個人事業主が行うべき雇用保険の対応は?加入条件や給付の内容も解説

創業手帳

個人事業主は従業員を雇ったら雇用保険に加入する義務がある


雇用保険は会社などに雇用されている場合、一定の条件を満たせば必ず加入するものです。
個人事業主であっても従業員を雇えば雇用保険に加入する義務が生じるため、どのような制度なのかしっかり把握しておくことが大切です。

この記事では、雇用保険について個人事業主は加入できるのかといった疑問をはじめ、加入対象や補償内容を詳しく解説します。
また、雇用保険未加入の場合の罰則や、雇用保険以外の社会保険についてもお伝えするので、個人事業主の方はもちろん、これからなる予定がある方は、ぜひ最後までお読みください。

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雇用保険とは?


雇用保険は、公的保険のひとつであり、失業した際の生活保証や雇用促進を目的としています。
労働者が失業や休業したとしても生活に困らないよう、育児休業給付や失業当給付など、様々な給付金が用意されているほか、教育訓練などの事業も行うなど、再就職への支援も行っています。 

現在の日本では、健康保険や介護保険、年金保険といった社会保険がありますが、雇用保険もそのひとつです。
会社などに雇用されている場合、事業規模に関わらず、以下を満たしていれば加入対象となります。

  • 31日以上の雇用見込みがある
  • 所定労働時間が週20時間以上である

なお、所定労働時間とは雇用契約上の労働時間のことであり、残業や急な出勤などで一時的に20時間を超えたとしても要件を満たしたとはなりません。

個人事業主自身が雇用保険に加入することはできる?


雇用保険は会社などに雇用されている場合に加入対象となる制度ですが、個人事業主やフリーランスはどのような取り扱いになるのでしょう。
ここでは、個人事業主と雇用保険の関係について詳しく解説します。

本人の加入はできない

結論からいえば、個人事業主自身は、雇用保険に加入することはできません。
雇用保険はあくまでも「労働者」の失業リスクをカバーするものであり、解雇や出産、育児などで働けなくなった場合の生活維持や再就職の支援を目的としています。
個人事業主やフリーランスの場合、会社などに雇われる「労働者」に該当しません。そもそも失業という概念がないため、失業手当の対象にもならないのです。

ダブルワークをすれば雇用保険に加入できる

個人事業主は加入できない雇用保険ですが、ダブルワークをすれば加入することは可能です。
この場合のダブルワークとは自身の事業とは別で、違う会社などに雇用されることを指します。

先ほども紹介しましたが、加入するには所定労働時間が週20時間を超えることなどの条件を満たした場合に限ります。
また、副業先が複数ある場合、加入できるのは主となる1カ所のみです。

雇用保険の加入対象は?


雇用保険に加入するには条件を満たす必要があり、すべての労働者に適用されるとは限りません。ここでは、雇用保険の加入対象となる従業員と事業者について解説します。

雇用保険の加入対象となる従業員

雇用保険に加入する条件の週20時間以上というのは、雇用契約上の労働時間であり、残業などで一時的に超えたとしても対象にはなりません。
また、31日以上の雇用見込みは雇用期間が定められていない、もしくは雇用契約が31日未満ではない場合などが該当します。
これらの条件を満たしている場合、パートやアルバイトなど雇用形態に関わらず、雇用保険の加入対象となります。定時性や通信制、夜間の学生も同様に加入対象です。

ただし、高校や大学に在学中の学生は例外です。例え条件を満たしていても雇用保険に加入することはできません。

雇用保険の加入対象となる事業者

法人や個人事業主関係なく、従業員をひとりでも雇用していれば雇用保険の適用事業所となります。
ただし、適用事業所となるには以下の条件が求められ、該当するか否かの判断はハローワークが行います。

  • 場所的に独立している
  • 施設として継続性がある
  • 経営単位として独立性がある

個人経営の農林水産業の場合、常時雇用の従業員が5人未満であれば暫定任意適用事業となり、雇用保険への加入は任意です。
しかし、従業員の半数以上が雇用保険への加入を希望した場合、条件を満たす人は全員加入申請が必要です。

個人事業主が行う雇用保険の手続きは?


