ファンケル 池森 賢二|「10年間、業界から見向きもされず」に大企業へ成長 ファンケル創業者による常識を覆す創業ストーリー(前編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2019年08月に行われた取材時点のものです。

創業手帳代表の大久保が、ファンケル創業者の池森賢二氏に創業ストーリーを聞きました

(2019/08/12更新)

無添加化粧品、サプリメントをはじめとして、青汁や発芽玄米などの健康食品も手掛けるファンケルは、今や売上が1200億円を超え、過去最高売上を更新しています。時価総額も3200億円を超えており、その規模は三越伊勢丹やJフロントリテイリング(大丸、松坂屋、パルコ)に匹敵します。

そんなファンケルを創業したのが池森賢二氏。過去には事業の失敗も経験したものの、その常識を覆す独特な感性から1980年に同社を創業、無添加というこれまでにないコンセプトの化粧品を開発しました。そのきっかけは奥様の肌荒れだったといいます。
同氏は2003年に一旦代表を退いたものの、再度2013年に経営復帰、傾きかけていた業績をV字回復させました。

日本を代表する起業家であり、現在も経営の最前線に立ち続ける池森氏に、創業手帳代表の大久保がその起業の思い、起業家へのメッセージを聞きました。

池森氏が”企業成長の極意”と”ベンチャー支援にかける思い”について語る後編はこちら
成長の極意は創業の理念に宿る。原点回帰がキーワード。 ファンケル創業者・池森賢二氏の経営哲学(後編)

創業手帳の冊子版では、数々の起業家へのインタビュー記事を掲載しています。経営にあたり、注目の経営者がどのようなポイントに注目して事業を拡大させてきたかを知ることができるので、是非読んでみてください。無料で利用できます。

池森 賢二(いけもり けんじ)
(株)ファンケル代表取締役 会長執行役員 ファウンダー
池森ベンチャーサポート合同会社 創業者
1937年生まれ。三重県伊勢市出身。現在82歳。1959年小田原瓦斯(がす)株式会社に入社。73年同社を退職し、80年に無添加化粧品事業を個人創業。翌年、ジャパンファインケミカル販売(株)(現在の(株)ファンケル)を設立。
1999年に東証1部に上場。2005年、経営の第一線から退いたものの、13年に経営再建を図るべく経営に復帰。低迷していた同社の業績を大きく改善させる。
また、昨年11月には池森ベンチャーサポート合同会社を設立。未来を担う経営者の発掘・支援を積極的に行っている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

なぜ会社を作ったのか?「正義感」がキーワード

大久保:競争相手も多い化粧品で、なぜ創業しようと決断されたのですか?

池森:私が創業した80年代、化粧品には防腐剤や酸化防止剤など様々な添加物が含まれていました。私の家内もそうでしたが、肌の弱い方はそうした添加物からくるアレルギーで肌荒れをおこしてしまうのです。「化粧品公害」という言葉ができるほど多くの女性がこうした肌荒れに悩んでいる現状を目の当たりにしました。

しかし、そんな悩みを抱えた女性がたくさんいることを、当時の化粧品会社は疑問に思っていませんでした。「添加物は必要悪だ」というのです。「化粧品は女性に夢を売っている。見た目や、香り、立派な容器であることが重要だ」という考えが主流だったのです。

本来、美しくなるための化粧品で健康を害するなんてあってはならないことです。化粧品で不便、不安な思いをしている人を助けたい、それが私のファンケル創業の原点です。

起業には「この社会課題を解決したい!」というストレートな「正義感」が一番大切だと思います。

成功の方程式は「不」を発見するところから始まる

大久保:そのような問題意識から、「無添加化粧品」を生み出されたわけですね。難しかったのではないですか?

