ニュースキャスターが実践している広報のコツ

広報手帳

「相手に話を聞いてもらう」ことの重要さ

(2020/01/31更新)

どんな仕事においても、「自分の話を相手に聞いてもらう」という状況が必ず発生します。
しかし、「相手に話をきちんと聞いてもらう」というのがいかに難しいことか、そのような状況に直面した人ならわかるはずです。いくら優秀な起業家でも話を聞いてもらえなければ、新しい顧客は増えませんし、仕事を受注することはできません。

今回「自分を知ってもらい、相手に話を聞いてもらうこと」の大切さについて、ローカルメディアの記者とニュースキャスターをされているNPO法人 NEWSつくばの伊藤氏に、体験談も交え、起業家の広報との共通点を解説していただきます。

伊藤 悦子(いとう えつこ)NPO法人 NEWSつくば ニュースキャスター
麻布大学獣医学部環境畜産学科(現・動物応用科学科)卒。麻布大学での勤務などを経て、ライターとして2017年に個人事業主として独立。ペットや動物のことを中心に執筆している。2019年8月からは、茨城県土浦市・つくば市周辺のニュースを配信するNPO法人「NEWSつくば」記者としても活動中。またNEWSつくばの記事を発信するラジオとYouTubeでキャスターも務める。ペット栄養管理士と家畜人工授精師の資格を持つ。ペット栄養学会、動物医療発明研究会会員。俳人協会会員。

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広報に必要な「4つの段階」

「ニュースキャスターと起業の広報って何か関係ある?」と思われるかもしれません。実は私自身、関係性に気づいていませんでした。しかし、全くの未経験からニュースキャスターをやっていくうちに、起業家の広報との共通点に気づきました。

それは、どの仕事の広報でも「4つの段階」があることです。

例えば、起業をしてオフィス街に小さなパン屋さんを始めることを想定して考えてみましょう。「主にランチタイムにサラリーマンやOLにパンを買ってもらうこと、そしてリピートしてもらうこと」を目標として広報を行います。

第1段階「お客さんに話を聞いてみようと思わせる」

まずは自分が信用されることが必要です。

いきなり「今度ここにパン屋さんができます」と言われても、どんな経歴がある人なのか、どんなパン屋さんを開くのかよくわからないとなかなか来てもらえないでしょう。たとえチラシを作っても読んでもらえない、サイトも見てもらえない、ということが考えられます。

お客さんは「パンを作るといっても素人なんじゃないか」「どんなパン屋なのかわからない」「なんでここにパン屋を?」など様々なオーナーへの不信や不安があります。

しかしここで
「パン作りの専門学校に行っていた」
「フランスのパン屋で修業していた」
「管理栄養士の資格を持っている」
「このオフィス街にある会社で、以前はサラリーマンをしていて周辺にくわしい」

などオーナーがどういう人物であるかをお客さんに示したらどうでしょうか。お客さんの不信や不安がかなり解消できるのではと思います。

このようにお客さんの状況や心理を理解し、不信や不安を解決することで、初めて「話を聞いてみようかな」「お店のことを知りたいな」と思わせることができるのです。

第2段階「お客さんに必要だと思わせる」

オフィス街に、すでに安く食べられる定食屋さんやお弁当屋さんがあるとなかなか売り上げを伸ばすことが厳しくなります。でも仕事をしつつ片手で食べられるパンなら、忙しい人にニーズがあるかもしれません。また 健康に気を遣っている会社員、ダイエットをしているOL向けのヘルシーなパンや全粒粉のパン、ベーグルなども喜ばれるかもしれません。コーヒーや紅茶があれば、なおいいでしょう。

このように、お客さんの「パン屋がこの場所に本当に必要なのか?」から「必要だ!あった方がいい!」と思えるような広報をすることが第2段階です。

第1段階の状況で、「パンを買ってください」「おいしいですよ」といってもなかなか相手の心には響かないばかりか、拒絶されてしまうことも考えられます。相手に「パン屋が必要だ」と思っていただくことによって初めて、次の段階に進めることができます。

