【第二回】「儲かる方程式」で日本の農業を救う!テラスマイルの強さを徹底解剖
IBMスタートアップ支援を受ける話題のベンチャーの、サービスにかける熱い思いとは
(2015/09/15更新)
農業×ITに挑むテラスマイル代表・生駒祐一さんのインタビュー第二回。多くの農家に支持されるサービスの強みには、まちづくりを愛する熱い思いがありました。農業を儲かる事業に変える独自のサービスと、テラスマイルを経営するに至ったこれまでの歩みについてお話を伺いました。
2010年 グロービス経営大学院(社会人大学院)経営専攻(経営学修士)、宮崎県宮崎市在住。大学(工学部応用化学科)卒業後、(株)シーイーシーにて 13年間、医療、FAの新規事業を担当。11年から3年間、宮崎の大規模農園(宮崎太陽農園 ミニトマト 3ha)の立上げ・運営に携わる。14年4月、農 ICT ベンチャー テラスマイル(株)を創業。
宮崎県フードビジネスアドバイザー(農業経営)、宮崎県6次化プランナー(経営・IT専門)、宮崎市広域連携協議会 専門委員(IT)など。ソフトバンクアカデミア(孫正義後継者プログラム)在学中。
テラスマイルでは、主に分析ツールを用いた農業・産地経営に関するアドバイス・効果シミュレーション・企業の新規事業アドバイスをサービスとして行っている。
また、農業経営ナレッジベース Tera Scopeの開発に着手している。
農家経営者に寄り添うサービスが一番の強み
生駒:大きく違うところを2つ挙げるとするならば、1つは農業のことを知っているということです。
農業×ITだと、どうしてもプロダクトを開発してから農家さんと接触するということをしなければならないのですけれども、僕らはすでに200人以上のネットワークがあるので、そこが強みだと思います。
2つ目に、僕らが扱っているものが、農家さんの収益が分かるというキャッシュの部分だということです。
私たちのサービスはITのツールを使って環境データを収集するためのものではありませんから入力の手間もかかりません。
生駒:3つの分析を組み合わせたものをサービスとして提供しています。
1つ目は、1年間のコンサルティング活動の中で、キャッシュフローのロジックを作ってきたので、10年市況のデータで「マーケット分析」をしています。
実は僕らのサービスの入力項目は出荷量だけで、入力するとデータを自動計算して、農家さんたちの状態と目標との差といったものが全部出てくるようになっています。
それを売り上げとか反収とかで出しますので、ピーマンはこの圃場での収益はこれくらいだというのを見せられるようになっています。
2つ目は、経営のファイナンスとアカウンティングを組み合わせ農業経営に対応させた「財務分析」です。公認会計士による監修も受けています。
3つ目は、産地コンサルタントが現場を見て、このロジックで行けるかどうかという実現可能性を提案する「現場分析」です。
スタートアップベンチャーの場合、本来はスケールを追求し、手離れよくサービスを設計するものですが、私たちは「地域」と「農業」という分野に環境適応し、重要なポイントは有識者の眼や知見で判断するように設計しています。
生駒:そうですね。実際に出・入荷量、消費者の消費動向を統計的にみると、この時期はもっと物があったら、胃袋が受け入れられるのに物が出ていない時期があると解るのです。
そういったものを「儲かる方程式」として産地に提供しています。
僕らの顧客は地方自治体が多いのですが、地方自治体の方が自分たちの産地・競争戦略を作っていかなければいけない時に、そのバックデータを持っていないからみんな困っているんです。
僕らに依頼すると、そういった多面的なデータが出てくるので、それを元手に政策を作ることができるんです。
私利私欲を捨てて邁進した結果が今
生駒:グロービス経営大学院に入った頃は、正直なところ年収1,000万円以上の会社に転職したいとか、
外資系の戦略コンサルタントになって力を発揮したいとか、どちらかというと私利的なものがすごく強かったのですが、グロービスで「志」を定めてからはどんどんマインドが変わってきました。
前の会社で農園事業をやっていたときは30人の農家さんを抱えていました。
家畜の伝染病の口蹄疫や新燃岳の噴火といった災害が起こる中で、これ以上赤字が続いたら、企業としては撤退するということでいいのだけれども、30人の農家の人たちは、子どもを抱えながら、働き口がなくなることになるのです。
これは何としても守らなければいけないと思っていたら、いつの間にか私利的なものはなくなっていました。
生駒:いろいろなところでテラスマイルが注目を浴びると、「ご活躍ですね」とか「時価総額が上がっていいよね」という話をもらうのですけれども、
別に創業者だからといって今の段階で個人の懐にお金が入るわけでもないし、必要とされているから自分は存在すると思っているので、得たものはこれからもどんどん地域に雇用や共同開発投資という形で還元していきたいと思っています。
今、自分やりたいように、働きたいようにやらせてもらっているので、それこそが生きている満足かなと思っています。
社長業の大変さと楽しさを噛みしめた1年
生駒:一言で言うと、社長の大変さというものが分かったというところです。
まず事業を作るところも大変だし、今までやったことのなかった銀行に融資を申し入れに行くだとか。
また、自分に部下がいたことはあったとしても、給料を払うという意識は持っていなかったので、そういう社長の大変さというのを自分で噛みしめた1年です。それは同時に楽しさでもありますね。
生駒:僕ら結構日々やることに追われていますが、夢に向かっていて、そこにお金をつけるみたいなところ、ヒト、モノ、カネをしっかり回すというところでしょうか。
組織としては、分析とシステム開発は完全に外部にお願いをしているので、営業をやりながら何でも屋としてプロジェクトを回して必要なところをアドバイス頂くという体制をとっています。
最初は大変でしたが、今は営業もできて、エンジニアもついてきたので、あとは自分の分身を何人作れるかが肝ですね。
生駒:今までは欲しいと思った人を一生懸命に口説くという一点突破でしたが、九州のみでは本当に人財集めに苦労してます。
一応、福岡を拠点に置いているので、そこで繋がってほしいな、という期待を秘めています。
即戦力となる中途採用と合わせて、農家さんとガッツリやっていく仕事なので、「農業やってもいいよ」ぐらいの勢いの若手を集めて、九州をぐるぐる回していきたい。
直近であと2~3人は一緒に会社のカタチを創る仲間を増やしたいですね。
チャレンジは大事、何のためにやるのかはもっと大事
生駒:いいですね!将来的に僕らのデータでやったら、これやったら儲かるという確証がとれますので、その時は産地と組んでやるかもしれません。
自分たちが企業参入してしまうかもしれないですけれども、ファイナンスのモデルがちょっと変わってくるので、やりたい気持ちはあるのですけれども、アドバイザーの方々からは、「いやいや、お前、ビジネスが違うだろ」って止められています(笑)
まずは、農業者の所得向上の推進力となるべく、データによる経営力向上に邁進し、データによるまちづくりが実現できた段階で、次を考えたいと思います。
生駒:チャレンジはしたほうがいいと僕は思います。
ただ、ちゃんと最初に考えておいたほうがいいのは、それをやるのは何のためかです。
そこをちゃんと把握しておかないと、「自分がこうだ」というのは多分長続きはしないというのが僕の心です。
ですから、世界とか人とか未来のためにかけられることをやりましょう・・・なんかお坊さんみたいな感じですね(笑)
(編集:創業手帳編集部)
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