ヴァーン・ハーニッシュ(起業家機構EO創設者)来日独占インタビュー|「起業で重要なこと」とは
起業家のコーチングで国際的に注目を集める
世界的な起業家団体EO(Entrepreneurs’ Organization)の創設者で、長らく起業家のコーチングに関わってきたヴァーン・ハーニッシュさん。著作には「ロックフェラーの習慣」「スケーリング・アップ」などがあります。EOの立ち上げではマイケル・デルやスティージョブズ、アメリカ大統領なども協力するなど、起業家のコーチングの世界のトップランナーです。
そんなヴァーンさんが来日時に創業手帳読者のために独占取材に応じていただけました。
Gazelles 創設者兼 CEO
世界的に有名な起業家組織 (EO) の創設者であり、EOの主要なCEOプログラム「Birthing of Giants」の議長を15年間務める。100人を超える中規模企業のCEOによって支持される著書『Mastering the Rockefeller Habits』は、9か国語で出版。最新の書籍『Scaling Up』(ロックフェラー・ハビッツ2.0)は、国際的なビジネス書の中でも名高いInternational Book Awardの最優秀一般ビジネス書を含む8つの主要な国際的な書籍賞を受賞している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
起業を成功させる鍵は学び続けること
大久保:起業家についての幅広い観察の中で、成功への重要な要素や鍵は数多くありますが、1 つだけ選ぶとしたら、それは何でしょうか?
ハーニッシュ:それは学習への渇望と熱意です。
Microsoft の CEO が述べたように、Microsoft が継続的な成功を収めたのは、Microsoft が「すべてを知っている」文化から「すべてを学ぶ」文化に移行したからです。
SpaceX の創設者であるイーロン・マスクは、ロケットの製造方法について広範囲に学んでいます。Microsoftの創設者ビル・ゲイツは週に一冊の本を読み、Meta の創設者であるマーク・ザッカーバーグも同様のルーティンを持っています。連続起業家でありスポーツチームのオーナーであるマーク・キューバンは、1日あたり3時間読書をします。 史上最も偉大な投資家であるウォーレン・バフェット氏は、1日に500ページの読書をしています。
それぞれが自分たちのビジネスを改善し、新しいビジネスを生み出すアイデアを1つだけ探しているのです。
大久保:ロックフェラーの習慣とはどんなものですか?
ハーニッシュ:当時世界で最も裕福な人であるジョン・D・ロックフェラーの行動習慣をまとめた行動リストです。日本でも「EO創設者」として以前出版されましたが、その中でも重要なものを紹介しましょう。例えば以下のようなものがあるので、できているかチェックしてみてください。
① この四半期に会社を前進させるための「命運を分ける数字」が明らかになっている
② 「命運を分ける数字」に息を吹き込むための四半期のテーマと表彰/褒賞を決め、全社員に知らせている
③ 四半期のテーマと「命運を分ける数字」が社内のいたるところに掲示してあり、社員が週ごとの進行状況を確認できる
④ 個々の社員がその四半期の会社の「命運を分ける数字」と足並みをそろえた、自分の「命運を分ける数字」を持っている
⑤ 個人/チームそれぞれが、会社の優先課題と足並みをそろえた四半期の優先課題(大きな石)を3~5つ持っている
⑥ 「命運を分ける数字」また3~5の優先課題(大きな石)が明らかで、順位づけされている
⑦ 大きく困難で大胆な目標 (BHAG®) ・・進展状況が追跡され目に見える形にしている
⑧ 署と責任者一覧表 (FACe) が完成している (正しい人が正しいことを正しくやる
⑨ 3~5年の「鍵となる推進力/能力」のそれぞれについて、社内に専門知識を持つ人材がいない場合には顧問委員会に専門家がいる
⑩ 幹部全員(と中間管理職) が、毎週少なくとも1人の社員と「始める/ やめる / 続ける」の会話を交わしている
⑪ 全社員が顧客データの収集に参加している
⑫ コアバリューが見つかり、目的が明確になり、どちらも全社員に周知されている
⑬ 幹部と中間管理職の全員が、称賛または叱責を与えるときにコアバリューと目的に立ち戻って言及している
⑭ コア顧客・・25ワード以内でプロフィールを表現している
⑮ 3つのブランドの約束――それぞれに対応するブランドの約束KPI が毎週報告されている
ロックフェラーの習慣について
・命運を分ける数字と大きな石
まず、命運を分ける数字ですが会社の成功の可否を握る数値です。これが意外に把握できていないことがあります。
命運を分ける数字の期間ですが、いわゆる数年の中期経営計画を普通の会社は立てることが多いですが、10年20年の長期ビジョン以外は90日・四半期で短期で集中した方が良いと思います。
イメージできること、短期で成果が得られること、フィードバックから改善していけるなどのメリットがあります。この数字は、社員全員が認識して進捗を追えるように、また昇給や報奨などと連動していないといけません。
また、容器に大きな石と小さな石・砂利を最も多く詰めるにはどうしたら良いでしょう?