池森:化粧品公害で困っている方がいる、その原因は添加物である。では解決するにはどうすればよいか。シンプルに、「添加物の入っていない化粧品を作れば良い」と考えました。悪いものがあるなら、それを使わなければよいのです。

しかし、添加物を入れないと化粧品は腐りやすくなってしまう。そこで「化粧品が傷まない期間、つまり1週間で使い切れるサイズにすればよい」と考えたわけです。

当時市販されている化粧品の多くは100mlサイズが一般的でしたが、5mlの容器にしました。親指の高さほどの小さなサイズです。容器のサイズが大きいがゆえに防腐剤などを入れざるを得ないという、当時の化粧品業界の常識を変えたのです。シンプルに容器の大きさを変えただけですが、当時は画期的なことでした。

ファンケルの無添加化粧品は5mlの小瓶(バイアル瓶)から始まった

大久保:面白いですね。難しく考えるのではなくシンプルに考えることで、大きな課題を解決されたのですね。

池森:その通りです。

不便や不安など、お客様の「不」を発見できれば、それはチャンスです。そして、大事なのは物事をシンプルに考えてみることです。難しく考えてしまうと本質ではないところや常識にとらわれてしまう

お客様の立場でシンプルに考えてみる。試行錯誤の連続ですが、一番大切なことだと思います。

ファンケルの創業理念も「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」です。世の中の『不』に気付いて、それを解決する方法が見つかれば、すべて事業になる可能性をもっているのです。

池森流・成功の方程式

「不」の発見
   ↓
シンプルに考える
   ↓
ユニークな解決策

業界で無視された。それが良かった。

大久保:無添加化粧品を発売された時、他社の反応はいかがでしたか?かなり敵視されたのではないですか?

池森:敵視されるどころか、当初は全く相手にされませんでした。「(これまでの常識から考えたら)女性から受け入れられるわけがない、上手くいくわけがない」、そう思われたのでしょう。一目置かれるようになったのは、創業から約10年たってからです。

デパートの化粧品フロアに出店するやいなや、大手メーカーを抑えてNo1の売上を記録する、それも圧倒的な差をつける店舗が多く出るようになったのです。大手メーカーがファンケルの躍進を意識するようになったのは、それからですね。

つまり、私たちとお客様だけが無添加の価値を実感していて、他の化粧品メーカーはその価値に気付いていない。そういう状態が10年間続いたのです。長いこと相手にされなかったのがかえって良かったのだと思います。

常識に縛られていると新しいもの、新しい価値に気付くことができません。しかし、常識を変えるとそこにチャンスが生まれます。今は、時代の流れが早いですから、10年も放っておいてくれるということはないでしょうけど。

大久保:その後も売上は順調に伸びたのですか?

池森:そんなことはありません。一定規模まで来たとき伸びが鈍化し始めました。まだまだ需要はあるはずなのにという規模です。その時、「顕在需要」、つまり、肌荒れの原因が添加物にあることを知っているお客様だけがターゲットになっていたことに気付きました。こうしたお客様は無添加化粧品といえば、その良さをすぐに理解してくださいますからね。

ただ、添加物が原因だと知らずに化粧品を選んでいる潜在的なお客様の方がはるかに多いわけです。潜在的なお客様にもファンケルを知ってもらわなければいけないと思いました。

顕在顧客=すぐ買ってくれるが少ない
潜在顧客=啓蒙が必要だが数が多い

では、どうすれば知ってもらえるか、ファンケルの商品を手に取って試してもらうにはどうしたらよいかを考えました。
一つの方法が、「サンプルを有料で売る」ということでした。当時、「化粧品のサンプルは無料」が常識でしたが、それを有料にしたのです。

大久保:潜在顧客、つまり半信半疑な方に、サンプルを有料で売る、というのは一見するとセオリーに矛盾しますよね。

池森:そうですね。無料でサンプルを配ると「とりあえずもらっておこう」と考えるお客様も多く、結局使われずに終わってしまう。

逆に、肌荒れの原因が添加物だとは知らないお客様も、肌荒れを解決したいはずです。もう騙されないぞと思い込んでしまっているお客様も多い。でもどうしたらよいか分からず困っていらっしゃる。
そこで、肌荒れによい化粧品を「本気」で見つけたいお客様に対して、トライアルセットとして有料で販売したのです。ただし、価格は仮に肌に合わなかった場合に負担を感じない程度の1000円にしました。

あえて有料にすることで、商品を使って頂きたいお客様に対して、より集中的にアプローチすることができます。単純に無料の場合と、有料でサンプルを提供する場合とでは、有料の方がお客様になっていただける確率が圧倒的に高いわけです。ここでも常識にとらわれずチャレンジしてみたのです。

新規のお客様を獲得する方法で悩んでいる方がいらっしゃったら、何かしら有料で試していただける方法がないか考えてみるのもよいかもしれません。

池森流・潜在顧客へのPRヒント

・有料と無料では、反応する人の質に違いがある
・少額でもよいので、試しやすいプランを作ると優良な顧客獲得に繋がる

信念や真心がないとお客様にすぐに見破られる

大久保:トライアルセットは当時革新的な方法でしたが、今では化粧品会社の間で一般的になっています。つまり、真似されてしまったということですよね。競合が現れることについてはどう考えますか?

