会社設立のメリット・デメリットの勘所を押さえてスムーズな起業をしよう!
会社設立のメリット・デメリットを確認しよう
(2016/08/12更新)
個人事業主で利益が多くなったら、会社(法人)にした方がお得という話をよく聞きます。これは本当でしょうか?ここでは、会社設立のメリットだけでなく、デメリットも含めて詳しくみていきます。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
会社設立のメリット12項目
まずは会社設立のメリットから見ていきましょう
1.会社の信頼が上がる
個人事業主と会社、信頼があるのはどちらでしょうか?
働き方の多様化により少しずつ変化はしてきていますが、一般的には個人事業主より会社の方が信頼されるといわれています。
平成18年に株式会社の様々な規則を定めた会社法が施行され、1円から株式会社が設立できるようになりました。現在、株式会社ではどれぐらいの資本金の会社が一番多いのでしょうか?
答えは、200万円~1000万円の会社です。
1円から設立が可能にもかかわらず、多くの会社がある程度の資本金を用意しているのは、取引先や銀行といった外部からの信頼度が資本金の額に比例するからです。
会社を設立するためには、資本金を用意しないといけません。会社設立時には法務局に設立登記をおこないますが、その際に資本金の金額が入っている通帳のコピーを提示する必要があります。
外部の関係者からすると、資本金があるということはそれだけのお金を調達する能力があると認識されます。また、登記により「公的」にその能力が証明されていることを意味します。こうしたことは個人事業主ではできないことです。
そのため、やはり信頼は会社の方が大きいといえるのです。
2.節税ができる
事業をしていく上では様々な税金を負担しなくてはいけません。
個人事業主と会社では税金の計算方法、考え方やそこにいたるまでの経費の考え方などが異なります。会社を設立したときに節税となる項目をいくつか見ていきましょう。
消費税の免税効果
資本金1,000万円未満で新しく会社を設立した場合、2年間消費税が免税されます。2年目については1年目の上半期の売上や給料の支払い額が1,000万円を超える場合は消費税を納付する必要があります。
例えば、毎年100万円納付していた個人事業主が会社を設立すれば、少なくとも設立1年目は消費税を納付しなくてよいため、100万円節税になります。
所得税と法人税の税率の差
個人事業主に課せられる所得税は、累進課税といわれる課税方式です。
これは利益がでるほど高い税率になります。いちばん高い税率ですと、住民税と合わせて50%を越える税率です。
会社の場合は、法人税・法人地方税合わせておおよそ30%前後の税率です。
違いを表にしました。
個人事業主 | 会社=法人(資本金1億円以下) | ||
所得税 | 累進課税5%~45% | 会社の税金 | |
住民税 | 10%+均等割5,000円 | 法人税 | 800万円以下 15%
800万円超 23.9% |
事業税 | 業種による3%~5% | 地方法人税 | 1.0516% |
地方法人特別税 | 2.8985% | ||
法人住民税 | 3.8957% | ||
法人事業税 | 3.4% | ||
社長の給料の税金 | |||
所得税 | 累進課税5%~45% | ||
住民税 | 10%+均等割5,000円 |
400万円の利益があった場合の個人事業主(小売業)と会社の税金の違いを見てみましょう
会社は利益100万円で残り300万円を社長の給料としています。
個人事業主の場合は、所得税・住民税・事業税合わせて832,500円。会社の場合は、社長の給与の税金と会社の税金を合わせて550,000円となり、約280,000円会社の方が税額が低くなります。
※社長の給料の税金は、給与所得控除計算後 あくまで目安です。
3.経費処理ができる範囲が広がる
個人事業主と会社では経費の考え方が異なります。
個人事業主の場合
①まずその支出が経費になりえるものか、ならないものかを考えます。
例)経費になる 経費にならない
水道光熱費 生命保険
地代家賃 火災保険
自動車保険 寄付金
②経費になりえるものを仕事用のものか、プライベートのものか、その両方(家事案分する)かを考え、仕事用部分のみ経費にします。
例)自動車保険→仕事用の車なので経費
地代家賃→ 自宅のため経費にならない
水道光熱費→60%が仕事で使っているので60%だけ経費
法人の場合
基本的に支出はすべて経費になる(借入金などの返済や固定資産の購入は除く)という考え方です。個人では経費にならなかった、生命保険や火災保険、寄附金(限度額あり)も経費になります。いわば、経費になる幅が広がります。
