企業価値は何を意味している?算出方法や高めるためにできることを解説

創業手帳

企業価値を高めることで、人にも社会にも求められる企業を目指そう


企業価値は、会社全体が持っている経済的な価値を意味する言葉です。
企業価値を算定するために使われている方法は、企業価値を資産から捉えるものや、将来的なキャッシュフローや市場の評価を基準にするものなど、多数存在します。

社会の中で企業に求められる役割は、今後も増加していくでしょう。
企業が安定して成長し続けるためには、企業価値を高めて社会に求められる存在になることが大切です。

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企業価値の意味やほかの言葉との違いを解説


世界には数多くの企業が存在しています。
星の数ほどの企業がある中で、顧客や取引先に選ばれるためにカギとなるのが企業価値です。

企業価値は社会における企業が持つ価値を表す言葉ですが、企業価値の意味や、事業価値や株主価値などのほかの言葉との違いを紹介します。

企業価値とは

企業価値とは、会社全体の経済的価値を示す言葉です。
企業価値の概念には様々な考え方があり、表現もそれぞれ同じではありません。
企業が持つ価値や魅力を測る指標として企業価値が使われていて、企業が将来的に生み出すキャッシュフローの価値の現時点での価値が企業価値であると捉えることもできます。

企業は様々な事業計画を並行して進めていて、それをひとつにまとめて企業価値であるとみなす考え方もあります。
貸借対照表でも多くの事業に関わる資産が計上され、それを会社ひとつの集合体とみなして価値を算定することも可能です。

企業価値が指標として使われているのは、M&Aやリストラなど経営戦略を実行するタイミングです。
その企業がどれだけの価値があるかは、経営判断において重要な要素であり、企業価値が高ければM&Aでも有利に交渉を進めやすくなります。

会社をこれから買収するとなれば、会社に価格を付けなければいけません。
また、株価の設定でも企業価値を材料に、ふさわしい価格をつけることになります。
つまり、企業価値は企業の値段であり、社会的な位置づけを測る物差しであるともいえます。

企業価値の役割

企業価値は、その企業が自社を守るための重要な意味を持ちます。
例えば、M&AやTOBの交渉で優位性を保つため、企業の破綻を防ぐためにも企業価値が重要です。

特に、近年は世界的な情勢や社会の変化、経済環境に多くの企業が影響を受けています。
環境が変化してどれだけの価値があるか、成長性や将来性がどれだけあるかを示すために企業価値が使われています。

社会の変化にともなって企業の責任のあり方も変わり、社会的な責務や企業倫理のあり方が問われる機会も増えました。
企業の社会における存在価値を伝えるためにも、企業価値によって、企業が持つ魅力や価値を可視化する必要があります。

企業価値の算出方法

企業価値の概念の捉え方には色々な種類があり、企業価値の評価方法も多様です。
企業価値の評価方法として一般的に使われているのが、「コスト・アプローチ」・「インカム・アプローチ」・「マーケット・アプローチ」の3つです。
それぞれを紹介します。

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、貸借対照表の純資産額を基準として企業価値を算出する方法です。
純資産は、資産から負債を差し引いて求められます。
コスト・アプローチには、帳簿上の純資産をもとにする簿価純資産法と、資産と負債を時価評価して計算した純資産をもとにする時価純資産法があります。

貸借対照表は、そもそも企業の財政状態を表すものです。
貸借対照表から算出するコスト・アプローチは、算定が容易で客観的にわかりやすい方法といえるでしょう。

主観的な要素が含まれず信頼性が高い方法なので、利用されることが多くあります。
知的財産やのれんなど無形固定資産を企業が保有している時には、無形固定資産の額をプラスして計算することもあります。

ただし、コスト・アプローチは将来の成長性や潜在的な収益力までを反映しているとはいえません。
企業清算の場面でもコスト・アプローチが使われていますが、将来的な価値が重要視されるM&Aには、ほかの方法のほうが適している場合もあります。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、その企業が将来獲得するであろう利益やキャッシュフローを基準にして、企業価値を算出する方法です。
インカム・アプローチの代表的な算出方法は主に3つで、DCF法・収益還元法・配当還元法があります。