第3段階「お客さんの商品への不安や不満を取り除く」

お客さんは「パン屋が必要なことはわかった。ランチにパンもいいな」と思いました。しかし今度は「高いのでは」「あんなこと言っていたけれど、本当においしいの?」「本当にカロリー低めかな?」「なんだか添加物が心配」などパンに対する不信や不安が湧いてきます。

次に必要な広報の内容は、商品に対するお客さんの不信や不安を取り除くことです。「確かに高いけれど、すべて国産小麦を使っています、バターは○○社のです」「全商品のカロリー表示しています」「惣菜の野菜はすべてオーガニックです。農家直送です」など具体的に示して解決していきます。

第4段階「お客さんが買わない」理由を解決するし、宣伝する

お客さんには、「確かにいいパンだ」とわかってもらいました。しかしお客さんは、なぜかすぐには買ってくれないことがあります。「買いに行くのが面倒だな、忙しいし」「高いパンを毎回昼に買うお金がないんだよね」「昼ごはんはオフィスの中で食べたくないな」などさまざまな買わない理由が出てきます。

こういった理由に対し、「配達しますよ」「お得なセットがあります」「ドリンクは100円引きになります」「2週間先まで使えるクーポンがあります」「イートインできますよ」などで、「買わない」というお客さんの状態を解決する手段を考え、その解決手段をうまく宣伝することで購入者を増やしていきます。

このようにお客さんの刻々と変化する不信や不安などの状態を1つずつ解決していくことで、効果的な広報が可能になります。
サイトを作るときも、チラシを作るときも、お客さんが持ちやすい不信や不安などのさまざまな状況を想定し、4つの段階を考えて解決していくようにするといいのではないでしょうか。もちろん4つの段階は、無理やりお客さんに押し付けて買わせるものではない、ということに注意が必要です。

話を聞いてもらうことの重要さ

簡単そうに見えて、実はなかなか困難なのが第1段階の「お客さんに話を聞いてもらうこと、受け入れてもらうこと」ではないでしょうか。

「いや、自分はメールやSNSでコミュニケーションを取るから話を聞いてもらうなんて関係ない」と思うかもしれません。すでに充実したサイトを作ってあるから大丈夫、という方もいらっしゃるでしょう。

しかし、メールもSNSでの投稿も、サイトもお客さん読んでもらわないことには、先に進むことができません。見ず知らずの人から「起業したので仕事を受注したい」とメールが来ても、開いて読む確率はかなり低いでしょう。

SNSではそもそもフォローされない可能性が高いです。当然フォローされない限り読まれることはありません。サイトにお客さんがたまたまたどり着いたとしても、ピンとこなければ閉じられてしまうでしょう。

例えばSNSやサイトのプロフィール欄に「脱サラ/旅するライター/フリー/趣味は食べ歩き/お仕事ご依頼待っています」と書かれていても、どんなライターかよくわかりませんよね。
「国内の温泉すべてに入ったライターです。温泉のことならお任せください。温泉観光士。日本酒についても書けます、日本酒ソムリエです。くわしくはこちらの経歴と実績をご覧ください」などと書いてあれば、かなり信頼度が増すのではないでしょうか。

このように相手の自分自身に対する不信や不安、不満を取り除いていくことが第1段階では必要となります。

「話を聞いてもらえなかった」ニュースキャスターとしての体験

ここからはニュースキャスターを始めたとき、なかなか「話を聞いてもらえなかった」自身の経験を交えてお話します。

ローカルメディアのニュースキャスターの必要性

大手メディアならともかく、有名人でも何でもないローカルメディアのニュースキャスターは、地元に溶け込む必要があります。そして地元の人たちに役立つ身近なニュースを送り届けることが大切です。

私が所属しているローカルメディアでは、WEBサイトで取材したニュースを発信するだけでなく、ラジオとYoutubeでもニュースを伝えています。ラジオもYoutubeもローカルメディアで取材したニュースから、自分で伝えたいもの、またはニュースにプラスして地元でのイベント開催など、「今伝えた方がいいもの」をキャスター自身が選びます。

リスナーや視聴者の反応は、ラジオではリスナーによる番組へのツイッター投稿、Youtubeは当然視聴回数と直接入るコメントでわかります。地元の人たちに親しまれているメディアです。

