2023年以降の税制度はどう変わる?インボイスや電子帳簿保存法を含めて中小企業に関わる部分を解説!

創業手帳

令和5年度税制改正大綱のポイントを起業家・経営者の視点で見ていきます


2022年12月23日に「令和5年度税制改正大綱」が閣議決定されました。この大綱に基づき、2023年度以降にさまざまな税制改正が行われます。

大綱の概要は主に「成長と分配の好循環の実現」です。全体として、個人の資産や企業の内部留保などを循環させ、経済を良くしようとする内容になっています。

今回は、起業家や経営者が知っておくべき令和5年度税制改正大綱のポイントを網羅的に紹介します。税制の軽減措置や特例などについてよく理解し、経営判断や創業のタイミングの見極めなどに役立てましょう

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令和5年度税制改正大綱に関する12のポイント


令和5年度税制改正大綱について、中小企業の経営者や起業家の方は、以下で解説する12項目を頭に入れておくべきです。とくに税制上の優遇措置に留意し、事業の発展や創業に役立てましょう。

1. NISAの拡充により家計からの資金流入が活発に

2024年からNISAの制度が新しくなり、非課税となる投資の利益が年間合計360万円まで拡充されます。また非課税保有期間については無期限化、口座開設期間は恒久化される予定です。

NISAとは、毎年所定の金額まで株式投資などの利益が非課税になる制度のことを指します。今回の拡充および恒久化により、家計から資本市場へのお金の流れがより活発になると期待されます

ただし、NISAの投資対象に非上場株式や債券などは含まれないため、多くの中小企業や小規模事業者にとって、直接的な好影響は少ないです。とはいえ、個人が企業の成長投資をする機会が増えることは、経済界全体にとって良い傾向といえます。

2. スタートアップの創業や事業展開などがしやすくなる

国は「スタートアップ・エコシステムの抜本的強化」と銘打って、スタートアップの加速を支援していく格好です。具体的には「創業」「事業展開」「出口(成長)」の観点から、以下の取り組みが行われます。

株式からスタートアップへの再投資が非課税に

創業の支援としては、株式を売却してスタートアップへ再投資する場合の優遇税制が設けられます。

具体的には、株式譲渡益が上限20億円まで非課税となる予定です。創業者が手持ちの株式を売って起業する場合や、エンジェル投資家が創業前のスタートアップに再投資する場合が想定されています。

そのため、起業家は保有する株式を自己資金に変えやすくなるほか、エンジェル投資家からも大口の資金を調達しやすくなります。ちなみにエンジェル投資家とは、創業前後の実績のない企業に出資をする投資家のことです。

ストックオプション税制の権利行使期間を延長

所定のスタートアップについては、ストックオプション税制の権利行使期間が、10年から15年に延長されます。よって、スタートアップは、事業展開に関わる人材を確保しやすくなります。

ストックオプションとは、取締役や従業員、社外の高度人材に対して、自社株を特定の金額で購入する権利を与えることです。例えば、行使金額が100円の場合、10年後に株価が1,000円になっていても100円で購入できます。そのため、社員は1株あたり900円の利益を得ることが可能です。

ストックオプションの権利行使期間が長くなれば、会社の成長に伴って株価がより一層上がる可能性があります。ゆえに権利行使期間の延長は、社員等のモチベーションアップにつながり、事業展開に好影響が見込めます

オープンイノベーション促進税制がM&Aにも適用されるように

スタートアップの出口の支援として、オープンイノベーション促進税制がIPOだけでなくM&Aにも適用できるようになります。

オープンイノベーション促進税制とは、既存企業がスタートアップに出資した場合、出資の一部を所得から控除するという制度です。元々は新規発行株式の取得(IPO)だけを対象としていましたが、今後は既存株式の取得も対象となります。そのため、M&Aの形で資金や人材を出資する場合にも、既存企業は税制控除が受けられます。

加えて、M&Aから5年以内に成長率や投資規模などにかかる要件を満たせば、継続的な減税が受けられる仕組みもできる予定です。スタートアップにとっては、既存企業から出資が受けやすくなるほか、減税も実現できるため、より成長しやすくなるといえます。