個人事業主の場合、自分自身は雇用保険に加入することはできません。しかし、「従業員を雇用した時」もしくは、「従業員が離職した時」は雇用保険の手続きが必要です。
以下では、それぞれのケースについて詳しく解説します。

従業員を雇用した時

個人事業主であっても、従業員をひとりでも雇用し、条件を満たしている場合、雇用保険に加入させる必要があります。
従業員の雇用保険に関する手続きを速やかに行い、保険料を納めてください。
保険関係の成立後10日以内に労働基準監督署に保険関係成立届を、50日以内に概算保険料申告書を労働局、金融機関、労働基準監督署のいずれかに提出し、申告と納付を行います。
これらの手続きを怠った場合、懲役もしくは罰金に処せられるため注意が必要です。

初めて労働者を雇用する場合は、保険関係の手続き後に、管轄のハローワークに「事業設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要です。

従業員が離職した時

雇用保険に加入していた従業員が辞めた場合、辞めた日の翌日から10日以内に手続きをする必要があります。
退職者の雇用保険の資格喪失手続きをハローワークに提出してください。
なお、提出する書類は、雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書です。

手続きをすると退職者に対し、離職票が交付されます。離職票は退職者が失業給付を受けるために必要なため、従業員が離職する際は速やかに交付手続きをしてください。

雇用保険による従業員に対しての補償内容


雇用保険には様々な給付金や手当があります。以下では、雇用保険の加入者が受け取れる給付について、代表的なものをいくつかピックアップしてご紹介します。

求職者給付

求職者給付は、失業した労働者に対し、日々の生活や再就職支援を目的に給付金を支給するものです。基本手当や技能習得手当などがあります。
基本手当は「失業手当」とも呼ばれており、自己都合などで退職した人に対し、再就職までの一定期間、給付金を支給します。
受給期間に90~360日と幅がありますが、これは雇用保険料を支払っている期間や年齢などの条件によって変わるからです。

ちなみに、受給期間は離職理由と納付期間、給付金額は離職前の賃金やその時の年齢が関係します。
基本手当を受給するには、離職した本人がハローワークに行き、求職の手続きをする必要があります。

就職促進給付

就職促進給付は、早期の再就職支援を目的とした給付金です。再就職手当をはじめ、就業手当や就業促進定着手当などがあります。
以下では、それぞれの手当について詳しくご紹介します。

再就職手当

再就職手当は、基本手当の支給残日数に応じて支給される給付金です。
したがって、再就職手当が支給されるには、基本手当の受給資格があるのはもちろん、所定給付日数が3分の1以上あるなどの条件を満たしている必要があります。
一定の要件に該当する場合、「支給残日数×給付率×基本手当日額」から算出した支給額を受け取れます。ただし、基本手当日額には一定の上限があるため、注意してください。

就業手当

就業手当は、常用雇用など以外で就業した場合に受け取れる給付金です。
安定した就業が決まった際に支給される再就職手当に対し、就業手当は契約期間が1年未満の非正規雇用の場合に支給されます。
受給するには、基本手当の受給資格がある、基本手当の支給日数が45日以上かつ所定給付日数が1/3以上残っているなど一定の要件を満たしている必要があります。

常用就職支度手当

常用就職支度手当は、高齢や障がいを抱えるなどで就職が困難な人が安定した職業に就業した際に支給される給付金です。
安定した職業とは、1年以上の雇用が確実であることで、受給するには基本手当の受給資格が必要となります。

就業促進定着手当

就業促進定着手当は、再就職先で支払われた賃金が離職前よりも少なかった場合に受け取れる給付金のことです。
受給するには、再就職手当の支給を受けており、再就職先で半年以上働いているなど一定の要件を満たしている必要があります。