まず大きな石から入れないといけません。小石から入れると大きな石が入らなくなってしまいます。
事業も同じです。小さなことからやってしまうと最も大きく重要なことができなくなります。そのため、大きな石・最重要課題からやっていき、小さな石は後からやるのです。
そして会社や社長だけではなく、社員全員、チームすべてが命運を分ける数字と大きな石を持つべきなのです。
最終的に向かうべき大きな目標、これを我々はBHAGと呼んでいますが、事業の目的となるさらに大きな目標に向かわせることが大事なのです。
・部門ごとの責任者
部署ごとの責任者の一覧ですが、特に起業時では各部署に優れた責任者を置くことが困難なこともあります。社内に専門人材がいない場合は、外部の顧問でも良いので優れた人材を置くことが大事です。
各部門の責任者リストを作る際に大事なのは、やむなく置いているのか、絶対に必要でまた会社をやる場合でも再雇用したいほどの人材なのかを考える必要があります。
責任者のリストを作ることで、各ポジションが空白であったり、あるいは1つのポジションに2人がいる、2つのポジションを1人が兼務しているなどに気づきます。そこにベストな人材を埋めていくことが、そのままあなたの会社の組織、採用の戦略に繋がります。
・顧客の声を拾う
顧客の声をあなたの組織では拾えているでしょうか?現場の顧客の声を収集する仕組みと、それを議論する場が必要です。そうやって市場の声に耳を傾けていくのです。
また、組織は肥大化したり必要な行動が取れなかったりします。そのため「始める/ やめる / 続ける」の議論を継続的にしていく必要があります。
・コアバリューに基づく称賛と叱責
組織は中核になる「コアバリュー」を設定する必要があります。共通の価値観ということですね。経営者が個人の感情や好みで叱責や称賛をするのと、コアバリューに基づいて叱責や称賛をするのはどちらが効果的でしょう?
「俺はこのやり方は気に入らない!」「あなたの行動はコアバリューの○○から見ると問題ですね」という言い方では、後者であればすべての社員が効果的に成長することができるわけです。
組織は、柱となるコアバリューを定める必要があり、かつそれに基づいた指導や教育が効果的です。
・コア顧客の定義
あなたの事業の中核になるコア顧客を25ワード以内で表現してみましょう。何の課題のあるどういう人なのか、明確にしていきます。コア顧客が明確になると、みなさんが磨くべき事業の強みが自ずと明らかになっていきます。
そして、そのコア顧客に対して3つのブランドの約束を決めましょう。このブランドの商品を買うとどういう体験ができるのかを集約した、本質的かつ重要な事を3つのワードにしてみましょう。
そのブランドの約束は、全社員がKPIとして追えるようにしていきましょう。
AIの進化でマネジメントはどう変化するか
大久保:ChatGPTをはじめとするAIの台頭など、世界ではさまざまな技術変化が起きています。例えば、人間の労働力がある程度不要になり、組織やマネジメントが根本的に変わる可能性があります。
AIが普及して経営は根本的に変わると思いますか、それとも経営はほとんど変わらないと思いますか?
ハーニッシュ:これらのさまざまなテクノロジーの進歩は、すでに管理の性質を変えています。
まず、リーダーシップとコーチングは引き続き必要ですが、管理のさまざまな側面 (追跡、ナッジ、トレーニング、フィードバックの提供など) がテクノロジーに置き換えられています。
本当に管理を必要としている人、または管理したい人は何人いるのでしょうか?
