起業後の収入が不安…その理由と「収入安定化」のために今できること
起業すると収入はどう変わる?不安定になりやすい理由と安定させる方法を一挙解説
会社員から一念発起し、起業しようと考える人もいるでしょう。自分がやりたかったことを仕事にできる点が起業の魅力です。
しかし、いざ起業してみると、収入が不安定になってしまう場合もあります。
そこで今回は、起業後の平均年収や起業直後は不安定になりやすい理由、収入を安定させるための準備と対策について解説します。
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この記事の目次
起業すると収入はどう変わる?起業前後の違い
起業を考える上では、「会社員としての安定収入」と「起業後の不安定な収入」の違いを正しく理解することが非常に重要です。
ここからは、起業による収入の変化を紹介し、起業に有利な職種・業種や年収の目安について具体的に解説します。
起業前(会社員)と起業後の収入構造の違い
起業前と起業後の収入構造は大きく異なります。
会社員であれば、毎月の固定給に加えて半年~1年程度のスパンで賞与を受け取れることもあるため、安定した収入を確保でき、1カ月単位での生活設計もしやすいです。
一方、起業後は売上げから経費を差し引いた時の利益がそのまま収入となり、業績にも左右されることになります。
売上げが多く経費を抑えていれば利益を増やせますが、社会保険料や税金などはすべて自分で支払う必要があるため、手取りは減少する可能性が高いです。
また、売上げがなくても経費はかかるため、赤字になるリスクがあります。
どのような職種・業態で差が出やすいか
同じタイミングで起業したとしても、職種や業態によって違いがあります。
コンサルや士業、IT系といったスキルを提供するタイプのビジネスであれば初期コストが比較的少なく、収益化するまでのスピードが早い傾向にあります。
一方、飲食や美容などの業種であれば、店舗の設備投資や人件費、テナントの賃料など初期費用・固定費が大きくなる傾向にあり、利益が出るまでに一定の時間を要するケースも少なくありません。
また、BtoB(法人向け)のビジネスモデルだと、1件あたりの収入が大きく継続性も高い傾向にありますが、営業期間が長期化しやすくなります。
起業後の平均年収はどれくらい?
起業後の平均年収は気になるところです。ここからは、起業後の平均年収について解説していきます。
個人事業主として起業した場合の平均年収
「令和5年分 申告所得税標本調査」によると、令和5年分の事業所得者の平均所得金額は約483万円でした。前年度と比べて約9万円高い結果です。
なお、この数字はあくまでも起業した人全体を指すもので、起業して数年が経過した人や起業直後の人も含まれます。
日本政策金融公庫総合研究所が2021年に公表した「新規開業パネル調査」によると、2016年から開業した経営者の1カ月あたりの平均報酬は27.4万円で、年収になおすと約328万円になることがわかっています。
サラリーマンの平均年収との比較
会社員の平均年収は、国税庁の「民間給与実態統計調査(令和5年分)」によると約460万円でした。
個人事業主の起業直後の平均年収は約328万円ですが、赤字になるケースも少なくありません。
しかし、黒字化する事業が増加傾向にあることも確かです。
日本政策金融公庫の「新規開業実態調査」によると、開業時点で「黒字基調」と回答した割合が67.3%となり、前年度の64.7%、前々年度の64.5%と比べて増加していることがわかります。
残りの3割は「赤字」または「とんとん」と回答しており、収入が安定するまでに時間がかかってしまう人もいます。
年数を重ねれば事業が軌道に乗り、年収1,000万円超に到達する事例も少なくありません。
安定した収入が手に入るサラリーマンとは異なり、起業すれば収入の振れ幅が大きくなることが特徴といえます。
起業直後は収入が不安定になりやすい理由
起業直後は収入が不安定になりやすいものです。なぜ不安定になりやすいのか、その理由についても解説します。
収入源が確立されていない
起業直後の収入が不安定になりやすい理由として、収入源が確立されていない点が挙げられます。
販売する商品・サービス自体は用意できているものの、消費者が価値を感じられなかったり、市場がなかったりすれば、収益を得られない可能性が高いです。
また、いくら魅力のある商品・サービスでも、多くの人に認知されていなければ商品を売るのは難しいといえます。
未経験の業種での起業は人脈がゼロの状態からスタートすることも多いため、最初から収入が安定する可能性は低いです。
集客がうまくいかない
