コロナ禍で資金繰りに必要なのは目先の売上げより経営陣のマインドチェンジ【松本氏連載その5】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年01月に行われた取材時点のものです。

倒産寸前の中小企業700社の再生を支援。9割の会社を成功に導いた“事業再生のプロ”松本光輝氏に聞く

倒産寸前の中小企業700社の再生を支援。9割の会社を成功に導いた“事業再生のプロ”松本光輝氏に聞く

コロナ禍で、多くの中小企業が踏ん張っている状況が続いていますが、7月に中小企業基盤整備機構が行った調査では、多くの経営者の方が「現在と今後のコロナ禍対策」という質問に対して「対策なし・今後の対策がわからない」という回答を寄せています。

中小企業の経営者が日々の経営、資金繰りに追われている状況は、松本氏の冷静な視点から見れば「どんぶり勘定」の経営によるものと映ることもあると言います。

そこにはどのような問題点が潜んでいるのでしょうか。

今回は多くの企業の経営再生を手がけてきた松本氏に、具体的な事例を上げていただきながら、利益の出ない経営体質の見直し、利益を上げられるビジネスモデルへの転換のために経営者が着手すべきポイントを語っていただきました。

松本光輝(まつもとこうき)

松本光輝(まつもとこうき)株式会社事業パートナー 代表取締役
1948年生まれ。独協大学経済学部経営学科を卒業後、飲食業の2代目として、バブル期には17店舗を経営し、年商8億円企業に拡大。バブル崩壊後に25億円の負債を抱え、自ら事業再生を経験。その際の知識、経験を生かして、2003年から事業再生専門コンサルタントに。17年間に請け負ってきた中小企業700社の9割を事業再生に導き、数多くの中小企業経営者を救済してきた。2020年7月、あさ出版より「社長! コロナを生き残るにはこの3つをやりなさい」を出版。

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薄利多売はもう古い?!付加価値には高値が付く!

薄利多売はもう古い?!付加価値には高値が付く!
大久保:松本さんは少なくとも3年後、2023年までは景気の悪化から逃れられない、元に戻るまでに10年は要すると見ていると話されていましたが、そうした苦境の中で中小企業はどのように活路を拓いていけばいいのでしょう。

松本:コロナ禍の状況で人々はさまざまな不安を抱えています。消費マインドが将来への不安で冷え込んでしまっている状態では、「今買わなくてもいい、この商品じゃなくてもいい」と思われたらモノは売れません。

「しばらくは数をたくさん売ることはできない」という前提に立ったとき、1個の商品・サービスの粗利益をいかに大きくするかということを考えなければいけません。現在の状況下では、数を売って利益を出そうと考えてはいけないのです。

資金や人材の乏しい中小企業の営業方法とは

大久保:従来と同じような営業活動を行っていては先行きの展望は開けないということですか。

松本:中小企業は大企業のようには資金も人材も十分ではありませんから、同じやり方はできません。少ない資金と人数で、どうすればお客さまを見つけて商品・サービスを買ってもらえるか、効率よく販売に繋げられるかを考えなければなりません。

広く網を張るよりも、“一本釣り”の方が効果があると考えるべきです。多くの人に売ろうと広告宣伝費や接待交際費を使うよりも、的を絞って特定の相手に向けて営業活動を行っていくことが大切なのです。

少ない数で多くの利益を出すためのビジネスモデル

大久保:少ない利益で数を多く売るのが大企業のやり方だとすれば、少ない数で多くの利益を出すのが中小企業の生きる道ということですね。

松本:例えて言えば、大手の牛丼チェーンの隣りに「10席のカウンターだけで1杯1200円の牛丼の店」を出すようなものです。この10席のカウンターの牛丼店を一人の従業員で回せるように考えないといけません。

大手の牛丼チェーンでしたら、300円の牛丼を1杯売って営業利益は10%として30円。10席のカウンターの店は1杯1200円で売って、営業利益20%で240円を目指す。1杯売って240円の利益は大手牛丼チェーンの8杯分に相当します。

