新時代に向けた海外の仕入先開拓法ー海外ビジネスの達人が実体験をもとに解説
これからの時代に向けた海外の仕入先開拓の手法をご紹介
(2020/05/29更新)
新型コロナウイルス感染症の影響により、世界中で移動が制限されていますが、欧米や中国では騒動の終息を見込んだ段階的な経済活動の再開が模索され始めています。
私たちも、「ニューノーマル(新常態)」と呼ばれる次の時代に向けて、海外ビジネスに視野を広げ、海外から商材や部材の調達を進めて、事業拡大または競争力を高めていきましょう。
今回は、海外でビジネスを行う達人に、実体験にもとづく海外仕入先開拓の方法について聞いてみました。
海外仕入先開拓の方法は、海外ビジネスを検討し始めた中小企業や起業したばかりの方はもちろんのこと、在宅勤務で増えた時間を活かし、海外輸入で副業を考えている方にも、大きなヒントになるはずです。
冊子版の創業手帳では、資金調達方法やキャッシュフローを健全にするポイントなどをご紹介しています。事業運営をしていく上で欠かせない情報を豊富に盛り込んでいるので、ぜひご活用ください。
北海道大学理学部卒、国際大学大学院国際開発学修了。株式会社ジャフコにてライフサイエンス投資、アジア投資先企業の日本市場進出支援に従事。韓国ソルトルックス社(Saltlux, Inc.)日本支社長として、OEM事業提携など日本市場開拓。クラウドクレジット株式会社にて、世界25カ国で金融機関を中心とした海外提携企業を開拓。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
海外仕入先を開拓するためのステップ
海外仕入先開拓の手段は、予算規模によって変わりますが、ステップとしては、調査・コンタクト・選別・交渉・契約・フォローの大きく6つとなります。
今回は、海外にツテがないような、比較的小規模の事業を想定してご紹介します。
1. 調査ー英語で検索して主要なキーワードを洗い出す
海外からの仕入れ、または調達を考えている事業に関するキーワードを英語で検索します。英単語が分からなければ、Google翻訳などで翻訳しましょう。
関連企業のホームページや主要なメディア、ブログが検索結果の上位に表示されるので、それらのページを閲覧し、企業名をリストアップしていきます。
外国語のページを閲覧するときのコツは、Google Chromeのブラウザを開いて、画面翻訳機能をフル活用することです。
近年、翻訳機能の精度は向上しており、英語から日本語へ変換すると、だいたい内容を理解できるようになります。英語の翻訳に時間をかけることなく、効率よく情報収集することができるのです。
情報収集するには、コンタクトしたい企業名と「イベント」、「展示会」、「協会」などの仕入れに関するキーワードを組み合わせて検索します。
そうすることで、ターゲットが参加しているイベントや団体のWebサイトが見つかります。無料で集まるイベントよりも、有償でイベントに参加している関係者や協会の会員は選別された「筋の良い」パートナー候補といえます。
検索して出てきた情報を読み込んでイメージを掴んだら、予算の範囲内で関連のイベントに参加したり、協会に入会しましょう。
担当者や経営層の連絡先を得たり、勉強会の告知やメーリングリストへの広告、ニュースレターへの記事掲載などで、業界での認知度を上げる機会を得ることができます。
2. コンタクトー仕入れ候補先を絞り込んでコンタクトをとる
海外のビジネスイベントへの参加費用は、国や業界によって相場が異なります。おおよそ数千円から5万円くらいをみておけばよいでしょう。ブースなどの出展者であれば数十万円から、スポンサーとしてイベントのWebサイトや会場に会社ロゴを掲載するのであれば、100万円から1,000万円という予算感になります。
イベントの選び方は、あなたのターゲットが絞れているのであれば、巨大イベントよりも開催実績のある特定の業種に絞り込まれたイベントをおすすめします。
