会社設立時の事業目的はどう書く?書き方や例を紹介します
会社設立時に事業目的を記載するステップで「起業して何をすべきか」を考えよう
会社設立時には、事業目的を考える必要があります。
事業目的は定款の絶対的記載事項であり、会社は原則として事業目的に記載した事業を行います。
事業目的の書き方によって、ビジネスの許認可の申請に影響するほか、取引先や金融機関からの評価に関わる可能性もあり、作成する際は注意が必要です。
この記事では、定款の絶対的記載事項や事業目的だけでなく、ポイントや業種ごとの例なども解説します。
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会社設立時に目的は必要?
会社を設立する時には、会社を立ち上げるために必要な情報をまとめなくてはいけません。その中でも盲点になりがちなのは、会社設立の目的です。
会社や事業の目的を言語化するのは難しく思えるかもしれません。しかし、目的の書き方によっては、設立してからの事業に影響を与えることもあります。
以下に、会社を設立する際の目的についてまとめました。
定款には必ず事業目的を記載する
会社を設立する時に、必要となる書類のひとつが定款です。
定款は、会社・各種法人・競争組合などの組織・目的・活動に関する根本となる規則を記載した書類をいいます。
会社は定款に沿って運営しなければならないため、定款を「会社の憲法」と呼ぶこともあります。
定款には義務付けられている事項があり、そのひとつが「事業目的」です。
事業目的として記載するのは、会社がこれから行う事業の目的や内容です。
また、定款には会社の名称や所在地、株式といった内容を記載します。
定款の絶対的記載事項とは?
定款は会社を設立する時に創業者が作成する書類ですが、制限なく創業者の自由に作成できるわけではありません。
定款は、会社法に定められた内容に従って作成しなければならず、記載する内容も必ず定めなければならない絶対的記載事項と、定めるかどうかは自由な相対的記載事項・任意的記載事項の2種類があります。
記載が義務である絶対的記載事項は以下の項目です。
- 【絶対的記載事項】
-
- 会社の事業目的
- 会社の商号
- 会社の本店所在地
- 会社設立時に出資されるもの(資本金)
- 発起人となる人の氏名と住所
絶対的記載事項は定款を作成する時に必ず記載するため、絶対的記載事項にもし抜けや間違いといった不備があると定款自体が無効となります。
定款は、自社内での内輪のルールを定めているものではなく、社外の人にも公開されるものです。
事業目的も、会社の商号・所在地・資本金額などと同様に登記事項証明書に記載され、手続きさえ行えば誰でも閲覧可能です。
記載が義務付けられている事業目的は、金融機関や取引先が目にする可能性もあります。
自社の評価や信用にも関わる重要な内容なので、誰にでも伝わるようにわかりやすく具体的に記載する必要があります。
定款に記載する事業目的とは
会社の事業目的では、その会社が何の事業を行っているのか、ビジネスの内容をわかりやすく示します。
企業は基本的に定款に記載されたように業務を進めることになります。
ただし、もしも定款の記載に反しているようなことを企業が行っても刑事罰に問われるわけではありません。
しかし、民法では、会社が事業目的に違反する行為をした場合には、その行為が無効になると定められています。
事業目的は適格性を満たさなければならない
定款に定める事業内容は、創業者が何の制限もなく決められるわけではありません。
定款に記載する事業目的に対しては、適法性・明確性・営利性の3点を備えなければいけないとされています。
以下では、適法性・明確性・営利性について、それぞれの意味をまとめました。
要件に対して作成した定款に適格性があるかどうかを判断するのが難しい場合には、法務局の登記相談窓口を利用してください。
適法性
適法性は、企業が公序良俗や法律に反することを目的にする事業を行ってはいけないことを意味しています。
具体的には、反社会的な事業や違法薬物の製造といった事業を事業目的にはできません。
明確性