ということは、店の大きさは8分の1で済みますし、働く人の数も8分の1で人手不足も起こりません。お客さまには月に一度、自分に対するご褒美の日に来てもらえればいい。仕入れも在庫も売れ残りも少なくてすみます。こうしたビジネルモデルを設計することが大切です。

ビジネスモデルの「専門店化」が粗利益アップのカギ

ビジネスモデルの「専門店化」が粗利益アップのカギ
大久保:大量の消費が見込めない時代、粗利を高く取れるようなビジネスモデルを考えていかなければいけなくなるわけですね。

松本:どのような商品を扱っている小売店であっても、「専門店」の方が価格を高くつけることができるものです。大衆食堂のような形では価格を高く設定することはできず、1個の売上げで大きな粗利益を取ることができないので、量を売らなければなりません。

そのためには、人手や店舗、倉庫の広さ、多くの資金が必要になります。それだけ投資して思うような売上げが上がらなければ大きな損失を被ってしまうことにもなりかねません。

量は多くなくても1個の売上げ、1回のサービスで大きな粗利益を生み出す形をつくることが大切です。

運送業ならば、他の運送屋さんが運んでいないような物を運ぶ。車の仕様を特別なものにしなければならないので、簡単に他の会社が参入できないというメリットもあります。

建設業ならば、他社より優れた技術を活用できたり、狭小な建物専門、空き家専門リフォーム、アパート建設専門といったような形に特化するなど。

小売業ならば、一つの商品の専門店となって、そこに多くの種類を取り揃えることで差別化できます。バラ、チューリップ、ユリなど1種類のみの専門店という花屋さんがあってもいい。

コロナ禍で生き残るための付加価値の大きいサービス・商品を追及

大久保:従来の方法にとらわれずに、柔軟な発想で販売やサービスの形態を考えていく必要がありますね。

松本:「この会社、このお店じゃなければ満足できるものが手に入らない」と相手に思ってもらうことが大切です。買い手は売り手の希望価格で購入するしかない。理想を言えば、「欲しければ売ります」というくらいで。ビジネスはそうした理想というゴールに向かって走らなければ“雑魚商売”になって、いつまで経っても楽になりません。

もちろん、斬新なアイデアはすぐに真似されて、追随されることは避けられません。真似されることを承知で商品やサービスの開発を続けていかないとすぐに追いつかれてしまい、開発が止まった時点で、それまで上げられていた利益も止まってしまいます。

売上げを増やすには、「客数を増やす」「単価を上げる」「頻度を増やす」の3つの方法しかありません。今の販売先が必要な物を聞いて届ける。今の商品、サービスの値上げができなくても、お客さまの欲している物ならば大きな利益を取ることができます。

繰り返しますが、「1個売って多くの利益を得られる商品・サービス」を作ることが、コロナ禍の時代を生き残れることに繋がるのです。

利益の出なかった仕出し弁当製造会社が利益率の高い会社に生まれ変わった理由

利益の出なかった仕出し弁当製造会社が利益率の高い会社に生まれ変わった理由
大久保:松本さんが今までに手がけてきた案件の中で、大胆にビジネスモデルを変更して「専門店化」し、成果に繋げた事例というのを教えていただけますか。

松本:ある仕出し弁当を製造する会社さんのケースをご紹介します。パートを含めて従業員は30名近くいて、売上げがあるものの利益が少なく、銀行に毎月借入金の返済をするとわずかしか手元に残らないという状況が長く続いていました。ご相談を受けて、会社の状況を精査した結果、利益が出ない原因の指摘とその対策を提案しました。

基本戦略は、「“どこにでもあるような仕出し弁当”から“特定食の仕出し弁当”に変える」こと。その理由は「粗利益が大きい」「ライバルが少ない」という2点です。特定食は①糖尿病食②高血圧食③やわらか食④カロリー制限食⑤その他、と5つのジャンルに限定。

商品を購入してくれる相手を特定することで営業のターゲットが明確になりました。さらに、「先に利益あり」を基本にすることで粗利益が40%向上し、資金繰りがスムーズに回るようになりました。

