公共調達とは?国が取り組む中小企業・スタートアップの公共調達促進について解説
行政×中小企業・スタートアップで公共調達を促進
ビジネスで成功するためには、実績や信頼性を築くことが重要です。
どのように優れた商品・サービスであっても、実績や信頼性が足らなければ、購入や利用につながらないケースがあるかもしれません。
実績や信頼性を向上するためには、公共調達を活用する方法があります。公共調達に成功すれば、中小企業やスタートアップ企業でも大手企業と張り合えるかもしれません。
政府も中小企業・スタートアップ企業の成長のために、公共調達の促進に取り組んでいます。
そこで今回は、公共調達の概要や種類、公共調達を狙うべき理由、成功のコツ、事例について紹介します。
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この記事の目次
公共調達とは?
公共調達とは、政府機関や地方自治体などの行政が、民間企業から物品やサービスを調達することです。
例えば、庁舎で使用する設備や備品を購入したり、建物の修繕を外部に委託したりすることが公共調達に該当します。
行政も一般企業と同じく、業務に必要なものを他社から仕入れなければなりません。
行政は公的な資金で運営されているため、調達の公正性や経済合理性が重視されます。そのため、公共調達では入札によって公正に調達先を決められるのが原則です。
公共調達の種類
公共調達の種類は、競争入札と随意契約に大きく分かれます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
競争入札
競争入札は、参加した事業者が入札によって契約獲得を競う方法です。一般競争入札・指名競争入札・企画競争入札の3つの入札方式があります。
一般競争入札
一般競争入札は、行政が入札に関する公告を行い、入札資格を有する不特定多数の事業者が参加できる入札方式です。
選定の公平性が高く、公共調達の方法では最もスタンダードな入札方式です。
契約主体にとって最も有利な条件を出した業者が選ばれ、公共調達の契約が締結される流れとなっています。
また、一般競争入札では、価格のみで競う最低価格落札方式と価格以外の提案も含めた評価で競う総合評価落札方式があります。
多くの事業者が参加できる機会があり、実績が浅い企業でも落札できる可能性があることがメリットです。
ただし、シンプルに価格で勝負する最低価格落札方式では、必要以上に価格を下げると利益率が下がってしまうため、慎重に価格を決めることが求められます。
指名競争入札
指名競争入札は、参加者を限定して行われる入札方式です。
行政が一定の資力や信用などを有すると認められた事業者を指定し、その業者の中で最も有利な条件を出した事業者と契約を締結します。
指名競争入札は、最低価格落札方式と総合評価落札の2つの方式で行われます。
指名競争入札は指名を獲得すれば、一般競争入札よりも落札できる確率が高いことがメリットです。
最低価格落札方式において、無理な値下げ競争になりにくい特徴もあります。
ただし、参加には指名を受ける必要があり、ある程度の実績や信用を上げることが求められます。
企画競争入札
企画競争入札は、不特定多数の事業者に特定のテーマの企画書・提案書などを求め、技術的に最も有利な提案をした事業者と公共調達の契約を締結する入札方式です。
高度な技術や専門的な技術を要求されるものを発注する際に活用されています。
選定の基準が技術力であるため、価格で勝負する必要がなく、利益率を確保できることがメリットです。
一方で、企画書や提案書などの提出が必要で、作成に手間と時間がかかってしまいます。
随意契約
特定の事業者との任意契約が随意契約です。公共調達では入札が基本ですが、例外で随意契約が行われることがあります。
ただし、公正な選定とならない可能性があるため、2社以上の事業者から見積もりをとった上で選定する方法で、適正化を担保することが求められます。
随意契約は、行政から声がかかれば、ほぼ確実に契約につながることがメリットです。
独自技術を有しているなど選定される理由がない限り、声をかけられることがない点がデメリットになります。
また、声がかかっても相見積もりの結果、他の業者が選ばれる可能性もあります。
中小企業やスタートアップが公共調達を狙うべき理由
中小企業やスタートアップが成長を続けていくためには、公共調達を活用することが求められます。
ここで、中小企業・スタートアップが公共調達を狙うべき理由についてご紹介します。
入札参加資格が緩和されている
中小企業やスタートアップが公共調達を狙うべき理由は、入札参加資格が緩和されているためです。
政府は2022年11月28日に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップの育成に力を入れています。
この計画に通じる取組みとして、入札参加資格の見直しが行われました。
競争入札では、企業は経営規模や実績によってA~Dのランクに分類され、ランクが高い企業ほど大規模な入札に参加できる仕組みです。
