「麺の神様」から開業者へのアドバイス 「外食産業はどうなるか? オリンピックと海外事業」大和製作所・藤井薫×創業手帳・大久保幸世インタビュー(2)
国内外で、目まぐるしい変化をしていく飲食業界。今後を、藤井薫が斬る
(2019/12/05更新)
「行列の仕掛人」と呼ばれ、今や活動の場は国内のみならず海外にも及ぶ、大和製作所代表の藤井薫氏。わずかな移動時間の合間で、創業手帳代表・大久保幸世との対談に応じていただきました。二部構成でお送りしている対談レポートの第1回は「事業と起業の考え方」がテーマでした。第2回となる今回のテーマは、「海外の外食産業の動向」と、「日本における飲食業界の今後」について。外食産業のみならず、全てのビジネスに役立つ金言が満載です。
大和製作所 社長
1948年5月、香川県坂出市生まれ。川崎重工業で技術者として、航空機の機体設計、造船事業に従事。1975年に起業し、現・大和製作所を創業。創業当初は機械設計・製造・販売全般を行っていたが、製麺機の受注が多いため、製麺機に特化した。現在は、小型製麺機の販売台数で業界トップシェア。さらに製麺機の顧客が抱える課題を解決するべく2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任した。海外展開もしており世界を飛び回っている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
視察で見えた海外の外食産業のレベルと、日本の伝統的和食業態に対する危機感
藤井:ここ10~20年ほどの間で、すごいスピードで進歩したと感じています。特に私が驚いたのは、数年前にロンドンを訪れた時です。
藤井:その際に同行してくれた女性スタッフは、レストランで食事をとった時に、「15年前に留学していた頃よりも、俄然おいしくなっている」と感激していました。私自身は初めてのロンドン訪問でしたが、味の良さもさることながら、盛り付けや食器、店内の装飾に至るまで、店舗を形成するすべての要素に一貫したコンセプトがあること、さらに、それらがどれも斬新で、高いクオリティだったことに衝撃を受けました。
食文化の発信地と呼ばれるパリやニューヨークも視察しましたが、ロンドンほどの驚きはありませんでしたね。食文化に関しては、アメリカやフランスよりも後発で進歩を始めた国だからこそ、それらと差をつけるため、短期間で独自の進化を遂げることができたのだと思います。
藤井:おっしゃる通り、和食は今でも人気があります。しかし、海外で和食ブームが起こった頃に開店し、繁盛していた正統派和食レストランのほとんどが姿を消しています。それを目の当たりにした時、和食の味が世界の各国で周知された今となっては、料理の味や盛り付けの美しさだけでは生き残れなくなったのだな、と感じました。
また、現在の海外における外食産業では、店舗プロデューサーやインテリアデザイナー、果ては演劇の脚本家など、飲食業以外の専門家も手を組み、まったく新しいコンセプトを生み出すことが、当たり前に認識されている「成功の法則」になっています。
さらに私が驚いたのは、そうして繁盛した和食レストランで、日本人のスタッフを一人も見かけなかったことです。だからと言って、料理や空間づくりは日本人の視点から見ても決して的を外しておらず、高いクオリティで展開されています。
つまり、海外の人々は優れたマネジメント力で、日本人以上に、和食の良さを世界に発信しているということなのです。これには、素直に感銘を受けるとともに、危機感も覚えました。
今や日本では和洋折衷どのような食事も気軽に食べられるようになり、昔ながらの和食は、敷居の高いものになってきています。このまま手を打たないでいると、海外で姿を消した和食店のように、日本における和食自体が、過去の遺物として衰退の一途をたどるのではないかと思うのです。日本の経営者はもっと海外に目を向け、優れたマネジメント力を身に着けなければならないのではないでしょうか。
東京オリンピックでの需要増加の影響と、その後も長く事業を続けるための備えとは
藤井:オリンピックの誘致が決定した頃から、海外からの観光客が続々と日本へ訪れるようになり、飲食店が外国人客で賑わう光景を目にする機会が増えました。客数が増え、売り上げの上がった店舗は多いかもしれません。オリンピックが終わるまでは、まだまだ恩恵を享受できる可能性があるとは思うのですが、一方で、そうした「オリンピック景気」に様々な問題点が潜んでいることも事実です。
特に外食産業で影響が大きいのは、人材不足の深刻化です。これには、シンプルに店舗オペレーションの人手不足だけでなく、増えゆく外国人観光客への対応ができるスタッフの供給も足りていないという、両方の問題が含まれています。