明確性は、事業目的を見た時に誰が見ても内容を理解できるように一般的に知られている言葉で記載されていないとならないことを意味しています。
まだ広くは知られていない業界や専門性が高い分野では、耳慣れない言葉も多く使われていますが、真新しい言葉や曖昧な言葉は明確性に欠けると判断されてしまう場合もあります。
広く知られている言葉かどうかを判断する基準のひとつは、広辞苑や現代用語の基礎知識に記載されているかです。
業界では当たり前に使われている言葉でも、一般的には知られていないことも多くあるため、注意が必要です。
営利性
営利性は、利益を追求することを事業目的にしているかどうかを意味しています。営利法人では、その事業によって利益を生み出すことが大前提です。
そのため、基本的には営利企業でボランティアや寄付のような非営利事業を目的にすることはできません。
営利法人を設立する際には、利益につながる事業目的を決めます。
許認可を受ける時にも事業目的との適合が必要
企業は、事業の内容や業種によって、保健所や警察といった行政機関から許認可を受けたり、届け出を出したりします。
事業に対して許認可が必要な場合は、定款に記載した事業に適合した内容が記載されていなくてはなりません。
具体的には、例えば飲食業を営むには保健所に飲食店営業許可を申請します。
会社は、事業目的の範囲内でしか活動できないため、定款の事業目的には飲食店営業が明記されている必要があります。
つまり、「飲食店の経営」や「居酒屋やレストランなどの経営」といった文言が必要です。
飲食業も理美容業も、法人が申請する場合には、登記簿謄本の登記事項証明書や定款を提出します。
事業目的と照らし合わせ、問題なく許可が取得できるかどうかを事前に相談してください。
許認可が必要な業種
事業目的を記載する時には、許認可の要件や社会保険団体の入会条件となる要件を意識して内容を考えます。
会社を設立する際には、どういった許認可や届け出が必要かをチェックしてください。
以下では、許認可が必要な業種について、いくつか例を紹介します。
・旅行代理店
旅行代理店では、都道府県知事への登録が必要です。
定款の事業目的には、「旅行業者代理業」や「旅行業法に基づく旅行業者代理業」の文言を含むようにします。
・リサイクルショップ
中古品のやり取りはフリマアプリなどでも頻繁に行われています。
しかし、不用品の個人間取引きではなく、利益を目的に事業として行う場合には、古物営業法に基づいて公安委員会の許可が必要です。
リサイクルショップや古着店を開業する場合には、警察署の生活安全課で古物商許可の申請手続きをしてください。
古物商許可を得るためには、定款の事業目的に「古物営業法に基づく古物商」といった文言を記載します。
・マッサージ店
マッサージ店を開業するには、あん摩マッサージ指圧師の国家資格が必要です。
「施術所開設届」を保健所に提出し、定款には「マッサージ店経営」と文言を入れます。
ただし、リラクゼーションやカイロプラクティックは国家資格や届け出は不要です。
その場合には、ホームページや広告にはマッサージという言葉を使えない点に注意してください。
事業目的に記載されていないビジネスをスタートできる?
定款には、明確性・営利性・合法性の3つが必要で、事業目的に記載されていない事業は原則として実施できません。
しかし、事業目的に記載されていないビジネスを行ったからといって何かの罰則があるわけではなく、刑事罰や行政罰が課されることもありません。
定款に記載されていなかったとしても、本来の事業目的を達成するために必要な行為と認められれば、事業目的の範囲内の取引きと解釈されることもあります。
しかし、事業目的とかけ離れたビジネスを行った場合や事業目的以外の事業から得られる利益がメインとなった場合、株主や債権者から追及を受けたり、トラブルに発展したりする恐れもあります。
罰則規定がないとしても、定款に記載していない事業は行わないようにおすすめします。
もしも、ビジネスの多角化の結果として事業目的に記載されていない事業が大きくなった場合には、定款を変更して事業目的を追加するようにしてください。
事業目的に記載されていないビジネスを始めたい時は?
