社労士モリの「5分で解る労務管理」(その1 労働契約)
従業員を雇用した時に必要な手続き
(執筆:社会保険労務士 モリ事務所 森克巳)
(2015/10/30更新)
皆さん、はじめまして。社会保険労務士モリ事務所の森克巳と申します。
これから創業する、または創業したばかりの皆さんに、少しでも人事・労務の有益な情報をお伝えできるよう、なるべく噛み砕いて解説していければと思っています。
さて、このページをご覧になったということは、これからいよいよ従業員さんを雇おうと考えていらっしゃるんですね?では早速、人を雇用した場合に必要な事項を挙げてみましょう。
- まず雇用する従業員と「労働契約」を結び、「労働条件」を提示します。実際の入社手続きでは、必要な書面を提出・記入してもらいます
- 雇用条件に応じて「社会保険」「労働保険」の加入手続を行います
- 「労働者名簿」「賃金台帳」を作成します。これは法律上備え付けが義務付けられており、官公署から提出を求められる場合があります
なんだか色々とありそうですね。これを一気に全部書くと長くなるし、読む方も息切れしてしまうと思うので、3回に分けてご説明していきたいと思います。
今回は「労働契約」についてです。
この記事の目次
労働条件は必ず書面で提示しましょう
「労働契約」とは大雑把に言えば(会社)「あなたを雇います」(従業員)「はい、あなたの会社で働きます」という約束事です。これは口頭でも成立します。
しかし、一定の「労働条件」は書面で明示するよう、労働基準法で決められています。
労働条件は最低限、以下の内容を書面・交付によって明示しなければなりません。
- 契約期間
- 就業場所と従事すべき業務
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 勤務時間、休憩、休日、休暇
- 賃金
- 退職に関する事項
※4、5、6、は就業規則があればそれを交付することで、労働条件を明示したことになります。
この労働条件を書面で一から書き起こすのは大変なことです。そこで、厚生労働省のホームページに「労働条件通知書」のひな形がありますので、それをベースにするとよいでしょう。
実際の労働条件通知書を見てみましょう
さて、ここでは私のモリ事務所が従業員を“雇ったつもり”で書いた労働条件通知書をお見せしたいと思います。
こんな条件の方を想定しました
- フルタイム勤務、時々残業があるかもしれない
- 社会保険・健康保険の加入も必要
- とりあえず1年ごとの更新で考えている。業績が良く、働きがよければずっとお願いしたい
- 交通費は払うが、賞与と退職金はなし
賞与なしだなんて、セコイ先生だなーって思わないでください(汗。
赤字の箇所が上記の条件を考えて記載した内容です。
(ちなみに私の事務所は10名以下なので、実際は就業規則はありません)
※ご注意
この内容はサンプルとして作成したものです。あくまで参考としてご覧ください。
条件を決める際に注意したいポイントとしては、「労働基準法に違反する条件にしないこと」です。また、都道府県によって最低賃金が決まっていますのでその辺も確認しましょう。
といっても、初めての方にはなかなか大変な作業だと思います。管轄の労働局へ相談すると、窓口で色々と教えてもらえますので、是非活用してください。
例:東京労働局
どうせなら通知書ではなく、契約書にしましょう
さて、お気づきの方もいるかと思いますが、一番上のタイトルを変更しています。
「労働条件通知書」→「雇用契約書(兼労働条件通知書)」
ひな形の「労働条件通知書」のままだと、その名の通り、あくまで「この条件で通知しますよ」という一方通行です。これでも問題ないのですが、この書類自体を「労働契約書」とし、労使双方がそれぞれの署名し、保管することによって、その権利義務を確認する形式となります。
もし、後になって従業員が「そんなの知らなかった!通知書なんてもらっていない!」と言い出しても、手元にその人が署名した契約書があれば、「あの時署名したじゃん!」と言えますよね。(あ、実際はもっと冷静な言葉で対応してくださいね)
大体、悪気はなくても通知書を無くしてしまうという人はとても多いと思いますが、日本人は印鑑が押された書類は意外と無くさないものです。
記入してもらう書類・提出してもらう書類
その他、入社時に必要な書類をまとめてみました。大きく分けて3種類あります。
- 誓約書や身元保証書など、会社を守るための書類
- 振込や通勤手当など事務手続きの書類
- 社会保険加入・年金などに必要な書類
それぞれの書類名と簡単な解説を記載します。
<従業員に記入・捺印してもらう書類>※これらは必須のものはありません
書類名 | 記載する内容 |
入社誓約書 | 会社の方針や就業規則を順守する事、故意又は重大な過失により損害が生じた場合はその賠償責任を負う事、最近ではSNSへの会社に関する発信の禁止、などを記載します |
機密保持 契約書 |
職務で知り得た内容を在職中・退職後問わず外部へ漏らさない契約書となります |
従業員調書 | 会社の基礎資料とするための書類です。自宅までの地図や緊急連絡先を記入してもらうと、何かあった時に役に立ちます |
口座振込 依頼書 |
給与振り込み先の口座を記載します |
通勤手当支給 申請書 |
通勤経路を記入してもらいます |
身元保証書 | 従業員の故意又は重大な過失により損害が生じ、従業員本人に弁済能力がない場合、身元保証人が連帯責任を負うといった内容を記載します |
<提出してもらう書類>※は必須です
書類名 | 解説 |
マイナンバー※ | 平成28年より税金・保険の各種手続きのために従業員からマイナンバーの取得が必要となります。取得・保管・廃棄方法には十分注意が必要です。(この話は長くなるので、また別の記事で書かせていただきます) |
住民票記載事項証明書 | 本人確認、住所確認など身元を確認するために必要です |
雇用保険被保険者証※ | 雇用保険の加入手続きに必要です |
年金手帳 又は 基礎年金番号通知書※ | 厚生年金の加入手続きに必要です |
前職の源泉徴収票 | 年の途中で転職した場合は、年末調整を行うために必要です |
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 給与の税額を計算するために必要な書類です。税務署への提出は不要ですが、会社に保管義務があります |
健康保険被扶養者(異動)届・添付書類 | 健康保険の扶養に入る家族がいる場合必要です |
健康診断書 | 労働安全衛生法で雇入れ時に会社は健康診断をすることが定められています。しかし、大手企業以外は健康診断書の提出で代用していることが多いようです |
なお、会社登記をせず、個人で事業を行っている方もいらっしゃると思いますが、そのような個人事業主でも、基本的な手続きは同じです。
まとめ
- 従業員を雇用する場合は、労働条件の明示が法律で決められています
- 労働条件は通知書だけでなく、後でトラブルにならないよう、契約書の形態をとるとよいでしょう
- 入社時には会社を守るためにも本人確認、誓約書の取得などをしっかりと行ないましょう
ここまでお疲れ様でした。
一度採用~入社までの流れを経験すると、ルーチンワークで考えられるようになると思います。御社独自のチェックリストなどを作成し、効率よく事務処理を行えるようにしましょう。
それにしても人を雇うって、手続き業務だけでも大変ですよね。でも、入社当初に色々な契約条件をはっきりさせておくことが、今後のトラブルを防ぎ、良い労使関係を築くための基盤となります。がんばっていきましょう。
(監修:社会保険労務士 モリ事務所 森克巳)
(編集:創業手帳編集部)