3. 研究開発投資を増やすことの税制上のメリットが大きくなる

企業による研究開発投資の伸び悩みを解消すべく、研究開発税制の見直しが行われます。具体的には、試験研究費を増やすことのメリットがより大きくなるよう、控除率カーブが修正されます。一方、控除率の下限は2%から1%に引き下げられ、メリハリがつけられる形です。

また研究開発の質を向上させる点から、別枠の控除が受けられる「研究開発型スタートアップ企業」の対象が大きく広げられます。そのほか、博士号取得者やそのほかの高度人材を取り入れて研究するための新たな類型も作られる予定です。

以上のように、新たな商品や技術を求めて研究開発投資を増強する意欲のある企業は、今後税制による後押しを受けられます。

4. 学校法人の設立費用として寄付金の全額損金算入が可能に

大学や高等専門学校といった学校法人の設立費用を企業が寄付する場合、個別審査なしで全額損金算入が認められるようになります。企業の経営資源がよりスピーディに学校教育に活かされる体制を整え、優秀な人材を創出しようというのが国の思惑です。

企業には、学校教育に関与して公共性を高められるほか、寄付金の経費計上によって法人税課税額を下げられるメリットがあります。

5. 高度な研究人材およびデジタル人材の雇用にかかる優遇措置

先ほども少し触れましたが、博士号取得者やその他経験値の高い研究人材を取り入れることに対しては、研究開発税制上の優遇措置が設けられます。具体的には、そうした高度な研究人材を雇用することで、試験研究費にかかる控除率が通常よりも高くなります

またDX推進の観点からは、デジタル人材の雇用・育成に関する優遇税制も新たに設けられる見込みです。DX投資促進税制が見直され、デジタル人材の確保や育成に関する要件が新設されます。

以上より、企業は研究開発やDX推進にかかる人材を集めやすくなるため、事業にも少なからず好影響があるはずです。

6. 物価上昇を踏まえた中小企業税制にかかる特例など

昨今の物価高を踏まえ、中小企業等に係る軽減税率の特例が2年間延長されます。同特例は、年800万円までの所得金額にかかる法人税率が19%まで軽減されるという内容です。

また中小企業の設備投資を後押しする中小企業投資促進税制および中小企業経営強化税制も、それぞれ2年延長となります。加えて、生産性の向上や賃上げの促進を目的とした償却資産(土地・家屋以外の事業用資産)にかかる固定資産税の減税も行われます。こちらは喫緊の経済情勢を踏まえた2年限定の措置とする計画です。

物価高で粗利が減って厳しい状況の方も多いはずですが、以上の税制によって多少は負担が和らぐと考えられます。とりわけ生産性の向上に関わる優遇が目立つので、物価高に耐えるだけでなく「稼ぐ」という方向でも対策を検討してみましょう。

7. 酒類業の中小企業に対する酒税の軽減措置を新設

地域性を活かしたユニークな酒類を製造する中小企業を支援すべく、新たな酒税の軽減措置が設けられます。製造規模によって、酒税率が低くなる制度ができる見通しです。現行の特例措置は廃止となり、新措置の開始に伴う激変緩和の経過措置も実施されます。

地ビールをはじめ、地域でのお酒づくりに興味のある方は、時機が良いのでチャレンジする価値は十分にあるでしょう。

8. 生前贈与についての改善点と改悪点

生前贈与にかかる改正について、改善点は「相続時精算課税制度の使い勝手向上」、改悪点は「暦年課税における相続前贈与の加算」です。例えば、両親や祖父母からの贈与で開業資金を調達する場合などは、以下の内容によって贈与税・相続税が変わる可能性があります。

【改善】相続時精算課税制度の使い勝手向上

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母からの生前贈与について、贈与税が累計2,500万円まで非課税になる制度です。2024年1月1日からは、同制度に年110万円の基礎控除がプラスされます