ニュースキャスターとしては失敗からスタート

たまたま縁があって新しい土地に来たとき、自分自身がライターをしていることもあって、私はそのローカルメディアのフリー記者になりました。記者になった間もないころ、前任者の退職に伴い、ラジオとYouTubeのキャスターもやることになったのです。

それまでのプログラムではラジオのツイッター投稿はもちろん、Youtube視聴回数も多くコメントも多数入っていました。

ところがその土地に縁もゆかりもない私が、ほぼ準備もしないままいきなりニュースキャスターになったとたん、視聴数がガクンと減ってしまいました。それは考えてみれば当然です。見ず知らずの人間が出てきて、しかも全く地元には縁がないのですから。「今までと違う、知らない人が出てきたぞ、じゃあ観なくてもいいな、聞く必要はない」となったのです。

視聴者の方にとっては「番組は終わった」ととらえられていたかもしれません。

同じことをやっているつもりなのに聞いてもらえない・観てもらえない

伝える内容や方法は以前のプログラムをそのまま引き継がれるため、今までのリスナーも視聴者も変わらないだろうと考えていました。

しかしラジオのツイッター投稿は、メインのパーソナリティが話している間はどんどん来るのに私の登場時間になると途絶えてしまいましたYoutubeでは、視聴回数が減りコメントは全く入りませんでした。イベント紹介の場合、Youtube番組ではイベント関係者などをゲストとして迎え、話を聞くスタイルです。たくさんの人に来てもらう必要がありますから、イベント紹介を行う際は責任重大といえます。

ひとつもコメントが入らず、申し訳ない気持ちになったこともあります。紹介したイベントがたまたま毎年行なわれ、地元の人が良く知っているものだったので、盛況に終わったのが幸いでした。

リスナーや視聴者の反応がなく、視聴数が減っていることを気に病んでもしかたありません。話を聞いてもらうにはどうするかを考え、改善していくしかないと思いました。

話を聞いてもらうために私がやったこと

リスナーや視聴者の私に対する不信や不満、不安を取り除き、話を聞いてもらうにはどうしたらよいか。

「話を聞いてもらいたい」という漠然とした目標では、自分自身も対策が立てにくく、周囲からみてもわかりにくいということに気づきました。

そこで自分を含め、誰が見ても目標を達成したことがわかるようにしようと考えたのが目標を「数値化」することです。

話を聞いてもらうことを数値化する

数値化すると言っても、いきなり「コメント100/件」と目標設定するのは、現実的に無理があります。

最初は小さな数字、例えば「2週間対策を行って、コメントを5件もらうこと」を設定しました。達成しやすい現実的な数字は自分自身が投げ出したくなることを防ぐ効果がありますし、2週間という期間は具体的な対策が立てやすくなります。

起業家の方なら、「今度のセミナーで20人と名刺交換する」「新規顧客を来月は3社増やす」などでしょうか。

そこで効果を得られたら対策を続ける、だめだったら新たな対策を考える、という形で数値をのばしていきます。

自分をもっと知ってもらう「SNSの利用」

まずは自分自身をもっと知ってもらうため、SNS「Twitter」を活用することにしました。ローカルメディア記者専用のアカウントを作成し、プロフィール欄に
・実名
・地名
・地元メディアの記者であること
・ラジオとYoutubeのパーソナリティをしていること
を記入します。そして、自分の書いた記事にリンクするようにしました。

続いて、さまざまなキーワードで検索し、地元の人、特に地元に愛着を持っている人をフォローします。するとプロフィール欄の内容を読んで、フォローしてくれる人が少しずつ増えてきました。プロフィール欄の内容で、フォロワーに対する不信感はだいぶぬぐえたのではないかと考えています。

ラジオもYoutubeも出演前日と放送直前にハッシュタグをつけてツイート、告知をしました。ツイート内容は焦点がぼやけないよう、地元ニュース、イベントに関連することのみです。

地元の人に意識して話しかける

直接対面して話すことは、人とのコミュニケーションでは重要です。地元には古くからあるお店がたくさんあります。折りをみてそういったお店に買い物にでかけ、さらにお店の人に話しかけました。地元のニュースメディアで記者をしていることを告げて、裏にラジオとYoutubeの放送時間を書いた名刺を渡します。

