経営者保証が不要でも融資が受けられる信用保証制度とは?概要や対象要件などを解説
中小企業は経営者保証が不要な保証制度を活用しよう!
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が連帯保証人になることを意味する経営者保証の提供が一般的でした。
しかし、現在は経営者保証なしの融資も登場しています。
そして、2024年3月から保証料を上乗せすることで、経営者保証の提供を不要とする信用保証制度の受け付けが始まりました。
経営者保証の提供が不要になることで、事業成長に向けた大きな投資や事業承継のハードルが下がるといったメリットがあります。
そこで今回は、経営者保証なしでも利用できる信用保証制度や経営者保証を提供して融資を受けるリスクなどについてご紹介します。
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この記事の目次
経営者保証が不要になった背景
経営者保証は、会社が融資を受ける際に経営者が連帯保証人になり、倒産によって返済ができなかった時に企業の代わりに返済を行う制度になります。
その経営者保証が不要になった背景には、経営者個人が抱えるリスクが大きく、思い切った事業展開や事業承継などに支障が出ることが懸念されているためです。
この課題を解消するために、経営者保証に依存しない融資の促進を目的に政府は「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、2014年2月から適用されています。
しかし、中小企業の4割が利用する信用保証制度のうち、7割の融資で経営者保証を求められている現状です。
そこで、経済産業省は経営者保証なしの新たな信用保証制度を設けました。経営者保証の提供を不要とする代わりに、保証料を上乗せることが主な条件となっています。
経営者保証が不要になる新たな信用保証制度とは
経営者保証が不要な新しい信用保証制度には、以下の3つがあります。
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- 事業者選択型経営者保証非提供制度
- 事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度
- プロパー融資借換特別保証制度
なお、上記3つの信用保証制度は、事業のための融資であり創業者向けではありません。創業者向けには「スタートアップ創出促進保証」という制度があるので、そちらをチェックしてみてください。
事業者選択型経営者保証非提供制度
事業者選択型経営者保証非提供制度は、保証料の上乗せを条件に経営者保証を提供せずに信用保証付融資を利用できる制度です。
2024年3月15日から申し込み受付を開始しています。申し込みに関する相談は、各都道府県の信用保証協会やお近くの金融機関で受け付けています。
対象要件
この信用保証制度を利用できる人は、以下の5つの要件をすべて満たす法人です。
1.過去2年間(設立から2年以下の場合はその期間)において、申込金融機関の要求に応じて決算書等を提供している
2.直前決算で代表者等への貸付金・その他金銭債権がなく、代表者への役員報酬・賞与・配当・その他の金銭の支払いが社会通念上相当と認められる範囲を超過していない
3.次のいずれかを満たしている
①直前決算で債務超過でない(賃借対照表で「純資産≧0」になっている)
②直前2期の決算で減価償却前経常利益が連続して赤字ではない(損益計算書で「経常利益+減価償却≧0」になっている)
4.次の①及び②について継続的に充足することを誓約する書面を提出している
①保険申し込み後においても、込金融機関の要求に応じて決算書等を提出する
②保証申込日を含む事業年度以降の決算において、代表者への貸金等がなく、役員報酬等が社会通念上相当と認められる範囲を超過していない
5.保証料率の引き上げを条件に経営者保証を提供しないことを希望している
なお、設立事業年度で決算がない法人であれば、1~3の要件は問わないとしています。
保証料率
各信用法相協会が定める保証料率に上乗せされる割合は、上記の要件の第3項目をどれほど満たしているかによって異なります。
要件の第3項目において①と②のどちらも満たしている時は0.25%、①か②のどちらか片方を満たしている、または法人設立から2事業年度の決算がない場合は0.45%の上乗せです。
対象になる保証
事業者選択型経営者保証非提供制度の対象となるのは、以下の信用保険が付帯された保証制度になります。
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- 無担保保険
- 公害防止保険
- エネルギー対策保険
- 海外投資関係保険
- 新事業開拓保険
- 事業再生保険
事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度
上記で紹介した事業者選択型経営者保証非提供制度の活用を促進する目的で、時限措置として設けられた信用保証制度です。
2027年3月末までの3年間は、上乗せされる保険料率が軽減されます。こちらも申し込みに関しては、各都道府県の信用保証協会やお近くの金融機関に相談してください。