だからこそ私はマネージャーという肩書きをなくすことを提案します。人々はリーダーを求めているのです。テクノロジーはますます多くの管理を提供するでしょう。
さらに、Web 3.0 は、私が組織3.0 と呼んでいるものに力を与えています。組織構造が従来のピラミッドまたは階層構造から、分散型リーダーシップモデル、つまりチーム オブ チーム アプローチへの根本的な変化です。
新しい「アジャイル スケールアップ」構造は、私たちの体の骨格系というよりは脳のニューラル ネットワークに似ています。私たちが足腰の仕事から頭脳の仕事、つまり筋肉から精神に移行したためです。
これは、私を含めた専門家の必要性が減り、巣/部族の集合知を活用する必要性が高まることを意味します。実際、これは私たちが Web で答えを検索したり、ChatGPT を利用したり、Wikipediaを参照したりするときに毎日行っていることです。これはすべてクラウドソースの情報と洞察です。
世界的困難への挑戦を糧にし、EOの設立へ
大久保:ヴァーンさんは長年事業を行っていますが、最も困難な経験は何でしたか?それをどのように克服しましたか?同じような状況に直面している起業家を助けるために、あなたの経験を共有していただければ幸いです。
ハーニッシュ:最も困難な経験は、パンデミックや9/11 (米国同時多発テロ攻撃) などの外部要因が発生し、当社の収益が大幅に減少、既存のビジネスモデルに挑戦が生じたときです。
生き残るための鍵は、ビジネスの方向転換に必要な迅速な変更を行うことを指導し、励ましてくれる経験豊富なアドバイザーがいることです。
私は諦めるのではなく、事業を継続するために日々さらに努力することを決意しました。
そして、9.11の際には粗利を改善し、より大きな利益を生み出して手元資金を積み上げました。6ヶ月分の営業費用なので、危機が再び発生した場合でも、生き残るために十分な現金が得られます。
これは数十年後にパンデミックが発生したときに役に立ちました。 すべての対面イベントが一晩でキャンセルされました。何ヶ月も生きていけるだけの現金があるとわかっていたので、私は従業員を維持することができました。
毎日ミーティングを行い、すぐにオンラインプラットフォームに移行し、最終的にはパンデミック以前の10倍以上の世界中のリーダーにサービスを提供するようになりました。
どちらの場合も、運動でストレスを与えることで筋肉や骨が強くなるのと同じように、挑戦的な経験が私の会社を強くしました。
大久保:逆に、あなたの最高の経験や瞬間は何でしたか?
ハーニッシュ:それは自分の努力がクライアント、チーム、コミュニティの生活を改善しているのを実感する瞬間です。世界で生み出しているポジティブな変化であり、仲間の人類全体の活力に貢献しています。
具体的な出来事としては、スティーブ・ジョブズ氏がアップル社を解雇された後、初めて行った公の場でのスピーチを主催したことが挙げられます。これが私に起業家組織 (EO) を設立するきっかけを与えてくれました。
1986年に、この団体は米国から日本と中国への若い起業家の最初の代表団を率いていました。私の本が出版社から届くのは毎回、何か月、場合によっては何年も費やしてそれぞれの本を書き、修正した後です。これらすべての瞬間を家族、友人、同僚と共有するようになりました。
今後の望みは8つの夢と、起業家が孤立しないこと
大久保:あなたの今の夢は何ですか?
ハーニッシュ:私には8つの夢、つまり取り組みたい課題や機会があります。
それには、次の10年から25年で起業家が8兆ドルの評価を生み出す手助けをすること、人々が悩まされるさまざまな病気の普遍的な治療法を見つけること、ジュール・ヴェルヌの人生をテーマにしたミュージカルを制作すること、アメリカでの死刑廃止を実現すること、アフリカにおける香港のような場所の創造を支援することなどが含まれます。
起業家こそが革新を起こし、人々の生活を改善する解決策を創造します。起業家は、人々の生活を改善するソリューションを革新し、創造する人たちです。
地元やグローバル経済の起業家たちをサポートし、評価するためにできる限りのことをすることが、私の人生の生きがいです。
幅広い取り組みに参加することで、さまざまなコミュニティに触れることができ、それが私の幸福感を高め、人生を面白くしてくれます。さまざまな取り組みのアイデアを交差させることで、それらを実現する手助けとなります。
大久保:日本の起業家の皆様にメッセージをお願いします。
ハーニッシュ:私が起業家組織(EO)を創設した理由は、起業家が孤立しないようにするためです。
現在、日本には1,000人以上のメンバーがおり、世界中には18,000人以上のメンバーがいます。
ベンチャーを立ち上げて拡大するのは、非常に要求が厳しくストレスの多い仕事ですが、ほとんどの人はそれが生み出すプレッシャーを理解していません。
頂上はとても寂しいです。私のメンターであるジョー・マンキューソは、「独立するのは問題ありませんが、一人になる理由はありません」と私に言いました。
私が長年そうしてきたように、プレッシャーを理解する仲間に囲まれ、年月を経て彼らのサポートと指導を求め続けてください。
(取材協力:
起業家機構EO創設者 ヴァーン・ハーニッシュ)
(編集: 創業手帳編集部)