500 Startups Japan ジェームズ・ライニー 澤山 陽平|シリコンバレー発VCに聞く、日本のベンチャーが抱える問題点
500 Startups Japan ジェームズ氏・澤山氏インタビュー
(2016/10/07更新)
シリコンバレー発のベンチャーキャピタル、500 Startups。2015年11月に日本向けファンド500 Startups Japanを立ち上げ、投資先を拡大しています。
今回は、500 Startups Japanの代表・マネージングパートナーとして多くのスタートアップを支援されているジェームズ・ライニーさんと澤山陽平さんに、500 Startupsの投資方針や、シリコンバレーと東京を比べた時に見えてくる問題点、今後日本の起業はどうあるべきかについてお伺いしました。
500 Startups Japan代表兼マネージングパートナー。JPモルガンを経て、日本でSTORYS.JPを運営するレジュプレス株式会社を創業。その後、株式会社DeNAの投資部門にて、アーリーステージのグローバル投資を担当。500 Startups Japanには立ち上げから関わり、現在に至る。
澤山 陽平(さわやま ようへい)
500 Startups Japanマネージングパートナー。JPモルガンの投資銀行部門において資金調達やM&Aに携わった後、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの副主任研究員として、ベンチャー企業の調査を担当。2015年12月より現職。
「Lots of Little Bets」戦略で急成長
澤山:簡単に言うと、日本に埋もれている会社や創業者、技術に投資して、もっと伸ばすことです。
ジェームズ:日本では25件。500 Startups Japanとしては10件です。海外だと1,500~1,600件です。
澤山:一般的に、ベンチャーキャピタルの投資先は2~30社。でも、創始者のデイヴ・マクルーアは、ファンド設立当初から、「たくさんの投資をしよう」という方針で、社名に500とつけたんです。現在グローバルで1600社ほど投資していますから、「500」社の3倍は達成したことになりますね。
ジェームズ:私たちは、「シード」段階(起業したての状態)に投資します。シード段階ではまだ事業がどうなるか読めないので、失敗してしまう確率も非常に高いんです。だから、小さく・たくさん投資することで、リスクヘッジをしています。ベンチャーで成功するのは本当に一握りですから。
澤山:私たちは、この「小さな投資をたくさんする」方法を「Lots of Little Bets」と呼んでいます。
スタートアップの半分以上は失敗する
澤山:私たちの基本的な考え方として、スタートアップ企業の半分以上が失敗すると思っています。ベンチャーがユニコーン(※)に育つ確率となると、1%より低くなります。ですから、たくさん投資をして、そこから芽が出たところに追加投資をするという戦略を取っています。
※ユニコーン:1000億円以上に成長したスタートアップの呼び名。500 Startups内では独自に、100億~1000億円の規模の企業を「ケンタウロス」、10億~100億円の規模の企業を「ポニー」と呼んでいる。
ジェームズ:投資先全体の60%くらいは、リターンが生まれません。
澤山:そうですね。ざっくり言うと、投資したスタートアップのうち60%はゼロになって、20%は元本が返ってきたらいいかな、というくらい。残りの20%が、それこそ3倍・10倍・100倍・1,000倍に成長するんです。
澤山:小さくなりますね。「Lots of Little Bets」という言葉がまさにそれ。日本では、数千万円規模の出資が中心です。
ジェームズ:既に投資している案件で、本当に伸びしろがあれば、そこで5,000万~1億を追加として出すことも考えています。
日本はもっとM&Aを増やすべき
ジェームズ:日本の場合は、エグジット(創業者やベンチャーキャピタルが投資した金額を回収する方法)を「上場」に求める傾向が強いです。
澤山:エグジットは大きな違いですね。アメリカでは、90%がM&A(買収)でエグジットするんです。逆に、日本ではエグジットの90%がIPO(未上場の企業が、新規に上場すること)によるものです。私たちは、M&Aをもっと増やすべきだと考えています。
