扶養控除とは?仕組みや控除金額・配偶者控除との違い、年収の壁について解説
扶養控除の仕組みや条件とは?節税のためには控除対象者の収入にも注意
扶養控除は、所得税などの金額を決定するために使われる控除の一つです。
会社員でも個人事業主・フリーランスでも条件が合えば適用となる控除で、納税者が扶養する人の収入などが条件となっています。
収入と扶養についてはこの他に社会保険でも話題に出ることも多く、税制上と社会保険上の扶養で条件が混同しやすくなっています。
扶養控除について知る上では、二つの扶養をしっかり分けて把握し、条件や金額といった細かい決まりについて理解することが大切です。
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この記事の目次
扶養控除とは?
扶養控除とは、控除の一つであり、納税者本人に扶養する人がいる場合に適用されます。
扶養する人がいた場合、単身者よりも必要経費がかかると予想できるため、その分だけ収入から「差し引いて」納税額などを計算しようという仕組みです。
扶養控除を知るためには、その条件となる「扶養」に当てはまる人や年収を計算する上での手当の扱いまで知っておくことが必要です。
扶養の定義
扶養とは、自分で生活できない人に対して経済的援助を行うこと、または援助を受けることです。
つまり、子どもや年老いた親など、働けない家族を養っている状態が「扶養している」ということになります。
また、扶養家族になることを「扶養に入る」と表現することもあります。
扶養には、納税額の計算に関係する税制上の扶養と社会保険への加入に関する社会保険上の扶養があり、この二つは混同しやすいため注意が必要です。
適用される条件がそれぞれに異なっており、適用条件を間違えて対応すると扶養に入れなくなることもあります。
税制上の扶養
税制上の扶養とは、所得税や住民税の計算で用いられる扶養の考え方のことです。今回の「扶養控除」も税制上の扶養についての話に当たります。
所得税や住民税は、その人の所得金額に応じて算出されますが、その際に一人ひとりの状況に応じて様々な控除が適用されます。
その一つが扶養控除であり、所得税や住民税の控除に関することが税制上の扶養です。
税制上の扶養を適用されるためには、扶養にしたい人が年齢や年収などの条件を満たしている必要があります。
社会保険上の扶養
社会保険上の扶養は、所得税の扶養控除とは関係なく、その条件も税制上の扶養とは異なります。
社会保険上の扶養とは、本人の加入している社会保険に入れる扶養家族のことです。
例えば、子どもが親の、妻が夫の、社会保険上の扶養から外れると、外れた人は自分で社会保険への加入をしなければなりません。
社会保険上の扶養になる場合も、扶養にしたい人の年収が条件です。
社会保険上の扶養のルールは、年金制度改正法によって2022年10月・2024年10月の2段階で変更されることが決まっています。
加入条件が変更されることで、これまで社会保険上の扶養に入っていた人も扶養から外れるかもしれません。
交通費などの取扱い
交通費や通勤手当を支給する企業は多いですが、こうした手当の取扱いも税制上の扶養と社会保険上の扶養では異なります。
どちらの扶養も年収(所得)が条件となっているため、手当が年収に含まれるかどうかで適用の可否が変わる可能性があります。
税制上の扶養では、非課税の交通費、通勤手当は所得に当てはまりません。つまり、扶養したい人の年収は交通費、通勤手当を除く支給額で計算されます。
一方、社会保険では交通費も年収に含めて計算されます。その他、家族手当や住宅手当なども該当するので注意しましょう。
扶養控除を受けるための要件と控除金額
扶養控除を受けるためには年齢や収入といった要件があり、さらに年齢によって受けられる控除金額が違います。
養っている家族が適用されるか、また、いくら控除されるか、要件と控除金額をチェックしておきましょう。
サラリーマンの年末調整だけでなく、個人事業主・フリーランスも確定申告で控除を受けられます。
扶養控除の要件
扶養控除を受ける要件として注目すべきなのは、控除を受ける本人の情報ではなく、扶養の対象となる人の情報です。
扶養控除は、控除を受ける人の年齢や年収は関係ありません。これは、税制上の扶養はもちろん、社会保険上の扶養にも当てはまります。
所得税の扶養親族に該当する条件・対象
所得税の扶養親族に該当するのは、以下の条件を満たす人です。
年齢の要件は、平成22年から「子ども手当」の制度が実施され、15歳以下の子どもを扶養している保護者に対して一定額の手当が支給されたことで作られました。
-
- 16歳以上
- 6親等内の血族及び3親等内の姻族
- 同一生計
- 合計所得金額48万円以下
つまり、所得税の扶養控除を受けられるのは、生計を共にしている16歳以上の親族(民法上の親族も同じ範囲)です。
主にパートアルバイトで働くか年金を受給している人が当てはまりやすいでしょう。
所得換算で48万円以下に抑えなければ当てはまらないため、パートアルバイトの場合でもあまり稼ぎ過ぎると対象外になるかもしれません。
控除を受けられる年収の壁(年収ライン)とは?