収入が不安定になりやすい理由に、集客がうまくいかない点も挙げられます。
会社員から起業した際に、「これまでに多くの顧客・取引先とつながることができたから、起業後も安心だろう」と考える人もいます。
しかし、企業の顧客・取引先は企業の信用力があって契約に至っており、個人間で契約するわけではありません。
そもそも、企業が保有する顧客情報をそのまま流し、自分が契約を取るために使おうとすると、法的に罰せられるリスクがあります。
そのため、想定していたよりも集客がうまくいかないと感じてしまうことも多いです。
また、起業後にSNSを活用して集客をしようと試みても、うまくいかない可能性もあります。
事業の軸がまだ整っていないにも関わらずSNS集客を行おうとすると、発信内容がブレて、いくら頑張っても効果は期待できません。
支出が多い
事業を運営する中で、店舗・事務所の賃料や原材料の仕入れ費、人件費など、あらゆる支出が発生します。
支出が売上げよりも抑えられていれば問題ありませんが、支出のほうが上回ると手元のお金がなくなってしまい、資金ショートを起こす可能性が高いです。
起業直後であれば、お店の外観や内装、事業に必要な設備・機械などにも投資しようと考えてしまい、多くの金額を使ってしまうことが考えられます。
いきなり多額の投資をするよりも、まずはコツコツと資金を稼ぎ、手元に資金が残る状態で設備投資などを行うことが大切です。
効率性が低い
1人で起業した場合、事務作業や販売戦略の立案、マーケティング活動、顧客対応など、あらゆる仕事を事業を運営しながら1人でこなす必要があります。
これらの業務をすべてこなすためにはそれなりの時間と手間がかかり、事業に専念する時間が減ってしまう可能性が高いです。
1人での業務は効率性が低く、収入も不安定になってしまいます。
タスクを効率的にこなし、本業に力を入れることができる人であれば安定した収入を確保しやすいですが、起業直後は慣れていないこともあり、不安定になりやすいといえます。
価格競争に巻き込まれやすい
起業直後は、商品やサービス、ブランドの認知が低いことが原因で商品が売れない時期が続く場合もあります。
この状況を打破するために、より安い価格で販売しようと試みる人も多いです。しかし、これではいくら売っても利益が上がらない「薄利多売」の状態になる可能性があります。
起業したばかりの時期に価格競争へ巻き込まれてしまうと、経営資源が豊富で多くの商品を取り扱う大手企業が有利です。
いくら利益が少なくても、価格競争に巻き込まれないようにすることが大切です。
起業後の収入を安定させるための準備と対策
起業後の収入を安定させるために、起業前後でもできることはあります。ここでは、起業後の収入を安定させるための準備と対策について解説します。
【起業前にできること】
起業後に収入を安定させるためには、起業前の綿密な準備が必要です。主な準備は以下のとおりです。
開業資金・運転資金を明確にする
起業時にはお金がかかり、起業後もある程度の運転資金を用意しておく必要があります。
開業資金・運転資金を明確にしてから起業する時期を決めて逆算し、資金を貯めていくことが大切です。
開業資金と運転資金はどのような業種・ビジネスを展開するのかによって費用が異なります。
以下の項目でお金がかかってくる可能性が高いため、具体的にどれくらいかかりそうかを見積もっておいてください。
- 【開業資金】
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- 物件取得費
- 内装・外装工事費
- 広告費
- 設備導入費
- 消耗品費 など
- 【運転資金】
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- 賃料
- 仕入れ費
- 水道光熱費
- 人件費
- 社会保険料 など
軌道に乗るまでの生活資金を準備する
開業資金や運転資金を準備することは大切ですが、事業が軌道に乗るまでの生活資金も準備しておく必要があります。
売上げがないことで生活が難しくなるケースもあります。
また、開業資金・運転資金を丸々事業に使えるようにするためには、一緒に生活資金を準備しましょう。
生活資金の目安としては、独身なら生活費の3~6カ月分、家族がいる場合は6カ月~1年分は用意しておくと安心できます。
固定費を事前に見直しておく
起業すると収入が不安定になりやすいため、固定費を見直して無駄な出費をなくすことが大切です。
生活にかかる固定費を見直すことで、開業資金や運転資金、これからの生活資金を貯めやすくなります。見直しておきたい固定費は以下のとおりです。
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- 家賃