一方、実績が浅い中小企業やスタートアップは低いランクに位置づけられるため、大規模な入札に参加できないことが問題でした。
そこで、J-Startup選定企業などの技術力が認められた中小企業・スタートアップは、ランクに関わらず大規模な入札に参加できるように参加資格が見直されました。
確かな技術力を有する中小企業・スタートアップが大規模な入札に参加できれば、ビッグチャンスを掴める可能性が高まります。
入札機会が拡大されている
入札参加資格の見直しに合わせて、中小企業・スタートアップへの入札機会が拡大されています。「スタートアップ育成5か年計画」に通じる取組みの1つです。
入札参加資格の見直しによって、特定の業種や地理的エリアなどを中心に改正が行われ、参加資格の適用範囲が広がりました。
例えば、SBIR(中小企業技術改革制度)の特定補助金などの交付を受けた中小企業・スタートアップは、技術力を証明すれば入札に参加できます。
ほかにも、省庁が支援する事業者やベンチャーキャピタル等から出資を受けている事業者、J-Startupに選定された事業者なども入札に参加できる機会が増えました。
優れたスタートアップへの優遇措置がある
J-Startupに選ばれている優れた中小企業・スタートアップは、随意契約において優遇措置が行われるメリットがあります。
J-Startupは、大企業の新規事業者やベンチャーキャピタリストなど外部の有識者の推薦に基づいて、潜在力を有する企業が選ばれる制度です。
政府は高度な独自技術を有するスタートアップの公共調達促進を目指し、J-Startup選定企業等を対象に行政課題を解決する技術提案を公募し、随意契約を締結・公表するスキームを構築しました。
また、J-Startup選定企業等以外の企業からも公募を募る場合、J-Startup選定企業等であることを評価項目に組み込み、優れたスタートアップを優遇するとなっています。
J-Startupに選ばれたスタートアップは評価が有利になり、随意契約につながるチャンスを得られるかもしれません。
社会課題の解決によるインパクトが狙える
公共調達の実績を獲得することは、中小企業・スタートアップの今後の事業展開において良いインパクトを与えるかもしれません。
多様化かつ複雑化している社会課題に対して、行政は民間と連携していく必要性が高まっています。
実際に、中小企業・スタートアップの技術が被災地の支援に貢献したことなど、社会課題の解決や社会貢献につながっている事例があります。
そのため、行政は優れた技術力を持つ中小企業・スタートアップとの連携を重視し始めているのです。
公共調達を通じて社会課題の解決や社会に貢献できたという実績は、企業にとって社会的な信用を高めるきっかけとなります。
その結果、取引先や顧客の増加や売上アップなどにつながる可能性が高まります。
中小企業・スタートアップが公共調達を成功させるには
中小企業・スタートアップにとってメリットがある公共調達を成功させたいのであれば、以下の制度を活用することがおすすめです。
トライアル発注制度への参加
地方自治体は、受注実績が少ない優れた中小企業・スタートアップに対して、随意契約ができるトライアル発注制度を利用できます。
中小企業・スタートアップはトライアル発注制度に参加することで、行政からの受注実績を作れます。
また、ただ商品を調達するだけではなく使用後の意見がフィードバックされるので、今後の商品・サービス開発や改善に役立てることが可能です。
入札情報の収集や準備をしっかり行う
公共調達を成功させるためには、入札情報を収集し、準備を整えることが大切です。
調達インフォやNJSSなどのプラットフォームをチェックすることで、全国の入札・落札情報を調べられ、適した案件を見つけられます。
なお、入札に参加するためには発注機関が求める入札資格を満たさなければなりません。
財務状況や過去の実績、技術力などを証明できる書類を正確に作成して提出することで、参加資格を得られます。
参加資格を得ると入札案件に関する説明会に参加することが可能です。説明会では質疑応答があるため、案件に対して理解を深められます。
説明会で十分に情報を得ることで、適切な入札価格を検討できるようになり、落札できる可能性が高まります。
【分野別】中小企業・スタートアップによる公共調達の事例
最後に、中小企業・スタートアップの公共調達の成功事例を分野別に紹介します。
子育て・教育分野
ユニファ株式会社は、提供する保育施設向け総合ICTサービス「ルクミー」で、岩手県北上市と山梨県甲斐市と連携した実績があります。
ルクミーの導入によって、保育者の負担となっている保育関連業務をDX化し、アナログの記録業務の負担が軽減されました。
また、ボタン式センサーと専用アプリで睡眠中の園児を見守るサービスによって、保育者の精神的負担軽減にも貢献しています。
連携した北上市では、「現場の先生から前向きな改革意識が生まれた」効果を生み、甲斐市では「手書き業務などの軽減により保育者の心と時間のゆとり創出に貢献した」効果を生んでいます。
医療福祉分野
