再委託における注意点とは?注意すべきポイントを発注元と委託先別に解説
トラブルになる危険性もある再委託。注意点をおさえたうえで契約を行おう
再委託は、事業を進める上で様々なタイミングで必要となります。しかし、近年の個人情報漏洩事件などでは、再委託が要因のひとつとなっているケースもあります。
再委託をトラブルなく有効に利用するためには、どのような点に気を付けるべきなのでしょうか。発注元・委託先の両者における注意点、再委託のメリット・デメリットについて解説します。
また、契約書に記載すべき例文も紹介するため、参考にしてください。
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この記事の目次
そもそも再委託とは?
再委託とは、委託契約や請負契約で仕事を受けている企業が、さらにほかの企業へ委託することです。ここからは、再委託の可否やメリット・デメリットについて解説します。
再委託の可否
再委託は原則として請負契約の場合は可能ですが、委任契約の場合は不可とされています。
請負契約では、仕事の完成を目的とするため、その過程は問われません。極論を言えば、発注元が望む業務がこなされば誰が行っても良いということになります。
そのため、基本的に再委託に関する制限はありません。
対して、委任契約では委託先に対する信頼を基にして契約を結ぶため、原則として再委託は不可とされています。
ただし、請負契約でも発注元に断りなく再委託をすることは、トラブルの元となります。
再委託に関しては、事前に契約書へ条項を入れておくことが不可欠です。
再委託が可能であっても品質担保やセキュリティ保持を目的とし、一般的には事前に書面で承諾を得ることが求められます。
また、発注元が再委託を希望しない場合、「再委託禁止事項」を明記することが必要です。
再委託のメリット・デメリット
再委託を許可する場合、仕事を高品質かつ効率的にこなせることがメリットです。
再委託をすることは、単純に作業する人数が増えることを意味します。そのため、1社でこなせない仕事量であっても受注につながるケースや、完成までの時間を短縮できる可能性があることが利点です。
また、請負先で技術が不足している場合でも、再委託によって技術力のある人に依頼できるケースもあり、結果的に仕事の質が向上することもあります。
ただし、再委託はメリットだけではありません。情報漏洩などの危険が増すと認識しておくことも必要です。
再委託がされると関わる人数が多くなるため、業務において必要な情報を知る人数も増えます。
そのため、発注元が保持していた技術や個人情報が流出するリスクも高まることがデメリットです。
他にも、複数社で業務を行うため、進行状況が見えにくいといった問題もあります。
再委託によってトラブルに発展するケースも
再委託は情報漏洩といったデメリットを抱えており、そこからトラブルに発展することもあります。
例えば、2022年に発生した個人情報の入ったUSBが紛失した事件では、受託業者が協力会社へ再委託をする際、発注元である地方自治体の許可を得ていなかったことがわかっています。
また、2014年に起こった個人情報流出事件は、再委託先の従業員が個人情報を抜き取って転売していました。
再委託によって、こうした事件に発展するケースもあります。
再委託先も含めて様々な情報に多くの人間が触れること、統制が取りにくくなることなど、再委託におけるデメリットが事件につながる危険性があることも理解しておくことが不可欠です。
再委託における注意点
再委託におけるデメリットからトラブルに発展しないためには、いくつかの注意点があります。発注元と委託先、また両者が気を付けるべき注意点を紹介します。
発注元が注意すべきポイント
まずは発注元が注意すべきポイントを解説します。注意点は主に以下の3点です。
委託先との契約書の条件・規定
再委託の可否や再委託を許可する場合の条件について、契約書に明記しておくことが必要です。
再委託について事前に取り決めをしておかないと、委託先が無断で再委託をしたり技術や情報が流出したりといった危険があり、トラブルになる可能性があります。
再委託を許可する場合であっても、事前に条件を決めておくことが重要です。
再委託先に対して秘密保持管理体制を徹底するよう義務付けるなど、条件を細かく提示することで、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
また、業務の全行程ではなく特定の一部分だけ再委託を認めるということもひとつの手段です。
そういったケースも契約書に明記することで、委託先との認識を揃えることができます。
再委託不可の場合は、「再委託禁止事項」を明記しましょう。自社に必要かどうかを事前に判断し、許可しない場合は禁止とする旨を契約書に記しておきます。
委託先と再委託先の契約書を確認
委託先と再委託先が結ぶ契約に関して、任せきりにしているとトラブルの元となります。
発注元と委託先が締結した契約書と同じレベルのものを結ぶよう、委託先へ働きかけなければなりません。
委託先が以前から取引きのある協力会社へ再委託を依頼する場合、すでに包括的な基本契約が結ばれていることが考えられます。
しかし、それでは内容として不十分なケースもあり、その穴をついたようなトラブルが起こることもあります。
そのため、発注元が契約を確認し、必要であれば修正の指示をするなど、3社で動くことがポイントです。
三次請けなど階層と各業務を確認
発注元と再委託先は、委託先企業を介して業務を進めるため、距離ができてしまいます。また、契約条件や業務によっては再委託先がまた委託をし、三次請け以上の重層構造になる可能性があります。
そのため、依頼した業務を誰が行っているのかがより見えにくくなってしまうことが難点です。
こうした状態のまま放置しておくと、運用体制の不備によって業務の質が落ちるケースや情報漏洩といった事件に発展しかねません。
安全に業務が遂行されるよう、発注元は委託先だけでなく再委託先も含めた情報共有に配慮することが必要です。
委託先が注意すべきポイント
