人材紹介会社を起業するには? 必要な許可や書類、相談相手まで解説します!
社会保険労務士が分かりやすく解説
総務省統計局が発表している「社会生活統計指標‐都道府県の指標‐2018」によると、2012年の転職率(1年前の勤め先と現在の勤め先が異なる者の比率)の全国平均は5.0%だった、とのこと。
ここ数年でいくらか減少傾向にはあるものの、まだまだより良い勤め先を求めて転職している人がたくさん存在していることが分かります。
そんな人たちと企業とのマッチングを行うのが、人材紹介会社です。
今回は、そんな人材紹介会社を起業する方にスポットを当てて、人材紹介業を起業する際の手続きや準備する資料について、社会保険労務士の黒田英雄さんにお話を伺いました。
社労士は、就業規則の作成や、社会保険の手続きなど、会社で必要となる細やかな業務を担ってくれます。毎月固定の顧問料を支払って契約している会社もあるかと思いますが、冊子版の創業手帳(無料)では、ピンポイントで社労士に依頼できるサービスを紹介しています。活用している起業家のインタビューも掲載していますので、参考にしてみてください。また、Web版の創業手帳では、近くの優秀でリーズナブルな社労士や、税理士を自動でマッチングする仕組みがあります。冊子版の創業手帳の資料請求と同時に無料会員登録できますので、資料請求をしてみましょう。(創業手帳編集部)
この記事の目次
人材紹介会社ってなに?
まずは、人材紹介会社とはどういうものなのか、について解説します。
正式には「有料職業紹介事業」といって、厚生労働大臣の許可を受けて、求人者(企業)と求職者(就職・転職希望者)との間を取りもつ「あっせん」という仕事をおこなう事業です。
別名「人材バンク」や「転職エージェント」とも呼ばれ、テレビCMや電車内の広告などで見かけたことのある方も多いかもしれませんね。
実は、有料職業紹介事業については職業安定法という法律により、港湾運送業と建設業については紹介が禁止されています。どちらも、非常に専門的な知識が必要だからです。
つまり、それ以外の事業に対してであれば、許可を受けて人材を紹介することができるということになります。
人材紹介業と人材派遣業の違い
「人材紹介業」とよく混同されがちなのが、「人材派遣業」です。両者の違いについても、少し解説しますね。
人材派遣業の場合、派遣される人は、派遣会社と雇用契約を結び、派遣会社から給料を受け取ります。派遣会社は、派遣先企業から受け取った報酬から手数料を差し引き、派遣される人に支払う仕組みです。
それに対して人材紹介業の場合は、求職者と紹介先企業が、直接雇用契約を結びます。紹介会社は、紹介先企業から紹介手数料を受け取るだけで、雇用関係は結びません。
つまり、業務が発生する企業が社員を雇用する手助けをするのが人材紹介業で、派遣会社が雇用している人材を、一定期間だけ契約を結んでいる企業で働かせるのが人材派遣業、ということになります。
人材紹介会社をはじめるために必要な許可
では、人材紹介業で起業するためには、どのような許可が受ける必要があるのでしょうか? 主な事項を下記に挙げてみました。
個人情報を適切に管理していること
求職者等の個人情報を適正に管理するための措置が講じられていることが必要です。今はどんな事業にも求められる、基本重要事項です。
財産的基礎を有していること
安定して事業をおこなうことができるように、資産要件が定められています。
具体的には、
- 資産の総額(繰延資産及び営業権を除く)から負債総額を控除した額が500万円以上(×事業所数)であること。
- 自己名義の現金・預貯金の額が150万円以上であること。(事業所の追加につき+60万円)
が挙げられます。
代表者及び役員、職業紹介責任者が欠格事由に該当しないこと
代表者及び役員に関しては、労働関係法令に関する知識など、一般的な事項があります。
また、詳しくは後述しますが、有料職業紹介事業を行う際には、下記のような要件を満たす「職業紹介責任者」がいることが必要とされます。
- 成年に達した後3年以上の職業経験を有する者であること。
- 厚生労働省指定団体が主催する「職業紹介責任者講習会」を受講した者であること。
事業所が事業をおこなうのに適切な場所であること
面談時のプライバシー保護などについての要件が求められます。
具体的には、
- 位置が適切であること。
- 事業所の面積が20㎡以上あること。
- 個人情報などを保持し得る構造であること。
が挙げられます。
実際には、それぞれの項目についてさらに細かく要件があり、その全てを満たす必要があります。まずは上記で挙げた要件を満たしているかどうか確認することが、人材紹介業で起業する第一歩となります。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000180131_1.pdf
どこで相談すればいいの?
人材紹介会社に関する許可については、各都道府県の労働局が窓口となっています。
許可要件に関しての細かい説明をしてくれたり、起業に向けての相談も受け付けています。
実際に申請をはじめるときには、労働局の助言を受けながら事業計画を立案し、計画書など申請に必要な資料を作成します。
ちなみに、事業者は事業をおこなうのに適切な場所を準備し、申請書類の作成を進めながら、職業紹介サービスを管理統括する役割の人である「職業紹介責任者」を事業所ごとに選任します。
職業紹介責任者は、厚生労働省が定める「職業紹介責任者講習」を必ず受けなければいけません。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059261.html
職業紹介の起業は講習を受けなければならないなど、非常に繊細なものだとされています。人材紹介業を営む場合はもちろんですが、自社の採用活動でも注意すべき点があります。会社の生産性を上げるためのガイドブック、総務手帳(無料)では、面接時の質問の良し悪しについて詳しく説明しています。労務トラブルを防ぐために重要になるので、参考にしてみてください。(創業手帳編集部)
どんな書類が必要?
