ネクストミーツ 佐々木英之|「地球を終わらせない。」ために、代替肉で新たな食のスタンダードをつくる
起業後1年でアメリカ上場?挑戦できたのは「一歩踏み出すこと」が重要だと学んだから
環境や健康への意識が高まる中、世界で広がりを見せている代替肉。代替肉とは、大豆など植物由来の素材を使い、見た目や味、食感を肉に近づけたものです。
日本で数少ない代替肉専業メーカーとして、世界中で注目されているのがネクストミーツ株式会社。ベンチャーながら、2021年にはアメリカの株式市場に上場を果たしました。
このネクストミーツの代表取締役を現在務めているのが、佐々木英之さん。佐々木さんは2020年にネクストミーツ社を起業されましたが、実はそれまで食品業界の経験はほとんどなかったそうです。
なぜ佐々木さんが代替肉という分野で起業したのか、どのようにアメリカへ進出したのかについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
ネクストミーツ株式会社 代表取締役
1980年生まれ、東京都出身。早くから起業した経験を活かし、中国・深センで12年に渡り日本企業の海外進出など、さまざまな事業を手掛ける。2020年6月にネクストミーツ株式会社を創業、現在同社の代表取締役を務める。ネクストミーツ社は2021年にアメリカ株式市場に上場。日本を代表する代替肉ベンチャーとして、国内外で高く評価されている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
中国・深センに12年いたことで、起業家として鍛えられた
大久保:お若い頃から起業されていたとお聞きしました。もともと起業家になりたいという想いが強かったんですか?
佐々木:起業家を目指していたわけではないんですが、会社へ就職するより何か自分でやれたらいいなとは漠然と思っていました。大きなビジョンがあるというより、まずは自分でお金を稼げるようになりたいという感じです。
高校卒業後は個人事業主のような形で、キッチンカーなどいろいろなことをしていました。もともと、興味があれば何でもやるタイプだったんです。
大久保:その後中国に渡り、深センに長くいらっしゃったそうですね。
佐々木:たまたま知り合いからお話をいただき、この先どうしようかなって悩んでいたこともあって、軽い気持ちで2008年に深センに行ってみたんです。そのまま居ついた感じで、中国には12年間いました。
大久保:深センではどんなビジネスをされていたんですか?
佐々木:大まかに言うと、日本と中国の繋ぎ役、架け橋のような仕事をしていました。中国から物を買うとか、逆に日本のものを中国へ売るとか。といっても12年の間に中国自体が大きく変わっていったので、事業内容もそれにあわせて変える必要がありました。
状況にあわせて事業を変えるという経験を、学びながら実践した感じですね。面白い時もあれば、大変な時もありました。
大久保:その後「ネクストミーツ」を起業した経緯をお伺いできますか?
佐々木:日中の間に入るコンサルティング的な事業とは別に、何か社会貢献につながることをしたいということは、前から考えていたんです。
当時中国ではEVのベンチャーが増えていて、エネルギー分野にも興味があったんですが、EVはかなりハードルが高いですよね。そこで代替肉が面白そうだなと。食品業界の経験はなかったんですが、何とかできそうかなと思いまして。
既存の事業を続けながら、代替肉の情報を集めたり人脈を作ったり、ということを3年くらいやっていました。
大久保:代替肉となると開発も必要ですし、スタートアップでやるには重い部類の事業だと思いますが、いかがでしたか?
佐々木:あまり重いとは考えていなかったんですよ。食品って期限はありますが、基本的には製造業だと思うんです。設計して、生産して、販売するという流れは、他のものづくりと同じかなという感覚です。
あと深センには、ベンチャーがものづくりしやすい環境がありました。僕らのようなベンチャーが頼んでも、少ないロットでパッと作ってくれるところがわりとあったんですよね。
反対に日本では、最初僕らのようなところは全然相手にされなくて。日本ではまず人脈を作って、その人から繋いでもらって、ようやく工場と話ができるということもありました。
大久保:なるほど。日本と中国では、スピード感もやはり違いましたか?
