林業で起業するには?林業の課題と起業の展望

事業承継手帳

林業は起業の選択肢となるか?新しい時代の林業と起業成功のヒント


林業で起業を検討する人に、林業での成功の可能性や林業の実態などを解説します。
林業は森林大国である日本で古くから営まれてきた産業のひとつです。また、ビジネスとしてだけでなく、地球や人々の暮らしを守る大義も持っています。

自然に触れて働くことができ、働く意義もある林業ですが、実際に始めるのは簡単ではありません。
どのような働き方や起業の仕方をすれば良いか、課題や対策も合わせて林業での起業を成功させる方法を知っておきましょう。

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林業とは


林業とは、山や森林に関わる仕事であり、その仕事の内容は多岐にわたります。
林業と聞くと、一般的には大木をチェーンソーで切っているイメージを抱くことが多いかもしれません。
しかし、林業では木を切るだけでなく、植林をし、木が成長するまでの長い間山や森林の整備や保全をすることも大切な仕事です。

林業で起業するにあたっては、林業の持つ意味や実際の仕事の内容などを理解することが必要です。
簡単に始められる事業ではありませんが、地球や人にも貢献でき、大変意義のある仕事でしょう。

林業の意味

林業には、ビジネスというだけでなく自然界と人間をつなぎ、安全な暮らしを守る重要な意味があります。
林業での起業を検討している人は、林業の持つ意味を正しく理解しておくことも必要です。

水源を守る

林業の持つ意味のひとつは、水源を守ることです。森は土壌に含まれる有機物や生物によって雨水の浸透率が高く、水質を浄化する効果も持つとされています。
林業従事者が整備を行い、森を健全に保つことで、水分を蓄える水源を守ることができます。

土砂災害の防止

山林の整備を行い、植林をする林業は、土砂災害の防止にも役立っています。
地中に張り巡らされた樹木の根が、土壌を山の斜面につなぎとめ、土砂災害から街を守ります
土壌の表面を覆う落ち葉や枝、雑草なども土砂の流出を予防するものです。

動物との共存

森林や山は、動物たちのすみかでもあります。森林や山を守る林業は、動物との共存を成立させるためにも必要です。
間伐などの整備を行い、森林や山に暮らす動物のエサとなる植物を育てることで、人里に動物が下りてくるのを抑える効果が期待されています。

林業の業務サイクル

林業の業務サイクルは長く、30年単位で行っていくのが通常です。自分たちの世代では終わらず、次世代へ引き継ぐこともあります。
長期にわたるサイクルを経て、山林の整備と木材生産を行うのが林業の基本です。

植え付け

植え付けは、林業の業務サイクルの1年目に行われることです。まずは、地拵え(じごしらえ)という作業を行います。
地拵えでは、元々あった樹木の伐採跡を片づけることです。その伐採跡を整えてから、苗木を1本ずつ植え付けます

下草刈り

植え付けた苗木が成長する間には、下草刈りという作業があります。植え付けた木々の周りに生えてくる草を刈り取る作業です。
そのままにしておくと、幼い苗木は雑草や雑木に負けてしまい、健全に育ちません。養分を奪われたり、日光を遮られたりして、苗木は枯れてしまいます。
苗木の枯れなどを防ぐために、2年~7年目まで下草刈りを続けていきます。

枝打ち

苗木の植え付けから8年目になると、枝打ちという作業が始まります。枝打ちも、木が養分を奪われずに健全に成長するための作業です。
枝打ちを丁寧に行っていくと、根元から上まで太さの揃ったまっすぐな木が育ちます。

枝打ちは、1本ずつ木に登り、枝を落としていく作業です。手間のかかる作業ですが、枝打ちを行うことで製材しやすい木へと成長します。
枝打ちは8年目~24年目まで続きます。

間伐

植え付けから25年が過ぎた頃からは、間伐を行っていきます。間伐は、育ちの悪い木を伐採したり、混み合っている場所の木を間引いたりする作業です。
一部の木を伐採することで、地表まで光が届くようになり、上記で解説した水源や土砂災害防止などの森の機能を高められます。
また、残された木は成長が促進され、木材としての価値も高まります。

伐採

30年を過ぎた頃から木の伐採が始まります。成長した樹木を切り、木材にする作業です。
樹木によって伐採時期は異なり、スギでは植樹から60年目頃からが伐採のタイミングです。

伐採は、重機を用いて作業道を作ることから始まります。その後、木を伐採して搬出していきます。
伐採されたあとは、丸太として出荷され、製材や乾燥などの工程を経て木材となるのが一般的な流れです。
また、伐採されたあとの土地も再び植え付けが行われて、また長いサイクルでの業務がスタートします。