大久保:大胆に商品構成を変革したのですね。どのような販売戦略をとられたのですか。

松本:既存の法人向けランチ弁当は段階的に縮小し、その代わりに糖尿病食として地域の病院に営業を行ったところ、反応は悪くなく、試験的に取り入れてもらえました。デイサービスの事業所や介護施設、ケアマネジャーにも営業をかけました。

「管理栄養士が考えた貴方のためだけのお弁当」というキャッチフレーズも功を奏して、緩やかであるものの着実に成果を上げることができました。

大久保:利益率も向上したのでしょうか。

松本:粗利益の向上施策として、弁当の平均単価を50%以上値上げした結果、原価率が60%から42%に低下しました。配達総数の減少によって人件費、配送費も抑えることができて。こうした積み重ねによって、販売量の増加とともに粗利益は右肩上がりで向上していきました。

再生のポイントは資金繰りと事業計画書

大久保:順調に進んだビジネスモデルの転換のようですが、途中で難題に直面したことはなかったのでしょうか。

松本:それまでの商品を段階的に廃止していきましたから、やはり当初は売上げの数字が減少した時期もありました。しかし、銀行に3ヶ月ごとに試算表を持参して状況説明を続け、理解を得ることができていましたので、銀行からの支援も受けて3年後には資金が回るようになりました。ライバル社が少ないので無理にダンピングを行わずに進められたことも成功の要因です。

このケースから学べることは、「必要とされるものを必要としている人に届ければ、そこに利益がある」ということです。ビジネスモデルの変更というのはなかなかできるものではありません。先が見えない不安が先に立ってしまう。だからこそ、しっかりとした計画を立てて、先が見えるような行動を取っていくことが大切です。

計画の実施にあたっては、弊社のコンサルタントが支援して作成した事業計画書を基に、着実に計画を実行に移していきました。中小企業の社長さん一人の「人脈力」だけではなかなかそこまでたどり着くことはできません。いかに有能な協力者を見つけていくかが鍵を握るのです。

売上げを増やさなくても利益が上がる仕組みづくりに必要なマインドチェンジ

売上げを増やさなくても利益が上がる仕組みづくりに必要なマインドチェンジ
大久保:資金繰りに追われている状況で、なかなかビジネスモデルの転換に踏み切るための一歩を踏み出すことができない経営者も多いと思いますが、松本さんの手がけた事例には勇気づけられますね。

松本:利益が出ていない商品を納品しながら事業を回している経営者の姿を数多く目にしてきました。まずはそれを止めることから考えましょうと。利益が出ないところではなく、もっと利益をもたらしてくれるところへ納品できる形を作っていかなければなりません。

そのためには、利益が出る商品と出ない商品の選別をしっかりとチェックすることが大切です。100種類の商品を扱っているのであれば、それぞれ原価計算を行っていく。私が携わるようになった会社の中にも、正確に原価計算していなかったケースが多くあります。在庫管理もおろそかになっていたことも。私から見れば、どんぶり勘定と言わざるを得ません。

私がいつも指導しているのは、在庫は年間売上げの12分の1まで。つまり、月商を超えてはならない。そのために、仕入れをどう見直していくか。その方法を指導します。

「売上げを増やさなくても利益は上がる」という仕組みづくりを2年間、徹底して行っていくことで、資金繰りが回っていくようになります。そして、3年目から売上げを増やしていく。商品の付加価値を上げることができていればそれは可能です。

従業員の人たちにも、今まで8時間かかっていた仕事をどうすれば6時間で仕上げることができるか。一つひとつの仕事をチェックして、具体的に見直して行ってもらいます。2年もすれば、それまでどんぶり勘定だった感覚が、見違えるように「経営思考」になっていき、そこから先の展望が開けてくると思います。

大久保:苦境の中でも経営に対する考え方を見直すことで活路を拓く方法は見つけられるのですね。経営者の方にとって勇気づけられるヒントになると思います。

次回は多くの経営者の方が直面している事業承継、後継者の育成という問題に関して、松本さんのお話をお伺いしたいと思います。

(次回へ続きます)

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(取材協力: 株式会社事業パートナー代表取締役 松本光輝
(編集: 創業手帳編集部)



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