Deepwork 横井 朗|企業間の決済システムの自動化・効率化を目指す
電子帳簿保存法の改正に対応!国税関係書類を電子保存できるシステムをリリース
非効率なアナログ業務の自動化を目指し、国税関係書類の保管や請求業務の自動化サービスを提供しているDeepwork。
2022年1月の電子帳簿保存法の改正にも対応するシステムを通じて、書類の保管という付加価値を生まない業務に対する社会的負担の最小化を目指しています。
電子帳簿保存法に関する事業分野や、エンジニア出身の起業家としてのキャリアについて、創業手帳代表の大久保が聞きました。
株式会社Deepwork 代表取締役 Chief Executive Officer
1977年3月生まれ。東京工科大学卒業。2000年にエンジニアとしてのキャリアをスタート。2003年に株式会社ビーブレイクシステムズ(東証マザーズ上場)に参加し、業務システムの開発を担当。2015年には、株式会社クラビスに参加し、2016年より取締役・CTOに就任。この2社での経験を生かし、2019年に株式会社Deepworkを設立。企業間取引の自動化に取り組む。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
Deepworkが提供するサービス
大久保:まずはDeepworkさんがどのようなサービスを提供しているのか教えてください。
横井:弊社はDeepwork(ディープワーク)と申しまして、設立から3年ちょっとの会社です。オフィスは新宿にあるのですがたまに郵便物を取りに行く場所というイメージで設立以来完全リモートワークで運営をしています。
私は、今44歳なのですが、元々はソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、サービス開発や事業開発をエンジニアとして行っていました。
現在、Deepworkが提供しているサービスは大きく2つあります。
1.「invox電子帳簿保存」。
2022年1月に電子帳簿保存法の改正があり、全ての事業者が発行・受領した請求書などの書類の保存ルールが変わりました。
直前に2年間の経過措置期間(やむを得ない事情があると認められた場合)が発表されましたが、改正まで半年を切っても法改正についての認知度は低く、低価格で利用できる良いサービスもありませんでした。
そこで、2021年10月に、あらゆる国税関係書類を電子保存できる「invox電子帳簿保存」をリリースしました。
2.「invox受取請求書」。
もうひとつのinvox受取請求書は請求書の受取から入力、支払・計上処理を自動化するというコンセプトのサービスです。
電子帳簿保存法に対応する対象が受取請求書のみであれば、こちらだけで電子帳簿保存法への対応が可能です。
「invox電子帳簿保存」のサービス開始の背景について
大久保:では、今回は法改正で話題にもなっている「invox電子帳簿保存」のサービスについてお伺いできますか?
横井:まずは背景からご説明すると、弊社のinvox電子帳簿保存のサービスで取り扱う「国税関係書類」とは、自社が発行した請求書や見積書、注文書、納品書などの書類と、顧客から受け取ったこれらの書類が該当します。
電子帳簿保存法の改正により、PDFで届いたこれらの国税関係書類の保管方法を見直さなければなりません。
発行する見積書や、請求書は「販売管理システム」、契約書は「電子契約システム」など一部の書類は業務特化型のサービスでカバーできている場合もありますが、対象業務は広く、すべての書類を業務特化型のサービスでカバーするのは難しいのが現状です。
このように、カバーしきれない範囲に対し、すべての事業者が何らかの対応を検討する必要があります。
「invox電子帳簿保存」の3つの特徴
横井:「invox電子帳簿保存」のサービスの特徴をお話しさせて頂くと、大きく分けて3つのステップで、電子帳簿保存法への対応が行えます。
ステップ1 請求書などの書類を「invox電子帳簿保存」のシステム内に取り込む作業を行います。
書類がPDFなどの電子データで届く場合は、メールやGoogleドライブと連携して自動で取り込むことができます。
一方で、紙で届いた書類をスキャナ保存制度に対応させたい場合は、スキャンして「invox電子帳簿保存」のシステム内に取り込むことができます。
ステップ2 取り込んだ書類はAIによるデータ化や弊社のオペレーターによる入力が可能。お客様ご自身でデータ入力を行うことで、コストを抑えての導入も可能です。
ステップ3 データ化した書類の原本と登録データ、データの変更履歴などは、電子帳簿保存法に対応した形で最長10年間保管できます。
「invox電子帳簿保存」の2つのプラン
横井:現在提供しているプランは、「ミニマム」と「ベーシック」の2種類があります。
ミニマムの方は、セルフ入力でコストを抑えて改正に対応したい方へ向けたプランです。
ベーシックの方は、オペレーターによる入力で効率化しつつ、法改正に備えたい方へ向けたプランです。
どちらのプランでも、取込はファイル選択に加えて、メールやチャットからの取り込み、クラウドストレージとの連携など様々な形で取り込みが可能です。
入力に関しては、ミニマムプランではセルフ入力となり、ベーシックプランではオペレーターへの入力依頼が可能となります。
情報を訂正した時の確認処理(ワークフロー)はミニマムプランでは簡易的な1段階確認のみで、ベーシックプランでは本格的な複数段階での確認も設定できます。
弊社のシステムに登録して頂いたデータは出力も可能で、他のシステムへの移行やシステムを使わない運用に変更することもできます。
大久保:法改正に伴って、問い合わせは増えていますか?
