5月病の早期発見と回復方法とは。個人や企業での取り組みを紹介します。
社員の5月病は生産性低下の要因にも。ストレスは未然予防で成長の後押しに。
4月は何かと変化が多い季節。入社や社内の人事異動などの多くは4月に行われ、大型連休のゴールデンウィークを挟んだあたりから徐々に「5月病」を発症してしまうケースがあります。
5月病については2023年に積水ハウスが発表したデータによると、2022年には20-30代の4割以上が5月病を経験したとし、新入社員だけの症状ではなく社員全体に起こり得る問題となっています。
それでは事前にどのような対策をしておくことがよいのでしょうか。
今回企業向けにメンタルヘルステックのサービスを展開しているbooost health株式会社CEOの芳賀氏に5月病への向き合い方について解説していただきます。
東京大学文学部社会心理学専修課程卒業。 IESE Business School MBA卒業。
マッキンゼー&カンパニーにて、戦略策定、オペレーション改善、企業変革に約8年従事。 経営コンサルタントとしての経験を経て、「日本の働く人々をもっと心身ともに健康にしたい」という課題意識からbooost healthを2022年に創業。
心理カウンセラー、メンタルトレーナー資格。
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この記事の目次
ゴールデンウイーク後に起こりうる「5月病」
新たな始まりの季節、5月。新しい環境への適応に奮闘する社員たちの間で、心の不調を訴える声が増える時期でもあります。
この「5月病」と称される現象は、新入社員や異動したばかりの社員に特に多く見られ、新年度の緊張がゴールデンウイーク後に解けることで起きると言われます。
3つの変化から見る不調のサイン
初期症状としては、「やる気が出ない」「食欲が落ちる」「眠れなくなる」などが挙げられますがそれらの変化を下記に分けることができます。
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- 認知的変化:「集中できない」「物事を忘れやすい」など。
- 行動的変化:「起きて出社するのが億劫」「普段しないようなことをする」など。
- 情動的変化:「急にイライラする」「理由もなく悲しくなる」など。
これらの症状をきっかけとして、徐々に体調が低下し、生産性の低下・欠勤に繋がることがあります。
ストレスが蓄積し、不調が顕在化してからの「事後対応」では、その代償は計り知れません。
不調顕在化後の対処は本人にとって非常に負担となり、さらに、企業としても休職者や退職者ひとりあたりの損失や生産性低下を考えると未然に防ぐことが大切です。
ではどうやって5月病を防いでいけるのでしょうか?
ストレスの早期発見と適切な回復の重要性
春は特に新しい環境への適応でのストレス・緊張を誰しもが感じるもの。
ポイントは、ストレスそのものが問題ではなく、そのストレスに対して適切な回復ができていないことが問題なのです。
メンタルケアや管理を日常的に行うことで、ストレスを溜めない・溜めさせないようにすることが可能です。
つまり、メンタル管理はトレーニングなのです。
早期にサインに気づき、十分な回復ができるように取り組めることを個人、雇用主の企業それぞれで見ていきましょう。
個人ができるメンタルトレーニング
5月病の防止・克服のカギは、「早めに気づく、十分に回復をする」です。以下の点に注目してみましょう。
①セルフチェックの実践
「最近集中できていない」「やる気が出ない」「疲労感が強い」といった変化を感じたら、それがストレスサインかもしれません。
でも、ストレスの渦中にいると、客観性を失い、そういった予兆に気づけない、ということがありますよね。
普段から自分なりのサインを覚えておくことをおすすめします。例えば、ストレスが溜まると、無性にジャンクフードを食べたくなったり、お酒の量が増えたり。
そんなときは、ストレスを感じている兆候として認識し、一度立ち止まって適切な対処をしましょう。
疲れがたまっているサインに気づいたら、自分なりの回復アクションを取りましょう。
②質の高い十分な回復
しっかりと睡眠を確保し、意識的にリラクゼーションの時間を作ることが大切です。また、横になって休むだけが回復ではありません。
オン・オフを明確にし、趣味の時間を楽しんだり、運動で体を動かしたり、友人・家族と時間を過ごしたりすることで、心身ともにリフレッシュできます。
あらかじめスケジュールに具体的な予定を入れておくことで、「寝て過ごしたら休みが終った」ということも防げます。
③プロのサポート