DCF法(Discount Cash Flow、ディスカウント・キャッシュ・フロー)では、まず将来のフリーキャッシュフローを算出します。
フリーキャッシュフローは、キャッシュフローから事業を維持するためのキャッシュフローを差し引いたものです。
フリーキャッシュフローから、所定の割引をして企業価値を求めます。

収益還元法は、企業が将来生み出すと予想される収益を、現在価値に直して企業価値を算定するものです。
そのため、収益の変動が少ない企業のほうが正確に算出可能で、大きく変動する可能性があるベンチャー企業には向かないこともあります。

配当還元法は、株主に対する配当金を基準にして算出する方法です。
配当金の期待値を割り引いて企業価値を計算します。
ただし、配当に回せるような利益が出ていない場合に価値判定が難しいケースもあります。

インカム・アプローチは、企業の将来性を企業価値に反映できる点がメリットです。
現在、収益が少なくても、成長を期待できる企業であれば価値は高いといえます。

しかし、インカム・アプローチは、あくまで事業計画が実現できた場合の企業価値です。
将来の予測やビジネスの動向は、主観を反映しやすく、客観性に欠ける点に注意しなければいけません。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、その企業が上場企業の場合であれば市場株価を基準に、非上場企業であれば、類似の事例や同業他社を基準にして企業価値を算出する方法です。

非上場株式の場合には、複数の類似した上場企業を選んでから、利益や財務諸表を比較して計算することもあります。

マーケット・アプローチの計算方法は、市場株価法と類似会社比較法があります。
市場株価法は、株式取引の相場価格を上場企業の価値の基準として計算する方法です。
類似会社比較法は、未上場株式の価値を算定する時に使われ、業種や規模、ビジネスモデルが似ている上場を複数取り上げて、その株価を基準に価値を測定します。

マーケットアプローチは、公開されている指標をベースにして計算するため、客観性が高く、さらに市場の需要や環境を価値評価に織り込みやすい点が特徴です。
ただし、市場が常に正しいとは限りません。

風評被害のように実態がないものでも、市場は影響されて株価に影響してしまいます。
企業評価のタイミングによっては、実態にそぐわない評価の影響を受けて正しく評価できない場合もあるかもしれません。

さらに、非上場企業の場合、比較に使う企業の類似度が高ければ正確に算出可能ですが、規模や事業内容が似ている上場企業を探し出すのは困難な側面もあります。

時価総額との違い

企業の価値を測る基準には、多くの指標があります。企業価値に似た概念のひとつが、時価総額です。

上場企業の場合、時価総額は現在の株価に発行株式数をかけて計算します。
株価の総額から算出する株式価値の時価総額は、企業の価値を示す言葉ではありますが、企業価値とは異なるものです。

一方で、企業価値は、事業価値と非事業価値、有利子負債と時価総額を合計したもので、負債の価値も計算に入れます。
時価総額は、あくまで株主に帰属する価値として企業価値の一部分と考える方法もあります。

事業価値との違い

事業価値は、企業による事業活動からもたらされる価値です。
将来その事業で生み出されるキャッシュフローによって算出されるもので、貸借対照表には記載されない特許権や超過収益力を示すのれんといった無形資産も含まれます。
一方で、企業価値は、事業価値に事業以外の非事業資産の価値を含めた財務的な価値です。

株主価値との違い

株主価値は、株主に帰属する価値をいいます。
株主価値を計算するには、企業価値から借入金や社債のように株主以外から調達した他人資本である有利子負債の他人資本を差し引きます。
企業価値は、株主価値に負債価額を加えたものです。

企業価値を高めるメリット


企業は、ビジネスを適切に遂行するだけでなく、企業価値を高めるための行動も求められます。
しかし、「企業価値を高めたからどうなるのか?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
以下に、企業価値を高めることで得られるメリットをまとめました。

資金調達しやすくなる

資金調達する時には、会社が持つ価値や信用力が重要視されます。金融機関から融資を受ける時には、必ず審査があります。
審査でチェックされるのは、事業計画書や決算書類から見る企業の将来性や成長可能性です。
融資の可否や金額の材料として、企業価値の高さが有利に働くことは多いでしょう。