次に、委託先が注意すべき点を確認していきます。主に2つのポイントにわかれます。
適切な再委託先の選定
前提として、発注元が再委託を許可している場合、再委託先の選定に関する責任は問われません。
ただし、再委託先が業務に不適切だと知っていながら委託先が再委託を依頼した場合、委託先に責任が問われるケースがあります。
これは、民法105条2項に定められている内容を基盤とした考え方です。
再委託を依頼する場合、業務遂行に適しているかを考えて選定することが必要です。
再委託先の監督義務について確認
先述した民法105条2項によると、業務の監督や結果における責任に関しては、基本的に発注元が責任を負うこととなっています。
しかし一般的なケースでは、再委託する場合、委託先に対して再委託先や再々委託先を管理・監督する義務が契約書に定められています。
そのため、再委託先の監督義務に関して確認しておくことが必要です。
例えば、個人情報を取り扱う業務の場合、再委託先に対して情報管理の教育ができていなければ、大規模な個人情報流出事件に発展しかねません。
業務を問題なく遂行するためにも、再委託先の監督は重要な役割です。義務となっているかを確認することが、トラブル防止と円滑な業務につながります。
両者が注意すべきポイント
発注元と委託先が共に気を付けるべきポイントについて解説します。著作権に関してなど、注意点は主に3点です。
著作権の扱い
トラブルになりやすい事案としてあげられるのが、著作権に関するケースです。
例えば、プログラム作成に関する業務で再委託を行った場合を考えてみます。
発注元と委託先の間で結ばれた契約では、著作権は発注元に帰属するとなっているにもかかわらず、再委託する際に再委託先との間では委託先に帰属するとされているケースがあります。
契約書にこうした矛盾があると、トラブルに発展しかねません。
また、そもそも契約書に著作権に関して明記していなかったり、再委託先へ帰属するといった内容で記してしまったりすることは、大きなトラブルとなる原因になります。
著作権の扱いには十分注意し、最初に契約を結ぶ際と再委託で契約を結ぶ際の両方で矛盾がないよう確認することが重要です。
情報共有と状況確認の徹底
再委託をして業務を行う場合、発注元と委託先が再委託先を放置してしまうことは大変危険です。3社で情報共有を徹底し、状況確認をすることが欠かせません。
再委託をすると関係する人数も増え企業間にも距離が生まれるため、情報共有が難しくなります。
こういった状況では、再委託先が規定を守らずに業務をしていても簡単には気付けません。すると、情報漏洩など大きな事件に発展する恐れがあります。
そのため、発注元と委託先が協力し、個人情報の管理環境や方法などについて再委託先を指導・評価することが必要です。
再委託先は、監視されているという意識を持つことでより規定を遵守して業務を行うことにつながります。
再委託先の管理
2014年に大規模な個人情報の漏洩事件が発生し、再委託先を厳しく管理することが発注元と委託先の両者に求められています。
委託先に関しては、再委託先が間違った業務や情報管を行わないよう、指導・監督することが必要です。
また、発注元との間に入り、3社が適切に情報共有を行えるよう配慮しなければなりません。
発注元は委託先に任せきりではなく、委託先・再委託先共に監督することが必要となります。
再委託先が情報漏洩事件を起こした場合、管理が不十分だったとして委託先だけでなく発注元も責任を問われます。
発注元と再委託先は契約において間接的な関係となるため管理するのは難しい問題ですが、委託先と協力して管理することが大切です。
【例文あり】再委託に関して契約書には必ず明記する
再委託に関しては、その可否に関係なく必ず明記しなければなりません。では、具体的にどのような内容を載せるのでしょうか。例文を含めて紹介します。
再委託不可の場合
再委託を許可しない場合は、「再委託禁止事項」の明記が必要です。具体的には、第三者に業務の再委託はできないといった内容を記載します。
再委託を一律禁止する場合の例文は以下の通りです。
【例文】
第○条(再委託)
乙(受託者)は、本件業務にかかわる各個別業務の全部又は一部を、第三者へ再委託することはできない。
再委託可の場合
再委託を許可する場合、いくつかの条件を付け加えておくケースがあります。その中で多いパターンが、再委託をする場合は事前に発注元の承認を得るといった内容です。
また、再委託を禁止している場合であっても、条件によって再委託が許可されるように契約するケースもあります。
何故ならば、再委託を一律禁止することはリスクをともなうからです。
委託先がやむを得ない理由で業務が遂行できなくなっても、一律禁止していれば再委託ができずに業務が進みません。
つまり、発注元にとってもデメリットとなる恐れがあります。原則的に禁止する場合でも例外を設けるケースがあります。
再委託を許可する場合の例文は以下の通りです。
【例文】
第○条(再委託)
乙(受託者)は、書面により事前に委託者の承認を得た場合に限り、本契約にかかわる委託業務の全部又は一部を、第三者に対して再委託できるものとする。
乙は、再委託先に対しては本契約において乙が負う義務と同等の義務を負うものとする。
乙は、再委託先の行為について再委託先と連携し、その責任を負うものとする。
事前に書面によって承認を得た場合に限り、再委託を許可するといった内容です。
なお、義務や責任の所在、業務内容によっては著作権などその他の必要事項も明記しておくことが重要となります。
まとめ
再委託は原則として委任契約では不可となりますが、請負契約の場合は可能です。
再委託をすることによってコストや効率が上がるといったメリットもあるため、状況によっては有効に作用するでしょう。
ただし、契約書に条件も含めて詳細を明記することが必要です。再委託は、業務管理や情報管理の面でデメリットもあり、情報漏洩といったトラブルに発展する危険もあります。
そのため、事前に条件を確認し、契約書に記しておくことが不可欠です。
(編集:創業手帳編集部)