対象要件
この制度を利用できる対象者は、事業者選択型経営者保証非提供制度と同じく以下5つの要件をすべて満たしている法人です。
1.過去2年間(設立から2年以下の場合はその期間)において、申込金融機関の要求に応じて決算書等を提供している
2.直前決算で代表者等への貸付金・その他金銭債権がなく、代表者への役員報酬・賞与・配当・その他の金銭の支払いが社会通念上相当と認められる範囲を超過していない
3.次のいずれかを満たしている
①直前決算で債務超過でない(賃借対照表で「純資産≧0」になっている)
②直前2期の決算で減価償却前経常利益が連続して赤字ではない(損益計算書で「経常利益+減価償却≧0」になっている)
4.次の①及び②について継続的に充足することを誓約する書面を提出している
①保険申し込み後においても、込金融機関の要求に応じて決算書等を提出する
②保証申込日を含む事業年度以降の決算において、代表者への貸金等がなく、役員報酬等が社会通念上相当と認められる範囲を超過していない
5.保証料率の引き上げを条件に経営者保証を提供しないことを希望している
保証料率・補助率
保証率に関しても、事業者選択型経営者保証非提供制度と同様に要件の第3項目の達成度に応じて、0.25%または0.45%が上乗せされます。
しかし、保証の申込日に応じて以下の補助率に相当する金額が国から補助されます。
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- 2024年3月15日~2025年3月末までの申し込み分:0.15%相当
- 2025年4月~2026年3月末までの申し込み分:0.10%相当
- 2025年4月~2027年3月末までの申し込み分:0.05%相当
保証限度額
事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度では、保証限度額が設定されています。
対象の保証制度ごとの限度額は、8,000万円です。なお、セーフティネット保証4または5号では、別枠で8,000万円が限度額となっています。
保証期間
保証期間は、返済方法によって異なります。一括返済で融資を受ける場合は1年以内、分割返済で融資を受ける場合は10年以内です。
なお、分割返済を選択した場合、据え置き期間は1年以内となっています。
プロパー融資借換特別保証制度
プロパー融資とは、信用保証協会の保証がつかない融資制度です。
民間金融機関においても経営者保証が不要な融資の取組みを促進させる目的で、時限的にプロパー融資借換特別保証制度が創設されました。
具体的には、経営者保証ありのプロパー融資から経営者保証が不要な信用保証付融資への借り換えを認める保証制度となっています。
取り扱い期間は2027年3月末までです。申し込みの相談は、各都道府県の信用保証協会やお近くの金融機関に問い合わせください。
対象要件
この制度の対象者は、経営者保証を提供したプロパー融資の借入れがある法人で、経営者保証が不要な信用保証付き融資に借り換えたい法人です。
具体的には、以下すべての要件を満たす必要があります。
1.資産超過であること
2.EBITDA有利子負債倍率が15倍以上
3.法人・個人の分離がなされている
4.申込日において返済緩和している借入れがない
EBITDA有利子負債倍率は、(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)で算出することが可能です。
保証料率
保証料率は0.45~1.90%以内となっており、融資制度や借入れの状況に応じて変動する可能性があります。
保証限度額
保証限度額は2億8,000万円(組合等は4億8,000万円)です。
ただし、申込金融機関の保証限度額は、プロパー融資のうち経営者保証を提供していない借入残高の範囲内となっています。
保証期間
保証期間は、返済方法によって異なります。一括返済は1年以内、分割返済は10年以内(据え置き期間は1年以内)です。
借入れ時の要件
プロパー融資借換特別保証制度では、借入れ時の要件が定められています。申込金融機関にて、以下いずれかの要件を満たさなければなりません。
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- 経営者保証なし、かつ保全のない保証協会の保証がないプロパー融資を借入れること
- 本制度による返済部分を除くプロパー融資の全部または一部の経営者保証を解除し、かつ解除した借入れに保全がないこと
保証料の上乗せ分を補助する自治体もある
新たな信用保証制度で上乗せされる保証料は、原則事業者の負担です。しかし、その上乗せ分を補助する自治体も存在します。
例えば、保証料の上乗せ分の補助を行う自治体の例には、宮崎県の高鍋町・新富町・木城町・都農町・高千穂町・日之影町・五ヶ瀬町が挙げられます。
事業所がある地域の自治体でも補助を行っていないか確認してみてください。
従来の保証人不要制度との違い
従来の保証人を不要とする保証制度は、経営者保証ガイドラインに基づいて設計されています。
ガイドラインでは、経営者保証をなしにする条件として以下3つの要件を定めています。
