飲食店が迷惑行為に取るべき対策とは?大手の対応事例や増加の原因も踏まえて検討

飲食開業手帳

迷惑行為がSNSで拡散されるケースが多発しています!飲食事業者の方は予防策や対応を考えましょう

SNSの普及とともに、飲食店での迷惑行為が動画で拡散され、店に甚大な影響が及ぶ事例が増えています。飲食事業者の方は、迷惑行為を予防するための施策や被害にあった場合の対応を考えるべきです。

そこで今回は、飲食店がとるべき迷惑行為への対策について解説します。大手飲食チェーンの対応事例や迷惑行為が増加している原因などもお伝えするので参考にしてください。

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大手飲食店チェーンで起きた迷惑行為と対応の事例

まずは実際に飲食店でどのような迷惑行為が起こっているのか、大手飲食チェーンの事例を紹介します。各事業者の対応・対策とともに取り上げるので参考にしてください。

スシロー迷惑動画事件

2023年1月、スシロー岐阜正木店にて、男性客が醤油差しの口を舐めるなどする動画をSNSで配信する迷惑行為がありました。その動画は瞬く間に拡散され、「スシロー(ペロペロ)事件」として社会問題になりました。

この事件を受けて、スシローは該当店舗の備品(醤油ボトル等)の洗浄を実施。同店と近隣店舗で食器・調味料の提供方法を変更したほか、全店舗で注文された商品のみレーンに流す方式を開始しました。またSNSの公式アカウントでは、社長の署名入りで謝罪し、割引キャンペーンも実施されました。

加害者への対応に関しては、岐阜県警に被害届を提出。同年6月には、約6,700万円の損害賠償を求める訴えも起こしました。

吉野家での迷惑動画

2022年9月、大阪市住之江区にある吉野家で、男性客が共用の紅生姜を直箸で食べる動画をSNSに投稿。動画はすぐに削除されたものの、録画した他人によって拡散され、炎上しました。

吉野家は翌2023年3月、住之江署に被害届を提出。加害者2名が器物損壊と威力業務妨害の疑いで逮捕されました。容疑者はともに容疑を認め、「みんなを笑かしたいと思ってやった」などと供述したそうです。

本件について吉野家は、警察関係者に謝意を述べるとともに、客を不快・不安にさせたこと、外食産業の安全安心が問題となったことに遺憾の意を表明しました。

資(すけ)さんうどん

2023年2月ごろ、北九州市の人気うどんチェーン資さんうどんにて、男性客が卓上で無料提供されている天かすを共用のレンゲで頬張り、その迷惑行為の動画をSNSに投稿。動画は瞬く間に拡散され、大きな問題になりました。

運営会社の株式会社資さんは、同月2日にHPで福岡県警小倉北警察署に被害届を提出したことを発表しました。また店内での対応・対策としては、希望する客に対して個包装の天かす等を提供することを決めました。

加害者の男女(女性は撮影者)は、同年5月に威力業務妨害容疑で書類送検されています。

ほかにも迷惑行為の事例は多数

上記のほかにも、飲食店で迷惑行為が発生した事例はたくさんあります。以下、2023年に起こった代表的な事例を表にまとめたのでご確認ください。

年月 飲食店 迷惑行為の内容 対応・対策
2023年1月 はま寿司 少年が共用のガリを直箸で食べる動画がSNSで拡散、炎上 被害届を提出、加害者は威力業務妨害の疑いで書類送検
2023年2月 くら寿司 男性客がレーンの寿司を手掴みで頬張り、醤油差しに口をつけて醤油を飲む動画がSNSで拡散、炎上 ・迷惑行為を検知する新AIカメラシステムを全店舗に導入
・被害届を提出、加害者は威力業務妨害の疑いで逮捕
2023年2月 カラオケまねきねこ ・セルフサービスのソフトクリーム製造機から直接ソフトクリームを口に入れる動画をSNSで拡散、炎上(撮影は2022年11月)
・別店舗では、店内の除菌用スプレーをライターで引火させる迷惑行為の動画も拡散。
・被害届を提出、1件目は威力業務妨害、2件目は軽犯罪法違反の疑いで書類送検
・今後、民事訴訟も検討する方針を公表
2023年2月 いきなり!ステーキ 男性客が卓上のボトルに口をつけ、直接ソースを飲む動画がSNSで拡散、炎上(撮影されたのは2022年5月以前) ・公式サイトに文書を掲載し、遺憾の意や対応・対策などについて表明
・迷惑行為があったフードコート全店のソース容器を全て洗浄
・警察に相談した上で検討を進める
2023年2月 どうとんぼり神座
(ラーメン店)
舐めた割り箸を共用の箸立てに戻す動画がSNSで拡散、炎上 ・公式サイトに文書を掲載し、遺憾の意や再発防止策、今後の対応などを表明
・対象となりうる店舗の消毒
・箸や薬味等の個包装での提供
・水ポットは客が要望したときに提供
・警察と相談しながら、刑事民事両面での厳正な対処を明言

