JOMYAKU 田平 誠人|新規事業立ち上げのポイントと社内起業という新しい起業の意義
アナログ業務が多く残る静脈産業のデジタル化で「人手不足の解消」や「業界イメージの向上」に貢献
静脈産業と呼ばれる、廃棄物・リサイクル業界は歴史が長く、アナログな業務が多いため、DX化や業務効率化が急務とされています。SDGsや脱炭素化の時流もあり、今後さらに必要とされる業界ではありますが、従事者の高齢化や人手不足、労働環境問題など、業務効率化以外にも多くの課題が残っています。
この静脈産業を効率化し、企業の売上増加や人手不足の解消に取り組んでいるのが「JOMYAKU」の田平さんです。
そこで今回は、田平さんが2度の起業を経て「JOMYAKU」を創業した経緯や、大手グループ企業内での「社内起業」という道を選んだ理由について聞きました。
JOMYAKU株式会社 代表取締役
複数社の創業間もないタイミングから上場までを経験したのち、独立。現場第一をモットーに2社の起業を経て、売却。廃棄物・リサイクル業界の方々と話す中で「日本のインフラを支える静脈産業が社会に広く理解され認められるようにしたい」と考えJOMYAKU株式会社を設立。
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この記事の目次
学生時代のインターンシップがその後のキャリアに大きな影響を与える
ーJOMYAKUを創業する前のご経歴を教えてください。
田平:「ソーシャルリクルーティング」という企業が創業4ヶ月目くらいの時に、インターン生として入ったことが自身のキャリアの始まりとなります。
当時の代表は私がいた大学の3つ上の先輩という関係性もあり、昼夜関係なく働き続ける生活を送っていました。
そこでは、Twitter・facebook・Instagramなどのソーシャルメディアを活用した「新卒採用支援」を行っていました。
ースタートアップの立ち上げ時期を経験されていかがでしたか?
田平:もちろん大変で、体力的にもきつかったのですが、事業が拡大していく感覚も味わえましたし、自分の未来を自分で決めていくという社長の生き方にワクワクしながらやっていました。
ーそこからどのように起業に繋がるのでしょうか?
田平:私自身も起業に興味があり、あるファンドに相談に行きました。そこでご紹介いただいたのが「フリークアウト・ホールディングス」代表の本田さんでした。
ちょうど、フリークアウトが上場するタイミングだったこともあり、本田さんの鞄持ちをさせていただけることになりました。それが2013年です。
ーそれぞれどのような点が今に活きていますか?
田平:ソーシャルリクルーティング時代は0→1のフェーズ、フリークアウトに関しては上場期でした。
合わせると、創業と上場という一区切りつく時期を経験させてもらえたことになります。特にフリークアウトでは、本田さんを間近で見ながら、業務をさせていただき、大変勉強になりました。
本田さんからは「社長のあり方」や「今後の未来」など、貴重なお話をたくさん聞かせていただきましたが、自分でも起業したいという気持ちが消えず、1社目の起業に至ります。
新規事業を立ち上げる際のポイントとは
ーどのような分野で起業されましたか?
田平:過去に2回起業しています。
1社目は、iPhoneとiPadの訪問修理事業を行っていました。
当時2014年でしたが、液晶が割れた画面を修理するには、Apple Storeに持っていき、半日や1日デバイスを預けるということが普通でした。
そこに課題を感じ、学生や主婦の方々を募って、修理技術を学んでもらい、ご依頼を受けたら、自宅・カフェ・依頼主の仕事場に伺って、30分くらいで修理するといったことをやっていました。
ーその時の立ち上げはスムーズだったのでしょうか?
田平:大変だったかを感じる間もありませんでしたが、海外にモデルとなるシリコンバレー発のオンデマンドの訪問修理サービスをする企業があり、参考になりました。
最初は、秋葉原に行って中古のiPhoneと修理キットを買って、自分で試してみて、大学の同級生たちを集めてスタートさせたという流れになります。
しばらく続けていると、ある企業さまに気に入ってもらい、会社を買い取っていただくような流れで、1社目の起業は終わりました。
ー立ち上げから手放すところまで、一通り経験したということですね。
田平:そうですね。この時期の経験では、海外のサービスにまで、アンテナを張っておくことの大切さを感じました。
そして、自分でやってみるということも、とても大事だと思います。
これは、スモールスタートが可能になるという点と、自分が現場に立つことでお客さまと直に接することができることも、重要なポイントです。
起業した2社とも売却へ導く
ー2社目の起業のお話も伺わせてください。
田平:2社目は外部のファンドから支援を受けて起業しました。
こちらは、個人間のカーシェアリングサービス事業です。
当時、Airbnbが出てきて家のシェアリングサービスが流行っていたこともあり、家の次に大きなものは何だろうと考えた時に、車ではないかと考え、スタートさせました。
ユーザー数は順調に増えていきましたが、経済合理性という点で採算を取ることが難しかったです。
売り上げはトランザクション(商取引)の15%で設定していました。
個人間のカーシェアリング事業で、一番コストがかかっていた点は、貸し手と借り手の双方にアプローチするコストです。当時は、カーシェアリングサービスという概念自体が浸透していなかったので、余計に手間やコストがかかりました。
個人間のカーシェアリングサービスはレンタカーに比べて、近くで安く借りられるというのがメリットでした。そのため、貸し手と借り手の両方を、局所的に集めなければいけませんでした。
貸し手と借り手を集めるのが大変であるにもかかわらず、商取引の単価が低く、合理的にキャッシュが回りにくいビジネスモデルでした。
ー「資本力が必要」かつ「貸し手と借り手の両方がいないと成立しない」ビジネスは難しかったということですね。
田平:そうですね。その後、このビジネスは大手と協業を経て、最終的には事業売却という形で手を離れました。
デジタルホールディングスのグループ企業として「JOMYAKU」を創業
ーそこから現在の「JOMYAKU」の立ち上げに繋がると思いますが、経緯を教えてください。
田平:2度の起業経験から、様々な企業の0→1の立ち上げの支援をしていました。
その中で1社目のパートナーとなったのが、今の弊社の親会社である「デジタルホールディングス」でした。
まだ分野や事業は決めていないが、何か0→1で新しい事業を立ち上げたいという相談をさせていただき、テーマに上がったのがJOMYAKUの社名の由来にもなっている、静脈産業の「廃棄物・リサイクル業界」でした。
ーなぜ静脈産業を選んだのでしょうか?