佐々木:僕がいた当時の深センは、すごく速かったですね。その半分のスピードがアメリカシリコンバレーで、さらにその半分が日本という感じでした。
深センは「とりあえずやってみる」という感覚が強かったと思います。リーンスタートアップとよく言われますが、完成度が60%でもまず製品を出して、アップデートしながら改良していくことが普通でしたから。
知見がないとか専門じゃないということにとらわれず、やってみるという感じですね。僕自身やったことのないジャンルに飛び込むのは好きでしたから、合っていたかなと思います。
もちろん専門性がある方が強いですし、ジャンルによっては専門性が必須になることもあります。とはいえ、そればかり気にしていたら、新しいことはできません。チャレンジって、まずは一歩を踏み出すことが重要じゃないですか。そこは深センで鍛えられたと思います。
代替肉が世界中で注目される理由とは
大久保:現在取り組んでいる事業について、教えていただけますか?
佐々木:代替肉の開発と製造販売を行っていて、国内外に向けてBtoBとBtoC向けの商品を扱っています。
一般的に代替肉というとミンチ肉が多いんですが、弊社は「NEXTカルビ」や「NEXTハラミ」といった、スライス肉を扱っているところが特徴です。
大豆などを使った植物性の代替肉自体は何十年も前からありますが、あくまで補助食材でした。でもネクストミーツでは、代替肉をメイン食材として扱ってもらえるよう意識しています。今では、1つの食材として見てもらえるぐらいになってきたかなと思っています。
大久保:海外では、代替肉を専門に扱う会社が増えているようですね。
佐々木:そうですね。アメリカでは、ビヨンドミートやインポッシブルフーズなど、次々と代替肉をメインに扱う会社が出てきています。
僕としては、国内だけではなくて、ビヨンドミートなどの海外企業といい意味で戦える会社にしたいという想いは最初からありました。ですから海外企業をベンチマークにして、追いかけているところもあります。
大久保:代替肉は世界で注目を集めていると思いますが、どういった背景があるのでしょうか?
佐々木:まずはヴィーガンとかベジタリアンといった「食の多様性」ですね。あと海外では宗教上の理由で食を制限している方もいますので、そういう方にも支持されています。
他には、動物愛護的な観点もあります。といっても極端な発想ではなくて、狭いところでホルモン剤を打たれて育てられるのはかわいそうだから、なくしていきたいといった考えです。もちろん、放牧してちゃんと育てているところもたくさんあります。
あとは欧米の若い方を中心に、「環境にいいものを食べたい」という考えが広まっていることも大きいですね。
大久保:あらためて、代替肉が環境にどう良いのか、教えていただけますか?
佐々木:もともと畜産自体、わりと環境負荷が大きいんです。畜産による温室効果ガスは、自動車や飛行機といった交通機関全体と近い数値とも言われています。
畜産というと、牛のゲップによって温室効果ガスが出るイメージが強いかもしれません。それだけではなくて、いろいろな面で、多くのエネルギーが必要です。畜産では1キロの牛肉を作るのに約10キロの飼料が必要ですし、餌を運ぶ時にもエネルギーを使います。さらに糞などの掃除も必要ですし、大量の水を使うんです。いろいろな要素が複合的にあるわけです。
自動車業界では、古くから環境への問題が指摘されていますよね。だから排気ガスを制限したり、電気や水素を使ったりする取り組みが進んでいます。畜産も同じように、環境への対策として、やり方を変えなければいけない段階に来ています。
例えると、従来の畜産業がガソリン車で、僕らのような植物由来の代替肉が電気自動車、さらに次世代の培養肉が水素自動車みたいなポジションですかね。
あと日本では人口が減っていますが、世界では人口が急増していて食糧不足が懸念されています。とはいえ、環境負荷の高い畜産を増やすのは難しい。そこで、僕らが扱うような植物由来の食品へのニーズが高まっているわけです。
目指すのは新たな食材というポジション
大久保:お話できないかもしれませんが、本当の肉に近づけるような工夫をいろいろとされているのですか?佐々木:工夫はしていますが、僕らは本当の肉と瓜二つを目指しているわけではないんです。何も知らずに食べると、肉を食べたような満足感があったり、肉料理に入っていても違和感がなかったりという感じですね。
肉と全く同じものを作ろうとすると、あとは肉より高いか安いかだけになってしまいますから。そこを目指すのではなくて、第三の選択肢という表現はあまり使いたくないのですが、肉とも魚とも違う、新たなタンパク源の1つとして見てもらいたいなと思っています。
大久保:スライス肉が強みということでしたが、現在どんな商品が人気ですか?
