個人事業主必見!事業主貸の概要と確定申告時のポイント

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事業主貸とは?個人事業主なら知っておきたい事業主借との違いや仕訳例、確定申告時のポイントを解説

個人事業主必見!事業主貸の概要と確定申告時のポイント
個人事業主は、毎月決まった給料をもらうわけではないため、事業用の口座に入金されたお金を引き出して生活費などに使います。
このような支出はプライベートなものなので、事業の経費には計上できません。しかし、事業用の口座から支出している以上、記帳が必要です。
そこで、「事業主貸」という勘定科目を利用します。

事業主貸は、個人事業主にとって、なくてはならない重要な勘定科目です。事業主貸の使い方や、具体的な仕訳方法について解説します。

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事業主貸とは?


事業主貸とは、いったいどのような勘定科目なのか、具体例を挙げながら解説します。
事業主貸を使えるケースや、混同しやすい“事業主借”との違いについても合わせて見ていきましょう。

事業主貸は事業と無関係な支出

そもそも、個人事業主は事業に関する支出を経費として記録し、確定申告時に申告する必要があります。
事業用の口座や金庫、財布などを別途用意している場合が多いでしょう。

とはいえ、「事業用の口座からは事業のお金のやり取りだけを行う」というわけにはいきません。
決まった給料をもらうわけではない個人事業主は、売上の中から生活費などプライベートな費用も賄うことになるからです。

プライベートな支出は経費にはなりませんが、事実として事業用の口座や金庫等の残高が減る以上、記帳をする必要があります。
そこで使われるのが「事業主貸」という勘定科目です。

なお、一般的な会計ソフトなどを使って会計処理をしている場合は、事業主貸を使って仕訳をした費用は自動的に経費の集計から外れます。
詳細はソフトによっても違いますが、基本的に特別な処理は必要ありません。

事業主貸の具体例

事業主貸で処理をする必要がある支出には、以下のようなものが挙げられます。

  • 事業用の口座から健康保険料が引き落とされた
  • 事業用の口座から生活費を引き出した
  • 事業用の現金(金庫・財布の中身等)を使って住民税の支払いをした
  • 事業用の現金(金庫・財布の中身等)を使って自分がひとりで食べるための昼食を買った

例えば、事業用の口座から30万円を引き出し、それを生活費として使った場合を考えてみましょう。
30万円について「事業主貸」で仕訳をする必要があります。具体的な仕訳方法については後述します。

ただし、30万円を具体的にどんな生活費に使ったのかという内訳を、ひとつひとつ記載する必要はありません。
プライベートな支出だとさえわかれば、食費でも、レジャー費でも、区別しなくて良いとされています。

一方、事業用の口座から30万円を引き出して、10万円を事業用の経費として使い、20万円を生活費として使った場合はどうでしょう。
20万円については事業主貸として一括で処理できますが、10万円については何に使ったのか、きちんと仕訳をする必要があります。

また、事務所と自宅を兼ねている場合の家賃が引き落とされた場合も、プライベート部分のみを事業主貸として処理します。

事業主借との違い

事業主貸に似た勘定科目に、「事業主借」があります。事業主借と事業主貸は似ていて混同しがちですが、まったく逆の意味を持っています。
事業主貸は、前述の通り「事業のお金をプライベートで使った」場合に使う勘定科目。一方、事業主借は「プライベートのお金を事業で使った」場合に利用します。

例えば、プライベートのクレジットカードで事業に使う設備を購入した場合や、個人の財布から事業に使う文房具を買った場合などが該当します。

事業主貸や事業主借は、プライベートと事業のお金の区分が曖昧になりがちな個人事業主にとって非常に便利な勘定科目です。
しかし、あまりに頻出するとそれだけ経費処理が煩雑になりやすく、支出の履歴もわかりにくくなります。
事業用とプライベート用の口座やクレジットカードをそれぞれ用意し、使いわけるのがおすすめです。