横井:2021年の10月にサービスをリリースし、12月までの2ヶ月で大企業や中小企業など合わせて約2,000社からお問い合わせを頂きました。
法改正の内容を直前で知った方々が急いで対応しないといけないということもあり、驚くほどの反響でした。
業務システム導入からアプリ開発を経て独立
大久保:現在従業員は何名くらいですか?
横井:現在、30名ぐらいです。15名くらいがエンジニアで、カスタマーサクセス(セールス)とオペレーションマネジメントが5名ずつぐらい、あとはマーケティング担当、導入担当、管理部門が数名ずつという構成です。
大久保:横井さんが起業したのは、経理業務の効率化をやろうと思ったのか、法改正をチャンスと捉えたのか、どちらですか?
横井:私の経歴をお話しさせて頂くと、2000年にいわゆるITエンジニアとしてキャリアをスタートさせて、3年ぐらいどっぷりプログラミングをしていました。
その後、高校の先輩が創業したビーブレイクシステムズの創業期に参加して、基幹業務システム(ERP)と呼ばれる、比較的大きな企業が業務で利用するシステムの開発を行っていました。
ここでは、プロトタイプを作りお客様に提案、受注できたら実際に開発して導入するという事を行っていました。
プロジェクト管理などの一部分から始まり、最終的にはERPと呼べるような幅広い業務をカバーするサービスになりました。
自社サービスの開発は非常に性に合っていたのですが、業務システムの導入に関する業務は、色々な顧客に同じようなサービスを提供する側面があるので、10年を過ぎた頃に、そろそろ新しいことをやりたいと思うようになりました。
ちょうどそのころはiPhoneやAndroidのスマートフォンが台頭し始めた頃だったのですが、趣味でiPhoneやAndroidのアプリを作って、マーケットに出していたら、それだけで生活できるぐらいの収入が得られるようになったんですね。
そこで10年を区切りにビーブレイクシステムズを退社しました。
大久保:独立して、Artiという会社を起業したのですか?
横井:はい。でもこれは、起業というよりも、キャリアのマーケットにアプリを載せるために、法人が必要だったので、必要に迫られてという感じです。
会社勤務の10年間は、バリバリ働き詰めだったので、少しのんびりしつつ、その先どうするかを考える時間を設けました。
ビーブレイクシステムズは、当時20代のメンバーで作った会社で、私自身も経営に対して知識不足を感じていたため体系的にビジネスを学びたいと思い、2014年に大前研一さんが主催しているビジネス・ブレークスルー大学大学院に入学しました。
大学院で経営を学んでいる途中で、クラビスの創業者である菅藤さんと出会い、クラビスを手伝い始めました。
クラビスは当時、単独で上場を目指すスタートアップでしたが、資金調達の面で苦労しました。
クラビスでは会計事務所業界をターゲットとした事業を行っていましたが、税理士の方の平均年齢が65歳という業界で、スタートアップがWebマーケティングで事業を拡大していくのは非常に困難でした。
このような経緯で、単独での上場を目指すのは厳しいと判断し、2017年にクラビスはマネーフォワードのグループ会社になりました。その後も、私がいなくても大丈夫になるまで籍を置いていましたが、また新しい環境でチャレンジするという事はずっと考えていました。
離れるタイミングが近づき、あらためて私が一番世の中にインパクトを与えられるテーマは何だろうと考えた結果、それまで培ってきた業務システムや、非定型の書類をデータ化するノウハウを組み合わせた事業者間の請求業務の自動化にターゲットを絞りました。
今回の電子帳簿保存法の改正はこの後に出てきたことなので、最初は自分の人生の価値を最大化するには何をすべきかを考えていました。
大久保:横井さんの特徴としては、エンジニア出身で、色々な起業を経験しているということでしょうか?
横井:はい。ベースにはエンジニアとしての経験があると思います。
さらに、事業が小さい段階から、お客様への提案や、課題のヒアリング、コンセプト設計、最終的にシステムを導入して頂くまでの事業のライフサイクルをずっと見てきているのでそこは一つ大きな特徴なのかなと思います。
大久保:一般的には、営業出身の社長の割合が多いと思うのですが、エンジニア出身の社長としての強みや、逆にもっとこういうスキルや経験があれば良かったということはありますか?
横井:エンジニア出身だとサービスを作る部分は強いと思います。
営業出身の社長がエンジニアのことを理解するよりも、エンジニアが営業やお客様のニーズに寄り添う方が理解が深まりやすいと思います。
ベースにエンジニアとしての経験があって、営業とか提案の経験を持つとよりオールマイティなプレイヤーになれると思います。
大久保:今はエンジニアの確保が難しいと思いますが、その辺りの工夫などはありますか?
