ペイルド 柳 志明|企業の「支払い」に関する課題を解決して社会の生産性を上げる
法人のキャッシュレス決済をもっと気軽に
社会のデジタル化に伴いキャッシュレス決済を導入するサービスが増えています。サービスによっては、現金払いがNGの場合も出てきました。
しかし、法人のクレジットカードは、代表だけが持っていたり、金庫に保管されていたりと、社員がキャッシュレス決済をすることに多くの手間と課題が残っていました。
そこに着目し、法人カードの課題をクラウド型法人カード「paild(ペイルド)」で解決しているのが株式会社ペイルドです。
今回の記事では、株式会社ペイルドで代表取締役社長兼CEOの柳氏に創業までの経緯やペイルドが提供するサービスの魅力について、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社ペイルド 代表取締役
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻修士課程修了。
2011年にJPモルガン証券投資銀行部入社。
電機メーカーを中心にM&Aや資金調達のアドバイザリー業務のほか、同部門の国内新卒採用などにも従事。ソニーによる公募増資におけるグローバルコーディネーターや鴻海精密工業によるシャープの買収における鴻海精密工業側アドバイザー等の案件を担当。
2017年に退職後、株式会社Handii(現 株式会社ペイルド)を創業し、代表取締役社長兼CEOに就任。
2022年11月より一般社団法人Fintech協会 常務理事。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
東京大学を卒業後、金融業界を経て「Handii(現ペイルド)」を起業
大久保:これまでのご経歴から教えてください。
柳:学生時代は、東京大学の応用化学科で4年間過ごしました。
当時は理数系が好きだったこともあり、社会を科学の力で変えることに夢を持っていましたが、この業界で自分ができることの限界を感じたため、日本を出ても働けるようになりたいと考えるようになりました。
そこから縁があり、金融業界に新卒で入社。M&Aや資金調達を行う部署に配属され、電機メーカーほか、国内外の多種多様な業界の企業と仕事をさせていただきました。
日々、上司とともに様々な経験をすることで、とても刺激的で学びの多い時間を過ごしていましたが、私の性格上、そつなく仕事をこなすことがあまり得意ではなく、他のメンバーと同じことをしていても、先輩や上司以上の業績をあげることは難しいのではないか、と考えるようになりました。もちろん、このままやり切らずに、逃げの一手として離れることも嫌でした。
大久保:会社員から独立を考えた決め手を教えてください。
柳:新しいことに挑戦することが好きなので、6年間の会社員生活では、自ら企業を開拓し、これまでの既存概念に囚われることのない新たな提案をすることに、やりがいを感じていました。
そういった仕事のスタイルから徐々に「自ら新しいものを生み出して、世の中を良くしていきたい」と考えるように。そのためには、会社員でいるのではなく、独立したほうがいいと決断し、30歳となるタイミングで株式会社Handii(現 株式会社ペイルド)を起業しました。
起業後、試行錯誤した上で金融業界への挑戦を選んだ理由
大久保:起業当初は苦労しましたか?
柳:当初は、ご飯を食べていくのがやっとでしたね。
会社員時代は、会社から自動的にお給料が振り込まれていたため、起業当初は何をすればお金を稼ぐことができるのか正直迷走の日々でした。
起業後、最初の事業としてフィットネスアプリを構想していたのですが、出資付きのアクセラレーションプログラムに参加した際も、当事業についてやビジネスプランの魅力を伝えることができず、また自分自身も「本当に作りたいものはなにか」が見えていない、モヤモヤとした時間を過ごしていました。
大久保:そのような中、金融系のサービスを選んだ理由を教えてください。
柳:改めて何をしたいか考えた際に、自分が金融に詳しいこと、また法人向けの金融サービスが好きだということに気がつきました。
そして2018年中頃に、法人カードサービスについてのニーズ調査をする中で「法人向けの決済カード」に課題があると確信しました。
そこで、今多くの企業が抱えている「従業員へ法人カードが配りにくい」「決済金額で止まってしまう」などの課題をビジネスプランに落とし込みました。
上述したアクセラレーションプログラムは終了していたのですが、担当者に相談してみたところ、お互いにメリットがあるなら継続しましょうと快諾いただき、出資が決まりました。
大久保:金融系サービスは立ち上げが大変なイメージがありますが、いかがでしたか?