藤井:無作為に人員を確保するのではなく、まずは外国人観光客向けの店舗運営を行うか、否かの判断をすべきでしょう。
業態によっては、既存の商品がすでに外国人観光客と相性のいいものや、期間限定のメニューを作るだけでも集客に繋がる店舗はあるはずです。逆もまた然り。外国人が多く訪れるということは、言語のみならず、口にする食材やマナーなど、私たち日本人とは全く違う文化を持った人々が店舗に来るということです。
既存のお客様への配慮もしなければいけませんよね。
業態自体が観光客向けでなかったり、外国人客への対応ができる体制を整えることが難しかったりするならば、無理に目先の利益を追うのではなく、堅実な営業をすることもひとつの方向性だと思います。
どちらの判断であっても、多くのお客さまに喜ばれ、受け入れられるためのアイデアを出しながら店づくりをしなければ、人材確保はままなりません。優秀な人材は、お客さま同様、魅力のある店舗に集まってくるのです。
藤井:一言でいえば「時代背景に合っている店舗」です。
一昔前に流行った500円のワンコインランチに代表される、薄利多売のビジネスモデルは、現代では通用しません。その要因のひとつとして挙がるのが、コンビニエンスストアの台頭です。一般的な飲食店より安価で、品質も日々向上しています。さらに、イートインスペースも設けて、外食への需要を取り込む方向にも力を入れており、ライバルとするにはあまりに強大です。
そんな中、外食産業でやるべきことは同じ土俵に上がって安売り合戦に挑むのではなく、女性やシニア世代をターゲットに、高価格(安くない価格)かつ高クオリティの業態でアプローチをかけることです。男性よりも健康や購買に対する意識が高い傾向のある女性は、良質な食材や、健康的な調理方法にこだわった店舗を選びます。また、シニア世代は貯えにゆとりがあることに加え、長年の人生経験から真贋を見極める感覚を持つ人が多い層です。こうした客層をターゲットに据えて、単価や客数、来店頻度を増やす工夫をすることが、時代背景に合う、魅力的な店づくりの一歩になることでしょう。
数々の店舗を見てきた知見と、培ってきた経営者の経験から生まれた、創業者へのメッセージ
藤井:新しく外食産業で開業する人に「26カ条」を伝えることで、新米経営者にありがちな失敗を避け、長く店を続けてもらいたい、という気持ちです。新規の開業者が多い外食産業ですが、同時に、早期の廃業も後を絶たない業界です。実際に私は、一時は飛ぶ鳥落とす勢いで繁盛しながら、それ以上のスピードで売り上げが落ちてしまった店舗や、経営の知識が未熟で、思い描いた店づくりをできなかった経営者をたくさん見てきました。
逆に、多くの企業努力を積み重ね、長い期間で繁盛を続けている店舗も数多く知っています。それらを見てきて、私なりに掴んだ「繁盛の法則」を、「成功するビジネスのための26カ条」という形でまとめました。
藤井:どれかひとつを、というのは難しいですが、この「26カ条」はそれぞれが「夢の大きさ」「情熱の強さ」「意志力」「正しい戦略」「忍耐力」という5つのテーマの、どれかに当てはまる内容です。
料理がおいしかったり、店舗がおしゃれだったりということも重要ですが、それらには価値観や使命といった経営者の思いが込められていて、的確なマネジメントでアプローチをしなければ、お客さまの心には響きません。経営に悩んだ時や、少し軌道に乗って初心を忘れてしまいそうになった時、「26カ条」に込められた5つのテーマを思い出し、心構えを正すことが重要なのだと思っています。
お客を惹き付ける力が最大の武器に! 「行列の仕掛人」が語る、事業成功のコツとは
藤井:カリキュラムは6~7日で、短期間でプロの経営者を育成することを目的としています。実習では、「勘」や「センス」といった曖昧な感覚値に頼らず、数値データを基にしたデジタル・クッキングによって、味がぶれることのない製麺方法を習得。さらに、商品開発やオペレーションなど、店舗を運営するうえで必ず通る、全ての工程も経験します。
また、座学では、実際に事業計画書の作成や商圏分析などを行い、開店後のシミュレーションを実践。料理だけでなく、アートやサイエンス、ユーモア、哲学(ポリシー)など、幅広い分野も織り交ぜたマネジメントの重要性を伝えています。
藤井:色々とお話しましたが、詰まるところは「人間力」に集約されると思います。経営者自身がその事業に明確な価値観や使命を持ち、コンセプトに反映できているか。それが「人間力」となってお客さまを惹き付け、長期間に渡って事業を続けていく原動力になるのだと思うのです。こんな話をしている私だって、まだまだ自分は成長過程だと考えているんですよ。常に「人間力」は磨き続けていきたいものですね。
(取材協力:
大和製作所 藤井薫)
(編集: 創業手帳編集部)