佐々木:弊社の商品では「NEXTハラミ」が1番人気ですね。焼肉店ですとか、いろいろなところで扱っていただいています。例えば、羽田空港では「NEXTハラミ」を使った空弁(お弁当)も販売されているんですよ。
大久保:日本でも代替肉が広まりつつあるわけですね。販売を始めた頃と現在では、購入者層は変わってきていますか?
佐々木:そうですね。最初はアーリーアダプター(※)みたいな方がメインでした。今はヴィーガンやベジタリアンの方もいらっしゃいますし、一般のお客様も増えてきています。
子どもにも、わりと人気があるんですよ。大人は「肉なのか?肉じゃないのか?」という疑問を持ちながら食べますが、子どもは率直に美味しいかどうかで判断してくれます。大型スーパーで試食イベントをやることもあるのですが、子どもたちにもすごく好評です。
※アーリーアダプターとは、トレンドに敏感で、新しい商品を早い段階で購入する人のこと。
全くタイプが異なるビジネスパートナーと組む時の秘訣
大久保:ネクストミーツは佐々木さんと白井さん、お二人で起業されたんですよね。(編集部注:白井氏は現在ネクストミーツ社から離れている)
佐々木:はい。白井とはネクストミーツを起業する前からずっと一緒にやっていました。ですから、何が得意で何が不得意かは、よくわかっていたんです。
僕と白井は得意分野が全く違っていて、かぶらないんです。だからパズルのピースがはまるみたいに、お互いをカバーし合えました。そのおかげでスムーズに起業できたのかなと思っています。
大久保:タイプが全く違う相手と一緒にやっていくのは難しい場合もあると思いますが、何か秘訣があれば、教えていただけますか?
佐々木:確かに、うまくいかないケースもありますよね。やはりお互いの得意・不得意をしっかり理解して、認め合うことが大事かなと思います。
もちろん僕らも意見が異なることはありましたが、しっかり話し合えば、どちらかが納得できました。真逆のタイプでも、他の部分でしっかり繋がっていれば、同じ方向へ進めると思います。
大久保:あと御社の「地球を終わらせない。」というブランドメッセ―ジは、力強く、かつシンプルでわかりやすいですよね。社員の皆さんもこのメッセージによって結束しやすいのでは?
佐々木:ありがとうございます。壮大にしすぎたかなという気もしますが、まずは目を引くものにしたかったんです。抽象的だったおかげで、社員たちは自分なりに解釈してくれていると思います。
あとは取引先の方など、食品関係の方がいいねと言ってくださいます。そういう意味では、企業として大きなメッセージを持つことは大事だなと感じています。
一方で、消費者にはちょっと伝わりにくいかもしれないと思っていて、そこは課題ですね。実際には、地球のことを考えながらご飯を食べる人はあまりいないですから。
起業して1年でアメリカ株式市場に上場?
大久保:御社は2021年にアメリカの株式市場に上場されましたね。日本でも株式上場というのはかなり大変ですが、いかがでしたか?
佐々木:僕らはすでに上場している会社、SPAC(※)と言う特別目的買収会社を買収するかたちでした。ですから、上場の苦労はそれほどなかったんです。
※SPAC(Special Purpose Acquisition Company)とは、特別目的買収会社のこと。SPAC自体では設立・上場時に事業を行っていないが、SPAC上場後に未公開会社を買収・合併することで、未公開会社を上場させることができる。
アメリカ上場を選択した一番の理由は、資金が調達しやすいからなんです。研究開発もありますし、製造業としては、まとまった資金が必要ですので。
それに、グローバルに展開することはもう最初から想定していました。日本のベンチャーは、わりと国内で活動するところが多いですよね。僕としては、海外へ出るベンチャーがもっとあってもいいんじゃないかなって思っています。
ですから、僕らのようにSPACを使ってアメリカに上場する方法もあることを、広く知ってもらいたいなという想いもあります。
強みを活かして、国内外にもっと代替肉を広めていきたい
大久保:御社は世界で注目されていると思いますが、今後の展望を伺えますか?