名刺だけでなくラジオやYoutubeに出ていることも話し、イベントやお得情報があったら取材したいこともお願いしました。さらに許可を得て商品の写真を撮り、Twitterにアップしました。

すると、Twitterアカウントを持っているお店から「いいね!」「リツイート」など反応をもらい、さらにお店のフォロワーがフォローしてくれるという効果もありました。

ベテランの観察して話し方を改善する

何かがうまくいかないときは、うまくいっている人と自分との比較も重要なポイントです。

一緒に出演するラジオのパーソナリティはベテランであり、いつも落ち着いた話しぶりです。参考にしたいと思うのですが、出演しているときは自分自身に余裕がありません。

そこで録音したものを聞いてみたところ、自分の方がかなり早口であることがわかったのです。また、ラジオを聞いている知人に、パーソナリティと私の違いについて率直な意見を聞いてみました。すると、パーソナリティがしょっちゅう口にしている言葉が、私にはほとんどないことが判明しました。それは「リスナーさん」という言葉です。

耳だけが頼りのラジオはゆっくり話すことで聴きやすくなり、「リスナーさん」と呼びかけられることで「自分に声をかけられているような気持ちになる」効果があるのではないかと思います。

次の出演では「落ち着いてゆっくり話すこと」「『リスナーさん』と呼びかけること」を意識しました。

対策後の結果

2週間後、ラジオ出演、Youtubeともさっそく反応がありました。

ラジオではTwitter投稿を5つもらうことができました。またYoutubeも、生放送中のコメントを7ついただき、目標を達成することができました。

買い物をしたお店の方もYoutubeにコメントしてくださったのが印象的でした。聴いている人、観ている人のダイレクトな反応は、励みになります。

もちろんコメント5つくらいのままでは困ります。ニュースキャスターとして、さらに視聴者数を増やすために次の目標数値を設定し、現在は先に挙げた対策のほかに新たな対策を実行しているところです。

起業家の方へ。「広報」のおすすめは、「名刺の裏」「SNS」の利用

「自分を知ってもらう」「話を聞いてもらう」方法はいろいろありますが、起業を目指す方は名刺も重要です。ただ会社名と名前が記載しているだけでは、何をしている人かわかりにくいこともあります。そこで名刺の裏にある程度詳しい内容を書くことがおすすめです。

フリーランスでライターをしていて、名刺を渡すと多くの人が裏を見ることに気づきました。そして裏に何もないと「なんだ」とちょっとつまらなそうな顔をするのです。そこで裏に自分の得意分野や資格を記載したところ、そこから話が弾むことが増えました。さらにポートフォリオや自分のサイトのQRコードを付けると、すぐに読んでもらえます。

起業する方も、TwitterなどのSNSは多いに利用するといいのではないでしょうか。特にプロフィール欄の充実と本名記載は効果的です。ここでも自分のポートフォリオやサイトにリンクを入れるようにします。

炎上するようなことを書かない、人の悪口は書かない。プライベートなことは書かないなどでほとんどのトラブルは防ぐことができるでしょう。

まとめ

広報において、最終的な目標を達成するには4つの段階があります。段階ごとのお客さんの不信や不安をひとつずつ解消することで、広報の効果が出てきます。その最初の第1段階である「まずは話を聞いてもらうこと」をクリアしないと、次の段階には進めないことを実感しました。

第1段階はお客さんの自分に対する「この人はいったい誰なんだ?どんな人なんだ?この人の話は聞くに値するのか?」をまず解決しましょう。

SNSやご自分サイトでしっかり自分を説明してみてください。名刺の活用もおすすめです。解決していくことをわかりやすくするためには、目標を数値化し具体的な期限をつけて対策するとわかりやすいです。ごく小さな数値でも、先に進んでいることを実感できるはずです。

私の体験が起業を目指す方にすべてあてはまるわけではないと思いますが、起業を目指す方のお役に立てれば幸いです。

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(編集:創業手帳編集部)

(監修: NPO法人 NEWSつくば/ニュースキャスター 伊藤 悦子)
(編集: 創業手帳編集部)

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