起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・建物とBCPの巻-
耐震性の高い賃貸オフィスの選び方
企業活動は通常業務を滞りなく継続させることで成り立っている。近年、企業経営における重要な要素として急浮上してきたのがBCP(Business Continuity Planning=事業継続計画)という考え方だ。ベンチャー起業家が初めてオフィスを選ぶ際にも、当然ながらBCPという観点を含めた検討が必要となってくる。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・不動産会社の巻-
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・立地の巻-
BCP(事業継続計画)の策定は企業の信用力を左右する
BCPはもともとあらゆる脅威から企業活動を防護するとともに、想定される被害から迅速に復旧させるためのマニュアルを作成することから始まったと言われている。その概念が日本で広まるきっかけとなったのは東日本大震災で、今日では「計画」のみならず災害発生時と復旧期、さらに日頃の備えまで含めた事業継続のための施策全般を指す言葉として定着している。
高い事業継続性が必要とされる業種ではBCPを策定しているか否かが企業の信用力と直結しており、それは起業したばかりのベンチャーであっても同じだ。
オフィス耐震性の「昭和56年6月」というボーダーライン
日本で災害と聞くと真っ先に思い浮かぶのが地震だが、より実効性の高いBCPを策定するうえでオフィスの耐震性は欠かせない要素だ。
東日本大震災以降、物件を選択する際のキーワードとして「新耐震」という言葉を耳にするようになった。これは昭和56年(1981年)6月施行の建築基準法で定められた耐震基準に準拠した建物を指しており、今後想定される規模の地震の揺れに対しても倒壊などの被害はないとされている。
しかし、昭和56年6月以降に竣工したからといって新耐震とは限らない。新耐震となるのは昭和56年6月1日以降に「建築確認済証」を受けた建物であり、同じ昭和56年であっても5月31日以前に建築確認を受けた建物であれば「旧耐震」と考えてよい。
通常は建築確認を受けた後に着工するが、一般的なオフィスビルであれば建築に2年ほどを要するので、昭和58年ごろまでに竣工した建物については、念のために仲介業者などに問い合わせたほうがいいだろう。もちろん昭和56年6月以前に建築確認を受けた建物であっても耐震工事を行った建物であれば問題はない。
「旧耐震」は不安? 「新耐震」なら安心?
もっとも賃貸オフィスが旧耐震の建物だからといって心配し過ぎる必要はない。いわゆる構造計算書偽装問題で存在が発覚した欠陥マンション(いわゆる姉歯マンション)でさえ、模型を使った実験では阪神淡路大震災クラスの揺れに2度まで耐えうる強度があったという。
耐震性に劣る建物を故意に建築するのは許されることではないが、日本の建築技術は世界最高水準であり、こと耐震性に関しては他の追随を許さないといっていいレベルにある。
耐震だけではない事業継続性の高い物件
耐震性とはあくまで賃貸オフィスのハコの話である。倒壊を避けられたからといって、事業が継続できなければ意味は無い。
昨今竣工した大規模・高機能のオフィスビルの多くは東日本大震災を教訓とし、72時間の供給能力を持つ非常用電源やライフライン途絶時でも使用可能な上下水道、入居テナント専用の非常用発電機設置スペースを備えるなど、そのスペックは上がる一方だ。
既存の中小オフィスビルにこうした設備を求めるのはあまり現実的ではないが、新築であれば中小のオフィスビルにもこうした設備を持つ建物は珍しくない。ベンチャーであっても情報通信分野など高い事業継続性が求められる業種で起業するのであれば、賃貸オフィス選びでこうした設備を優先度の高い検討事項に入れてもよいだろう。
事業継続性に関わる項目として、もう一つ「非常用品の備蓄」を挙げておきたい。平成25年4月、東京都では大規模災害発生時の帰宅困難者対策として「帰宅困難者対策条例」が施行された。事業者は従業員向けの3日分の水や食料を備蓄することとされている。
本来は事業者が備蓄しておくものだが、入居テナント向けの備蓄品を準備しているオフィスビルも少なくない。水や食料、毛布などはビル側の備蓄品を利用し、オフィス内には事業継続に必要な物品を備蓄しておけば迅速な復旧にもつながる。
「オフィスビルが災害時に何を提供してくれるか?」という観点を持つことで、入居すべき物件の条件も大きく変わってくるのである。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・エントランスの巻-
(監修:オフィス経営コンサルタント 久保純一)
(創業手帳編集部)