佐々木:国内では、まずいろいろなレストランで使ってもらえるよう、取り組んでいます。新しい食材って、最初はレストランなど外食で食べる機会があって、それから自宅で使うようになると思うんですよ。例えばパクチーもそうですよね。最初はレストランで食べたりメディアで話題になったりして、その後でスーパーなどで普通に売られるようになってきました。
あと国内ではインバウンドの波がすごいので、インバウンド向けにもアピールしていきたいと思っています。ヴィーガンやベジタリアンの方って、日本で和食が食べられないことが多いようなんです。出汁にカツオを使うとか、動物性のものが入っていることもあるので。ですから、弊社の商品を使って、いろいろな方が楽しめる和食を提案していきたいですね。
海外はやはりマーケットが大きいので、こちらもさらに伸ばしていきたいと思っています。先ほどお伝えしたように海外の代替肉はハンバーガーパテのようなミンチ肉が主流なので、弊社のスライス肉という強みを活かして勝負していきたいですね。
大久保:最後に、これから起業する方へメッセージをいただけますか。
佐々木:1歩を踏み出すのって、すごく難しいですよね。起業後もそうですし、起業そのものに躊躇する方も多いじゃないですか。「起業する」と言っていた方と10年後に再会した時、まだ起業していなかったなんてこともありました。
だからこそ、行動力がポイントだと思います。僕の場合は「まずはやってみる。ダメなら方向を変えればいい」ということを、経験から学びました。ですから、まずは何でもいいから一歩踏み出してみる。これを大事にして欲しいなと思います。
大久保の感想
(取材協力:
ネクストミーツ株式会社 代表取締役 佐々木英之)
(編集: 創業手帳編集部)
なぜ代替肉が必要なのか。一つの理由は宗教の理由や、ビーガンなど肉を食べない人が世界にはかなりいる。今後インバウンドの復活を考えると誰でも食べれる代替肉という選択肢はより広がって良い。
そしてもう一つの理由はもちろん「肉」の環境負荷だ。環境負荷で自動車や火力発電所などは目に見えてわかりやすいが、それに匹敵する温室効果ガスが大量に出る要素が「肉食」だ。
よく環境問題で「銀座など繁華街のネオン」が引き合いに出されるが、ネオンサインなど問題にならないほど肉食の影響は大きい。特に途上国中心に肉食が伸びるので今後の影響は深刻だ。
また農業の輸入依存度の高い日本は今後、途上国が伸びる分、肉の輸入で今後買い負けも予想される。そのため日本および世界全体である程度、代替の肉を確保していく事が重要だ。
肉の消費量を抑える方法として様々なスタートアップがチャレンジしている。過去記事にしたものだと
・培養肉
・遺伝子操作で収量を上げる
・代替の動物性タンパク(極端な例だとコオロギなど昆虫食)
・代替の植物性タンパク
などがある。
その中でも植物性タンパク質、特に大豆はすでに実用化されている技術になり現実性が高い。スポーツで体作りで使う「プロテイン」も大豆由来の物が多い。日本では大豆系のタンパク質を肉食の代わりに使う発想は鎌倉時代の禅宗の精進料理からの長い歴史もあり安全性が証明されてきた。
そんな大豆系のタンパク質だが、やはり肉の感触に近づけるのが難しい面があった。ネクストミーツは「ネクストカルビ」や「ネクストハラミ」、「ネクスト牛丼」など用途や部位を特化してかなり肉の感触に近づけた。
「素晴らしい理想」でも消費者は美味しく、お手頃な値段でないと買ってくれない。ネクストミーツは理想と現実的な味を両立して、チェーン店や大型スーパーなど一定の市場で受け入れられつつある。
サステナブルとインバウンドの追い風も使いながら実際のファン、固定客を確保できるかがポイントだ。大豆は肉に比べるとコスト優位で、普及が進むとコストは構造的に下がっていくだろうから、「美味しいか」が鍵になる。
佐々木さんはさらに肉以上のものにしたいということで、今後の進歩が楽しみだ。