前述したように、事業目的に記載されていないビジネスを行うことはできないとされています。
しかし、事業多角化の結果やビジネスが発展する中で、事業目的に記載されていない事業に踏み込むケースも決して少なくはありません。
会社は成長し、働く人も取り巻く環境も変わります。その中で方向転換をする企業もあるでしょう。
定款に記載されていない事業を行う場合には、定款の内容を変更する必要があります。
定款を変更するには、ただ書き換えるだけでなく手続きを要します。
株主総会での特別決議を行い、変更日から2週間以内に法務局での変更登記申請をしなければいけません。
定款を変更するために株主総会を招集・開催し、定款変更に関する特別決議を実施して、議事録を作成する流れです。
その上で、法務局への登記申請を行います。
登録免許税を支払って、新しい定款と元の定款の保管をもって定款の変更となります。
事業目的を定める時のポイント
定款における事業目的は、一度定めると変更に手数料も発生し、手間もかかります。
後から不備や書き漏れで変更することがないように注意してください。
事業目的を定める時に、気を付けておきたいポイントをまとめました。
将来の事業の可能性を考える
事業目的を決める場合に、直近で行う事業からまず考える人が多いのではないでしょうか。しかし、これからずっと同じ事業だけを行っていくかどうかはわかりません。
もしかすると、会社の状況や社会環境の変化によって新しい事業を展開することもあります。
しかし、定款の事業内容に記載されていない場合には、基本的には事業を実施できなくなってしまいます。
事業目的として記載したから取り組まなければならない決まりはないため、将来的な可能性を広げるためにも、直近でできなくてもいずれ取り組む可能性がある事業はすべて記載するようにしてください。
同業他社も参考にする
いざ事業目的を書くといっても、どのように書けばいいのかと頭を抱える人もいるかもしれません。
事業目的の書き方で悩んだ場合には、同業他社の定款をチェックしてみてください。
定款はその企業のホームページなどで公開されているケースがあるほか、法務局で手数料を納付すれば閲覧可能です。
同業他社であれば事業目的も近いため、参考になる場合もあります。
内容をある程度絞り込む
事業目的の内容には上限はありません。また、将来の可能性を考えて幅広く記載しておくようにと前述しました。
しかし、事業目的を増やしすぎても焦点がぼやけてしまうことがあります。
矛盾するようですが、将来の可能性を考慮に入れつつ、企業の軸がぶれないように絞り込むようにしてください。
特に金融機関から融資を受ける予定がある場合には、内容を絞り込まなければいけません。それは、融資の審査ではこの先5~10年の事業計画書を提出するからです。
銀行が審査で見るのは、その企業がどのような事業で借入金を返済するかです。
融資審査を受ける際に、あまりに事業目的が多いといったい何の事業なのかが判断しにくくなって融資審査に悪影響を及ぼす恐れがあります。
事業目的は将来の可能性も視野に入れつつ、メイン事業から乖離(かいり)しすぎないようにとどめておくようにします。
わかりやすく明確に作成する
事業目的は、取引先や金融機関も目にするものであり、わかりやすく明確に作成することもポイントのひとつです。
誰にでも理解しやすいように、できるだけ平易でシンプルに記載し、事業目的は多くても10~15個程度に抑えておくようにおすすめします。
「前各号に附帯関連する一切の事業」の文言を入れる
事業目的を記載する時には、各目的の最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」の文言を入れておきます。
この文言を入れておくことによって、定款に記載していなくても関連事業であれば行うことが可能です。
将来的な事業展開を広げるためにも、この文言を入れておくようおすすめします。
業種ごとの事業目的を紹介
事業目的は、定款の第一章の第二条に記載するのが一般的です。
以下では、事業目的の記載例を紹介します。
定款
第一章 総則
(商号)
第一条 当会社は株式会社○○と称する。
(目的)
第二条 当会社は次の事業を営むことを目的とする。
1.
2.
3.
4.
5.前各号に附帯関連する一切の業務。
以下では、業種別の事業目的を一例として紹介するので、これから事業目的を定める際の参考にしてください。
不動産業
1.不動産の売買・賃貸借・管理・仲介・保有および運用
2.不動産に関わるコンサルティング業務
3.宅地建物取引業
4.建築の現場管理業務
5.不動産の鑑定業務
6.ビルメンテナンス業
飲食店業
1.飲食店の経営
2.飲食店・物販店など各種店舗開発の企画および経営コンサルティング
インターネット関連業
1.コンピュータのソフトウェアおよびハードウェアの企画・研究・開発・設計・製造・販売・保守・リース並びにそれらに関するコンサルティング業務
2.各種情報提供・情報収集サービス
3.コンピュータに関わる指導事業
4.通信販売
5.音声および映像のソフトウェア企画・制作・販売・賃貸
6.EC(電子商取引)サイト、その他各種ウェブサイトの企画・制作・販売・配信・運営および管理
7.コールセンター業務
まとめ
事業目的は、その会社が何を目的としているのか誰にでもわかるように記載することが重要です。
会社設立時点ですぐに業務を始めるだけではなく、会社をどのように展開するのか、どういったビジョンがあるのかまでを考えて、事業目的を記載しましょう。
(編集:創業手帳編集部)