M&Aの条件が有利になる

企業価値は、高いほうがM&Aの時に有利に交渉を進められます。
M&Aは、企業価値をベースに買収価格を決定するため、企業価値を高めておくことで有利な条件を引き出しやすくなります。

自己資本が多ければ吸収合併で株式交換をする時にも交換比率は優位になるでしょう。
さらに、企業価値を高くキープすることは、買収から企業を守るためにも大きな意味があります。

M&Aについて、詳しくはこちらの記事を>>
M&Aとは?会社を買って起業するメリット・デメリット

取引先からの信頼性が上がる

企業価値を上げることは、外部からの評価を上げることにもつながります。
金融機関や取引先から安心して付き合い続けられると評価がされると、取引きやビジネスも円滑に遂行できます。
取引先と良好な関係を築けていたり、金融機関とも信頼関係が強かったりする企業は、トラブルへの対応もしやすく倒産リスクも低く抑えることが可能です。

上場企業の場合であれば、自社の企業価値を高めることは、投資家や株主に対して自社が優良企業であると示すことにつながります。
投資家にとっては、投資したい魅力的な企業であると評価されると、株価の上昇も期待できます。

企業価値を高めるためにできること


企業価値を高めることには、色々なメリットがあります。
しかし、いざ企業価値を高めるといっても何から手を付ければいいのかわからないと感じる人も多いかもしれません。
企業価値を高めるために、企業ができることをまとめました。

収益性を高める

企業価値を高めるためには、収益性の向上が欠かせません。
収益を増やす方法は、単純にいえば利益を増やすか、コストを削減するかに分けられます。
コストの削減は、短期的に利益を増やすために即効性がある方法のひとつです。
生産管理によってムダをなくしたり、アウトソーシングをしたりしてコストを圧縮する方法があります。
しかし、コストの削減は限界があるため、利益をより大きくするための施策が必要です。

具体的には、営業力の強化や、収益力が高い商品やサービスの開発が求められます。
また、どれだけ商品や営業力に秀でていても市場での競争に勝てなければ収益は上昇しません。
競合他社との差別化ができるような施策を検討し、自社の経営資源の強みがどこにあるかを分析して、他社と差別化を図りましょう。

業務を改善する

企業価値を高めるためには、業務プロセスが適切であるかも重要です。
生産部門や間接部門の業務プロセスを見直して、改善できる点はないか探してみてください。
業務プロセスを定期的に見直すことによって、商品やサービスの品質向上や労働時間の削減が可能です。

投資効率を高める

企業価値を高めるためには、必要がない資産を保有するよりも、投資効率を上げることを意識します
ポイントとなるのは、その資産がどれだけのキャッシュフローを生み出しているかです。
投資に対して見合ったキャッシュフローを生んでいなければ、資産を有効活用しているとはいえません。

投資効率を高めるために、まずは在庫や遊休資産に不要なものがないかを確認して、スリムな貸借対照表を目指します。
具体的には、在庫や買掛金を見直すほか、有利子負債のバランスが取れているかをチェックしてください。
また、売掛債権もできるだけ早期に回収したほうが投資効率は高まります。

見えない価値を高める

企業の価値は見えているものだけではありません。
人材育成によって、会社の基幹部分に優秀な人材を抱えておくことは、それだけで企業価値を高めるために寄与します。
従業員と企業のつながりが強い企業は優秀な人材が流出しにくく、企業風土や理念も浸透させやすくなる点も企業価値向上につながります。

見えない価値は、事業の収益性や財務の改善にも貢献する部分です。
従業員に対する投資や教育は、企業価値を高めるために有効な施策といえます。

まとめ

企業価値の算定方法には、様々な種類があります。
企業価値を測る時には、何のために測り活用するのかを考えて適切な方法を選ぶようにしましょう。

近年は、企業の社会的な責任が強調される場面も増えています。
企業は、ただ存続して付加価値を提供するだけでなく、投資家や利害関係者、社会からも価値を認められる必要があります。
中長期的にどのように企業価値を高めていくかを考えて戦略にすることが、企業が成長し続けるために必要です。

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(編集:創業手帳編集部)

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