また、受け取れるのは、再就職手当をもらっていても、賃金が下がった場合のみのため、対象者はそれほど多くないのが特徴です。

教育訓練給付制度

教育訓練給付制度は、スキルアップやキャリア形成の支援を目的に、指定された教育訓練を修了した場合、かかった受講費の一部が支給される制度です。
教育訓練給付には、「一般教育訓練給付金」「特定一般教育訓練給付金」「専門実践教育訓練給付金の3種類あり、それぞれ支給対象者や支給要件、期間などが異なります。

雇用継続給付

雇用継続給付は、介護や育児など様々な事情により働けない、高齢で賃金が減ったなどした場合に受け取れる給付金です。
一定の要件を満たしている必要がありますが、当てはまれば育児休業給付金や高年齢雇用継続基本給付金などが支給されます。手続きは、原則事業主が行います。

雇用保険未加入の場合の罰則は?


雇用保険の加入対象であるにもかかわらず未加入の場合、雇用保険法により事業主は6カ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金が科せられます。
やむを得ない事情や不注意による手続き漏れなども起こり得る可能性があるとして、すぐに罰則になるわけではありません。

しかし、指摘を受けても手続きをしなかった場合、処罰を受ける恐れがあります。そうなれば社会的信用度が下がり、事業そのものに悪影響を及ぼすことも考えられます。
従業員をひとりでも雇用する場合は、雇用保険の加入手続きを忘れず行うよう注意してください。

個人事業主が入る雇用保険以外の社会保険4つ


社会保険には、雇用保険以外に「健康保険」「年金保険」「介護保険」「労災保険」の4つがあります。
個人事業主は加入できるのかも含めて解説するので、ぜひチェックしてください。

健康保険

健康保険は国民全員に加入する義務がある社会保険です。保険料を納付していれば、1~3割の自己負担で医療を受けることが可能できます。
健康保険にはいくつか種類がありますが、個人事業主の場合、「国民健康保険」に加入するのが一般的です。

国民健康保険は各自治体が運営しており、個人事業主やアルバイト、農業・漁業など、会社の健康保険に加入していない人が対象です。
保険料は、家族の人数や収入、年齢によって異なります。

年金保険

年金保険は、働いている現役世代が負担した保険料を財源に、高齢者世代に年金として現金を給付する制度です。
年金には「国民年金」と「厚生年金」、そして「その他」の3種類ありますが、個人事業主が加入するのは「国民年金」です。
国民年金の保険料は定額で、給付金額は加入期間によって変わります。

介護保険

介護保険は、認知症や身体障害により介護が必要になった際に、介護費用の1~3割負担で利用できる社会保険制度です。
40歳以上になると加入義務があり、個人事業主も対象です。
年齢によって支払い方法が異なり、40歳以上65歳未満は国民健康保険料と一緒に支払います。65歳以上になると年金から差し引かれるかたちで支払います。

労災保険

労災保険は、業務や通勤によって、労働者が怪我や病気になった際に、労働者に対して必要な保険給付を行う社会保険です。
労働者が対象のため雇用保険と同様、原則個人事業主は労災保険に加入することはできません。

しかし、個人事業主でも業務中に事故などで怪我をする可能性はあります。
そこで万が一のために一人親方や中小事業主、特定作業従事者などを対象とした特別加入制度も設けられています。

まとめ・個人事業主でも雇用保険について理解を深めておこう

雇用保険は、失業や休業した場合に、様々な給付が受けられる社会保険です。労働者にとってはいざという時に助かる制度ですが、個人事業主は加入することはできません。
しかし、従業員をひとりでも雇用する場合、条件に該当していれば加入する必要があります。
未加入の場合は、罰則が科せられることもあるため、個人事業主だから関係ないではなく、どのようなものかしっかり把握しておくことが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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