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2022年8月16日株式会社こそらぼ 久保主税|出産、育児の課題を仕組みで解決する注目の企業
出産、育児の課題を解決するための様々なプロダクト開発事業で注目されているのが、久保主税さんが2017年1月に創業した株式会社こそらぼです。
人生で初めての体験をするという時、皆さんならどうしますか?例えば、初めてスカイダイビングをする時、初めてラフティングをする時、初めてろくろ陶芸をする時、事前にそれについて調べたり、経験者の話を聞いたり、頭の中でシュミレーションしてイメージを膨らませるという方が多いのではないでしょうか。そうすることで不安を軽くしたり、ワクワク感を高めたりすることにも繋がるからです。
出産・育児についても同じです。しかし現在では少子化、核家族化が進み、子どもの世話をしたことがないという方も多く、初めての出産・育児の際には、全て経験がないことの連続だらけで、瞬間瞬間の自分自身の変化や、子どもの様子や状態にあたふたすることも多いかと思います。
妊娠が分かったときから、その後起こる体の変化や出産に際しての留意事項、産後の体や子どものケア、育児における心構えや準備しておくべきこと等、気軽にすぐ相談できる人やサポートしてくれる人が側にいてくれれば、ある程度イメージもシュミレーションも出来て安心ですが、なかなかそうもいかないのが実情です。
結局、初心者である当事者たちだけで目の前の出来事に悩み、鬱の発症や幼児虐待、育児放棄といった最悪の事態に発展してしまうことさえあるのです。
また、現代社会は一昔前の社会情勢とは違ってきています。男女共働きの増加、出産・子育て費用の増加、地域連携の希薄化なども変化の一端です。今後、社会全体として育児環境を整え、子どもの成長を見守る体制を整え直すことも肝要です。
今、妊娠、出産、育児を取り巻く現代ならではの課題を解決し、『子育ては、楽しくて、大変』という社会実現に向けて奮闘する、ある起業家の取り組みに注目が集まっています。
株式会社こそらぼの久保主税さんに、事業の特徴や今後の課題などについてお話をお聞きしました。
・このプロダクトの特徴は何ですか?
出産、育児の孤立を社会とのつながりで防ぐ仕組み「coe(こえ)」は、対話を通じて子育てのサポートが受けられるサービスです。
1)産前から妊産婦さんとそのパートナーとが応援団とつながる
私たちは、自治体が母子手帳を配布する窓口で、「coe(こえ)」のサービス紹介を頂き、妊娠期から出産、育児の応援団とスマホのチャットでつながりを作り、日常的にチャットを行い、信頼関係を構築します。
2)不安や悩みは、身体的なことだけでなく、生活することなど全般に対応する仕組み
妊娠、出産、育児の悩みや不安は、身体的な課題だけではなく、精神的、経済的、社会的な課題も含めて、ライフスタイルやワークスタイルに関わること全般になるため、助産師や保健師、産婦人科の医師などの医療従事者だけが対応するでは、当事者たちの不安や悩みを解消することができません。だから、私たちは、1人の女性や男性を、三人組の応援団が対応する仕組みを採用し、多面的な課題に対応できるようにし、必要に応じて専門家へエスカレーションするようにしています。応援団三人組の構成は、医療従事者や職業として保育や教育の経験が長い人、2-3歳の子供を子育て中の人、まだ出産、育児経験はないが応援したい人の3つの属性の人たちで構成しています。
3)利用者も地方自治体も無料で利用できる仕組み
多くの地方自治体は、市民の出産、育児に関する課題を解決に取り組んでいますが、個別に仕組みを構築すると、個別に費用が発生するため、全体で見たとき、費用面で実現性に疑問が出ます。今起きている課題をすぐに解決したいと考えた場合、私たちが先行して仕組みを作り、その仕組みを多くの地方自治体を介して、当事者に紹介してもらうモデルで提供しています。地方自治体も利用者も費用は発生しないモデルです。このモデルを実現するために、2021年9月にクラウドファンディングを行い、387名から430万円の支援を頂いたことで、サービス開発を進め、実現しました。
4)プライベートな悩みに対応できるような仕組み
妊娠、出産、育児の不安や悩みは、プライベートな内容が多いため、個別に対応する必要があり、トークルームを利用者ごとに開設し、応援団も情報共有の範囲を限定することで、プライバシーを仕組みで守っています。また、両親との関係、若すぎる妊娠、望まぬ妊娠などいろんな背景の人たちがいるため、個人情報は基本的に取得しておらず、匿名でサービスを利用することができるようにしています。
5)今出産、育児中の人たちを応援したい人たちをネットワーク化
子育てをしている人たちを応援したいと思う人は全国にたくさんいます。そんな人たちが「coe(こえ)」の応援団として、参加して頂いています。応援団は地域で子ども食堂や子ども向けイベント、両親学級などの産前産後ケアなどのしている人たちであり、「coe(こえ)」を通じてつながることで、子育てをしている人たちの多様な課題やニーズに応援団が提供するソリューションをマッチングすることで解決できることが増えると期待しています。
・どういう方にこのサービスを使ってほしいですか?
妊娠がわかったときから「coe(こえ)」に登録してもらい、応援団とつながり、社会のつながりを意識してほしいと思います。
何かあった相談ではなく、何もなくてもいろいろ会話することで、周りが大変な状況に気づける関係を作り、孤立を防ぎ、虐待や産後うつを社会のつながりで予防したいと考えているので。
また、地方自治体で何か産前産後ケアに取り組みたいと思っている方がいれば、「coe(こえ)」を活用し、市民の力で虐待や産後うつにつながる孤立を予防する対策を、一緒に考えていきましょう。
・このサービスの解決する社会課題はなんですか?
