跡取り娘が日本を救う! 女性の事業承継のポイント

事業承継手帳

女性の事業継承者をコミュニティ化し、経営、メンタル面での支援をしたい

女性の事業承継
日本では創業とともに事業承継第二創業も大きな課題となっています。
創業手帳、創業手帳womanの読者の中には、承継や第二創業のケースも中にはあるでしょう。事業承継は、息子、娘婿、右腕(専務など家族以外)、外部から迎える、などがありますが、最近注目されるのが「跡取り娘」のパターンです。例えばホッピービバレッジやナガオカ、ダイヤ精機などのように、優秀な女性経営者にバトンタッチし、承継から業績を向上させたパターンも多く見られます。

大手証券会社から起業し、グロービス経営大学院や日本工業大学専門職大学院でも教鞭をとり、上場企業の役員やファミリービジネス支援などに取り組む、ソーシャルキャピタルマネジメント代表の小林博之さんからお話を伺いました。

創業手帳では新たに事業承継に特化したガイドブック「事業承継手帳」を発行しました。事業承継問題に関わる情報を多数掲載しています。無料で届きますので、あわせてご活用ください。

小林 博之(こばやしひろゆき)
株式会社ソーシャルキャピタルマネジメント 代表取締役社長
日本跡取り娘共育協会 監事
日本ファミリービジネスアドバイザー協会 執行役員
トーセイ株式会社取締役、東都水産株式会社監査役
日本工業大学専門職大学院客員教授、グロービス経営大学院教員
昭和女子大学キャリアカレッジ「跡取り娘養成コース」担当講師

東京大学(法)卒、カリフォルニア大学バークレー校MBA
日本興業銀行、みずほ証券を経て、2017年ソーシャルキャピタルマネジメントを設立、現職。企業戦略コンサルティング、ファミリービジネスアドバイザー、SDGs推進支援、企業研修など幅広く行っている。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください。

女性が事業継承するからこそ、うまくいくこともあるはず


ーご自身の会社以外に、大学の先生や上場企業の役員などもされていますよね。事業承継についてはどのようにかかわっておられますか?

小林:もともとは大手証券会社でウェルスマネジメント本部長をしていたときに、お客様に企業経営者が大勢いらっしゃったことから、そのようなお客様への支援の一環として、事業承継にも関与してきました。

独立後は、日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)での役員を務め、ファミリービジネスの事業承継をさまざまな角度からサポ―トする各種専門家のさらなる学びの場を提供したり、アドバイザーが連携・協働するためのコミュニティづくりをしています。後継者難がクローズアップさせる中でも、若い事業承継者がビジネスモデル変革に果敢に挑戦したり、M&Aや第二創業で会社を成長させているケースなども見られ、まさに後継者育成が最大のポイントだと感じています。

ー跡取り娘の相談や話も多いとか。事業承継の中で、跡取り娘という選択肢はどうなんでしょう?

小林:現在、日本の会社の経営者に占める女性は8%にとどまっています(帝国データバンク調べ)。とはいえ、この比率は毎年着実に増え続けています。従来であれば、長子相続といった古い考え方に基づき、「会社を継ぐのは長男だ」とか「女性には会社の経営者は務まらない」といった古い考え方もあり、女性が会社を継ぐことは非常にまれなものと考えられてきました。

しかし、現在では「娘に会社を継がせるのもひとつの選択肢」と考える親世代も徐々に増えてきましたし、娘さんの方もキャリアの中で後継者になるということを展望することも増えてきていると実感しています。

女性が後を継ぐという成功事例も増えてきていますし、娘の方が父親とのコミュニケーションもうまく取れてスムーズにいく場合もある、と言われることもありますね。

ー男性が継ぐ場合と女性が継ぐ場合で違いはありますか?