イベントへのブース出展やスポンサー参加は高額になりがちですが、主催企業にこちらが期待することを伝えておくことで、希望する相手との商談をアレンジしてくれることもあります。
また、申込みの検討段階であっても、あなたの社内稟議に開催実績のデータが必要であることを伝えれば、前年の来場者や参加企業のリストをくれることもあるので、参加を検討するのに活用しましょう。
昨今ではコロナ禍のため、大型の集客イベントが中止または延期され、在宅で参加可能なZoomやYoutubeなどを活用したオンラインイベントが開催されています。
私が参加したことのある海外の商談イベントでは、ライブストリーミングによる基調講演や、バーチャルミーティングによる個別商談会を組み合わせてイベント開催を継続しています。このように、商談イベントは形を変えて継続していくと考えています。
2-1. コンタクト先を絞り込む
イベントや協会に参加して増やした取引希望先のリストから、実際の取引先を絞り込んでいきます。
コンタクトの初期段階においては、日本語による主語・述語・目的語を含めた簡潔な文面であれば、Google翻訳を介して十分に意思疎通ができます。こちらは、あくまでもお金を支払う側なので、相手はコミュニケーションを取ろうとしてくれるでしょう。
また、こちらが先方の顧客になる仕入れの場合は、ホームページのお問い合わせ窓口へのメール送信であっても、返信を得られることが多いです。仮に10社へメールを送った場合には、その内の数社から返信が届くので、返信の速いところと連絡を取り始めましょう。
海外企業に英語でメールを送るコツは、「貴社商品・サービスを買いたい」または「日本市場で展開したい」など、相手のメリットが明確で、かつ簡潔なメッセージを書くことです。
たとえば、表題も「〇〇社から問い合わせ」などではなく、「日本市場開拓の相談」とすることで返信率は上がります。メールを送信した後に、電話でフォローを入れることで、より返信率を上げることができます。これは、日本の営業と同じ手法ですね。
また、世界最大級のビジネス特化型SNSであるLinkedInで企業名を検索して、社員に直接連絡するといった方法もあります。
3. 選別ー仕入れ候補先を選別する
ここからは、連絡をとっている複数企業から一つの会社に絞り込んでいきます。
仕入れ候補先にとって、こちら側の予算規模が相対的に大きい場合、契約を成立させようと前のめりに交渉してきます。こちら側としても、取引を始めてみないことには海外ビジネスの経験が積めないため、ついつい相手を見極めずに契約を結んでしまうことがあります。
しかし、こちらが仕入れ先を一歩引いた目で見定めなければなりません。
また、相手の商品やサービスが、日本と取引するための規制をクリアしているか確認しましょう。たとえば、電子機器などであれば、日本の電気用品安全法に基づく表示(PSEマーク)がついていなければならないなど、国内規制や承認基準をクリアしていなければなりません。
先方にとっては、どれだけ販売が期待できるか分からない日本市場に先行投資することになるのため、嫌がられることが多いです。相手が「これから規制に対応する」、「お客様ができたら対応する」という姿勢を崩さないのであれば、そういった相手との交渉は後回しにしましょう。
それでもビジネスを進めたい場合には、費用や人的リソースを折半する覚悟が必要です。
3-1. 相手に海外取引経験があるか確認する
つぎに、相手の海外取引経験を確認します。英語でコミュニケーションが取れるような、海外との取引実績がある相手を優先します。特にあなたが海外と初めて取引する場合には、現地の言葉を使えない限り、英語を使えない企業との取引は避けるべきです。
海外との取引経験がある企業を選ぶべき理由は2つあります。一つは、取引の状況や経緯がブラックボックス化するリスクがあること、もう一つは相手の教育コストがかかることです。
相手の担当者が日本語を使えることはありますが、一定以上の会社規模を超えない限り、社内に日本語話者がいることは少ないため、協議資料の社内回覧にも苦労します。その結果、情報のブラックボックス化が起きます。