柳:そうですね。2020年8月にローンチしたのですが、資金集めだけでなく、前払式支払手段への登録などの準備に約2年かかりました。
関東財務局に登録したり、提携するカード会社と交渉をしたりと未経験の業務に追われる日々でした。
最後はみんなハッピーにできると信じてやっていましたが、当時は会社が存続できるかどうかのギリギリのラインで頑張っていましたね。
法人カードの課題を解決するクラウド型法人カード「paild」の魅力
大久保:「paild」はどのような点を売りにしているのでしょうか?
柳:paildは、一般的な「リアルカード(物理的なプラスチックカード)」だけでなく、クラウド上でカードを発行できる点が一番の特徴です。
このサービスは「バーチャルカード」と呼ばれており、ECサイトで決済を行う際に必要な「カード番号」「有効期限」「CVV(カード確認用暗証番号)」「カード名義」のみの発行しています。このバーチャルカードを提供しているのがpaildです。
サービスを開発している時にちょうどコロナ禍に差し掛かりまして、リモートワークが増えることで、オンライン決済をする場面も増え、バーチャルカードへの需要は増えると確信しました。
これまでの法人カードは、物理的なカードを付帯することが前提でした。
その場合、企業の代表や役員が持っていたり、金庫に閉まっていたりしているケースが一般的で、社員が法人カードで決済を行う際には、経理の方が都度カードを持ってきて、PCに打ち込むという作業をしていました。
大久保:確かにそれは手間ですよね。
柳:ペイルドであれば、クラウド上でカード番号が発行でき、それぞれ使える上限を設定することもできるため、ガバナンスが取れた状態で社員に配布しやすくなります。
メンバー間の価値観を統合するために「組織の軸」が重要
大久保:サービスを軌道に乗せるまでに、直面した課題についてお聞かせください。
柳:今でも思いますが、メンバー間の価値観を揃えていくのは課題を感じています。
大久保:組織の軸は重要ですよね。
柳:はい。
社会人1〜2年目で学んだことは、その人の基盤を作る上で、大変重要なことだと思っています。さらに、企業によって文化が違うので千差万別です。
それを踏まえた上で、組織を拡大させる方法を考え、メンバー同士どのように補えば良いかを、建設的に考える必要があります。
大久保:やりがいある瞬間はどういう時ですか?
柳:個人としては、お客様とお話をしている時が一番楽しいと感じます。
社長としては、お客様をハッピーにしている仕事をしているメンバーの声を聞いた時ですね。
エンジニアは直接お客様とやり取りをすることはないですが、それでもお客様からサービスに対する評価のお話をいただくとやりがいを感じており、私自身も嬉しく感じますね。
企業の「支払い」に関する課題をデジタルで解決する
大久保:今後の展望を教えてください。
柳:まずは日本市場でシェアを取っていきたいです。
弊社は、今年の3月から「paild請求書払い」という新しいサービスをローンチしました。
私が経理担当者としてオンラインバンキング口座の操作をしている時に、そこに表示される情報だけでは内容が理解できず、請求書に紐づく複数のツールを確認する業務フローが面倒だった経験があります。
そこで、請求書の受領から振り込みまでを一貫して行えるサービスを開発しました。
このように、今後も企業の「支払い」に関する悩みを、デジタルで解決していきたいと考えています。
現在、3,000社を超える企業様にご導入いただいており、社会を支えることが少しずつできていると実感しています。
とはいえ、まだまだ法人支出にまつわる課題は多くありますので、今後も引き続き法人決済サービスを通じて、社会をより良くしていきたいと考えています。
大久保:最後に、起業家へのメッセージをお願いします。
柳:起業するということは、自己分析が必要だと考えています。
特に初めて起業する方は、意外と自分についての理解が浅いことが多く、その状態からビジネスを始めることで、盛大に見誤ってしまったり、こけてしまったりという話を聞くことが多いです。
自分が何をしたいのか。何に貢献ができるのか。それらを正確に言えるようにすることが、第一歩だと思いますので、まずは自己分析に時間をかけることに挑戦してみてほしいです。
大久保の感想
(取材協力:
株式会社ペイルド 代表取締役 柳 志明)
(編集: 創業手帳編集部)
柳さんはアクセラレータープログラムに参加したが本来の期間では合格しなかったが、本来の期限を超えているのに、延長戦の交渉に持ち込んで出資を勝ち取った。面白いのが柳さんの「延長ラウンド」がきっかけで他の後輩も恩恵を受けたということだ。
決められたこと=正しいという発想になりやすいが、起業家には「そもそも、なぜそういう決まりになっているか?」という本質的な問いをする力も必要だ。そこから起業やビジネスチャンスが生まれることもある。
柳さんから本質を問う力と諦めないタフさを感じた。