小林:女性が継ぐ場合に考えないといけない点、これは社会全体の問題ではありますが、大きく5点あるかと思います。

まず第1に、親世代で(変わりつつあるとはいえ)「娘に継がせる」との意識を持っていない人が多いこと。

第2に、娘が会社に入って後継に向けて準備をする過程で、総務や経理などの管理系のキャリアとなる場合が多く、営業、製造などを含めたマネジメント力をカバーしていく必要がある。

第3に、育児、介護、家事など、会社経営と並んでファミリーの中で果たす役割が多く、さまざまな立場のバランスを問う必要があること。

第4に、一般的に女性のコミュニケーション重視の良さに基づき、リーダーシップの取り方で男性経営者とちがった強みを発揮できること。

そして第5に、そのような違いがある中で、女性経営者(跡取り娘)がまだまだ少ないことから、ロールモデルを見出すのがむずかしい。

といったことが挙げられます。

事業継承は長期的な経営承継プロセス

ー創業も事業承継も、新しく社長になるという点では似ています。 似ている点と違う点を教えていただけますか?

小林:創業(起業)の場合にはゼロからのスタートです。ゼロから経営資源を集めて事業を起こすことになりますので、特に資金調達が大きなポイントにもなります。経営者が考えるべきことは、まずはビジネスの成功であり、一つのビジネスを創り上げていくことが目標になります。そこには引き継ぐ財産はありませんが、逆に引き継がないといけない負の財産もありません。

一方、事業承継の場合には、すでにさまざまな経営資源があることは、ゼロからのスタートとは大きく異なります。顧客との関係働いてくれる従業員これまでの経営で培われたノウハウなど、今後の展開にすぐに使っていけるものです。

しかし一方で、その分だけ考えないといけないものも多いのです。ビジネスだけでなく、ファミリー、オーナーシップ(自社株)をあわせた3つの要素が複雑にからんでくるので、これらを統合的にマネジメントしていくことが必要になります。プラスの面もありますが、逆に過去の負の遺産を引き継がないといけない、あるいはビジネスモデルを時代にあわせて変革していかないといけない、などチェンジマネジメントの要素も必要になります。事業承継を株式の承継と考えると「いつ株を渡すのか」という一時期のもののように見えるかもしれませんが、10年程度をかけながら腰を据えて取り組んでいく長期的な経営承継プロセスなのです。

女性の事業継承に心強い専門家さがし

ー事業承継で必要な専門家はどういう人でしょう?

小林:いま申し上げたような根本的な違いがありますので、事業承継を支援する専門家は、ビジネスファミリーオーナーシップの3つの要素(スリーサークルモデル)を的確に理解し、これらを統合的に考えてアドバイスすることが必要になります。

現在は、税理士や中小企業診断士などがアドバイスをさせるケースが多いですが、その中には自社株をオーナーシップの面からしか考えていない方や、ビジネスを考えるが背後にあるファミリーの問題にはタッチしようとしない人も少なくありません。実際の事業承継を行う経営者・後継者としてはそれでは一面的な見方でしかありませんので、これらの3つを総合的に見られる専門家、いわゆるファミリービジネスアドバイザーが求められています。

私が所属する日本ファミリービジネスアドバイザー協会では、この3つの要素を総合的にアドバイスする専門家の育成と、それらのネットワーク化を進めています。すでに200人を超えるメンバーが集まり、毎年どんどん増えています。

ー「跡取り娘」の事業承継を支援する上で必要な専門家という意味で違う面はありますか?

小林:事業承継の専門家ということで支援されている方は年配の男性が多いのですが、このような方々の中にはアンコンシャスバイアスを持っておられる場合も少なくありません。女性が事業継承する際の男性との違い、創業支援と承継支援の違い、などを的確に理解したアドバイスが必要です。

女性の良さがたくさんあります。父親の経営スタイルをそのまま引き継ぐ必要はありません。女性ならではのすばらしいマネジメントスタイルはありますし、それぞれの人の持っている強みを素直に活かしていけばよいこともたくさんあります。男性女性限らず、その人の良さを活かしたアドバイス、サポートができることが大事ですね。これは承継支援に限った話ではありませんが、自分の過去に縛られた独りよがりの支援ではいけません。

女性の事業継承者同士のコミュニケーションの場


ー女子大の先生として、跡取りの養成講座もされていますよね。経営者になる前に、身に付けないといけない要素でいうと何がありますか?