また、英語が使える人材がいない会社は、海外との取引実績が少ないため、相手に日本の規制対応を指導したり、ビジネス言語を共有する労力が必要です。
初めての海外ビジネスは、英語による対応や海外の法規制、商習慣の学習に手間がかかります。それに加えて、どちらも初めての海外ビジネスとなると、協議の進捗が遅延することがあります。
あなたが経験を積めば、海外取引をしたことがない会社をリードして、独占契約を結ぶなど利益率の高いビジネスをすることができるので、まずは手堅く進みましょう。
もし、相手の会社属性が気になる場合には、法人登記番号やTax ID、事業登録証など、インターネットで閲覧可能な情報を先方に要請してみましょう。情報が得られたら、登記上の社名や経営陣、あるいは主要株主をインターネットで検索して「不信感を持つような記事」にヒットしなければ、安心感をもって協議を先に進められます。
逆に公知の情報を得られないのであれば、法人化していないなどの事情が推測できるので、相手に事情を確認します。理想としては、相手に過去の財務諸表も提出してほしいところですが、こちら側に交渉力がなければ、取引開始前にそこまで要求すると相手は嫌がるでしょう。
小口のビジネスの場合は、PayPalでの決済を認めてもらうことで、送金先の銀行口座に本来の相手が存在しないという最悪の事態を避けられます。
個人的な経験ですが、前職では発展途上国の企業との交渉が多く、英語の意味とは別に発言の趣旨が理解できず、欧米先進国との交渉とは異なる「ビジネス言語」の共有に苦労しました。相手のホームぺージや会社紹介資料の経営陣の経歴に、外資系大手の勤務経験や留学経験があればビジネス言語を共有しやすいのではないかなど、会社像をイメージして相手を選別していました。
4. 交渉ー実際に仕入れ候補先と交渉する
仕入れ候補先の選別ができた後は、それぞれの相手と協議することになります。こちらはお金を払う側なので、自分たちのペースで落ち着いて相手を見定めましょう。
小口での商品輸入など、金額が少額であれば、メールでやり取りが完結する場合もあります。法人同士で継続的な取引を前提とする場合は、契約締結に向けたメールに加えて、遠隔会議ツールで協議を重ねることになります。
ご自身や社内に英語ができる人材がいないのであれば、協議が複雑になる前に、通訳なり英語でコミュニケーションを取れる人と組み、オンライン会議で詳細を話しましょう。
4-1. 交渉を行う上でのコツ
比較・検討のためにも、できるだけ複数の仕入れ候補先と交渉しましょう。海外取引に慣れていない会社や、海外資金調達のような滅多にない商取引では、相手の営業担当がここぞとばかりにとんでもない条件を持ち込んでくることもあります。
また、取引相手と長期的に安定した関係を築くという前提で、少額の取引から始める、または支払いのマイルストーンを複数決めるなどして、少しずつ着実に協業を進めましょう。
条件面では、相手がブランド力のある経験豊富な企業であれば、ある程度は「授業料」として条件を譲歩することも大切です。こうした協議に慣れてくると、日本での販売実績、まとめ買い、繰り返しの購入、早期割引、テスト販売などの理由で値下げ交渉することもできます。
4-2. 交渉する際の伝え方
お互いにビジネス上のメリットがあるかを早めに見極めるためには、要望を明確にしましょう。
海外のビジネスパーソンは、自信たっぷりにプレゼンしてきます。相手の商品を魅力的に感じており、仮にあなたが販売代理店の立ち位置を担うのであれば、自信をもって「日本での販売を任せて欲しい」など、やや強い気持ちで伝えるぐらいがちょうど良いでしょう。
私たち日本人は、海外の人に比べて表現が控えめなので、相手に自信がないようにみえてしまうことがあります。言質を取られないように注意しながら、普段よりもアグレッシブに気持ちを伝えて構いません。
もし、あなたに英語ができなくても、日本語で構わないので、熱意をもってメッセージを伝えましょう。声色や提案内容の濃さで、あなたの本気度は伝わります。