ジェームズ:日本は、何となく上場にステイタスがあるんですよね。しかし、この数年で日本も「M&A EXITもかっこいいよね」というロールモデルが増えていますから、それは良いことだと思います。
澤山:IPOによるエグジットだと、数に限界があって、増やしていくのが難しいからです。500 Startupsの存在意義にも関わりますが、私たちはエグジットを増やすことを目指しています。起業家が投資を受けてスタートアップを始め、成長した後にエグジットするからこそ、そのお金が投資家と起業家に戻って、それが次の世代の起業家へ回っていくからです。
このサイクルをもっともっと太く、早く回すためには、エグジットを増やすしか無いんです。実際、アメリカも昔はIPOが主でした。にもかかわらず、M&Aが中心になったことで、ベンチャーの数が増えたんです。これを、日本でも起こしていきたいです。
起業の多様性がスタートアップを変える
ジェームズ:あと、日本の場合は「社長が一生同じ会社に残る」という文化が強いと思います。アメリカは、「0から1を生み出す人」と「1を10に育てる人」で役割が分かれています。だから、日本の起業家(0から1の人)は、エグジットしたら次のチャレンジをしてもよいと思うんです。適材適所で、こういう人も尊敬される文化になれば、市場としてもっと拡大すると思います。
澤山:たしかに、日本の起業にはもっと多様性があってもいいと思います。私たちベンチャー投資の世界と関わりがなくても、着々と自己資本や融資だけで事業を進めていっても良いと思います。起業の方法も、ビジネスを生み出して、そのまま上場して日本を代表する会社に育て上げる方法もあれば、0から1の部分だけ行って、後は大企業に任せる「売却」を選ぶ方法もある。いろんな選択肢があって欲しいと思います。
ジェームズ:それは感じます。とてもよい傾向だと思います。
澤山:多様な起業の方法があると、もっといろいろなイノベーションが起こったり、幸せになる人が増えたり、いろんないい影響があると思うんですよね。
500 Startups Japanが挑む3つの目標
澤山:これから達成したいのは、「ベイエリアで培われたノウハウを日本へ輸入」「日本ベンチャーの海外展開」「グローバルなエグジットの増大」の3つです。そもそも、500 Startupsはシリコンバレーから生まれているので、そのノウハウやネットワークを日本に持ってくる、というのがまず1つ目。
ジェームズ:そして、しばらく日本から本当にグローバルといえる企業が生まれていないので、そういう会社の誕生を支援したい。これが「日本ベンチャーの海外展開」です。そのためには、日本ベンチャーのビジビリティを高める(可視化する)ことが必要だなと。
澤山:日本の情報は、日本語で書かれているので、世界からは見えにくくて、ブラックボックスになっているんです。ジャパンバッシングという言葉もあって、機関投資家から「なんで日本に投資するんだ?東南アジアに投資したほうが良いじゃないか」とか言われています。こういう流れを食い止めて、日本は、もっと素晴らしいベンチャーが眠っているということを世界にアピールしていきたい、という思いがあります。日本のベンチャーが海外から資金を調達したり、海外と提携したりという流れを作りたいと思っています。
ジェームズ:最後が、クロスボーダーM&Aを増やしたいということ。私たちの強みは、日本と海外との架け橋になるという部分です。これを活かしてクロスボーダーM&Aを増やすために貢献していきたいと思っています。クロスボーダーのM&Aには2通りの可能性があると思っています。まず技術系の「超グローバル」な会社。グローバルでナンバーワンになれるような会社を日本で育てて、海外のメガベンチャーや大企業に紹介して、エグジットに繋げたいです。もう1つが、「超ローカル」な企業。日本は何でも独自進化させて“ガラパゴス化”する傾向にありますから、海外から見ると参入障壁が高い。となると、海外のサービスを日本に展開する際には、買収のほうが現実的になるはずなんです。そこをつなぐ役割の人がいないので、私たちがそれを担いたいです。
ジェームズ:はい。特に、クロスボーダーのエグジットが増えていくと、それが黒船のように影響をもたらして、国内の大企業が日本のベンチャーを買収し始めるかもしれません!
(取材協力:500 Startups Japan/James Riney・澤山 陽平)
(編集:創業手帳編集部)