- 水道光熱費
- 通信費
- 保険料
- サブスク料金 など
固定費の見直しを図ると、起業時点のキャッシュフローにも余裕が生まれます。
案件を受ける受託ビジネスをメインとする場合には、長期的な仕事にも取組みやすく、利益率の高い案件を担えるようになります。
【起業後に実践すべきこと】
起業後に以下の方法を実践することで、収入の安定につながる場合もあります。
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- 収入源を複数確保する
- 単価アップを図る
- キャッシュフローを可視化・改善する
- リピート客を増やす仕組みをつくる
収入源を複数確保する
起業する場合にはひとつの事業(収入源)に頼りがちになってしまいますが、複数の収入源を持つことで収入を安定させることができます。
また、ひとつの収入源がなくなってしまったとしても、ほかの収入源が確保できていれば収入がゼロになることを防げます。
投資やインターネットビジネス、副業などは収入源を複数確保する方法の一例です。
特に、インターネットビジネスや副業は初心者でも取組みやすく、特別なスキルを持っていなくても始められます。
アフィリエイトサイトの運営やECショップの開設、Webライティングの仕事などがおすすめです。
単価アップを図る
顧客1人が1回の買い物で支払う平均金額を「客単価」といい、客単価に客数をかけることで売上高を計算できます。
客単価がアップすれば売上高も伸びるため、収入を安定させるためにも単価アップを図るための方法を取り入れてみてください。
例えば、提供するサービスに3つの料金プランを用意する方法などです。3つの料金プランがあると、消費者は中間の価格帯のプランを選ぶ傾向にあります。
また、3つの選択肢があることで、消費者は購入する・しないの選択肢から、どの料金プランを選ぶかに変わり、購入してもらえる可能性が高まります。
キャッシュフローを可視化・改善する
起業後は手元に資金があるかどうかを定期的に把握しながら、事業を運営していくことが大切です。
そのため、キャッシュフローを可視化できる「キャッシュフロー計算書」を作成してください。
キャッシュフロー計算書を作成すれば、営業活動・投資活動・財務活動それぞれのキャッシュフローを分類し、管理することで現在の経営状態が健全かどうかを判断しやすくなります。
キャッシュフロー計算書を作成して可視化した結果、改善する必要がある場合は、各活動における改善方法を試してみてください。
- 【営業活動】
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- 売上の入金サイクルを改善させる(売掛金・受取手形の条件見直し)
- 過剰在庫をなくし、在庫の最適化を図る
- 仕入れ条件の見直しと交渉を行う
- 【投資活動】
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- 遊休固定資産(維持管理費だけかかる不動産・機械など)を処分する
- 投機目的の資産を見直し・処分する
- 【財務活動】
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- 貸付金を改修する
- 借入れの返済期間を見直す
リピート客を増やす仕組みをつくる
起業直後は、新規顧客の獲得を目的に集客活動を行うことが多くあるかもしれませんが、リピート客を増やすための仕組みづくりも必要です。
収入を安定させるためには、定期的に何度も商品・サービスを購入してくれるリピート客の存在が必要です。
リピート客を増やすためには、顧客のニーズを把握して寄り添い、「ニーズを満たしている」と思わせることがポイントになります。
また、顧客と積極的にコミュニケーションを取ることも大切です。
例えば、メールマガジンで継続的に情報発信を行ったり、SNSで顧客とやり取りをして顧客ロイヤルティを高めたりするなどの方法が挙げられます。
まとめ・起業後に収入で悩まないために対策をしておこう!
起業直後はどうしても収入が不安定になりやすいものです。安定した収入がある会社員から起業するとなると、そのギャップから精神的な負担を感じてしまう場合もあります。
しかし、対策を講じていれば起業直後でも収入に悩まず、安定するまで事業に取組み続けることも可能です。
今回紹介した準備と対策方法を参考に、開業資金や運転資金、生活資金を確保して、ぜひ起業に臨んでください。
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(編集:創業手帳編集部)