小林:はい、現在昭和女子大学キャリアカレッジで、「跡取り娘養成コース」という社会人向けのコースを担当しています。10代から50代まで、すでに社長になられている方から、まだ承継するかどうかわからないけれど親が経営者なので自分も勉強しておきたいという方まで、さまざまな意欲ある女性の方々が参加してくださっています。

今年で3年目になりますが、毎回感じるのはこの半年間で皆さんが大きく成長されるということです。スタートしたときには、「自分が跡取りなんて本当にできるんだろうか」「お父さんのようなカリスマ性もないし……」と躊躇しておられた方々が、半年後には、「自分は自分らしい経営をやっていきます!」「事業承継~経営はライフワーク!それなら楽しんだほうがいい!」と覚悟を決めて自信をもって宣言できるようになっていきます。

実は経営者になるうえで一番大事なのは、親に言われたからしかたなく引き継ぐ、他になる人がいないから自分がやるしかない、という受け身の承継ではなく、「自分が経営者になる!」「チャレンジしたい!」という気持ちになることです。この気持ちさえあれば、あとはビジネススキルも学ぶ気になればいくらでも学ぶ機会は作れますので大丈夫です。ファミリービジネスアドバイザーとは、こうした後継者に寄り添ってしっかり伴走し、そっと背中を押してさしあげる、そのような存在でなくてはならないと思います。

ー跡取り娘たちの悩みは何でしょう?

小林:FBAAや昭和女子大などを通じて、跡取り娘の皆さんとお話してきて強く感じたのは、「跡取り娘として同じ境遇で助け合い、励まし合い、悩みを打ち明け合える場が日本には存在しない」ということでした。それもそうです。まわりの友人には跡取り娘として会社の経営者になることを想定される方はほとんどいません。

地域で経営者や後継者の集まりに参加しても、ほとんどが男性。「女性なのにがんばっているね」と言われるか、お父さん世代の方々からお嬢さん扱いされることも。同じような立場で、跡取り娘として、お互いに支え合い、心理的安全性の整った場で自分たちの自己開示を行いながら、自分を見つめ、自己変革につなげられる場がほしいということですね。

ー「跡取り娘ドットコム」というコミュニティも運営されているようですが、その狙いはどういうことでしょうか?

小林:いまお話したような悩みを解消する志を同じくする人たちと一緒に、「日本跡取り娘共育協会」を立ち上げました。この協会が目指しているのは、「女性後継者の経営、メンタル面での支援を行いながらコミュニティ化することで、女性後継者の成長へと寄与すること」にあります。

まずは「こんなにすてきな跡取り娘がたくさんいるんだ」と知っていただけるように、ウェブサイトでインタビュー記事の配信を始めました。趣旨に賛同してくださる「跡取り娘」の経営者の方々がインタビューに応じてくださいました。石坂産業(環境リサイクル)の石坂典子社長、ダイヤ精機の諏訪貴子社長、ホッピービバレッジの石渡美奈社長など、多くの方々にお力添えいただいています。

跡取り娘のコミュニティも毎月行っています。ここは女性だけで安心して話せる場ということで男子禁制ですが(笑)。これからは跡取り娘の方々が一緒に学んで成長していける、マネジメントスクールを開始すべく準備を進めています。

女性の事業継承者に大いなる期待!

ー跡取り娘・事業承継される方へのメッセージをどうぞ!

小林:ホッピービバレッジの石渡美奈社長が「跡取り娘は、めったに手に入らない“社長になる”というプラチナチケットを手に入れているんですよ!」とおっしゃっておられます。私もそうだと思います。このチケットを持って、自分に自信をもって、社会をかえていってほしいなと思います。

8%しかいない女性社長が、倍増、3倍増になっていくことで、日本社会は大きく変わります。女性がトップになれば、会社はがらりと変わります。大企業が変化するより中小企業が変化する方が、動き出したら早いです。トップが変われば会社が変わる。そして日本の働き方やエンゲージメント、モチベーションももっと変わっていくと思います。「跡取り娘」が会社を継ぐことが普通のことになるように、皆さん一人一人の活躍を大いに期待しています!!

ーありがとうございました。

創業手帳が発行している「事業承継手帳」では、事業承継に関わるインタビュー他、様々な起業家インタビューを掲載しています。ご活用ください。

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