林業に必要な準備

林業を営むためには、資格取得などのいくつかの準備が必要です。ただし、必要な資格は特に難しいものではありません。
起業の準備とは別に、林業を仕事にするのに必要な準備を紹介します。以下の準備があると、林業に従事しやすくなるでしょう。

チェーンソー・刈払機・小型車両系建設機械運転業務の講習受講

林業を営むためには、チェーンソー・刈払機・小型車両系建設機械運転業務の講習を受ける必要があります。
この講習は、特別教育・安全衛生教育と呼ばれるもので、座学と実習があり、規定の時間数を受講することが必要です。
教習所や森林組合などの団体で実施されており、受講すると修了証が交付されます。

この資格はプライベートのDIYなどでは必要ありませんが、仕事で利用する時に必要です。

普通自動車運転免許取得

林業では、普通自動車運転免許証もないと不便です。
多くの人が取得している資格ですが、一定期間の講習や試験をクリアしないといけないため、持っていない人は早めに準備しておいたほうが良いでしょう。
教習所費用は30万円前後かかります。

林業で起業する方法


林業で起業する方法としては、いくつかの種類が選べます。まったく林業に関わったことのない人、経験のある人など、自分のスキルや実績に基づいて選ぶと安心です。

林業の事業譲渡

第一に考えられる林業での起業方法は、事業譲渡が挙げられます。林業を営む事業者から譲渡を受け、その事業者が営んでいた事業内容を引き継いで運営します。
経営のリソースを引き継げるため順調なスタートを切りやすい反面、経営や林業の経験のない場合、その後の運営は簡単ではありません。

林業の事業内容には、山林の所有者から委託を受けて管理するものや自分自身が所有する山林を整備するものなどがあります。
前者の場合には、すでに整備されている良質な山林を効率良く手に入れることが可能です。また、山林と事業の後継者問題の解決にもつながります。

林業体験インターン

林業体験インターンは、林業や木材産業に関心のある人を対象としたインターンシップです。
主に地域への移住を検討している人を対象とし、実際に林業の体験をさせる取組みとなっています。
短期間の体験イベントではありますが、未経験者が実際の林業を体験し、さらに地元の林業従事者と交流を持てる貴重な機会です。

インターンイベントは、地方移住の情報サイトなどで探せます。林業体験と同時に林業を始める地域の情報収集もでき、林業での起業に一歩近づけるでしょう。

半林半X

「半林半X(はんりんはんえっくす)」とは、林業と林業以外の仕事を兼業する働き方です。
林業に従事しながらも、生計維持が可能なほかの仕事「X」を持ち、林業の収入の不安定さを緩和します。
半Xの部分では、林業の関連事業を営んだり、まったく別の仕事を持ったりすることも可能です。

山を整備することの必要性ややりがい、将来の林業への展望から林業で起業したいと考える人はいますが、現実的にはたくさんの課題があり、林業だけで生計を立てるのは簡単ではありません。
そこで、安定した収入源を確保しつつ、林業に取り組む「半林半X」を推進する自治体などが増えてきました。

自治体では、「半林半X」の実現のために、各種支援事業を実施しています。林業を営むための研修も受けられ、ほかの職種や業種からの参入も可能です。

林業の課題と対策


林業で起業する上では、現在抱えている林業の課題も理解しておく必要があります。林業の難しさや厳しい現状と、解決への模索についてまとめました。

林業の抱える課題

林業の抱える課題は、現場でのリスクや国内の木材市場の厳しさ、既存の山林主や林業従事者のあり方など、様々な面に及びます。

作業中の事故リスクの高さ

林業の課題として第一に挙げられるのは、リスクの高さです。林業の仕事現場は大自然の山林で、高所作業や危険な機材を使う作業、体力的にきつい作業も多くあります。
そのため、少しの気のゆるみが大きな事故につながることも少なくありません。

実際に、林業労働災害の発生率は他産業と比べると、全産業の中で最も高くなっています。減少傾向で推移しているものの、まだまだリスクの高い産業といえます。

外国産木材の輸入による衰退

日本の林業における経営上の課題は、外国産木材の輸入自由化による国産材の需要低下と価格の下落が挙げられます。
安くて一度にまとまった供給量が可能な外国産木材が本格的に輸入されるようになり、日本の木材は高く売れにくくなり、林業経営は苦しい状況に追い込まれました。