よって、累計2,500万円を超えた部分についても、年110万円までは非課税です。加えて、年110万円以内の部分には、贈与税のみならず相続税もかかりません。

両親や祖父母から多額の贈与を受ける場合は、ぜひ相続時精算課税制度の利用を検討してみてください。

【改悪】暦年課税における相続前贈与の加算

2024年1月1日より、暦年課税における相続前贈与の加算期間が、3年から7年に延長されます。よって、相続開始前7年以内に受けた生前贈与が、相続税の対象となります。

なお、4年以上7年以内の延長部分については、100万円の控除が設けられる予定です。100万円以上の部分が相続税の金額に加算されます。

以上の改正が適用されるのは、2024年1月1日以降に行われる贈与についてです。相続税の節税のため、すでに生前贈与の話が出ている場合は、2023年12月31日までに手続きを済ませることをおすすめします。

9. インボイス制度には3年間の負担軽減措置

2023年10月からのインボイス制度については、インボイス発行事業者となる免税事業者に3年間の負担軽減措置があります。納税額が売上税額の2割に軽減されます

例えば、課税売上額が500万円の場合、本来の売上税額は50万円です。しかし、3年間は50万円の2割にあたる10万円で済みます。

そのため、小規模事業者や個人事業主が任意でインボイス発行事業者となる場合も、少なくとも3年間は負担が少ないといえます。

10. 「優良な電子帳簿」の範囲が明確化された

2021年度に改正された電子帳簿保存法に関する「優良な電子帳簿」の範囲は、次の通りに定義されました

  • 仕訳帳
  • 総勘定元帳
  • 次に掲げる事項(申告所得税に係る優良な電子帳簿にあっては、ニに揚げる事項を除く。)の記載に係る上記1および2以外の帳簿

イ 手形(融通手形を除く。) 上の債権債務に関する事項
ロ 売掛金(未収加工料その他売掛金と同様の性質を有するものを含む。)
その他債権に関する事項(当座預金の預入れ及び引出しに関する事項を除く。)
ハ 買掛金(未払加工料その他買掛金と同様の性質を有するものを含む。)
その他債務に関する事項
ニ 有価証券(商品であるものを除く。)に関する事項
ホ 減価償却資産に関する事項
ヘ 繰延資産に関する事項
ト 売上げ(加工その他の役務の給付その他売上げと同様の性質を有するもの等を含む。)その他収入に関する事項
チ 仕入れその他経費又は費用(法人税に係る優良な電子帳簿にあっては、賃金、給料手当、法定福利費及び厚生費を除く。)に関する事項

出典:自由民主党 公明党「令和5年度税制改正大綱」

上記の電子帳簿を、所定の要件を守って作成すれば、過少申告加算税が10〜15%から5%まで軽減されます。軽減率が大きいので、万が一申告漏れがあった時のことを考えると、電子帳簿保存法に対応するメリットは比較的大きいといえます。

11. 輸入貨物にかかる申告項目が追加される

輸入貨物の急増に伴い、輸入申告項目に「通販貨物の該否」や「国内配送先」などが加えられます。輸入(納税)申告書の書き方が若干変わるので、商品を輸入している場合にはご注意ください。

なお、2022年度末に適用期限を迎える412品目の関税の暫定税率については、期限が1年間延長されます。

12. 法人税の増税は対象外となる中小企業が多い

2027年度に防衛費を1兆円強確保するために、法人税について税率4〜4.5%の付加税を課すことが決まりました。ただし、増税は課税所得が2,400万円以上の企業を対象とするため、多くの中小企業や小規模事業者には無関係です。

ちなみに所得税についても1%の付加税が新設されますが、代わりに復興特別所得税が1%引き下げられるので、実質的には変わりません。しかし、復興特別所得税の課税期間は延長されることになったため、長期的には増税が見られます。

まとめ

令和5年度税制改正大綱について、中小企業や小規模事業者にとっての特筆すべき懸念事項はとくにありません。全体として資金を調達しやすくなったり、税率が下がったりするものが多く、起業家や経営者にとっては、プラス材料だといえます。

そのため、今後の税制改正をチャンスと捉え、優遇措置や特例などをフルに活かしながら、積極的な行動に出るのが良いでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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