家族への給与も経費にできる
所得税の大前提は「個人事業主と家族は1つ」。そのため、個人事業主が本人や家族に支払った給料は経費にすることができません。
例外として、
- 15才以上の親族
- 6か月以上その仕事に常時従事
- 税務署に金額を記載した届け出を提出
- 青色申告である
などの一定の条件を満たしている場合のみ、青色事業専従者給与(本人はだめ)として経費にすることができます。
一方、会社の場合、会社と代表者やその親族は別人格のため、特別大きな金額でない限り基本、本人や家族の給料を経費にすることができ、税金の分散ができます。
4.欠損金を9年間繰越できる
個人事業主も会社も、欠損金(赤字)がでたときに翌年以降に繰り越すことができます(どちらも青色申告が前提です)。しかし、会社のほうが繰り越せる年数が多くお得です。
- 個人事業主 3年間繰越
- 会社=法人 9年間繰越
5.資金調達の選択肢が増える
一般的に、個人より会社の方が信頼が増します。そのため銀行からの融資は会社の方が受けやすいです。
銀行が融資をする際に重要視する要素の1つが、本当に返済できるかです。会社はお金の流れがすべて帳簿付けされているため返済能力を判断できます。
簡単な例ですが、毎月収入100万円 支出50万円とします。この場合月50万円は現金が余る。そのうち30万円は返済に回せるはず。返済期間が5年だとすると、30万円×12月×5年=1800万円までは融資できる、となります。
個人事業主の場合は、そもそも経費にならない支出は帳簿付けしないため、お金の流れがわかりません。なので、融資ができるかどうかの判断がつきにくくなります。
また、会社の場合は外部から資金を調達する増資という手段もあります。
6.ストックオプション制度を使えるようになる
ストック・オプションとは、予め決められた価格で自社株を買う権利をいいます。
従業員は決められた価額で自社株を購入後、頑張って会社の利益を出し、高い価額で売却することで利益を出せます。
そのため仕事に対する意欲が増しますし、設立当初のお給料があまりだせない時期でも、優秀な人材を確保しやすくなります。
7.取引先が増える
昔に比べて少なくはなりましたが、法人(会社)としか取引しないという取引先や、経営状況を確認したいという取引先が少なからずあります。同じ規模で同じ利益を出していても、個人事業主の場合だとビジネスチャンスを逃してしまうことになります。
8.決算月を自由に設定できる
個人事業主の場合は会計期間が1月1日~12月31日、申告・納付時期が翌年2月16日~3月15日と決まっています。必ずその時期に税金を納める必要があります。
会社は決算日を自由に設定できます(通常は定款に記載)。申告・納付時期は決算日の翌日から2か月以内です。
また、会社の場合は次のようなことができます。
会社の繁忙期と決算日を離すことができる。
決算では棚卸業務や減価償却費の計算、申告書の作成など、通常と違う業務が発生し仕事量が多くなります。会社は決算期を自由に設定できるので、繁忙期と決算日を離し、毎月の仕事量を調整することができます。
税金納付の資金繰りを調整できる。
特に消費税の納付がある場合など、税金の納付は一時に多くの資金が必要となります。通常業務で支払いが多い月が決まっている場合は、その月と税金の納付時期が重ならないように決算日を設定することができます。
9.採用力があがる
個人事業主と会社では、やはり会社のほうに人材が集まりやすいです。前述のストックオプションを活用すれば、設立当初でも優秀な人材を採用することが可能です。
10.相続税がかからない
個人事業主の場合、個人事業主が亡くなると、その所有しているすべての資産を相続人に相続しなければいけません。そのため、すべての資産に対して最高55%の相続税がかかります。
しかし個人事業主が会社を設立し、その資産を会社に引き継ぎ(売却の形になる)している場合は、すでにある程度の資産が会社に引き継がれているため、個人が亡くなったとしても相続税の対象となる資産は少しです。
また、所有している会社の株式を後継者に引き継ぐ場合、相続税が大幅に軽減される措置もあり、会社のほうが有利です。
11.有限責任となる
会社を設立すると、個人はその会社の株主となります。出資した会社が倒産した場合、株主はその出資した金額の範囲内でのみ責任を負うことになっています。
通常は、自分の持っている株の価値が0円になっておわりです。会社の借入に対する連帯保証人になっている場合を除き、それ以上の責任をとる必要はありません。
個人事業主の場合、原則責任は無限です。倒産した場合、事業で借りた借入金等の返済義務は残りますし、最悪自己破産ということもあります。