横井:創業から完全リモートワークにしているので、日本全国のエンジニアを採用ターゲットにできています。東京のエンジニアの獲得競争は年々過酷になっていますが、地方に目を向けるとまだまだ良い出会いの機会があります。
元々東京の最前線でエンジニアをしていた方が、家庭の事情で地元に帰りエンジニアの仕事をする場合、ニアショア開発の下請けだったり、古いシステムの運用のような仕事しかなく、物足りなさを感じているケースが多く存在します。
地元に戻り仕事があるだけでもありがたいと思っていたけど、フルリモートで働けるのであればもう一度チャレンジしたいとご応募いただくケースも多いです。
時間と場所に縛られずに働けると、人生がより豊かになりますよね。
大久保:創業当初からフルリモートを続けていると思いますが、リモートワークで組織を運営するコツなどあれば教えてください。
横井:リモートワークでも一体感を持って、チームとして価値を提供していくために大きく2つの事を心掛けています。
1つ目はコミュニケーションはきちんと取るという事です。
リモートワークだとコミュニケーションが希薄と思われることが多いですが、チーム単位での毎日15分の朝ミーティングや定期的なミーティングはもちろんですし、リモートワークだからこそ、決まった時間にパッと繋いで話せるので、むしろコミュニケーションは多い方だと思います。
2つ目は、業務を細分化しすぎないという事です。
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、オンボーディング、カスタマーサポート・・・と、業務を細分化して縦割りにしていくと短期的に効率は良くなりますが、自分の仕事が社会に対してどのような価値を提供しているかは見えにくくなり、組織間での利害の対立も発生します。
なるべく縦割りにせずに一人一人が幅広い業務を担当し、お客様とも接点を持つことで、すべてのメンバーが事業の全体を理解し、自分の仕事の価値も感じやすくなります。
本来、仕事は楽しいもので、そのような環境を作れば、管理などしなくても自律して働ける強いチームができると考えています。
日本のエンジニア業界について
大久保:日本のエンジニア業界についてどう思いますか?
横井:個人的にはSaaS(※)の分野はすごく面白いと思います。
元々私は業務システムの開発や導入を行っていましたが、大きなプロジェクトだと数年かけて1社の導入を進めることになり、現役の間にあと何社の問題解決ができるんだろうと考えていました。
※SaaS「Software as a Service」の略語。サービスとしてのソフトウェア。
しかし、今やっているSaaSの分野であれば、自分たちが開発したサービスでより多くのお客様の課題解決ができます。
目の前のお客様の課題解決も大事ですが、より多くの方の課題解決につなげることがエンジニアとしての価値の最大化につながると思いますのでもっとSaaSの分野に入ってきて欲しいと思います。
大久保:営業やマーケティング出身の経営者がエンジニアの方々と働く際に気をつけることや、エンジニアの方々のモチベーションを引き上げるコツなどがあれば教えてください。
横井:エンジニアがお客様と触れ合う機会を増やすと良いかもしれません。
エンジニアは希少で、開発に集中させたい気持ちもわかりますが、長期的に見ると、エンジニアがお客様を深く理解しているとより強い組織になります。
お客様から直接言われたり、お客様が困っている姿を見ると、エンジニアは自分が解決したいと思うんですね。
営業担当やカスタマーサポート担当とエンジニアは、どこの企業でも対立しがちなのですが、エンジニアがお客様を理解できていると「お客様の課題を解決するチーム」という感覚が持てるのではないかと思います。
新サービスの立ち上げは最小チームで
大久保:新サービスの立ち上げで重要なポイントを教えてください。
横井:私の場合は、可能な限り小さいチームでチャレンジをするようにしています。事業が計画通りすすむ事はほとんどないので、上手く行く前提で計画を立てないということです。
最小チームで取り組んで、サービスの成長スピードを見ながら組織の成長スピードのバランスを取ります。サービスが先に成長しすぎると人が足りなくなり、組織が先に成長しすぎるとコストが高くなりますが、私の場合は、サービスが先に成長するまでコストは抑えて、組織を大きくしないということを心掛けています。
組織が追いついて来るまでの間は大変ですが、その方が工夫も生まれますし、人も成長して筋肉質な組織が出来ます。
大久保:最後に、今後の展望について教えて頂けますか?
横井:今提供しているのは請求書の受取側のサービスですが、請求の発行から入金消込までを自動化する発行側のサービス開発を進めています。
個人事業主の方でも気軽に利用できる価格設定で、請求業務の発行・受領双方を自動化し、面倒な請求のアナログ業務からすべての事業者を開放できればと思っています。
(取材協力:
株式会社Deepwork 代表取締役 Chief Executive Officer 横井 朗)
(編集: 創業手帳編集部)