大事なことは、必ずテキストにしてメールやチャットで相手と認識を共有することです。事前に「議題」を共有すること、会議後に「決定事項」、「次のステップ」、「スケジュール」を共有しておけば、効率よく交渉することができます。
また、相手の言っている内容に違和感をもったら、遠慮せずその場で何度でも聞き直しましょう。英語力が不足していることで、議論の前提や認識が共有できていないこともあり、会議後に誤解に気づいても、仕切り直しするために大きな時間のロスになります。
日本人同士の場合、議論は相手の話を聞く前提ですが、外国人は同じように考えません。持論を語る相手の会話をさえぎるぐらいが丁度よいでしょう。
5. 契約ー相手の契約の理解度を把握する
こちらが契約内容を理解するのは当然ですが、相手が契約に関する条件を理解しているか注意する必要があります。海外ビジネスの経験が少なく、契約内容のメリット・デメリットを全然理解していない相手の場合、締結直前や取引開始後にトラブルになってしまう可能性があります。
さらに、国や業種、会社の規模によって契約の尊重度合いはまちまちです。秘密保持契約程度であれば、あまり目くじらを立てる必要はないですが、継続的な取引に関する契約であれば、社内に法務部門がない場合、できれば費用をかけて専門家に目を通してもらうか、ドラフト(下書き)を作成してもらう必要があります。
インターネットで契約書の雛形を見つけることはできますが、契約の内容と取引の実務で食い違いがあるなど、素人には分からないことが多々あります。
6. フォローー取引開始後にフォローする
取引開始後は定例報告会など、メールや遠隔会議でコミュニケーションが発生する仕組みを作りましょう。
取引開始直後の互いに緊張感をもっている間やビジネスが順調なときは、メールへの返信も速く連絡を取りやすいのですが、マンネリ化したり協業が停滞したりすると連絡が滞り始め、相手の様子が全然みえなくなってしまいます。
何もなければよいのですが、最悪の場合、不適切な事象が起きている可能性もあります。
そうでなくても、協業が停滞すると顔が見えないことから、互いに不信感やストレスが溜まり、せっかく開催した遠隔会議でも言った言わないの不毛な水掛け論が起きてしまうこともあります。
こうした事態を避けるために、ひと手間増えてはしまいますが、大事な内容は必ずメモ程度でもよいので、メールなどで共有しましょう。タイミングが合えば、現地に足を運んで直接ヒアリングしたり、弁護士事務所や監査法人などの信頼できる現地のエージェントに頼んで、定期的にモニタリングしてもらいましょう。
まとめ
表現に語弊があることを承知の上でストレートにいうと、海外の人たちは日本人からすれば、ビジネスにおいて、ある意味で適当です。
さらに、欧米先進国と比べて発展途上国では、ビジネス文化が想像できないぐらい日本と異なります。日本人は正直であることや正確であることを美徳としているため、海外との商談において「嘘をつかれた」と感じることすらあります。
営業部門の相手にしてみると、ただ単にテンポよく話を進めるため、他意なく発言していることが多いのですが、日本人の几帳面さからすると「嘘」と感じてしまうことが多いです。逆に海外では、日本人は曖昧でスピード感がないとみられがちです。
海外との取引においては、商談相手の言うことを話半分で捉え、メールで確認したり、契約書に落とし込んでリスクヘッジするとともに、可能な限り交渉カードを残しておき、状況をコントロールする手段と意識をもっておきましょう。
以上のように、海外仕入先の開拓は、開拓時から取引開始後まで手間と費用がかかります。今の時期に海外事業の準備をリモートで進めることで、その後の事業成長に貢献することはもちろん、その過程で得られるリモートマネジメントのノウハウを、ニューノーマル時代に必須のサバイバル能力として活かしていくことができるでしょう。
これからの時代に備えた事業を運営していくための情報を創業手帳の冊子版では掲載しています。Webに掲載していないような情報も多数載せているので、ぜひ参考にしてみてください。
(編集:創業手帳編集部)