扶養親族の対象になるには、合計所得額の条件があります。しかし、所得換算では年収いくらになると扶養控除の対象外になるか、わかりにくいものです。
例えば、共働きする配偶者や学生でアルバイトをしている子供を扶養親族の対象にしたいケースは多いでしょう。また、扶養親族に該当しても、被扶養者の年収により控除額は異なります。
この章では、控除の境界となる103万円・106万円・130万円・150万円それぞれの壁について説明します。
103万円の壁(2025年~123万へ引き上げ予定)
親族がパートやアルバイトなど給与をもらって働く場合、給与所得控除55万円(最低額)と基礎控除額48万円を合計して103万円を下回る年収であれば、所得税はかかりません。
所得税を納める必要のない収入の親族は、扶養控除の対象です。
※2025年の税制改正大綱が発表され、2025年以降は、103万円の壁が123万円へ引き上げられることになりました。
106万円の壁
年収106万円を超えると、社会保険へ加入しなくてはなりません。
主に家計を支える扶養者の被扶養者として、同じ社会保険へ加入中であっても、外れて個別での加入が必要です。
そのため、被扶養者として社会保険へ加入し続けるには、年収を106万円以下に抑えなくてはなりません。
以前は、従業員数が101人以上500人未満の事業所は、年収130万円まで社会保険への加入義務がありませんでした。
しかし2022年10月に社会保険制度改正があり、年収106万円を超えると加入が必要になりました。
その結果、同じ収入であっても社会保険料分が差し引かれる分、手取り額が少なくなると心配されています。
ちなみに、賞与・臨時に支払われた賃金や手当・時間外労働や休日労働、深夜労働の賃金・通勤手当や家族手当などは年収に含まれません。
130万円の壁
年収が130万円を超えた全ての人は、親族の被扶養者から外れて自分で社会保険へ加入します。
106万円の壁では一部対象外になる条件もありますが、年収130万円を超えると例外はありません。
年収130万円を超えてすぐに社会保険の被扶養者から外れるわけではないものの、長い間被扶養者のまま年収130万円を超えていると、通知が届きます。
被扶養者であり続けるには、年収が130万円を超えない範囲を把握して管理しましょう。
ちなみに加入する社会保険は、パートやアルバイト先の社会保険に加入して収入に応じた保険料を納めるか、または国民健康保険へ加入して、一般的に収入の15%程度とされる、国民健康保険と国民年金保険を納めるかを選べます。
150万円の壁
所得税上で被扶養者になれるボーダーラインが、年収150万円です。
扶養者が、「配偶者特別控除」の38万円を満額で受けるには、被扶養者は年収を150万円以下に収めなくてはなりません。
ただし、給与による年収で106万円を超えて社会保険への加入義務が発生する場合、社会保険料を抑えるために働き控えをするよりも、年収160万円を超えて働いた方が収入はアップする可能性が高いです。
扶養控除の控除金額は、扶養親族年齢で変わる
年齢により控除額が異なるので、以下の一覧表を参考にしてください。
なお、年齢はその年の12月31日時点でのものです。老人扶養親族は、長期入院する人は対象ですが、老人ホームなどへ入居している人は対象外です。
【年齢別の扶養控除額】
年齢 | 控除額 |
満15歳以下 | 0円 |
16歳以上19歳未満 | 38万円 |
19歳以上23歳未満(特定扶養親族) | 63万円 |
23歳以上69歳未満(一般の扶養親族) | 38万円 |
同居以外の70歳以上(老人扶養親族) | 48万円 |
同居の70歳以上(老人扶養親族) | 58万円 |
配偶者控除・配偶者特別控除とは?扶養控除との相違点
納税者に配偶者がいる場合、その他の扶養親族に対する控除とは異なる制度があります。
配偶者が働いており、一定額以上の収入がある場合は、配偶者控除と配偶者特別控除のどちらにあたるかの検討が必要です。
この章では、配偶者控除と配偶者特別控除の違いや受けるための条件、その他の控除と対象になる条件などを解説します。
配偶者控除・配偶者特別控除
配偶者控除とは、年間の所得額が48万円以下の配偶者がいるときに適用される控除です。