池森:どんな業界であっても競合というのは生まれるものです。ただし、仮に大手メーカーだとしても、ただ表面的に真似ただけでは勝つことは難しいと思います。

例えば、ファンケルの躍進をみて、大手メーカーが無添加化粧品を発売したことがありました。「自分達の資本力とブランドでやれば圧勝だろう」と考えたわけです。でも、うまくいきませんでした。彼らは元々添加物の入った化粧品を売っています。そこに無添加の化粧品を出しても説得力がないですよね。これまでやってきたことと矛盾が生じているわけですから。

単純に表面だけ真似しようとしても、根底に信念や真心がないと、お客様には見破られてしまう。本気でやっているところには絶対に敵わないのです。

また、常にお客様視点に立ち事業を進めていれば、仮に真似されても、さらにその先にいくことができます。決して追いつかれることはありません。逆に、新たに事業を始めるときには、成功しているから真似しようとするのではなく、お客様の立場、お客様の心に寄り添ってこれまでにない視点からの事業構想、イノベーションを起こしていくことが必要なのです。

池森流・経営のヒント

・本気で事業をやっていれば、競合が出てきても勝てる
・真似では勝てない。勝つためにはお客様を思う信念と真心が必要

顧客と深い関係を築くには、「隠し事をしない経営」が大事

大久保:「常にお客様の視点に立つ」。本当に大事ですね。これについて、何か印象的な出来事はありましたか?

池森:ファンケルでは、常にお客様の視点で考え、悪い情報であってもお客様に対して決して隠し事をしないということを徹底しています。

過去に、口紅で採用した天然色素が原因でお肌にトラブルが出たというお客様がいらっしゃいました。その時、同じ口紅を購入されたお客様全員に、「天然色素が原因で肌トラブルが発生したお客様がいらっしゃいます。トラブルを感じられたお客様には返金させていただくので、是非、連絡して頂きたい」と呼びかけたのです。

大久保:一人のトラブルで返金ですか。ブランドイメージを考えるとかなりマイナスのように感じますが、勇気のいる決断ですね。

池森:問題が起きても事実を隠さず、逆に改善に向けて全力で取り組む姿勢を正直にお伝えしました。お客様に正直な会社なのだと信頼していただくことの方がはるかに大切です。正直でいれば、お客様と深い信頼関係を築くことができます。お客様にどれだけ深いファンになって頂けるか、そこが大事なのです

先程の口紅のトラブルが発生したとき、「私はアレルギー体質だから、トラブルになるような成分が含まれていないかどうか、私が実験台になります」とまで申し出て下さるお客様もいらっしゃいました。これには対応していた女性社員が感激のあまり泣いていたことを覚えています。

正直に続けているからこそ、深く共感してくださるファンが生まれます。ファンケルには、親、子そして孫と3世代にわたって愛用してくださっているお客様が数多くいらっしゃいます。本当にありがたい限りです。

大久保:ファンの数を増やすだけではなく、その信頼関係を深めていくのはビジネスでも大事ですね。“ファンとの関係×ファンの数”という考え方は、新たにビジネスを始めようとされている起業家にも役立ちそうですね。

池森:ファンケルも、最初は口コミからでした。家族が困っているからとか、友達が紹介してくれたとか、小さいところから広がっていきました。一人一人のお客様と真摯に向き合っていく中で、信頼してくださるお客様が増え、またその方たちが知人に紹介して下さる。
お客様との関係を深めることでお客様の数も増えていく、そうした好循環が生まれるのだと思います。

インタビュー後編では、ファンケル成長の要となった経営哲学や、池森氏のスタートアップ支援投資家としての一面に迫ります。

経営者のインタビューを始め、起業後の経営に役立つノウハウを1冊にまとめた創業手帳の冊子版も併せて参考にしてみてください。

(取材協力:池森ベンチャーサポート合同会社)

(編集:創業手帳編集部)



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