Ubie株式会社は、神奈川県海老名市と千葉県御宿町と連携した実績があります。
海老名市には、市民が無料で利用できる「AI受診相談システム」を提供しました。
AIが繰り出す質問に回答するだけで、症状や位置情報から近隣の受診先を案内できるサービスによって、市民の負担軽減を実現しました。
また、御宿町には、町民のかかりつけ医となっているクリニックに「ユビーリンク」を提供しています。
患者が持つスマートフォンや医院のタブレットからWeb問診ができるシステムで、医者が来院前から症状を把握できることから、医療機関の負担軽減に貢献しています。
インフラ・施設分野
PicoCELA株式会社は、長野県駒ヶ根市と連携した実績があります。
駒ヶ根市は、信州大学と共同で「駒ヶ根高原プロジェクト」という観光地域づくりプロジェクトを主導しています。
その実証実験において、PicoCELA株式会社が提供する無線LAN「マルチホップWi-Fi(PCWL-0400、PCWL-0410 )」が採用されました。
現場調査を重ねながら半年間の実証実験を経て、駒ヶ根高原への来訪者向けに高速かつ安定性のある無線通信サービスの提供を実現しました。
農林水産分野
AGRIST株式会社は、農業課題の解決のために自動収穫ロボットや見守りロボットを開発しており、鹿児島県と連携した実績があります。
ビニールハウスでのピーマンの収穫において、自動収穫ロボットの実証実験を県から受託されています。
また、ピーマン自動収穫ロボットの普及に向けて、東串良町と包括連携協定を締結しました。
自動収穫ロボットを活用した栽培方法の普及や、東串良町市周辺の農業関係者と連携したスマート農業人材の育成に貢献しています。
環境分野
CONNEXX SYSTEMS株式会社は、宮城県蔵王町をはじめ、約270箇所の全国自治体や医療施設と連携している実績があります。
自然災害などの停電対策として、自治体や医療機関に蓄電システムを提供しています。
具体的には、停電時も新型コロナウィルスのワクチンを補完できるように、非常用小型蓄電池を用いた超温冷凍庫が導入されました。
可搬型の冷凍庫なので、ワクチン接種会場に移動して活用された例もあります。
また、災害時の飲料確保や通信設備、空調設備の停電対策として、避難所などでの蓄電システムの導入設置に関する相談にも対応しています。
観光・文化分野
Kotozna株式会社は、観光案内所向けの情報発信・コミュニケーションツール「Kotozna In-room」を運営しています。
大阪観光局と連携した実績があり、2021年度「DXを活用した外国人観光案内所機能強化実証事業」の一環としてツールが導入されました。
ツールでは、QRコードを読み取るだけで、スマートフォンの設定言語に合わせてチケットやイベント情報などを109言語に自動翻訳して表示させることが可能です。
この機能により、外国人観光客は簡単に表示内容を母国語で確認できるようになりました。
ツールを通じて、ペーパーレス化や人材不足の補完、多言語でのクーポン配信による経済と案内所の収益増加といった効果から、持続可能性に貢献していると評価されました。
くらし・手続き
FRAIM株式会社では、クラウドドキュメントワークスペース「LAWGUE」を提供しており、兵庫県尼崎市と徳島県と連携した実績があります。
尼崎市では、条例・規則・契約書などの各種文書の業務効率化・質向上を目的にLAWGUEを導入しました。
審査時のやりとりや事例をLAWGUEに蓄積させたことで、審査業務の属人化の防止や質向上に貢献しています。
徳島県にも審査業務の効率化のために導入されており、審査・修正時間が以前と比べて1/3に短縮されました。
また、審査フローの見直しや審査履歴の蓄積、メンバー間でのスムーズな情報共有も実現しています。
産業・ビジネス分野
株式会社Sprocketは、Web接客プラットフォーム『Sprocket』を提供しており、青森県と提携した実績があります。
青森県観光国際交流機構(旧青森県観光連盟)が運営する観光サイトにて、Sprocketが導入されました。
Web上での接客対応によって、訪問者が知りたい情報が掲載されたページに案内できるようになりました。
その結果、青森四大祭りに関する電話の問い合わせ件数が例年の約1/10に削減され、問い合わせ対応の負担軽減につながっています。
まとめ・中小企業やスタートアップは公共調達で実績と信頼を獲得しよう
公共調達によって行政と連携した実績を上げることは、中小企業・スタートアップにとって良い効果が期待できます。
公的な機関との取引実績があれば、社会からの信用度が高まり、成約数や売上などの向上につながる可能性があります。
国も中小企業・スタートアップの公共調達の促進に向けて様々な施策を講じており、入札参加のハードルは低い状況です。
そのため、自社の成長のために積極的に入札に参加し、公共調達の実績と信頼を獲得していくことをおすすめします。
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(編集:創業手帳編集部)