一方、配偶者特別控除とは、配偶者の年間合計所得金額が48万円を超えて133万円以下の場合に適用されます。
配偶者特別控除は以下の要件があり、全てを満たす場合に限り控除を受けられます。
-
- 納税者本人のその年の合計所得金額が1,000万円以下
- 配偶者は民法上のものであり、内縁関係ではない
- 配偶者のその年の合計所得金額が48万円を超え133万円以下
- 納税者本人と配偶者は生計を一にしている
- 配偶者は青色申告の事業専従者として給与を受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
- 配偶者はその他の親族の扶養家族として控除対象になっていない
- 配偶者が公的年金などを受給する者の扶養親族として控除を受けない
- 配偶者自身が配偶者特別控除を適用していない
特別配偶者控除が適用されると、納税者本人の合計所得金額と配偶者の合計所得金額により、控除額が決まります。表にまとめたので、以下を参照してください。
【配偶者特別控除の金額(令和2年分以降)】
配偶者の合計所得金額 | 納税者本人の合計所得金額 | ||
900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1,000万円以下 | |
48万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
そのほかの控除
その他にはどのような控除があるのか、見ていきましょう。
・勤労学生控除
勤労学生控除とは、高校・大学・高等専門学校など、学校教育法による学校へ通う学生が、アルバイトなどによって得た給与所得があるとき、本人が受けられる控除です。
学生本人の給与収入が年間103万円以下の場合、親族の被扶養者となり、扶養者は扶養控除を受けられます。
本人の給与収入が103万円を超え130万円以下の場合は、親族の被扶養者ではなくなり、学生本人が納税者となって勤労学生控除を受けます。
・寡婦控除
夫を離婚や死別によって亡くし、かつ「ひとり親」ではない方が受けられる所得控除です。配偶者控除と同様に、内縁関係の妻や婚姻関係を結ばなかったシングルマザーは対象外です。
しかし、一定条件を満たす場合、以下の「ひとり親控除」を受けられる可能性があります。
・ひとり親控除
ひとり親控除は、男性で妻と死別または離婚後再婚しておらず、納税者本人の合計所得金額が500万円以下、かつ生計を一にする合計所得金額が38万円以下の子どもがいる場合に受けられます。
扶養控除のメリット・デメリット
扶養控除は利用の仕方によってメリットだけでなく、デメリットが発生する可能性があります。
扶養控除を利用すること自体にはメリットしかありませんが、扶養控除の対象となるために余計な問題を抱える人もいます。
そのため、扶養控除の使い方には十分注意して、無理のない範囲で活用することが大切です。
メリット
扶養控除は、他の控除と同じように節税面で多くのメリットがあります。
控除は働いている人一人ひとりの都合に合わせて納税額を配慮する仕組みです。
そのため、メリットがあって当然ですが、具体的に何で得をしているか明確に知っておくことは大切です。
税負担の軽減
税負担の軽減は、扶養控除の最大のメリットであり、本来の目的でもあることです。所得税は年末調整や確定申告の際に控除され、その後、住民税の計算でも反映されます。
扶養控除の金額は38万円から63万円となっており、扶養親族の年齢に応じて所得から控除することが可能です。
また、扶養控除は扶養している親族の人数分だけ受けられます。
配偶者は配偶者控除などで別になりますが、子や兄弟、老親といった生計を共にしている人が多い分、所得控除が増えて課税所得が減ります。
所得税は、課税所得に対して課せられるものなので、少しでも課税所得を減らしておくことが節税には必要です。
扶養される側も所得税が発生しない
扶養控除の対象となる親族も、所得税が発生しません。そもそも、扶養控除の対象となれるのは少ない所得の人なので、非課税です。
扶養控除を使って世帯主の控除額を増やそうとした結果、家族全体でも所得税を抑えられるという結果になってもおかしくありません。