事業主貸の仕訳例


事業主貸を使った仕訳について、具体的な例を紹介します。

事業主貸は様々なシーンで利用できるものですが、主なケースは以下の3通りでしょう。

  • 事業用の口座からプライベートのお金を支払った
  • 事業用の現金からプライベートのお金を支払った
  • 事業用の口座(または現金)からプライベートと事業両方に該当するお金を支払った

 
それぞれについて、仕訳例を紹介します。実際に記帳をする際の参考にしてください。

事業用の口座から生活費を引き出した

事業用口座からの生活費の引き出しは、個人事業が主な収入源で働いている人にとって、必ず発生するものです。
このような場合の仕訳は、以下のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
事業主貸 100000 普通預金 100000

前述の通り、この100,000円を何に使用したのかについては、記帳する必要はありません。なお、半分を事業用の現金にする場合は、以下のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
事業主貸 50000 普通預金 100000
現金 50000

また、「100,000円を全額事業主貸にしたが、その後、この中から事業用の経費を使った」という場合は、該当の金額について、事業主借として処理をします。

国民健康保険の支払い

事業用の金庫や財布など、プライベートと分けた現金の中から国民健康保険を支払った場合の仕訳です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
事業主貸 20000 現金 20000

国民健康保険や国民年金、住民税、所得税などの支払いは、すべてプライベートな支出となり、経費計上できません。そのため、事業主貸で処理します。
なお、現金支払いではなく口座から引き落とされた場合は下記の通りです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
事業主貸 20000 普通預金 20000

なお、国民健康保険や国民年金は経費にはなりませんが、確定申告の際に「社会保険料控除」として申告できます。
経費と控除を混同しないように気を付けましょう。

家賃や水道光熱費の家事按分

自宅を事務所として利用している人は、家賃や水道光熱費、通信費などのうち、実際に事業に使用している部分を経費にできます。
これを「家事按分」と呼びます。

ここでは、家賃が事業用の口座から引き落とされたケースを例にとって仕訳を紹介しましょう。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
地代家賃 40000 普通預金 100000
事業主貸 60000

反対に、プライベートの口座から引き落とされる場合は「事業主借」を利用して、下記のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額[平野1]
地代家賃 40000 事業主借 100000
事業主貸 60000

水道光熱費や通信費の場合は、「地代家賃」の部分を該当の費目に置き換えしょう。

なお、家賃は経費にできますが、持ち家の場合の住宅ローン元金は経費にできません。利子は経費にできます。
持ち家の購入金額を経費にしたい場合は、購入時の価格を減価償却していくことになります。

事業主貸の金額が多い・少ない場合の問題点


事業主貸は、個人事業を営んでいる場合、どうしても発生するものです。
しかし、あまりに金額が多かったり少なかったりすると、税務署に目を付けられるのではないか、と不安を感じる人もいるかもしれません。
事業主貸の金額のバランスについて解説します。

事業主貸が多い場合の問題点

事業主貸が多いのは、生活費を多く使っているということです。これは特に問題はないです。
ただし、例えば事業の利益が30万円で、50万円の事業主貸が発生している場合、「20万円はどこからきたのか?」と疑問に思われるでしょう。
「実は計上されていない売上があるのではないか?」という疑問を抱かれるかもしれません。

とはいえ、売上の形状漏れや過剰な経費計上がなければ、税務署から問い合わせがあったとしても、実情を説明すれば良いだけです。
大切なのは、税務調査等の際、きちんと理由や状況を説明できるかどうかです。
日頃から正確な記帳をしているのであれば、事業主貸が多くても心配に思う必要はありません。

事業主貸が少ない場合の問題点

反対に、事業主貸が極端に少ない場合、収入があるのにお金を使っていないということになります。
個人の自由ですから特に問題ありませんが、税務署からは「生活費をどうやって賄っているのか?」と思われるかもしれません。
このような場合も「配偶者の収入で生活して、自分の収入は貯金している」「実家暮らしで生活費がそれほどかからない」など、明確な理由を説明すれば良いでしょう。

一方、「実は不動産収入があって、そちらで生計を立てている」という場合は、この不動産収入を申告していないと問題があります。
また、「プライベートの支出も事業主貸ではなく経費で計上している」という場合も同様です。脱税と見なされる可能性もあるので、正しい申告を心掛けましょう。

法人でも事業主貸はできる?