有料職業紹介事業を起業する際には、次にあげる資料を提出する必要があります。
また、申請にかかる手数料も必要です。
・有料職業紹介事業許可申請書×3部 |
・有料職業紹介事業計画書×3部 |
・届出制手数料届出書×3部 |
・添付書類×2部 |
いよいよ申請!時間はどのくらいかかる?
書類の準備がすべて整ったら、いよいよ許可申請をします。
申請する際は相談する時と同じく、各都道府県の労働局の窓口に行き、書類一式を提出することでできます。
申請内容の確認や審議の関係で、許可証が交付される(あるいは不許可通知書が交付される)のは、申請からおおむね2~3ヶ月後になります。
事業を開始する時期は、この申請期間を考慮して余裕を持って設定しておくといいでしょう。
許可がおりた場合の有効期間は、新規の場合で3年、更新の場合は5年となります。
人材紹介会社のビジネスモデル
人材紹介会社のビジネスモデルの基本は、求人企業からの手数料で運営することです。求職者からは手数料をもらいません。
求人企業からの手数料は、成果報酬型にするのが基本です。つまり求人企業が人材を確保できなければ、利益が得られません。人材紹介会社は利益を上げるため、求人企業からヒアリングを行い、適切な求職者を紹介する必要があります。採用率を高めるため、ただ求職者を紹介するのではなく、双方のマッチングやどうやったら入社してくれるかの対応も求められます。
人材紹介会社の仕事は、求人企業の希望を聞き出し、求職者のスキルや希望を把握することです。また、求職者の面接サポートやスキルアップの提案、給与や労働条件の交渉なども行います。
人材紹介会社のコスト構造
それでは、どのくらいの売り上げが見込めるのか、コスト構造を見ていきましょう。
人材紹介会社の手数料は、法律で求職者の年収50%が上限とされています。目安としては、求職者の想定年収の30~50%程度です。多くの場合では、30~35%に抑えられています。
例えば手数料30%のとき、求職者の想定年収が400万円なら手数料は120万円、500万円なら150万円、600万円なら180万円です。このように人材紹介会社の利益は、1人あたり100~200万円と高額です。成功報酬にしても十分な利益が確保できるようになっています。
では、次は人材紹介会社の原価や利益率を見ていきましょう。
かかる経費は、人件費と広告費がメインです。利益率は高く、20~30%程度だといわれています。人材紹介会社の利益率が高いのは、人材派遣業のように求職者への教育訓練がないためです。人材紹介会社は原価がほとんどかかっておらず、利益率が高い業種だといえるでしょう。
人材紹介会社で勝つために
人材紹介会社で勝つためには、求職者を多く集め、採用率を高めることが重要です。
求職者を集める方法は、広告のみではなく幅広い面から行いましょう。広告は費用効果の面で、Web広告がおすすめです。とくにSNS広告は属性を限定した広告を出せるため、集客効果が高いといえます。
ほかにもSNSの活用や、自社サイトでの宣伝方法もあります。地味な方法ですが、スカウトメールを打つ方法も有効です。
また、採用率を高める工夫は、徹底したリサーチにあります。求人案件は細かい部分まで目を通し詳細まで把握しましょう。面接で採用に至らない問題があるなら、問題点を求人企業から聞き出すことで、どの部分がマッチングしていないのか明確になります。
コロナ禍での人材紹介会社の戦い方
コロナ禍において求人数が減少している状況では、人材紹介会社は苦しい状況に追い込まれる恐れがあります。ワクチン開発や政府による経済政策で回復するという声もありますが、人材紹介会社にとって今後は営業の在り方を見直す時期かもしれません。
これまでは、企業が優秀な人材を確保したい思いから、手数料を求人企業からいただいていました。これからは企業が人材を求めるよりも、求職者が職を求める割合が高まる可能性があります。
そこで見直したいのは、手数料をもらう相手です。職を失う人が増加し求人数が減少する状況になれば、求職者から手数料をもらうほうが自然かもしれません。どのようなビジネスモデルにするかは、今後の状況をよく観察するようにしましょう。
まとめ
いかがでしたか?今回は人材紹介会社の開業について、解説しました。
資産要件についてはとても重要な部分です。しっかり熟知しておきましょう。人材紹介会社の起業には多くの許可が必要になりますが、しっかり準備をすれば問題ありません。
平成28年度の「職業紹介事業報告書」によると、人材紹介会社は前年に比べて4.9%増の19,355事業所にのぼっています。
新規求職の申し込みは微減しているものの(ハローワークなどの無料職業紹介事業では約10%増)、求人数・就職数・手数料収入などは軒並み増加していることから、事業としては伸びている分野であると考えられます。
創業手帳Webの読者の中には、広い人脈を持っている方や、人と人をマッチングさせるのが得意な方がいるのではないでしょうか?人材紹介会社での起業を候補の一つとして検討してみるのも、良いかもしれませんね。
人材紹介でいうと、「社員紹介制度」というものがあります。自社の社員に知り合いを紹介してもらい、成功すればなんらかの報酬を支払う、という制度です。総務手帳では、「社員紹介制度」を詳しく解説しています。制度の作り方も解説していますので、興味のある方はチェックしてみてください。(創業手帳編集部)
(監修:社労士オフィスこころこ 社会保険労務士 NPO法人 労働者を守る会 黒田英雄 )
(編集:創業手帳編集部)