また、夫婦ともに我が子が赤ちゃんと触れる初めての経験という人が6割であり、ぶっつけ本番かつ二人同時に親になるという現実を、出産後に直面します。そして、社会との関係が希薄であるため、孤立するリスクが高く、その結果、虐待や産後うつ、さらには自殺という事象が発生します。
さらに、男性も家事、育児をする人が増え、女性も仕事をしながら育児をする人が増えており、時代が変わりました。社会がこれまでの考え、前提のままでは、子育てをする人たちが育児と仕事の両立で悩み、板挟みになるため、今の時代に合うように社会が変わらなければなりません。
つまり、出産、育児は男女共通の課題であり、共働き育児は社会の課題です。
当事者だけで出産、育児の課題を考えるのではなく、社会の課題と捉えて、子育てしている人だけでなく、子育てをしていない人、関係する周りの人たちを巻き込み、考えることが求められています。そして、個別のサービスではなく、仕組みで解決すべきタイミングにあると考えています。
・創業期に大変だったことは何でしょう?またどうやって乗り越えましたか?
2017年に起業しましたが、子育ては女性の課題である前提でいろんなことが話されており、男性の視点、社会の視点で考えるということが理解されませんでした。
ですので、男性が助産師や保健師にコンタクトすると、すごく怪しまれることが多かったのですが、COVID-19で里帰り出産できなくなった人たちを支援するプロジェクトを実施したり、それらの活動を冊子にしたりすることで、少しずつ関係を構築することができ、今ではたくさんの協力者に恵まれています。
また、この分野は福祉という側面で語られることが多く、ビジネスとしてアプローチしにいく状況でしたが、ヘルスケア、Well-beingという分野が立ち上がってきたことで、これらの文脈で話すことができるようになり、徐々に活動内容が理解されてきて、ようやくこれからというスタートラインに立った感じです。
・どういう会社、サービスに今後していきたいですか?
出産、育児の孤立を防ぐために、社会とのつながりを作る「coe(こえ)」は、今の課題に対応しているに過ぎません。本当に解決しなければならないのは、「大変な育児」という状況を、「楽しくて、大変」という社会を実現することと考えています。
これを実現するためには、
・出産、育児に関して当事者が無関心であることをどう改善するか
・無知のまま始まる子育てぶっつけ本番をなくすために、いかにして事前の知識会得やサポート体制を作れるか
・育児のストレスを自己申告ではなく、周りが気づける仕組みを作り、無理を可視化すること
が重要であると考えています。
社会とのつながりができた後は、産後の立ち上げや女性の産後の休息ができる仕組みを提供する計画を進めています。
いわゆる現代版の「産屋(うぶや)」です。
現在、別荘を民泊サービスで提供する企業、地方自治体、地域医療関係者と連携し、この現代版の産屋を実現するための準備を進めています。
・今の課題は何ですか?
出産、育児で大変な状況にある人が声を発しづらいい雰囲気があり、どこにその当事者がいるかがわかりにくいのが実情です。
加えて、育児が始まるまでは、それに対してほぼ無関心であるため、産前から必要な人たちとつながり合うことが難しい状況です。
一人でも多くの人たちと接点を持ち、産前から「coe(こえ)」でつながれるように、自治体へ協力をしてもらえるように打診しています。
現在は、平塚市(神奈川県)に協力を頂き、展開していますが、このモデルを他の自治体でも展開できるように準備をしています。
・読者にメッセージをお願いします。
出産、育児は男女共通の課題であり、共働き育児は社会の課題です。
会社であれば、部下や同僚に子育てをしている人がいれば、少し気にかけてもらい、自分ごととして出産、育児のことを考えていただければと思います。そうすることで、少しずつ社会が変わると信じています。
出産、育児を社会の課題と認識できないままであると、子育てが大変なままであり、子どもを育てたいと思う人が増えないので少子化も解決しません。
ぜひ少しだけ意識してみてください。確実に時代が変わっていますので。
会社名 | 株式会社こそらぼ |
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代表者名 | 久保主税(くぼ ちから) |
創業年 | 2017年1月 |
資本金 | 500万円 |
所在地 | 150-0002 東京都渋谷区渋谷3-5-16 渋谷三丁目スクエアビル2F |
サービス名 | 出産、育児の孤立を社会とのつながりで防ぐ仕組み「coe(こえ)」 |
事業内容 | 出産、育児の課題を解決するための仕組み作り |
代表者プロフィール | 私は39歳で父親となり、妻が38歳で母親になりました。 二人とも仕事中心の生活から、二人同時に親となり、ぶっつけ本番で育児がスタート。そして、妻は産後4ヶ月で職場復帰し、共働き育児となりました。 当然のことながら、これまでのようなペースで仕事をすることは難しくなり、いろんなことが予定通りに進まず、睡眠時間が極端に短くなり、精神的にも追い込まれていき、仕事と育児の両立の難しさに直面しました。周りの上司や同僚に、自分の大変さを説明し、相談しましたが、理解されず、「なぜ、お前がするの?」「そんなこと奥さんにやってもらえば」ということを言われました。お互いに仕事し、育児をしているので、相手も同じ状況ですので、そんなこと言える状況でないと内心思いながら、「そうですね」とも言えず、その場に気まずい雰囲気だけが残りました。 しかし、子どもが少し大きくなって、当時のことを周りで子育てしている人たちに聞いてみると同じように耐えていただけということがわかりました。 現代のような子育てが大変な時代を次世代に繰り越さないために、ライフワークとして取り組むと決意し、複業に株式会社こそらぼを起業し、課題解決に向けて活動中です。 |
カテゴリ | 有望企業 |
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関連タグ | こそらぼ ヘルスケア 久保主税 共働き 子育て 男性育休 育児 |
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