これらは2023年に発生した事例のみですが、昨今、飲食店での迷惑行為がいかに多いかがわかります。とりわけ目立つのが、飲食店での迷惑行為がSNSで拡散され、社会問題になるパターンです。

飲食店の迷惑行為が増えている理由

飲食店での迷惑行為が増えている要因としては、以下のような事柄が考えられます。

機械化やコロナによる従業員の減少

デジタル技術の発達により、店舗を機械化する飲食店が増えています。先ほどの事例に登場した飲食チェーンにも、セルフレジや注文用のタブレットなどが導入されています。

そうした機械で会計業務や注文業務などを自動化できるようになり、従業員の数が減ったことが、迷惑行為増加の一因でしょう。店員の目が届かない場所が増えたことで、悪質な行為や動画撮影がかつてよりしやすくなっています

また新型コロナウイルス感染症の流行下では、店舗の従業員数を減らして営業する飲食店が数多く見られました。そのため、コロナ禍も迷惑行為の増加の一因といえるかもしれません。

SNS、とくにショート動画の普及

2023年前後に発生した飲食店での迷惑行為のうち、主なものは全てインスタグラムやYouTubeのショート動画で拡散されています。InstagramリールやYouTubeショートなど、ショート動画の流行も、迷惑行為の増加に大きく関係しているでしょう。

迷惑行為が起こり、それがSNSで拡散されると、被害を受けた飲食店への影響は計り知れないものになります。そのため、迷惑行為自体だけでなく、その拡散も、考えなければならない問題です。実際、迷惑行為の当事者ではなく、その行為の動画をSNSにアップした者が逮捕される事例も出ています。

また若者を中心とした情報リテラシーの低さも問題です。「有名になりたいから」「面白いと思ったから」といった短絡的な発想で動画を投稿してしまい、大問題になるケースが多く見られます。

コンプライアンス意識の高まり

飲食店での迷惑行為自体は今に始まったことではなく、大きく取り上げられてこなかっただけで昔から数多く発生していました。それが社会全体のコンプライアンス意識が高まるとともに、社会問題として顕在化するようになったとも考えられます。

例えば、先ほど紹介した2023年2月ごろに立て続けに発生した事例も、10年前ならここまでの大問題にならなかったかもしれません。局所的なバッシングはあるものの、社会全体からは見逃されていた可能性は十分に考えられます。しかし、これからの世論はそうした迷惑行為を許容せず、加害者を徹底的に追求するでしょう。

また飲食店の対応についても、従来は被害届を提出したり、損害賠償請求に至ったりするのはレアケースでした。けれども2023年前後に起きた事例では、刑事・民事の両方で厳しく対応するのがスタンダードになっています

飲食店が迷惑行為でこうむる悪影響

迷惑行為によって、飲食店には以下のような悪影響が及ぶと考えられます。被害を最小限に食い止めるべく、各事業者は対策を講じなければなりません。

顧客からの信用を失いかねない

迷惑行為の動画などがインターネットで拡散されてしまうと、飲食物の衛生や品質について顧客に不信感を与えてしまいます。迷惑行為によって顧客が大幅に減ってしまう可能性も十分に考えられます

損害賠償請求によって被害金額は回収できたとしても、顧客減少による中長期的な損害は計り知れません。最悪の場合、閉店・廃業に追い込まれるリスクもあるため、迷惑行為を事前に食い止める対策を考えるのが賢明です。

対応に余計なコストがかかる

迷惑行為が発生すると、飲食店にはその対応のためにしなければならない余分な業務がいろいろと出てきます。店舗の運営形態の変更やHP等での対応策の周知、警察への相談など、全て迷惑行為がなければする必要のなかった業務です。

こうした対応にはコストがかかります。新たな設備や機材を導入することになれば資金が必要です。また人員(労力)や時間も余分にかかるため、飲食店の負担が増加することは間違いありません。大企業はともかく、中小規模の事業者では通常業務に大きな支障が出る可能性もあるでしょう。

株価の下落を招く可能性も

運営主体が株式会社であれば、迷惑行為によって株価が大きく下落する恐れもあります。実際、迷惑動画事件によってスシロー(親会社のFOOD & LIFE COMPANIES)の時価総額は一時170億円近く下落しました。スシローのみならず、株主までも大きな不利益をこうむったわけです。

迷惑行為によってステークホルダーからの信頼を失い、資金を集めにくくなることも十分に考えられます。このことからも、日頃から予防策を講じ、できるだけ迷惑行為が起こらないような店舗運営を心がけることが大切です。

飲食店の迷惑行為を予防するための対策

飲食店での迷惑行為を未然に防ぐには、以下のような対策を講じるのが良いでしょう。

調味料や食器などの提供方法を見直す

昨今の飲食店における迷惑行為の多くに、卓上の調味料や食器などが使用されています。醤油ボトルやソースのボトル、湯呑み、割り箸立てなど、客が卓上で自由に扱えるものを通じて被害が発生しています