田平:理由は2つあります。
1つ目の理由として、静脈産業は社会インフラとして大きな影響があるにもかかわらず、業務工程が数十年変わっていない企業も少なくありません。そこに対して、デジタル技術を活用することで、貢献できることがあるのでは、と思いました。
2つ目の理由は、静脈産業で働いている方々の人間臭さと魅力に魅せられたからです。
利害を超えたモチベーションを持って業務に臨まれている方がたくさんいらっしゃって、そのことが私にとってとても新鮮でした。
ー静脈産業で新規事業を立ち上げると決めてから、プロダクトをリリースするまでの経緯も教えていただけますか?
田平:最初は知人経由で、廃棄物・リサイクル業界の方々と面談をしたり、工場や事務所を見学させてもらったりして、実際の現場ではどこに課題があるのか?何に困っているのか?をヒアリングしていきました。
そうするうちに、改善すべき課題が明確に見えてきたため、デジタルホールディングスから出資を受けて、今のサービスのプロトタイプを作りました。まずはテストマーケティングをしてみることから、小さくスタートさせて、今のプロダクトに至りました。
大手企業で「社内起業」と言う手法を選んだ2つの理由
ー「自己資金での起業」と「デジタルホールディングス内での新規事業立ち上げ」では、どのような違いがありましたか?
田平:デジタルホールディングスは、2021年10月に子会社立ち上げのタイミングで入りました。
この大きな母体の中でやっていくことを決めた理由が2つあります。
1つ目は、事業を安定化させるためには外部資本からの一定の資金サポートを元に、腰を据えて長くやっていく必要があると考えたためです。
3年、5年ではなく、もっと中長期的にやっていく土台が必要だと感じました。
2つ目は、中長期的にこの事業に取り組むために、資金繰りに頭を占領されない形で、事業に集中できる環境を整えたかったからです。
配車ツール「まにまに」で産業廃棄物の収集運搬を支援
ーJOMYAKUでは、具体的にどのようなサービスを提供していますか?
田平:JOMYAKUでは廃棄物・リサイクル業界、いわゆる静脈産業における配⾞の依頼受付と、配⾞⼿配業務を効率化するWebツール「まにまに」を提供しています。
静脈産業とは、経済活動を人間の血液循環になぞらえられた呼称で、それぞれ、天然資源からものづくりする産業を「動脈産業」、消費された廃棄物を処理、再販売する産業を「静脈産業」と呼ばれています。
また、廃棄物には大きく2種類あり一般家庭が出すごみを「一般廃棄物」、法人が生産活動に伴って出るごみを「産業廃棄物」と分類します。
それぞれの排出量は、一般廃棄物の量を1とすると、産業廃棄物は8ほどあります。産業廃棄物の方が圧倒的に多いんですね。
この産業廃棄物を扱う工程では、廃棄物を出す「排出事業者」、産業廃棄物を運ぶ「収集運搬事業者」、さらに集めた廃棄物を処理する「中間処理事業者」の3つに分かれます。
その中でJOMYAKUでは現在、「収集運搬事業者」に対して、サービスを提供しています。
ー動脈産業が注目されがちですが、SDGsの流れもあって、静脈産業もこれから注目されてくるのではないでしょうか?
田平:既に注目されていると捉えています。
静脈産業は歴史の長い産業ですが、脱炭素や温室効果ガス削減の観点から「リサイクル」が今よりさらに注目されていく中で、廃棄物を「資源」に変えていくということは、絶対に取り組まなければなりません。
静脈産業の社会的地位向上に貢献したい
ーこれから目指したい姿などはどのような形でしょうか?
田平:この業界が社会に正当に認められる姿を目指したいと考えています。
社会インフラの中で「再資源化」の重要性を認識してほしいです。
短期的な話で言うと、JOMYAKUのサービスにより、静脈産業の業務効率化を推進し、売上と利益の増加に貢献していきたいと思っています。
中長期的には、人手不足が顕著な課題となっていますので、静脈産業の仕事が今よりも適正に理解された先に、人も十分に採用できる産業に変えていきたいです。
ー最後に起業家に向けてのメッセージをお願いします。
田平:一番大切なことは、現場と目の前にいるお客さまだと思っています。
最初に自分が現場に出て、お客さまの声を聞いて、そして自分が動くことは必須です。
そのため、自分が一番お客さまに対して詳しく知っておかなければいけないことは前提ですから、そこに喜びを感じてください。
また、事業を立ち上げることは難しく、基本的に失敗の繰り返しだと思っています。
さらに、一緒に仕事をしている仲間には多くの知識を持っている人もいますが、事業の責任者として、自分が納得する道に進むことがとても大切です。
良くも悪くも、全ての意思決定は自分が判断するスタンスが大事だと思っています。
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(取材協力:
JOMYAKU株式会社 代表取締役 田平 誠人)
(編集: 創業手帳編集部)