12.起業の覚悟ができる
個人事業と会社の大きな違いの一つに「覚悟」があります。会社の設立には多くの費用や手間がかかります。従業員を雇うと、その従業員の生活に対しても責任を負います。株主が親族以外の場合、その株主に対しても責任を負います。
そうした責任を負う覚悟をして会社を設立するということは、その後の経済活動において大きなメリットになることは言うまでもありません。
会社設立のデメリット4項目
今までは会社設立のメリットを見てきましたが、会社設立にはデメリットもあります。
ここからはそのデメリットを見ていきます。
1.ランニングコスト
会社の設立には様々なコストがかかります。
印鑑
一般的に次の印鑑を用意する必要があります。
- 代表取締役の実印
- 法人の実印や角印(社内用)
- 銀行印
近頃は印鑑のネット販売も多くなり値段も安くなりましたが、それでも数万円はかかります。
定款の作成
定款とは、会社の商号や目的などの基本のルールを定めたものです。
作成費用は約10万円程度になります。
設立登記
定款作成後、法務局に設立の登記をする必要があります。司法書士などの手数料にもよりますが、20万円~30万円程度はかかります。
税金
赤字の場合でも、都道府県や市区町村に対する税金が発生します。
これを均等割りといい、いわば会社がその場所に存在していることに対する税金です。約7万円程度の税金が必要です。
2.社会保険への加入
会社は社会保険への加入が義務付けられています。社長1人で従業員がいない場合でも、加入しないといけません。個人事業主は常時5人以上の従業員が働いている場合に加入します。個人事業主1人の場合は加入する必要はありません。
社会保険料は健康保険料と厚生年金保険料の2つで構成されており、会社と従業員とで折半します。
月給20万円の従業員一人あたり、会社負担は3万円弱になります。
3.交際費に上限がある
交際費とは得意先や取引先との食事や接待、中元・歳暮などのことです。
個人事業主の場合は交際費に上限はありませんが、会社には800万円の上限があります。
中小企業では交際費が800万円になることはあまりないため、現状ではデメリットは少ないですが、交際費課税は景気の動向などで改正されやすいものになるため、今後、会社組織では規制が増える可能性もあります。
4.事務負担が増える
通常の営業活動においての事務負担(例えば請求書の発行や入金の確認など)は、取引先の数が同じであれば個人事業主も会社も大きく変わることはありません。しかし、それ以外の業務では会社の方が事務負担は大きくなります。
- 申告書の作成
個人事業主…所得税確定申告書 青色申告決算書
会社 …法人税申告書、勘定科目内訳書、法人事業概況説明書、決算報告書など
- 社会保険の手続き
個人事業主…従業員5人未満なら強制ではない
会社 …従業員の人数にかかわらず強制
商業登記
会社は役員の名前や住所、事業の目的などを法務局に登記しています。そのため、変更があった場合は必ずその旨の変更登記が必要になります。
株主総会、取締役会
会社は毎年決算時期に株主総会と取締役会を開きます。その準備や議事録の作成などの事務負担があります。
5.会社倒産の費用
事業を廃止する場合、会社は手続きが複雑です。手続きの流れは次の通りです。
- 解散登記
- 解散広告
- 解散申告
- 精算登記
- 精算申告
事業を廃止する場合は、まず解散の手続きをします。その後、残った財産を誰にどれだけ分けるのかを決めていきます。これは裁判などで数年かかることもあります。残った財産の分配が確定すると清算して終了です。
費用は、解散登記や解散広告で7万円程度、清算登記で数千円程度かかります。それぞれの登記や申告を司法書士や税理士に頼んだ場合は、その費用もかかります。解散後、清算が決まるまでは毎年解散申告をする必要があります。
まとめ
この記事のポイント
- <会社設立のメリット>
-
- 社会的信用度が上がる
- 採用・資金調達など事業拡大がしやすい
- 税制上の優遇がある
- <会社設立のデメリット>
-
- 社会保険への加入、事務負担など「会社ならではの義務」が増える
- 税制上の交際費の制約
- 設立・倒産それぞれにコストがかかる
見てきたとおり、会社の設立にはメリットもデメリットもあります。しかし会社のほうがその後の事業が大きくなりますし、デメリットも会社が大きくなるための投資と考えることができます。
事業が大きくなれば、メリットや投資に対するリターンが大きいです。どちらにせよ、会社の設立についてはメリット・デメリットを考慮しましょう。
(編集:創業手帳編集部)
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。