森林保有者の経営意欲の低さ

国産材の需要低下と価格下落によって、林業は採算の取れない事業となり、それにともなって森林保有者の経営意欲も低下しています。
林業離れによる後継者不足が進み、荒廃した森林が本来の機能を果たさなくなり、土砂災害のリスクにもつながることになりました。

林野庁のデータでは、8割の森林所有者は森林の経営意欲が低く、さらにその7割が主伐の意向も持っていないことを提示しています。
一方で、事業規模拡大の意欲のある林業経営者は多いものの、現実的には事業地の確保ができないという問題を抱えています。

林業活性化のための対策

林業での起業を検討する上では、林業の課題を解決し、林業をもり立てる対策を講じることが必要です。
現状の林業の衰退や困難な状況を打破するためにできることを考えてみましょう。

安全対策の徹底

林業を活性化するためには、まずはリスクの高い仕事場を変えることが重要です。安全対策を徹底し、安全に働ける仕組みを作らなければいけません。
林業でも全国の森林組合でリスクアセスメントの導入が進められており、職場環境の改善が期待されています。

リスクアセスメントとは、危険な個所を事前に見つけ、危険度を評価する方法です。評価により、対処法を講じることが可能となります。
従来の危険予知活動や指さし確認などの定着とともに、リスクそのものを減らすリスクアセスメントの導入で安全性の向上を目指すことが必要です。
また、チェーンソーの取り扱い指針に関する予防策の強化、車両系木材伐出機械での作業の安全対策強化なども行われています。

IT化でビジネスチャンスを広げる

IT化によるビジネスチャンスの拡大は、ほかの産業でも進んでいますが、林業にも使えます。
インターネットでの情報発信やオンライン販売などで、これまでになかった需要を見つけられます。

新しい価値・商品の創生

新しい価値や商品の創生も林業に秘められたビジネスチャンスを見つけるための方法です。
そのままの丸太を売るだけでは限られていた売上げを、別の商品へと加工することによって拡大していく戦略です。
また、林業自体を体験するツアーイベント化することもできます。

林業で起業したい人向けの支援・融資


林業で起業するにあたり、研修や資金調達などの様々な支援を活用することも必要です。林業で起業したい人が利用できる支援サービスや融資制度をまとめました。

林業で起業するノウハウは独学で身につけるのは難しく、様々な準備が必要です。また、林業をするためにほかの地域への移住を考えるなら、そのための資金などもかかります。
必要な準備を整えるために使える支援や融資制度を知っておきましょう。

全国林業改良普及協会

全国林業改良普及協会は、林業の改良のために普及活動を行う協会です。
実際の活動内容としては、林業の後継者を育成するためのインターンシップや相談窓口の設置などがあります。
相談窓口は都道府県にあるため、まずは近隣の窓口で相談してみるのも良い方法のひとつです。

農林漁業信用基金

農林漁業信用基金は、林業や木材産業などを開始する新規創業者への信用保証業務を行う団体です。林業で起業するにあたり、資金調達のサポートを受けられます。

緑の雇用

緑の雇用は、全国森林組合連合会が実施する林野庁の補助事業です。
林業や森林の担い手を育てるための情報発信を行い、それぞれの地域では説明・相談会を開催しています。
オンライン相談もあり、林業に従事するための移住相談なども可能です。

林業就業支援事業

林業就業支援事業では、林業体験研修や林業の現場見学、林業に従事するために必要な講習などを行っています。
オンラインで受けられる1日コースから実際に現場や仕事に触れられるコースまであるため、準備段階に合わせて受講できます。

林業経営育成資金

林業経営育成資金は、日本政策金融公庫農林水産事業の取り扱う融資制度です。
林業を営む個人と法人を対象とした制度で、人工林・天然林改良林・造林のための土地取得費用に使えます。
林業経営改善計画の認定を受ける必要があり、使い道には要件があるため、対象とならない場合もあります。

まとめ

林業は課題も多く、起業方法としては厳しい産業ジャンルであることは否めません。
しかし、地球環境や人々の暮らしを守り、自然の中で働くことにやりがいを見出せる事業として魅力を感じる人もいるでしょう。

林業に本気で取り組もうと考える人は、林業の現状の課題も見据えながら、ビジネスアイデアや働き方を選ぶことが必要です。
これまでの林業を変える対策を取り入れられれば、林業をもり立てられるかもしれません。

創業手帳の冊子版(無料)は、資金調達や事業計画など起業前後に必要な情報を掲載しています。起業間もない時期のサポートにぜひお役立てください。
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(編集:創業手帳編集部)

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