとしている事業のアイデアになるかもしれません。また、起業への励みにもなるはずです。(創業手帳編集部)
(取材協力:日本政策金融公庫総合研究所/井上考二)
(編集:創業手帳編集部)