ここまで、個人事業主の事業主貸について説明してきましたが、法人の場合はどうすれば良いのでしょうか。
事業を法人化している場合の経費と、プライベートのお金の考え方や仕訳方法についてまとめました。

法人には事業主貸の勘定科目がない

そもそもの前提で、法人の場合、事業主貸や事業主借という勘定科目を使えません。
これは、法人が「プライベートのお金」と「事業用のお金」を明確に分けているからです。

大企業の社長でも、会社のお金を自分のお金として使えません。そのような事態が起これば、横領として大きなニュースになるでしょう。
また、社員がいない「ひとり起業」の場合も同様です。
個人で仕事をしている場合、個人事業主から法人になっても働き方自体に大きな変化はないかもしれません。
しかし、お金の部分ではまったく考え方が異なる点に注意が必要です。

一人会社でも給料が発生

個人事業主の場合、毎月の収入は事業収入から経費を引いた金額です。売上が多ければ多いほど、個人で使えるお金も増えるということです。

一方、会社の場合、たとえひとりで経営している場合でも、給料が発生します。
「今月は売上が多いから収入も多い」というわけではなく、一般的な会社員と同じように、毎月決まった給与を受け取るのが原則です。

時には、「売上が少ないから今月の給料はなし」という場合もあるかもしれませんが、それでも給与計算は必要です。
この点は、個人事業主と法人の大きな違いといえるでしょう。

役員貸付金や役員借入金で対応

事業主貸や事業主借がないとはいえ、実際には、会社のお金でプライベートな費用を支払ったり、反対に個人のお金で会社の備品を購入したりするケースもあるでしょう。
このような場合は、「役員貸付金」や「役員借入金」で対応をします。

事業主貸のように、事業のお金を役員や社長が利用した場合は役員貸付金になります。
また、事業主借のように、役員や社長のプライベートなお金を事業用に使った場合は役員借入金となります。

ただし、事業主貸や事業主借とは違い、「貸付」や「借入」という扱いになる点に注意が必要になるかもしれません。
特に役員貸付金には、税法に基づいた利息が発生しますから、安易に利用しないようにしてください。

役員貸付金

役員貸付金は、役員が会社のお金を借り入れた際に使う勘定科目です。

例えば、プライベート用の手持ち資金が少なくなってしまって、事業用の金庫から30,000円を持ち出したとします。
その場合の仕訳は下記の通りです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
役員貸付金 30000 現金 30000

ただし、前述の通り役員貸付金には利息も計上されますし、銀行融資を受ける際などにもあまり良い影響を及ぼしません。
できれば利用しない方が良い勘定科目だといえるでしょう。

役員借入金

役員借入金は、役員の個人的なお金を会社が借り入れる場合に使う勘定科目です。
ひとり社長などの場合、事業用の資金が足りなくなって一時的に用立てるといったこともあるでしょう。そういった時は、役員借入金を使います。
役員が個人のお金50,000円を会社の口座に入金した場合の仕訳は下記の通りです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 50000 役員借入金 50000

まとめ

個人事業主として働く場合は、売上の一部を生活費に充てるのが一般的です。このような時は、事業主貸という勘定科目を利用しましょう。
事業主貸と事業主借を活用すると、より正確性の高い記帳ができます。
事業とプライベートの資金が混ざってしまわないように、日頃からお金の動きをしっかり仕訳するのが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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