また、税金とは話は違いますが、社会保険でも扶養として入りやすく、その際には保険料の節約にもなります。
社会保険では、被扶養者となった人は、保険料を支払わなくても扶養者の保険に入ることが可能です。
デメリット
扶養控除を受けることや家族を社会保険上の扶養に入れることには、そもそもデメリットはないでしょう。
特に、扶養控除を利用して節税する本人には良いことしかありません。
しかし、親族が扶養内で働こうとすると多少の不便やデメリットが生じる可能性はあります。これは、扶養の範囲内で働く配偶者についても同様です。
もしも、扶養控除を受けようとした行動が裏目に出るようであれば、控除を受けない選択肢も考慮してみると良いかもしれません。
扶養親族が思うように働けない
扶養控除を受けるためには、親族は年収ラインを守って働く必要があります。
そのため、扶養の範囲内で働くことを意識するあまり、思ったように働けないと感じやすいかもしれません。
扶養控除の範囲内で働こうと思った場合には、主にアルバイトやパートで働くことになりますが、職場が忙しい場合には時間数を増やすことを提案されることもありますし、仕事が楽しくなったらもっと働きたいと思うこともあるでしょう。
しかし、扶養控除を受けるためには、年収や時間数を考えながらシフトを決めなければいけません。
本人も負担となりますし、勤務先のシフト担当者の頭を悩ませる恐れもあります。
扶養親族の勤務先が見つかりにくい
扶養控除を受ける前提で仕事を探そうとすると、勤務先自体が見つかりにくくなる可能性があります。
扶養控除の範囲内で働きたいと希望すると、採用の時点で躊躇されるかもしれません。
求人募集をする会社としては、少ない時間数だけ働きたいと条件を出す人よりも自由に働ける人のほうが魅力的です。
ちょうど時短勤務のパート社員を探しているのであれば渡りに船ですが、そうでなければ扶養控除の範囲内で済む仕事を見つけるのは普通よりも難しくなります。
扶養控除を受けるための手続き
扶養控除を受けるためには、サラリーマンなら年末調整、個人事業主・フリーランスなら確定申告での申し出が必要です。
控除は基礎控除以外、どれを受ける場合でも自己申告は必要となり、申告しないと控除を受けられません。
年末調整も確定申告も、納税義務のある人にとっては必須ですが、その中の手続きとして扶養控除の申告を忘れずにしましょう。
年末調整で「扶養控除等(異動)申告書」を提出
サラリーマンは、12月前後に会社で年末調整の手続きをしてくれます。
その際にいくつかの書類を提出することになりますが、その中の「扶養控除等(異動)申告書」に扶養控除対象者の情報を記載しましょう。
扶養控除等(異動)申告書は、控除対象配偶者、控除対象扶養親族の他、障害者や寡婦、ひとり親、勤労学生の申告などを記載するようになっています。
名前や続柄、生年月日、マイナンバーといった情報が必要です。また、16歳未満の扶養親族についても、住民税の計算で使うため記入する枠があります。
確定申告でも可能
確定申告は、個人事業主・フリーランスといった、年末調整ができない人が対象の手続きです。直接税務署に申告して、納税をします。
確定申告では、確定申告書第一表と第二表にそれぞれ記入欄があります。
申告書第一表には「所得から差し引かれる金額」の扶養控除欄に控除額の合計を、第二表には扶養親族の名前や続柄、生年月日、控除額を記載することが必要です。
書く用紙は年末調整と異なりますが、必要事項は同じです。
まとめ・扶養控除の仕組みを押さえてかしこく節税しよう
扶養控除は条件を満たせば、複数名に使える控除です。サラリーマンでも個人事業主・フリーランスでも使えて、節税に役立ちます。
扶養している家族がいる人は、控除対象者に当てはまるかどうか確認し、控除が受けられる場合には適切に申告しましょう。
配偶者控除との違いにも注意し、親族が適用される金額も条件と照らし合わせて正しく記載することが大切です。
さらに、創業手帳から「確定申告ガイド」が発刊されました。
確定申告に役立つ情報を盛り込み、全体の流れと申請のポイントをしっかり押さえておくことができます。こちらもご活用ください。
(編集:創業手帳編集部)