法人と経営者の資産分離 | 資産の所有や金銭のやり取りに関して、法人と経営者で明確に区分・分離されていること |
財務基盤の強化 | 財務基盤を強化しており、法人だけで資産・収益の返済が可能であること |
経営の透明性 | 適時適切に財務情報を金融機関に提示できること |
一方、新設された信用保証制度で経営者保証なしとなる主な条件は、保証料の上乗せです。
上記の要件を満たしていなくても融資を受けられる可能性があり、従来の制度よりも要件が緩和されていることが大きな違いです。
日本政策金融公庫が提供する「経営者保証免除特例制度」とは
日本政策金融公庫から融資を受ける場合、「経営者保証免除特例制度」を適用することが可能です。
こちらは経営者保証ガイドラインに基づいて設計されている特例制度になります。
一部の融資制度では利用できない可能性があるので、融資を受ける前にお近くの支店に問い合わせてください。
対象要件
経済状況から借入れの返済ができる見込みがあり、1~7まであるいずれかの要件を満たしている法人が対象です。
1.①~③のすべての要件を満たしている方
①法人と経営者の一体性の解消が一定程度図られていることを、公庫が確認できる
②税務申告を2期以上実施しており、公庫から普通貸付や生活衛生貸付の借入れがある場合は取引状況に問題がない
③以下いずれかの要件を満たしている
(ア)最近2期の決算期で、減価償却前経常利益が2期連続して赤字ではない
(イ)直近の決算期で、債務超過になっていない
2.物的担保の提供があり、第1項目の要件を満たしている方
3.新規開業からおおむね5年以内で技術・ノウハウに新規性がみられ、第1項目及び第2項目の要件を満たしている方
4.取引金融機関で経営者保証の免除に関する協調対応が見込める、または経営者保証を免除された借入れの残高がある
5.事業継承・集約・活性化支援資金、または事業衛生事業継承・集約・活性化支援資金を利用している方
6.新規事業をはじめる、または税務申告を2期終えていない方
7.ソーシャルビジネス支援資金を利用しているNPO法人
上乗せ率
経営者保証免除特例制度では、適用する融資制度の所定の利率に上記の要件に応じて異なる利率が上乗せされます。
要件の第1項目に該当する場合 | 0.3% ※③の(ア)(イ)の両方を満たす場合は0.2% |
要件の第2項目に該当する場合 | 0.2% ※十分な物的担保の提供があれば上乗せなし |
要件の第3項目または第7項目に該当する場合 | 0.1 |
要件の第4項目または第6項目に該当する場合 | 0.002 |
要件の第5項目に該当する場合 | 上乗せなし |
担保の有無
担保の提供の有無は、融資を申し込む際に選ぶことが可能です。無担保で融資を受けられやすいことが日本政策金融公庫のメリットです。
借入れの金額や状況に応じて、担保を提供するかどうか判断してください。
経営者保証で融資を受けるリスク
経営者保証が不要な融資を利用するにあたって、保証人を提供することのリスクを理解しておく必要があります。
経営者保証を提供する融資の主なリスクは以下のとおりです。
経営者個人の財産で返済しなくてはならない
経営者は会社の連帯保証人となるため、会社が借入れの返済ができなくなった際に個人の財産で返済することになります。
借入れの金額次第では、自身の私生活に支障が出てしまう恐れがあります。最悪、会社の倒産と同時に経営者個人が破産することも少なくありません。
また、代表を退任した後も保証人を継続した場合、退いた後も責任を負う立場になることも大きなリスクです。
新たな事業を展開する意欲が抑制される
経営者保証は、経営者個人が高いリスクを背負うことになるため、融資に対して消極的になる可能性があります。
例えば、新しい事業を立ち上げるにあたって資金調達をしたいと思っていても、経営者保証を求められることが借入れの弊害となってしまうでしょう。
十分な資金を調達できないことで、新規事業を展開するチャンスを逃し、またその意欲が抑制される恐れがあります。
新規事業や革新的な事業を展開する意欲が抑制されることは、自社の成長だけではなく、市場競争や国内の経済成長、競争力の低下も招くかもしれません。
事業承継のハードルが高まる
経営者保証を提供して融資を受けている場合、そのリスクが継承者にもおよぶ可能性があります。そのため、事業承継を拒否する後継者候補は少なくありません。
後継者候補が経営者保証を恐れて事業承継を拒否すると、優れた経験や能力がある若手が経営から離れてしまう可能性があります。
その結果、事業の革新や成長が滞ってしまうかもしれません。
また、後継者不在となることで事業が継続できなくなり、倒産となる場合もあります。
経営者保証が不要になる融資制度を活用して事業のスタート・再生をしよう
新しい信用保証制度では保証料が上乗せされるというデメリットがあるものの、経営者の大きなリスクとなる経営者保証の提供を回避できるメリットがあります。
保証人にならないことで、革新的な新規事業の展開や事業承継がしやすくなります。
そのため、ご紹介した制度の要件を確認して、事業や事業再生のための資金調達に活用してみてください。
融資をご検討中のかたは、こちらの「融資ガイド」もあわせてご活用ください。無料で差し上げています。
(編集:創業手帳編集部)