悩めるクリエイターを救う入力デバイス「O2」はこうして生まれた。株式会社BRAIN MAGIC 代表取締役 神成 大樹氏インタビュー
開発の原点は自身の経験にあった
(2017/11/24更新)
映像クリエイターの中には、「使用しているツールがいまいち自分の動きにしっくりこない」、「色々なツールを試しているけど、どれも肉体的に負担がかかる」といった悩みを抱えている人が多いかもしれません。
ですが、今回ご紹介する映像クリエイター向け入力デバイス『Orbital2(通称O2)』は、そんなクリエイターにとって救いとなるツールかもしれません。
この製品の特徴は、アナログジョイスティック+ボタン+ダイヤル兼用部品に8方向ボタンという、複数の入力系を1台で兼ね備えるハードウェアであること。さらに、カスタマイズにも対応しているため、使用するクリエイターが好きな仕様に調整することも可能です。
そんな『O2』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?株式会社BRAIN MAGIC 代表取締役の神成 大樹氏に、開発までの道のりや、自身の経歴を伺いました。
クリエイターの仕事を科学することでできた「O2」
『Orbital2(通称O2)』は、映像クリエイターの作業環境を再デザインする事をコンセプトに生まれた商品です。導入して頂く事でクリエイターは作業をよりスマートに、よりスピーディーに行えるように設計されています。
O2はPCに接続して使う入力機器で、従来のショートカットキーコマンダーと呼ばれる製品に近いものです。
これまでの製品と異なるのは、世界初となる独自の機構を実装している点です。これにより物理的には一つのダイアルでも複数のダイヤルとして機能します。例えば、動画編集の場合は、早送り巻き戻し、コマ送りコマ戻し、ボリューム調整、シーケンスの伸縮、戻る進む、からツールの切り替えまで対応します。
もともと学生時代からイラストレーターとしてソーシャルゲームのイラストなどを描かせて頂いていました。その際に、効率化や腕への負担の軽減の為に様々な入力機器を収集するも、いずれも本質的な問題改善に至っていないと強く感じた事がきっかけです。
「この理由は、クリエイターの仕事における入力作業中の肉体的運動が科学されていないからだ!」と感じ、その研究を行うなかで、O2が誕生しました。
正直申し上げると、苦労していない点を探すほうが難しいです。
ハードウェアという事で、イチからCADや基板設計、回路設計を学ぶ必要もありましたし、非常に沢山の人の力を借りる必要がありました。壁にぶつかって、乗り越えてもすぐ次の壁にぶつかるといった具合で、壁しかなかった状況です。
特に開発終盤は日中生産のための資金調達に動きつつ深夜開発を行うというスケジュールで動く必要があったため、なかなかハードでした。
しかし壁にぶつかるたびに助けてくれる人がいました。そのおかげで、完成させることができました。
本当に多くの人の力が集結して実現化された商品です。
おかげ様で、製品発表後は当初想定していた以上の反響を頂いております。
実機をもってご説明させて頂くと、「これを今まで待ってました!」、「すぐに欲しい!」という感じの良い反応を頂ける機会の多いプロダクトになっております。
ですが、プロのクリエイターの非常にシビアな要求に応える為、通常の入力機器と比較すると原価が高くなってしまっています。また、非常にシンプルな外見なので、「値段が高い」、「本当にこれで問題が解決するのかわからない」という声も頂いています。
これに対してはしっかりと魅力を伝えていく必要があると考えています。
クリエイターの仕事は一般は仕事と異なり納品物と納期にばかり目が行きがちで、またそれも人間の感性で図られる事が多く、純粋な作業部分がブラックボックス化しやすい傾向があります。
現代の社会から割とそれで良しとされているため、そこには多くの課題が残っていると考えています。
クリエイターのクリエイティブシーンが変わります。もしかしたら腱鞘炎になるクリエイターも減るかもしれません。
それ以外にもありますが、そこはもうしばらく秘密です。
早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで行け
大学生時代よりフリーランスのイラストレーターとして仕事をしていました。
大学卒業後、スマートフォンゲームのUIやUXデザインを行う株式会社B.C.Membersという会社の立ち上げに参加させて頂き、取締役に就任しつつ、私自身もイラストレーターやアートディレクターとして働いていました。
それ以外にはクリエイターの特別講師という立ち位置で、小学校や大学にてキャリア教育などの公演もさせて頂いたりしております。
そんな事をやりつつ、社会人大学院生としてデジタルハリウッド大学大学院に入学し、学発ベンチャーとなるBRAIN MAGICを創業しました。
全ては約3年前にスタートしたイラストレーターの作業環境を再構築するための研究開発が元になっています。
デジタルハリウッド大学院というクリエイターの非常に多い大学院に入学し、スタートした研究開発から本製品は生まれました。
もともと製品化の予定は無く、研究開発だけで終える予定だったのですが、学内にて研究発表を行った結果、すぐに欲しいという人が出てきたのと同時に、権利関係が抑えられそうという事でプロジェクトの規模が少し大きくなりました。
BRAIN MAGICの設立は、かなりドタバタとした状況でのスタートでした。
権利関係の問題で、いつまでに会社登記を行わなければいけないという期日が決まった状態でのスタートだったので、念入りな準備などを行わずの出発となりました。
そんな中製品化するためには、「金型を一回作るのに最低でも1000万円かかる」と聞いた時は正直無理かと思いました。
テレビの中だけでしか聞いた事のない金型というスポーツカー並みに高価な存在に直面した瞬間です。
しかもその金型が一回作だけで済むかどうかすらわからないという泥沼具合です。
そんな中創業手帳の無料コンサルティングを偶然受けたのですが、それが一つの転換期となっています。
創業一年目で気を付けるべきこと、会社のスケジューリングの仕方、資金調達に強い税理士等、目から鱗とはこの事でした。
起業家向けの本を読んでも書いていない生の情報や、直接的な人脈など、沢山の気付きと学びを頂きました。正直B.C.Membersの立ち上げ時に知っていたらどれ程楽だったかと(笑)
そしてその時紹介いただいた伝手から資金調達も行っております。結果無事に2016年の11月頃に第三者割り当て増資という手段で最低限生産が行えるだけの資金調達を達成致しました。
そして現在、日本においてクラウドファンディングを通じ数百台規模でプロダクトのデリバリーを行い、来年の国内販売と世界展開を見据え現在計画を進行中です。
BRAIN MAGICではCreating Re-Creation創造性の再構築をミッションに掲げ、テクノロジーの力で 世界のクリエイティブを加速させる事を目指します。
今回のプロダクトの世界的な普及を目指すほか、AI を活用したク リエイターの作業分析を行うソリューションも準備しています。
内容に関してはまだ秘密ですが、これまでとは異なる切り口でクリエイターの作業効率化を実現します。
If you want to go quickly, go alone. If you want to go far, go together.
私が好きなアフリカのことわざで、「早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで行け」という意味です。
私もようやくスタート地点に立ったばかりなので偉そうなことは言えません。ですが、一緒に世界を変えていけるように頑張りましょう。
(監修:株式会社 BRAIN MAGIC 代表取締役 神成 大樹)
(編集:創業手帳編集部)