そのため、そうした調味料や食器などの提供方法を変えれば、迷惑行為を防止できる可能性が高いでしょう。例えば、個包装や小皿で個別に調味料を提供したり、グラスや箸も注文に合わせて客ごとに渡したりといった対策が考えられます。

ただし、共用の調味料等を設置することで客の利便や満足が損なわれる可能性があることには注意が必要です。

動画撮影やSNS投稿にルールを設ける

飲食店での迷惑行為は、それが動画で撮影され、SNSで拡散されることによって損害の規模が大きくなります。そのため、動画撮影やSNS投稿を制限することも、迷惑行為の予防や被害の抑制に有効です。

例えば、動画撮影を許可制にしたり、ほかの客に迷惑のかかる撮影を禁止したりといったことが挙げられます。そうした指針・ルールを決定したうえで、公式サイトや店舗の張り紙などで周知すると良いでしょう。

巡回やカメラなどで監視を強化する

先述の通り、飲食店での迷惑行為が増加した背景には、従業員の数が減ったことで監視の目が行き届きにくくなったことがあります。そのため、監視体制を強化することも、迷惑行為の抑制に効果的です。

具体的な対策としては、従業員による巡回の実施、監視カメラの設置およびその周知などが挙げられます。くら寿司の「新AIカメラシステム」のように、独自のシステムを入れれば、監視の強化とともに話題性も出て一石二鳥です。

迷惑行為の被害に遭った場合の対処法

迷惑行為が実際に起きてしまった場合、刑事と民事の両面で厳正に対処するのがおすすめです。法的に毅然とした対応をすることで、顧客に安心感や信頼感を与えられるほか、さらなる迷惑行為を予防することにもつながります。

損害賠償請求をする

損害賠償請求とは、相手の不法行為等による損害に対して金銭的な補償を求めることです。不法行為によって飲食店の利益が侵害されたことについて因果関係が認められる場合、裁判の結果に基づき、相手から金銭を受け取ります。いわゆる「民事での対応」がこれに当たります。

例えば、スシロー迷惑動画事件の場合、スシローは加害者の少年に対し、6,700万円を請求すると言われています(2023年6月時点)。今後の裁判で、売上や時価総額の減少といった損害が当人の迷惑行為によるものと立証されれば、全額もしくは一部の支払いが命じられるでしょう。

損害賠償請求のメリットは、迷惑行為によって生じた損害に対し、加害者から金銭を回収できることです。また判決は加害者の人生に大きな影響を与える可能性が高く、次なる迷惑行為を牽制する意味合いもあります。

警察に相談、被害届を提出する

違法な迷惑行為が行われた場合、警察に相談するのも有効です。被害届を提出すれば、威力業務妨害や器物損壊などの容疑で、警察が捜査を開始することになります。違法性が認められれば、加害者が犯人として逮捕される「刑事での対応」です。

損害賠償請求と同様、刑事での対応も加害者に与える影響が大きいため、さらなる迷惑行為を牽制、予防する効果が期待できます。世間に対して毅然とした態度を示すことで、店舗や事業者の信頼度向上にもつながるでしょう。

また刑事事件に発展させることで、加害者が示談交渉に積極的になる、損害賠償請求で因果関係を立証しやすくなる可能性があるといったメリットも想定されます。そのため、度を超えた迷惑行為に対しては、民事・刑事の両面での対処を検討すると良いでしょう。

迷惑客は入店拒否・出禁にする

迷惑客によるさらなる迷惑行為の被害を防止するには、その客を入店拒否(出禁)にする措置も効果的です。飲食店には、法令等に反しない範囲において、店舗に立ち入らせる人間を自由に決定する権利があります。そのため、迷惑行為が繰り返されるなど正当な理由がある場合、入店拒否にしても法的に何ら問題がありません。

なお、入店拒否を通告した迷惑客が再度来店した場合、建造物侵入罪や不退去罪などが成立し、加害者を逮捕できる可能性もあります。実際、コンビニでは出禁の迷惑客が逮捕された事例があり、飲食店でも同様のケースに発展し得ると考えられます。

再発防止策等を公式サイトなどで周知する

経営する飲食店で迷惑行為が発生した場合、公式サイト等で今後の対応や再発防止策などを公表するのがおすすめです。実際、被害にあったスシローや資さんうどんなど、各社がこの対処法を実践しています。

公式サイトを活用するメリットは、ステークホルダーや社会全体に対し、安心・安全を訴えられることです。迷惑行為による顧客減少や信頼度低下といった被害を、最小限にとどめられる可能性があります。

まとめ

飲食店での迷惑行為を防ぐには、調味料や食器等の提供方法を工夫する、動画撮影・SNS投稿にルールを設けるといった対策が有効です。また迷惑行為が実際に起きてしまった場合には、損賠賠償請求や被害届の提出など、民事・刑事の両面で対処しましょう。

なお、迷惑行為の対策は今回紹介した方法だけではありません。この記事を参考に、自社に合った対応策を検討してみてください

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(編集:創業手帳編集部)

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