自己対策に頼りすぎず、症状が続く場合は、早めに社内の相談窓口やメンタルヘルスの専門家に相談しましょう。
未然に周囲に助けを求めることは弱さではなく、ビジネスパーソンとして責任のある行動です。
企業ができる従業員へのメンタルトレーニング
企業側もまた、社員のメンタルヘルスをサポートすることで、5月病による影響を最小限に抑えることが可能です。
企業で施策やツールを一方的に提供するだけではなく、社員一人ひとりが自律的に行動を起こせるように社員本人の能力・マインドの向上も必要です。
①メンタルヘルス教育の推進
社員自らがストレスのサインを早期に察知し、適切に対応できるよう、メンタルヘルスに関する知識とスキルの向上を図ります。
②コミュニケーションの促進
チーム内や人事と定期的なワンオンワンミーティングやコミュニケーションを設けるように呼びかけ、社員が抱える悩みやストレスをオープンに話せ、未然に兆候を察知できる環境を作りましょう。
③社内カウンセリングの提供
専門のカウンセラーによる相談窓口を設け、社員が気軽に心のケアを受けられる環境を整えましょう。
すでに相談室が設置されている場合は、5月に向けて予防的な利用を呼び掛けるのもよいでしょう。多くの社員は「不調にならないと相談しにくい」と思っています。
「ウェルビーイング週間」などと称して敷居を下げる呼びかけを積極的に行うとよいでしょう。
メンタルの状態は、日々の生産性・成果に直結します。そして、それは学習可能な能力です。アスリートが心・技・体を鍛えて成果を出すように、企業で働く人々もメンタルを整え、高いパフォーマンスを発揮できるようにしていくことが求められます。
メンタルチェックのための6つのコミュニケーション
では、自分の周囲にストレスが高そうな人がいる場合の対処法はなんでしょうか。
それは「元気?」「大丈夫?」ではなく、具体的な質問をすることです。
「大丈夫?」と聞かれると、人は「大丈夫です」と答えます。
食事や睡眠など回復力に関係する質問をして、大事なチームメンバーの不調やストレスのサインを見逃さないようにしましょう。
下記はメンタルの変化をチェックする6つのコミュニケーションです。
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- ①今の調子は1~10点で何点ぐらい?
- ②最近何か心配事はある?
- ③最近、良い睡眠がとれている?
- ④ご飯は食べれている?
- ⑤週末はゆっくり休めている?
- ⑥もしサポートが必要なら、何が助けになると思う?
特に管理職の方々には、気になる変化を見たら、その人の状況を聞き、必要に応じて人事や社内の適切な担当者へ相談することをお勧めします。
同僚の場合は、話を聞いてあげる以外に、本人に専門家への相談を勧めたり、上司に相談するのも一つの方法です。
同僚の遅刻が増えたり、心ここにあらずな様子が見られたり、いつもは温和な人がすぐにイライラするようなら、「ダメだなぁ」と思う前に、「ストレスのサインかも?」と思ってあげてください。
ストレス反応は人それぞれ異なります。このコラムで触れている対処法は基礎的なものです。
改善が見られなければ、自己判断せずに早めに専門家に相談することも忘れないでください。
心の不調を未然に防ぐことの大切さ
さいごに「社員には健康で前向きに働き続けてほしい」、「変革期でも社員をバーンアウトさせたくない」、これらは、多くの経営者や管理職が共有する願いです。
しかし、環境が目まぐるしく変わる現代、一人ひとりの社員に求められるキャリア自律性やストレスの増加は避けられません。
「人的資本経営」を重視する現代において、企業の成長と共に社員自身も健康で、持続可能な活躍と成長を遂げるためには、どのような対策が必要かを考慮することが不可欠です。
ストレス自体は悪いものではありません。なぜなら、私たちが成長し能力を発揮するための後押しにもなるからです。
重要なのは、ストレスを適切に管理し、心の不調を未然に防ぐための知識とスキルを身に付けることです。
それにより、社員一人ひとりが自身の状態に気づき、日常的に適切な自己ケアを行うことで、結果として高いパフォーマンスを持続的に発揮することができます。
ストレスや不安が放置されると、問題は深刻化し、回復に時間がかかるだけでなく再発のリスクもあります。
だからこそ、自分自身と周囲の小さな変化に敏感になり、早めのケアが肝心です。
さて、少し長くなりましたが、自分と周りの小さな変化に気を配ってみてください。
あなたの一歩が、あなた自身や、誰かの大きなサポートになることを忘れないでくださいね。
(執筆:
booost health株式会社 Founder & CEO 芳賀 彩花)
(編集: 創業手帳編集部)